
『ダイス・ギャンビット』は2025年8月15日、WhisperGamesが発売、Chromatic Inkが開発したターン制ストラテジーRPGです。
癖の強いキャラデザが目を引く本作ですが、『X-COM』ミーツ『Darkest Dungeon』とも言うべきゲームプレイに、彩りを添えるテキストもまた癖の強い逸品でした。すでにアップデートで難易度に手が加えられた本作ですが、本記事ではリリース時のビルドをもとにプレイしたレビューとなっていますので、その点をご注意ください。
なお、プレイにあたってはパブリッシャーよりSteamキーの提供を受けています。
全方位隙のない癖の強さ
本作の舞台は大都市国家ネオタリス。ルネサンス期フィレンツェを彷彿とさせる街で、先祖代々の審問官一族の末裔として、その責務を継承する場面から始まります。審問官の役割は古代より街を蝕むクロマティックという疫病、そして感染した人間が変化した魔物クロマの根絶にあります。

というわけで、ストラテジーには珍しいキャラメイクからスタートですが、この時点で癖が満載です。多種多様な三白眼が目白押しの目に、手のポージングが独特な体、ゲームプレイには影響しないものの一部セリフが変わる「ブチギレ」「マゾ」など愉快な選択肢が並ぶ人格と、本作の重要要素であるダイスまでカスタマイズ可能です。ダイスの一面として家紋も選択可能で、このキャラメイクは今後プレイする一族全体のメイキングも兼ねています。ダイスアイコンを選べばランダム生成もしてくれ、サクッと済ませるも良し、様々なパターンを試しこだわり抜くも良しです。

任に当たり、御三家と呼ばれる有力貴族と付き合わなければなりません。双子姉妹が軍警察と裏社会の両面で法を司るアディシア家、メディアを牛耳り人心を掌握するメドス家、技術革新をもたらし急速に勢力を拡大しつつあるノヴァ家、それぞれの当主との付き合いでゲームは進行します。当主の依頼を受け、クロマを巡る騒動を収めていくことになるのですが、どいつもこいつも一癖二癖あるくせ者揃い。

かように、独特のアートスタイルが顕著な本作ですが、ポルトガルのアーティストRemagic KV氏の手によるサウンドトラックも特筆すべき癖の強さです。現代的なエレクトロビートの上に、ポルトガルの民族歌謡ファドで用いられる12弦のポルトガルギターサウンドが乗っており、なかなか他では聴くことのない独特の地中海風味があります。また、本作ではBGMが変わる毎に曲名と作曲者がポップアップ表示され、場面切替を印象づけるとともに、すでにリリース済みのサウンドトラックで曲を見つける手助けとなります。

また、ビジュアル、サウンドと並んでゲームを彩る上物であるテキストもまた、負けじと癖が強いものとなっております。腹に一物あるキャラクターたちとの会話はコミカルかつ個性的なものばかりで、目を見張るべきはローカライズの見事さです。本作の翻訳は『多砲塔神教』や『Helltaker』の有志翻訳で名高い陽炎01型氏が担当しています。ストラテジーに造詣が深く、よくマッチした濃いキャラ付けが巧みな同氏と本作はベストマッチと言えます。大仰でネタが豊富な会話の数々が、幅広い語彙とキャラ付けの引き出し豊富に訳されています。これだけ癖が強いゲームの中でテキストが全く埋没しておらず、シビアなストラテジーの彩りとして十二分に機能しています。

ストアページを開いたとき、カプセルアートやスクリーンショットの癖の強さがまず目を引く本作ですが、他の要素も肩を並べるほどに濃厚です。一風変わったゲーム音楽や、個性的で愉快なテキスト目当てに触れても間違いのない一作となっています。
ダイスを用いた独特の戦闘
本作は自身の邸宅を拠点としユニットを編成し、ネオタリス中で発生するクロマ騒動を鎮圧するゲームループで進行します。ゲーム全体は3幕構成となっており、1幕ごとに6回まで遠征ないし休養を行える回数制限が設けられています。遠征先は御三家の各当主と紐付いており、依頼を達成すれば好感度が上昇し、関係を進めることで様々なクラスやバフを得られます。

遠征先を選ぶと、ノードで表現されたローグライト風のマップ画面に進みます。右上に表示されているエネルギーの回数だけマス目を移動可能で、ドクロで表現されたボスのマスをクリアすれば遠征成功となります。マス目にはザコ敵の殲滅が求められる戦闘のマス、関係構築対象ごとに特殊なクリア条件が求められ好感度を稼げる戦闘のマス、選んだキャラの体力を回復できるマス、ゴールドやエネルギーを増やせるマス、ランダムイベントが発生するマス、先のノードを見通せるマスが存在します。依頼そのものおよびマップ、そして戦闘選択時のステージ自体も自動生成となっており、大きな変化はないもののプレイごとに異なる内容となっています。

