初期『バイオハザード』、『サイレントヒル』、『ディノクライシス』など、90年代中盤から後半にかけて黄金期を迎えた「サバイバルホラー」というジャンルは、ホラーゲームの一形態ながら多くの影響をのちの作品に与えてきました。それはプレイヤーにとってもそうであり、個人的なことを言えば『バイオハザード』を初めてプレイした時の衝撃と面白さは今でも鮮明に覚えています。
さて、そんな往年の名作たちをリバイバルした初代PS風のサバイバルホラーゲームは、今やSteam上で多くリリースされており珍しくありません。ゲームとしての質はピンからキリまで多々ありますが、『Crow Country』や『Lake Haven - Chrysalis』など高評価なタイトルももちろん存在します。
というわけで今回は、『The Mortuary Assistant』や『FLATHEAD』といった尖ったホラーゲームを世に送り出しているDreadXPがパブリッシャーを担当し、個人開発者のVincent Adinolfiが手がける初代PS風サバイバルホラー『Heartworm』のレビューをお届けします。なお、レビューにあたり開発元からコードの提供を受けています。
Steam上に溢れるリバイバル系サバイバルホラーゲームの中でも、本作は史上最高傑作と言っても過言ではないほど素晴らしい作品であり、90年代のホラーゲームへの愛とリスペクトに満ちていました。
◆"最愛の祖父にもう一度会いたい…”喪失をテーマにした重厚な物語

本作の主人公は、ショートカットの黒髪とホットパンツ姿が活発な印象を与える「サム」という女性です。余談ですが、サムのキャラクター造形は首元のチョーカーや髪型などから、映画「LEON」のマチルダ(ナタリー・ポートマン)を参考にしているような気がします。


彼女は、大好きだった祖父の死に直面し立ち直れないでいました。「もう一度祖父に会いたい」と強く願うサムは、インターネット検索にのめり込みます。そして、とある掲示板から“あの世と接触できる場所がある”という怪情報を入手し、藁をもすがる気持ちで現場に向かうことに。
しかし、そこは超常現象が起きる上、行けば二度と帰ってこれない、という噂の絶えない危険な山中の屋敷だった…というのがあらすじです。

本作は、悲しみや喪失をテーマにした重厚なストーリーが展開しますが、注目したいのが「サムの動機」です。そこに本作のプロットにおける特異性があります。

サムの「最愛の祖父に再会したい」という意思は、ストーリーの骨格を作り上げ、プレイヤーに明確でわかりやすい目標/目的意識をもたせることに成功しているのです。これによってプレイヤーの共感を呼び起こし、より深く物語にコミットできる素晴らしい設計になっていました。

また、要所要所にイベントムービーが挿入されており、まさに「あの頃」のホラーゲームを再現したような完璧なクオリティで、物語に深いドラマ性を与えています。
◆90年代への“回帰と進化”―レトロと現代的要素の融合

本作最大の特徴は、ゲームプレイにおけるクラシックな要素と現代基準の快適なシステムを上手く融合させていることです。『Scarlet Lake』など、レトロ×モダンを取り入れた初代PS風サバイバルホラーは他にもありますが、それらを上回るほど圧倒的な作り込みです。
本編開始前にグラフィック/移動方法/エイムなど、さまざまなゲーム設定を行うことができます。まず、グラフィックに関しては初代PS時代の粗いローポリゴンの「レトロ」と、現代でも通用するくらい解像度が高い「モダン」の2つから選べます。筆者は当然レトロでプレイしましたが、ローポリの再現性は非常に良く、まるで初代PSの新作ゲームを遊んでいる気分に浸れました。

次に移動方法です。90年代のホラーゲームといえば、十字キーでキャラクターを移動させる際、前進、後退、左右などの進行方向がそれぞれ独立しており、キャラの向きにかかわらず固定されてい「タンクコントロール(ラジコン操作)」のもどかしさが焦りと恐怖を生み出していました。さらに、ダッシュしたい場合には、対応するボタンも同時に押さないといけないのが特徴でした。
それに対し、現代の移動方法は「アナログ操作」と呼ばれており、主にコントローラースティックの入力方向に対してキャラも動くので、直感的な移動操作ができるのが利点です。

本作は、十字キーを押せばタンク操作になり、スティックを回せばアナログ操作になり、操作方法を瞬時に切り替えることが可能です。なお、今回筆者はXboxコントローラーを使用しました。
実際の操作感としては、まずタンクコントロールは当時の洗練されていない、不自由な感覚がそのまま再現されています。たとえば、戦闘時に敵から逃げる場合方向を切り替えるだけでも慣れていないと難しく、機動性がないため一苦労します。
対して現代的なスティック操作での移動は、しっかりと洗練されており、自分の思った方角へスムーズに行けるので快適でした。あえて言うと、スティック移動は入力感度が良すぎるためしばしば操作ミスを起こしやすいと感じました。むしろタンク操作のほうが方向転換を制御しやすいのかな、という印象でした。


