※ご注意: 本記事には、『REANIMAL』の描写に関連して、
戦争孤児、児童虐待、過酷な生存環境に関する現実の歴史的事実や、
精神的な負荷の大きい表現が含まれています。
ご了承の上、お読みください。
『リトルナイトメア』『リトルナイトメア2』のTarsier Studiosが、謎めいた環境で子供達が出会う恐怖を、新しい設定と世界で描く『REANIMAL(リアニマル)』。「メインの道はストーリーの一部にすぎません」と公式の説明があるように、通しでプレイしても世界の全容は掴みきれず、逃げるのに必死で見逃していた闇の奥に向き合う勇気が試されます。
「孤児の姉弟があるとき海で遭難してしまい、バラバラになるところからゲームが始まります。彼らがたどり着いたのは故郷の島だったのですが、昔の面影はまったくなく、最悪な状態。地獄と化した故郷をめぐり、友人たちの発見と救出を試みて、脱出を目指すという話です。」―インタビューより
襲い掛かってくる怪物達の正体とは、「洪水」に沈んだ世界に何が起こっているのか。黙して語られない『REANIMAL』の謎を解き明かす手がかりを探っていきます。
ここから作中の描写に言及していくので、初見を大事にしている方はもうここで閉じて購入ページにお進みください。(なおIID運営の動物情報サイトREANIMALとは一切関係ありません)

『REANIMAL』で登場する舞台は、第一次世界大戦の塹壕やブラウン管のコンソールがある冷戦時代、破壊された現代的な都市、第二次世界大戦の大空襲などです。「故郷の島から逃げ出す」という説明であるのにシチュエーションに一貫性がありません。
「島」が全体的におかしいのか、それとも「島」は地理的なものではない何かを表わしているメタファーなのか。不条理ホラーの祖『SILENT HILL』のように、誰かの心の内を映し出しているのか……。ゲーム中にはその手がかりになりそうな象徴的なモチーフが様々見つかります。

人間の生皮
最初のステージで子供達に襲い掛かるのが、この床を這い回る不気味な皮です。とにかく群れを成して包囲してくるので、恐らく最初は何度か捕まってしまうでしょう。空になったものが時々見受けられるトランクケースと何か関係があるようで、トランクケースが何を暗示しているのか、考察のはじめはここにありそうです。
人間の生皮で連想されるのが、ミケランジェロの絵画「最後の審判」で描かれた抜け殻のような人皮です。皮剥ぎの刑に処された聖バルトロマイが自身の皮を手にしている描写ですが、これはミケランジェロ自身だと言われています。

アイスクリームトラック
現代的なステージでは、暗闇の中を迫ってくるアイスクリームトラックに追い回されます。アイスクリームトラックの恐怖で連想するのは……誘拐です。アメリカではアイスクリームトラックから子供を誘い、連れ去る事件が実際に複数発生しています。都市伝説としても「バージニアのアイスクリームトラック」として広まっているようです。「アイス食べる?」と誘われた子供はいつも無防備について行ってしまいます。

ジャガイモ
作中では文字通り山になってジャガイモが積まれている場所があり、ただそこにあるだけではなく、何かを象徴しているように見えます。ジャガイモは貧者のパンとも呼ばれ、欧州で小麦が取れない寒冷地で育てられてきました。今なら美味しく食べられる魅力的な芋ですが、欧州に持ち込まれた当初は園芸用で食材としてあまり味は良くありませんでした。
そのため小麦が取れないから仕方なく口にするもので、積極的に食べたいものではなかったのです。ジャガイモしか与えられない貧しさ(農家さんごめんなさい)――ここで暮らす子供達はきっと痩せ細っていたでしょう。