戦闘は『X-COM』ライクと言えばイメージが付きやすいでしょうか。ただでさえ敵の方が数が多いのに、ヘックスグリッド(六角形マス)のため一対多の状況が容易に生まれます。遠隔攻撃も容赦なく飛んでくるため、遮蔽物によるカバーリングや、距離のコントロールが重要となります。
一方で、お馴染み命中率やクリティカル率に悩まされることがないのが、本作の優れた点です。本作では敵に対する攻撃の命中率、敵から攻撃を受けた際のクリティカル率が存在しません。ストラテジープレイヤーなら、この二つで戦略を崩され流した涙は数え切れないでしょう。一方で、敵から攻撃を受けた際の回避率と、敵へ攻撃した際のクリティカル率は存在します。つまり、悪い目が出ると残念なだけの運要素は削られ、良い目が出るとお得感のある運要素が残されているのです。

本作の戦闘を特徴付けるのは、ダイスを中心としたゲームプレイです。ユニットごとのダイスパワーというステータスに応じた数のダイスを振り、その出目に応じた行動を選択する仕組みです。ダイスの目は攻撃、防御、2面ある移動、キャラ毎の固有アビリティを使用できる家紋、全ての目として使えるものの使い過ぎると敵が強化されるクロマの目の六面で構成されます。数回のダイスロールも可能なものの、攻撃したいのに攻撃の目が出ない、ダイスロールしたものの欲しい目が出ないことは日常茶飯事です。
また、アビリティは特定の目二つ以上を組み合わせ消費して使うのですが、その目が揃わないことも当然あります。クロマの目を使おうと思っても、一定回数使うと敵全体の与ダメージおよびHPが10%強化され、遠征中永続効果のため考えなしに多用すると最後のボス戦が苛烈なものとなってしまいます。一方で、余ったダイスロールは他のキャラに回せたり、未使用ダイスは10インスピレーションというリソースに変換され100貯まると追加でダイスロールできたりと、乱数要素にどう対処するかという技術介入の余地は用意されています。

総じて、ゲームループはストラテジーとしては乱数性が強いものとなっています。マップや戦闘ステージの自動生成はバリエーションは限られているものの、予測困難な状況にどう対応するのかというプレイングを盛り上げてくれます。戦闘の運要素もまた同様で、緻密な知略ではなく、場面場面での対処を好む方に向いているでしょう。
一族の発展が重要なユニット管理
ユニット管理は『Darkest Dungeon』ライクとなっています。キャラごとにスタミナというリソースが存在し、戦闘のたびに一定数消費されます。スタミナが一定の割合を切るたびに全ステータスが25%低下するため、維持が重要となります。本作はパーマデスとなっており、戦闘でHPがゼロになった瞬間にキャラクターがロストするため、それだけは避けなければなりません。一方で、スタミナの回復手段は限られています。拠点でのゴールド消費やランダムイベントで回復するのは極少量で、遠征に参加しないか丸々1週間消費して休養を選ぶかする必要があり、その場合でも全回復するわけではありません。

では、どうするか。ユニットを賢く使い捨てることが重要となります。本作はHPの回復手段も限られ、いわゆるヒーラーは存在しません。ドレイン効果を持つアビリティかパッシブでしか戦闘中は回復できませんが、いずれも特化したビルドを組まない限り微々たる回復量です。また、アーマーの概念もありますが、アーマー値がある限り最大1ダメージまで抑える一般的な仕組みではなく、被ダメージの80%までしか軽減しないため、どうあがいても削られていきます。
拠点に戻ればゴールド消費でスタミナ以上の効率で回復可能なため、こちらは活用しがいがあります。ですが、引退させればレベルに応じてゴールドが得られ、その金で新しくユニットを増やせばHP全快、高スタミナのユニットに変換できる形となります。

本作でユニットを増やす手段は2つあり、いずれも特徴的なフレーバーを有しています。1つ目は結婚です。独身のユニットで実行可能で、自身の強さに応じた婚姻対象がランダムで登場します。相手のアビリティおよびステータスは開示されており、リロールもゴールドの限り可能なので、優れた結婚相手が見つかるまで厳選を楽しめます。

2つ目は子供です。既婚カップルで実行可能で、親からスキルとステータスを継承可能です。最初にこだわりのキャラクリをしたのに使い捨てるのか、と思った方もご安心を。見た目も部分的に継承されますので、一族らしさは受け継がれていきます。また、ノヴァ家驚異の科学により子供は瞬時に生まれ即座に成人となるため、親ともどもすぐさま戦場に送り出せます。