また、『バイオ』などでお馴染みのクラシックな「固定カメラ視点」は、“先の見えない恐ろしさ”を存分に味わえたし、加えて『サイレントヒル』のような映画的なカメラワークや、操作キャラを後ろから追従したり、高い場所から徐々に目線が落ちてくるような斬新な視点も盛り込まれており、随所にプレイヤーを飽きさせない創意工夫が見られました。
◆「もっと先へ進みたい」─インタラクティブ性豊かな探索と謎解き

往年のホラーゲームは何ゆえ名作と呼ばれるのか?それは「探索する楽しさと謎解きの面白さ」が渾然一体となって体験できるから、というのがひとつの答えだと思います。
本作は、“戦闘よりも謎解き要素に重きを置いた”としている通り、インタラクティブ性の豊かな探索とやりごたえのあるパズルが合わさった密度の濃いゲームプレイを余すことなく堪能できます。


まず、探索において重要なのはインタラクティブ性であり、その点本作はフィールド上のあらゆるオブジェクトを「調べる」ことが可能です。『バイオハザード』がそうであったように、調べたときに出るテキストメッセージは、現在地の環境を知る大切な情報になりますし、操作キャラへの親近感にもつながります。


また、複雑な構造をした屋敷から、『サイレントヒル』のような広大な町まで、豊富なフィールドがあるのも特徴的で、「もっと先に進みたい」と思わせるワクワクするような探索が堪能できました。
そして全体マップも用意されています。新たなエリアに進むと自動で更新され、未完了の場所は地図上に「砂嵐」がかかっていて、それを参考に探索できるので非常にわかりやすいです。


基本的に、さまざまな場所を調べてキーアイテムを見つけて先へ進んでいく90年代ホラーゲームの伝統的なシステムが丁寧に再現されています。入手可能なアイテムについても、弾薬(フィルム)や回復キットなどの実用的なものから、メモ書きや日記などの資料アイテムまで豊富にあります。

本作は日本語字幕に対応しており、その翻訳精度は完璧といっていいほど高品質です。とくに、資料アイテムは詩的で翻訳自体難しいと思うのですが、非常にネイティブな日本語に訳してあって好印象でした。

さらに、作中には多くの『バイオハザード』へのオマージュが見受けられます。たとえば、インベントリのデザインはほぼ似たような見た目になっていて、とくに「心電図」を模倣したステータスは『バイオ』そっくりです。

インベントリは、アイテム画面からファイル、マップ項目など機能性も豊富。アイテムは、「組み合わせ」「調べる」「捨てる」といったお馴染みのシステムもしっかりと搭載していました。


定番の要素である「セーフルーム」が各エリアごとに設置されており、ゲームの保存が出来ます。お馴染みの「アイテムボックス」もあるのですが、『バイオ』と同じくすべてのアイテムボックスは互いに繋がっているので、必要のないアイテムは保管してインベントリ整理を心がけるのが大切です。

そして、『バイオ』といえば、部屋を移動する際に「ドアを開く」アニメーションを挿入しているのが特徴的でした。扉の先にどんな光景が待っているのか……その短い瞬間にこそ、ドキドキするような好奇心と恐怖心が入り交じっていたのです。本作でもこの演出がそのまま採用されており、開発者の「バイオ愛」が見て取れます。


探索と地続きの関係である、「謎解きパズル」も往年の作品と同じようにやりごたえ抜群でした。謎解きの種類も、オブジェクトを調べてキーワードをダイヤルに打ち込むといった単純なものから、時計の針を正しく配置するやや頭を使ったものまでさまざまです。

なかには、エリアを大きく移動しながら解いていくダイナミックな謎解きもあり、本家にはないスケール感があったのも魅力的。全体的に、探索とパズル要素は非常に満足できる作り込みでした。
◆銃ではなく「カメラ」で身を守るユニークな戦闘


本作の戦闘システムは、ハンドガンなどの銃器ではなく「カメラ」を使って敵を撃退する一風変わったシステム。『零』シリーズの射影機を彷彿とさせますが、メカニクス的にも戦闘感は『バイオ』のような手触りです。
往年のホラーゲームと同じように、入手可能なフィルムや回復アイテムの数は限られています。なのでここは戦うべきなのか、逃げるべきなのか、状況の判断と適切な資源管理が求められます。

操作は、LBボタンで構えてRBボタンで「撮影」することによって敵にダメージを与えます。また、面白いのが右スティックを押し込むとエイムが「肩越し視点」に切り替わり、たちまちモダンな操作になることです。視界がグッと主観寄りになって見やすくなるに加えて、戦闘の臨場感も一気に高まります。
撮影すると、敵は一瞬スタンするので、そのスキに距離を取るヒット& アウェイ戦法で確実に倒していきます。1体につきおよそ4~5回のフィルムを消費します。


