宗教は、その国の政治を大きく動かします。それはたとえば、アメリカ大統領選挙を見てもその様子を窺い知ることができます。

一口に「キリスト教」と言っても、実際には様々な宗派が存在します。日本人の多くは「キリスト教の宗派はカトリックとプロテスタント」という認識ですが、プロテスタントというのはマルティン・ルターの宗教改革以後に生まれた宗派の総称。カトリックのような一枚岩の宗派を指すのではありません。したがって、プロテスタント教会の宗派は数え切れないほど存在します。
聖書は本、つまり「読み物」であるため、内容の解釈は人によって大きく分かれてしまいます。SNSでは有名人の発言の一部を切り取って「お笑い芸人の○○さんはとんでもないことを言った」というようなことが時折拡散されますが、新約聖書は2000年も前からそのような「切り取り解釈」の対象になっています。そうした経緯から、伝統的宗派とは大きく乖離した教義を掲げる宗教団体も出現します。
Steamでデモ版が配信されている『United Sects of America』は、そのような新興宗教を経営し、教義を全米中に広げるということを目的にした内容の作品です。
カルト教団は「人を騙さない」
カルト教団と特殊詐欺集団の違い、それは「人を騙す自覚があるかないか」ではないでしょうか。
特殊詐欺集団は、最初から対象にした人を騙すつもりで電話をかけたり、メールを送ったりします。しかし、カルト教団は人を騙すわけではなく、その人が心の底で望んでいるコトやモノ、あるいは現象を与えるに過ぎません。もちろん、その過程で莫大な寄付金を要求したり、無償で布教活動をさせたりしますが、それも信者が望んでいるものを得るための過程とすれば拒まれることはありません。
カルト教団には、どのような形であれギブ&テイクが備わっています。そして、このあたりがカルト教団と伝統宗派の大きな違いでもあるのです。
伝統宗派は(少なくとも現代では)「神様に祈れば大きなリターンがある」と考えることはなく、また人間が超自然的な現象を起こせるとも考えません。世俗の人間はお釈迦さまやイエスの後に続くことはできますが、どう逆立ちしてもイエスが起こしたような奇跡を再現することはできません。人間が人間である限り、徳川家康だろうと大岡越前だろうと坂本龍馬だろうと力道山だろうとアントニオ猪木だろうと、アルキメデスの原理やフレミング左手の法則を覆すことはできないのです。
しかし、カルト教団の集会では生きている人間が堂々と超自然的能力を披露します。
各バロメーターを維持し続けるゲーム

『United Sects of America』は、4つのバロメーターを常に高い位置で維持し続けるゲームです。
そのバロメーターとは「資金」「オピニオン」「信者の満足度」「教祖の権力」。毎ターン何かしらの問題が発生し、それにどう対処するかで各バロメーターが変動していくという仕組みになっています。

たとえば、教団の集会で突然全裸になって暴れる奴が現れました。この男の乱行を教祖がどう解釈するか……という場面も出てきます。「コイツは狂っているから教団から追い出す」か、「悪霊に憑依されたことにする」か、はたまた「超自然的な力を手に入れた証拠なので教団の聖職者にする」か。起こった事件に対して教祖がどのような解釈を与えるかによって、各バロメーターは変動していきます。そのバランスを維持し続けるのが『United Sects of America』の目的です。

そのような意味で、『United Sects of America』はPC/iOS/Android向けに配信されている『Reigns』とゲーム性が似ています。
「出来事の数が少ない」という課題も…
『Reigns』は一国の王様になり、その時々の重要な判断を下しながら国を率いていく……というよりは、自分が殺されないように上手いこと長期政権を築いていくという内容です。
このゲームにも「教会との関係」「大衆人気」「軍との関係」「資金」という4つのバロメーターがあります。これらのバロメーターを平等に維持していくことは非常に難しく、しかも『Reigns』の場合は「バロメーターの上げ過ぎ」も王様が殺害される要因になってしまいます。

『United Sects of America』の場合は、どうやら「バロメーターの上げ過ぎ」はゲームオーバーの原因にはならないようで、またバロメーターの上下も『Reigns』よりは緩やかな様子。判断を間違えたからといって、それが即座にゲームオーバーにつながるという仕様ではないようです。ただし、このあたりはまだデモ版ですので、攻略難易度は現在調整中ということも考慮しなければなりませんが……。
筆者が「これはエグい!」と感じたのは、集会でマジックマッシュルームを用いて信者に超自然的な体験をさせるという場面。ここには選択肢があり、マジックマッシュルームは使わないという判断を下すこともできます。しかし、ここで麻薬を使うとやはりバロメーターが爆上がり……。

このような集会や布教活動を繰り返して、カリフォルニア州から東へ向けて勢力を拡大していきます。ひとつ気になるのは、現時点で発生する出来事が少なく、たとえば上述の「信者の男が暴れ出した」という出来事もプレイ中に複数回発生します。まったく同じ事件が何度も起こるため、プレイ自体が一種の単調な作業になってしまう感じです。
このあたりの課題をどう克服して今後の製品版リリースにつなげるか、という点は今後も見守る必要があります。









