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Game*Sparkレビュー:ニンテンドースイッチ版『SOMA』アイデンティティを問う海底SFホラータイトルが10年ぶりに帰ってきた【UPDATE】

自分は本当に自分なのか?

連載・特集 Game*Sparkレビュー

2015年にデベロッパーのFrictional Gamesが送り出したSFホラーADV『SOMA』。そんな本作のニンテンドースイッチ版が2025年07月24日にリリースされます。

今回、移植を担当したAbylight Studiosからダウンロードキーをいただいたので、先んじてプレイさせていただきました。発売前のバージョンに基づくため、一部ゲーム内容に違いがあるかもしれないのでご留意ください。

「人が人である意味を探す」という重苦しいテーマをしっかりと描き切っていた本作。自分は何者なのか、本当に自分は自分なのかを問いかけてくるプレイフィールは、10年の時を経ても色褪せることはありませんでした。

当時は、有志による日本語訳を頼りに遊ぶ必要がありましたが、今回初めて公式の日本語訳が付き、気軽にプレイすることができるようになりました。翻訳の品質はそこそこではあるものの、本作の雰囲気を引き立てる演出としては十分な仕事を果たしていたと思います。

しかし台詞字幕の文字が奇妙なところで抜けていることが少々気になります。また、ガンマ補正の調整と視覚効果のオン・オフ程度しかないグラフィックオプションなど、現代のゲームとしてはやや物足りない印象を受けました。

俺は本当にサイモンなのか……? アイデンティティ・クライシスを描いた名作ホラーがふたたび

本作は海底に沈んだ都市を探索するSFホラーADVです。主人公はサイモン・ジャレット。本屋を営むごく普通の男性ですが、事故によって脳に障害を受けており、藁にも縋る思いで最新の脳科学医療に頼ります。脳のスキャンを受けて眠るものの、次に目覚めたとき、彼は放棄された海底施設に放置されていました……。

サイモンはキャサリンと名乗る科学者に出会い、彼女からこの場所で何が起きたのかを教わります。ここはPATHOS-Ⅱという施設で、隕石の衝突で崩壊しかけている地球から逃げ延びるため、人間の意識をARKというロケットに乗せて保存しようというプロジェクトが進行しているのでした。

ちなみにこのキャサリン自身も、本人ではなくロボットにコピーされた人格だったりします。サイモンは彼女に言われるがまま、うす暗い海底施設を彷徨って「ARKプロジェクト」がちゃんと進行するように、彼女の作業を肩代わりします。自分とは何か、連続した意識とは何かといった自身の存在に関わる問題にぶち当たりながら……。

本作はオーソドックスな探索型ホラーADVであり、我々プレイヤーが主人公サイモンを操作して、海底施設を探索するゲームです。

サイモンは前述の通り、何の特殊能力もないただの一般的な男性です。ゲーム中は施設内を移動して周囲の物にインタラクトし、簡単なパズルを解く程度のことしか要求されません。

本作のゲーム部分はいわゆる「ウォーキングシミュレーター」のような作りで、表示される目標に向かって移動していれば、大きな問題に当たることもなくクリアできるでしょう。ただしゲーム内のコンソールなどに表示される以外にマップは存在しないので、移動中に多少迷うことはあるかもしれません。

雰囲気は『バイオショック』シリーズに似ていなくもないですが、激しい銃撃戦などは一切なく、静かな雰囲気に包まれたまま、淡々とゲームが進行していきます。

本作は「ホラーゲーム」という本分もわすれておらず、海底の雰囲気が醸し出す怖さ以外には、WAUという敵から逃げ惑うパートがなかなかの恐怖を演出しています。

WAUは構造ゲルという液体にまみれた化け物で、どういうわけか人と機械が溶け合っており、なんとも奇妙な見た目をしています。WAUはサイモンを見つけるやいなや問答無用で襲い掛かってきます。

捕まったらゲームオーバーなので、物陰に隠れたり、そこらに落ちているスパナや本を放り投げて敵の注意をそらしたりしながら、安全なところまで逃げ切る必要があります。ゲームオーバーの演出もなかなかショッキングなので、一度確認してみるのも良いかもしれません。

本作の白眉は何と言ってもストーリーでしょう。

ARKプロジェクトとともにPATHOS-Ⅱで何が起きたのか、意識をコピーすることでどんな問題が起きるのか、オリジナルとコピーは本当に同じ人間なのか、サイモンはキャサリンの冷徹な言葉に何を思うのか……。