いずれの場合も、新ユニットはレベル1からスタートしますが、子供の場合は親のレベル1時に対して高ステータスなユニットとなっています。低レベルなほどレベルアップに必要な経験値は少なく、拠点でゴールド消費して経験値を得られる戦闘訓練も安く上がるため、ほどほどのレベルにして遠征に送り出せます。こうして戦闘で疲弊しスタミナを失い、ステータスが低下したユニットを次々と使い捨てることが一族の発展として表現され、家系図として閲覧可能なのは、本作のユニークなフレーバーです。
重量級ボードゲームを思わせるシビアなストラテジー
ここまで『X-COM』や『Darkest Dungeon』の名を挙げたのは開発者が言及しているからでもありますが、結果として本作は独特のゲームプレイを実現しています。フレーバーに満ちたキャラクリやイベントの数々、ダイスロールに基づく戦闘などは、むしろ『Gloomhaven』に代表される重量級ボードゲームと呼ばれるTRPGを彷彿とさせます。

本作はチュートリアルで操作方法や様々な仕組みは説明されるものの、どう行動するのが効率的かは分かりづらくなっています。たとえば、子供の方が親よりステータスが高くなるためユニットは使い捨てることが有効である、といったことは実際に進めていかないと気付けません。一方でオートセーブのため遡ることができず、幕ごとに時間制限があり、戦闘でのファーム行為もできず、最重要リソースであるゴールドは特定条件を満たさない限り貯められず、パーマデスすると引退も結婚も子作りもできないため、後からのリカバリー手段が乏しいです。
加えて、第2幕、第3幕と進むほど敵が加速度的に強化され、特定のビルドに対して特効的な能力を持つものも出てきます。また、アビリティは200種類以上あり、積極的に好感度を稼がない限りクラスもなかなか解放できないため、強いビルドを探すのも一苦労です。実際、筆者は探り探りプレイした1周目では第3幕のとあるボスで詰んでしまったため、2周目で効率的なゲームプレイを心がけたところ容易にクリアできました。こうした徐々に仕組みを理解していく流れは重量級ボードゲーム的ですが、慣れていない方にとっては苦渋の決断となるでしょう。

本作は冒頭でのみ難易度選択が可能で、筆者はデフォルトの難易度プリセットである騎士でプレイしました。デモ版では第1幕がプレイ可能ですが、第2幕以降が急速に難易度上昇し、詰み状況も発生します。本稿執筆時点ですでに、筆者がプレイしたときよりも難易度下方修正のアップデートが加えられていますが、やり直しを避けたい方は難易度を下げて開始するのを推奨します。無論、ディープに遊びたい方は難易度を上げるなり、細かな難易度補正で調整するなりといった楽しみ方も可能です。

プレイスルーは周回を想定しており、戦闘アニメーションはもちろん、全ダイアログをスキップ可能です。本作のダイアログはADVのようなスタイルで、ゲームプレイには影響しないもののフレーバーが強く、ロールプレイを楽しめる選択肢が豊富です。かなり力が入った要素ですが、選択肢で停止すらせず丸ごとスキップ可能な仕様は、周回するストラテジーを優先した英断と言えます。全体のストーリーは一本道ですが、好感度を上げていくと各キャラクターの背景を知れるイベントもあり、周回のたびに異なる相手を攻略し、自ずと違うバフやクラスを取得するゲームプレイを味わえます。とはいえ、リザルト画面でのユニットごとのステータス変動演出などはクドさもあり、改善されると嬉しいところです。

総じて、独特の個性が練り込まれたターン制ストラテジーRPGでした。筆者もキャッチーなビジュアルから入った口なので、意外とシビアな難易度には驚かされましたが、癖の強さ、キャラクターの魅力で2周目のプレイも苦にならず夢中でプレイできました。細かなバグ修正含め、バランス調整に開発者は優先的に取り組む模様で、すでに何度かアップデートがされており、今後の品質向上にも期待できます。ひとまず、現時点では低難易度から始めるのがお勧めです。
Game*Spark レビュー 『ダイス・ギャンビット』 PC(Steam) 2025年8月15日
どこまでも癖の強いストラテジーRPG、癖あるキャラクターとダイスに翻弄されたいならうってつけ
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GOOD
- 唯一無二のビジュアルとサウンド
- 濃いキャラクターを楽しめるテキストおよび良質なローカライズ
- ひとつひとつの仕組みに意図を感じるゲームデザイン
BAD
- 詰み状況も発生するリカバリーの困難さ
- 長くプレイしていると気になる一部演出の遅さ
¥1,450
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)