敵の動作は初代『バイオ』のゾンビくらい鈍いので、狭い場所で囲まれない限り、攻撃を避けたり逃げたりするのは結構簡単で決して手強いわけではありません。しかし敵は物理攻撃以外に、こちらの動きが遅くなる「スローモーション波」みたいなものも放ってくるので油断は禁物。意外と攻撃力が高いので、あっけなく死亡することもあります。


雑魚敵のほかにも、ボス戦も用意されています。広いフィールドでの直接対決は、慣れないうちは苦戦しますが、攻撃パターンを覚えて立ち回れば勝てるように設計されており、ほどよい緊張感がありました。
とはいえ、敵クリーチャーの造形はホラーゲームとしてはかなり安っぽく、対峙したときの「怖さ」がありません。戦闘においてもやはり銃撃戦に比べると圧倒的に爽快感やカタルシスが足りていないのが、非常に残念でした。願わくば、この世界でハンドガンとかショットガンを思う存分撃ってみたかったと思います。
◆愛とリスペクトに満ちたオマージュ

本作は、ゲームデザインやゲームプレイ以外の部分でも、『バイオ』や『サイレントヒル』など90年代ホラーゲームへの憧れとリスペクトにあふれた数々のオマージュが盛り込まれています。
たとえば、「このゲームには暴力シーンやグロテスクな表現や含まれています」という、ホラーゲームではお馴染みの警告画面がゲーム起動時に挿入されており、ノスタルジーな気分に浸ってしまいます。

また、タイトル画面には「© 1998 HEARTWORM LLC, ALL RIGHTS RESERVED」と著作権表示のための一文が表記されていますが、これもホラーゲーム好きにはピンと来るでしょう。ではなぜ1998年なのか?そう、それは『バイオハザード2』の記念すべき発売年であり、『バイオ』へのオマージュなのです。


さらに筆者が感動したのは、タイトル画面をしばらく放置していると流れ出す「プリレンダムービー」です。初代PS時代のホラーゲームではよくあるプログラムですが、その再現度がとても素晴らしい出来なのです。そもそも、なぜこのようなムービーを仕込んでいるかというと、プレイヤーに本ゲームがどういったストーリーなのかを端的に伝えるため、そしてプレイヤーを飽きさせないための創意工夫でもあります。

ムービーのグラフィック品質に関しても、テクスチャーの質感や、どこかぎこちないキャラクターのアニメーションなど、当時の雰囲気そのままと言っていいほど再現性が高いので非常に惹き込まれました。それに加えて、これから始まる不穏さを予感させるようなムービーの見せ方がとてもセンスが良い。
このように、本作の随所に90年代のホラーゲームに対する情熱やリスペクトがぎっしりと詰まっており、『Heartworm』という作品は開発者が送ったラブレターであると同時に、「愛」そのものでもあると筆者は感じました。
◆総評
本作は、再現度の高いローポリゴングラフィック、レトロとモダン要素の融合、恐ろしくも不思議な独自の世界観、主人公サムのキャラクター造形、深みのあるストーリー、ワクワクするような探索と謎解き、ユニークな戦闘システム……などなど、ゲームを構成するすべての要素が上手く落とし込まれ、「初代PS風サバイバルホラーゲーム」を忠実に再構築していました。
一方で、「戦闘よりも探索に比重を置いている」とは言え、敵の種類の少なさやチープなデザインは正直なところ残念であったし、カメラを使った戦闘も、やはり『バイオ』などの銃撃戦と比べれば迫力や緊張感が足りず惜しい点でした。
それでも、こうした欠点を補うほどの魅力と遊ぶ価値は十二分にあります。ハッキリと宣言すれば、本作は総じてレトロなサバイバルホラーゲームのマスターピースであり、すべてのプレイヤーに向けてオススメできる作品です。
Game*Spark レビュー 『Heartworm』 Windows PC(Steam) 2025年08月01日リリース
90年代後半のクラシックな雰囲気を忠実かつ丁寧に再現しつつ、操作の快適性など現代風要素も融合させた初代PS風サバイバルホラーの記念碑的作品。愛とリスペクトに満ちた完璧な一作だ
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GOOD
- 往年のホラーゲームのテイストを完璧に再現したローポリグラフィック
- レトロとモダン要素を違和感なく混ぜたゲーム機能
- インタラクティブ性あふれる楽しい探索とやりがいのある謎解き
- 文句なしの日本語ローカライズ、深みのある物語
- 随所に盛り込まれたクラシック作品へのリスペクト
BAD
- 「カメラ」を使った戦闘はユニークだが、やや面白みと緊張感に欠ける
- 敵の種類が少なく、クリーチャーのデザインに「恐ろしさ」が足りない
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