多くは会話劇と各地に落ちているメモを元に推察していく形ですが、10年前の洋ゲーとは思えないほどすっきりしたテキストで、ゲームを進めさえすれば誰でも理解していくことができると思います。

とはいえ、単純すぎるということはなく、投げかけられるテーマは常に深刻であり、往年のSFファンでも満足できる作りになっています。遺体や小道具の配置などの環境ストーリーテリングもばっちりです。

特にどんでん返しがあったり、プレイヤーに対してわざと嘘を吐いたりするわけでもなく、順当に「ここで何が起きたのか、皆何を考えていたのか」という情報が小出しにされていくだけなのに、妙に面白く、先が気になる作りになっています。

まさしく正統派SFホラーなので、この手のジャンルを遊びたいと考えているなら「これこれ、こういうのを求めていたんだよ!」と思ってもらえること間違いなしでしょう。

肝心の移植の出来はいかに? 妙に気になる文字抜け

本作の移植はSwitch版『Hyper Light Drifter - Special Edition』などの開発を担当したAbylight Studiosが行っています。10年目にしてついに公式の日本語が追加され、ローカライズの品質自体はそこそこの出来栄えといったところ。

おそらく「好」きなだけというのが本来表示されているはず。

全体を通してほぼ問題なく読めるのですが、会話が二行以上続くと、なぜか二行目の文頭の一語が抜けてしまうというバグがあります。

だいたいの会話はなんとなく意味を察して読むことができますが、時折意味が分からないテキストが出てくることがあるのが残念です。特に、ゲーム冒頭のディックを引用したエピグラフは完全に意味が通じなくなってしまっており、台無しです。アップデートで即急に修正してほしいポイントですね。

グラフィックについても、あくまでニンテンドースイッチ版ということもあり、PC版に比べると画質は落ちていてFPSレートも30程度しか出ていません。そもそもが2015年のゲームなので、小道具などはまじまじと見ると荒いテクスチャなのですが、今回はそれに輪をかけてジャギジャギした質感になっています。

元々PC版の時点でも「ちょっと意味もなく暗すぎるシーンが多いな……」と思うことがあった本作。

元々PC版の時点でも「ちょっと意味もなく暗すぎるシーンが多いな……」と思うことがあった本作。舞台が海底都市であることもあり「一歩先も見えない非常に暗いシーン」が多々あります。暗闇をおっかなびっくり進むというホラー体験として機能しているパートもありますが、ただ単にどこへ行けばいいかわからなくなってしまっていたり、3D酔いを誘因していたりするところも多いです。

そのためグラフィックの設定を調整して対処したいところですが、ガンマ補正程度しかオプション項目がありません。ただこれらの点については、ニンテンドースイッチ2向けにエンハンスする予定があると公式がアナウンスしているので、もしかするとその際にあわせて調整が入ることを期待できるかも。


とはいえ、ここ数年でリリースされてきた多くのスイッチ移植タイトルと同程度の水準ではあるので、単にプレイするだけなら問題はないでしょう。

あらためてこの名作SFホラータイトルに、公式の日本語訳がついたのは本当に嬉しいことです(文字抜けだけは修正してほしいですが!)。サイモンとキャサリンの辿る、暗く冷たい旅路をぜひとも追いかけてみてください。

※UPDATE(2025/07/23 16:30): 編集者の意向で修正・追記した点をライターの意図した文章に戻しました。

Game*Spark レビュー 『SOMA』 Nintendo Switch 2025年7月24日

私が私である意味を問うSFホラー

GOOD

  • SFホラーらしい秀逸なストーリー
  • 海底施設を彷徨うホラー体験
  • すんなりと頭に入ってくる簡潔で素敵なテキスト

BAD

  • 二行目の文頭一語だけ文字抜けするバグ
  • あまりにも暗すぎるマップと3D酔いを誘うカメラワーク
  • グラフィック調整項目の少なさ

ライター:各務都心,編集:麦秋

ライター/ 各務都心

マーダーミステリー『探偵シド・アップダイク』シリーズを制作しているシナリオライター。思い出の一本は『風のクロノア door to phantomile』。

編集/お空の人。 麦秋

普段は仕事であちこち渡り歩いては飛んでます。自分が提供するものが誰かのお役に立てれば幸い。皆さんのこくまろなキャラに並べるよう頑張ります。

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