羊
『REANIMAL』のサブ要素として、あちこちにある羊の燭台に火を点す仕掛けがあります。羊はキーアートにも大きく映っていますし、襲ってくる怪物の中でも非常に手強い一体。本作全体を象徴するモチーフだとも考えることができます。羊は贄として伝統的に用いられる家畜で、キリスト教では人類の罪を贖う贄としてイエス・キリストを「神の子羊」(Agnus Dei)と呼び換えることがあります。
根底に想起される「戦争」
「洪水」で水没した町のステージではあちこちに機雷が浮かんでいて、ボートがちょっとでもぶつかれば爆発して即死。大砲の操作をする場面など、「戦争」を想起させるパートが多く存在します。戦争を生き抜く中で最も弱く理不尽な目に遭ってきたのが他ならぬ子供達で、舞台となる「島」が子供達の想像や精神状態を反映しているものだとすれば、彼らは実際に何らかの被害を受け、トラウマを抱えていると捉えることもできるでしょう。
一部戦争とは無縁のように見えるステージもありますが、戦争の前線から離れた疎開先でも決して安全とは言えません。「火垂るの墓」のように疎まれたり虐待を受けたり、非人道的な扱いも数々行われてきました。その手がかりになるのが、トレイラーに引用されているエリザベス女王のスピーチではないでしょうか。
これは第二次世界大戦中の1940年、エリザベス女王が公に初めて行った演説の一部です。BBCの子供向けラジオ番組「Children's Hour」で放送され、英国本土だけでなく当時の植民地領土に疎開した子供達に向けたメッセージでした。
We know from experience what it means to be away from those we love most of all.
To you, living in new surroundings, we send a message of true sympathy-and to think of all the new sights you must be seeing, and the adventures you must be having.
So it is not difficult for us to picture the sort of life you are all leading,
I know you won't forget us;
Goodnight, and good luck to you all.(原文を組み替えています)
経験から、最も愛する者たちから離れることがどういうことか私たちは知っています。
新しい環境で暮らすあなたへ、心からの慰めの言葉を送ります―
新しい景色を目にし、きっと冒険もしていることでしょう。
だから皆さんがどんな日々を過ごしているか想像するに難しくありません。
私たちのことを忘れないでください。
おやすみなさい、そして皆さんに幸運を。
愛する人達から引き離され、見知らぬ場所に連れて行かれた不安…それでも新世界の冒険だと思って頑張りましょう。この演説は2020年のコロナ禍の演説でも引用され、苦難の時に国民を勇気づける象徴です。
ゲームが進むと、急にアメリカの田舎のような景色が広がります。そこにある孤児院らしき建物では子供達の「影」に遭遇しますが、環境としては「あまり良くない」印象を受けます。エリザベス女王の演説と、虐待を思わせる環境描写、これらからも本作のテーマのひとつがさらに浮かび上がります。
苦難が子供達にもたらしたトラウマ。それが本作を通じて暗に示唆される大きな問題提起のひとつのようにみえます。
戦争が引き起こしたトラウマと、そこから生まれる「怪物」
ところで、戦争と、国外へ「引き離された」子供達――これらについては、ここから連想されるある一つの事例があります。それは、英国史の闇――長年にわたって続けられてきた「ホームチルドレン」政策です。孤児を集めて植民地の労働力として移送する人身取引、その存在が公になったのはごく近年で、19世紀から1970年代までオーストラリアやカナダに10万人以上が移送されました。
彼らは自分の本来の名前さえ失い、虐待が横行する劣悪な状況に置かれていたのです。物心つくか付かないかの頃に異国へ連れ去られ、農園などで強制労働を続ける日々。第二次世界大戦の孤児達がオーストラリアで育ち、大人になってからそのことに気が付いた事例が映画「オレンジと太陽」で描かれました。

想像を絶する子供達の苦難――ここからは『REANIMAL』から離れて、戦争や貧困で子供達が強制的に親から引き離された事例をいくつかご紹介しましょう。日本では戦後の浮浪児を警察が強制収容した「刈り込み」が有名です。焼け出されて親を亡くした子、疎開先から追い出された子、路上で暮らす彼らをトラックに無理矢理押し込み、食事も満足に貰えないぎゅうぎゅうの孤児院に連れて行かれました。
「おれたちが、今日まで聞いてきた大人どもの言葉を言ってみようか―泥棒―クズ―監獄にいっちまえ―これじゃあ、ええ人間になりたくてもなれねえじゃねえか」
「浮浪児1945―戦争が生んだ子供たち」より
体力がある子は孤児院から何度も脱走、その度に連れ戻されるのを繰り返します。一方身体の弱い子は間もなく力尽き、東京都養育院の記録では毎月20人前後の子供が死亡していた記録があります。別の養護院ではこんな事例がありました。
「養護院で死んだ子供は大学病院に送られて、そこで解剖されて片付けられてしまうんです。お金がないから葬儀はしてもらえません。むしろ、大学病院に売るようにしてお金と引き換えに渡すんです」
同上
遺体を運んでいくのも子供達で、大八車に複数の遺体を乗せて運ばされていたそうです。
欧州では連合軍やナチスが他国に進出し、そこで占領兵と現地の女性との間に産まれた子供が問題になりました。二つの国のどっちにとっても半分は「敵国」の子であり、疎まれることは珍しくありません。どちらの国からも保護されることなく放逐されるか、ある国では減った人口の穴埋めとして占領地から連れて行きました。荒れ果てた社会においては社会の労働力が最優先で、子供の福祉は常に後回しにされるのです。
ナチスドイツへの憎悪から、欧州各地ではドイツ系住民の放逐が加速しました。報復で殺される場合も多く、子供に慈悲をかけようとする人も少なかったのです。東プロイセンでは、リトアニアの森に逃げ込んだドイツ系の子供達の集団があり、彼らは「狼の子供達」(Wolfskinder)と呼ばれました。森の中を「飢えた狼」のようにさまよい歩き、町に出ては食べ物を盗み、物乞いでかろうじて命を繋ぎます。一部の子供達は現地の家庭で保護されましたが、長年ドイツ系の名前を隠すのを余儀なくされました。その存在が50年経過した1990年代に発覚するまで、彼らはずっと本当の名前を恐怖で出せなかったそうです。
時代が少し進んで、ベトナム戦争ではベトナム孤児をアメリカに移送する「オペレーション・ベビーリフト」が行われました。児童福祉団体の旗振りで約3000人が飛行機で連れ出され、アメリカやオーストラリアの家庭に養子として迎え入れられます。そのなかで1975年4月4日の第1便が墜落する事故が起きており、同乗の孤児達を含む138人が命を落としました。このオペレーション・ベビーリフトはベトナム側から誘拐であると非難が上がり、受け入れ先と実の親との間でトラブルも多かったそうです。
アメリカ国内では、東部で行き場のない子供達を西部に送り込む「孤児列車」が1854年から1929年の約70年にかけて実施。これも「ホームチルドレン」と同様、里子と言うよりは児童労働力の実態が強く、捨て子だと蔑まれながら開拓西部の農地で過酷な作業をさせられました。実質的な奴隷制度だったとも指摘されます。ホームチルドレンと合わせ、このような強制移送の問題は「盗まれた子供」として世界中の戦中戦後で少なからず起きているのです。

今でこそ「子どもの権利条約」などの児童を守る理念が広まっていますが、長い歴史上常に労働力の一部として扱われてきました。大人の都合で拉致同然に連れて行かれ、大人になったとき自分が何者か知らなかったことに気づく。幼い頃に抱えたトラウマは生涯消えないもので、精神力が付いた大人になっても、心の奥に刺さったナイフがいつ動いてしまうか怯え続けるしかありません。何かのきっかけでその傷口が開いたとき――暗闇の向こうから怪物達が姿を現すのです。
もしかしたら、本作で描かれる子供達の姿も、大きなトラウマを抱え、その「怪物」たちに必死で抗う、そんな姿なのかもしれません。

ここで紐解いた歴史の断片は、あくまで本作が映し出す「窓」の向こう側にある景色の一つに過ぎません。『REANIMAL』が描く怪物や、あの子供たちが必死に逃げ惑う島の正体について、あなたが何を感じ、どのような意味を見出すのか。その「あなただけの答え」こそが、この不条理な旅の続きとなるはずです。
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