「開発チームの初会議は、全員が祖父母の思い出を語り合うところから始まった」認知症がテーマの家族ドラマ『あなたがここにいる限り』【開発者インタビュー】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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「開発チームの初会議は、全員が祖父母の思い出を語り合うところから始まった」認知症がテーマの家族ドラマ『あなたがここにいる限り』【開発者インタビュー】

気になる新作インディーゲームの開発者にインタビューする本企画。今回は、Autoscopia Interactive開発、PC向けに10月28日にリリースされた認知症がテーマの家族ドラマ『あなたがここにいる限り(As Long As You’re Here)』開発者へのミニインタビューをお届けします。

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「開発チームの初会議は、全員が祖父母の思い出を語り合うところから始まった」認知症がテーマの家族ドラマ『あなたがここにいる限り』【開発者インタビュー】
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気になる新作インディーゲームの開発者にインタビューする本企画。今回は、Autoscopia Interactive開発、PC向けに10月28日にリリースされた認知症がテーマの家族ドラマ『あなたがここにいる限り(As Long As You’re Here)』開発者へのミニインタビューをお届けします。

本作は、アルツハイマー病を患う女性の視点で描かれる家族ドラマ。プレイヤーは、記憶が薄れつつある老婦人アニーを操作します。長年住み慣れた家から引っ越してきたアニーと子供たちは、かつての家族との違いに向き合います。子供たちがアニーの世話をどうするかで衝突する中、アニーの亡き兄の記憶が徐々に蘇ります。日本語にも対応済み。

『あなたがここにいる限り』は、1,200円で配信中


――まずは自己紹介をお願いします。一番好きなゲームは何ですか?

MarlèneとRyan私たちは『あなたがここにいる限り』の共同デザイナーのMarlène DelriveとRyan Wrightです。このゲームは、私たちと数名の友人たちで一緒に開発した作品で、アルツハイマー病を患う女性の視点から家族のドラマを描くゲームです。

本作は私たち二人が好きなナラティブ系ゲーム…例えば『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』や『That Dragon, Cancer』 などから強く影響を受けています。また、私たちはJonathan Blowが作ったゲーム、特に『Braid』 のファンでもあります。

Ryanの人生で一番好きなゲームは、おそらく 『DARK SOULS』 ですが、僅差の二位は 『Kentucky Route Zero』です。一方Marlèneは、『Samorost 3』、『サブノーティカ』、『ディスコ エリジウム』などがお気に入りです。

――本作の特徴を教えてください。また、そのアイデアはどのように思いついたのでしょうか?

MarlèneとRyan『あなたがここにいる限り』の特徴は、アルツハイマー病を患う主人公とその症状をプレイヤーが強く体感できるよう、「一人称視点」を採用している点です。主人公がアパートの中を歩き回っていると、曲がり角を曲がって「キッチンがあるはずだ」と思った瞬間、そこは自分が想像したキッチンではなく、主人公がかつて住んでいた家のキッチンだったりします。日常のタスクのために重要なアイテムを拾って置いたはずなのに、戻ってみると元の場所にない、と言うこともあります。こうしたさりげないゲームデザインによって、プレイヤー自身が「自分の認知機能を信頼できないとはどういうことなのか」を疑似的に体験できます。

プレイヤーは自分の判断や記憶に対して不安を抱くようになります。そしてこれは、アルツハイマー病の方々が日々抱えている問題でもあるのです(もちろん、実際の経験はゲームでは到底完全に再現できないほど、はるかに深刻で複雑です)。

このゲームは、とても個人的な思いから生まれました。およそ10年前、Marlèneはアルツハイマー病で祖母を亡くし、その後、「認知症の人の視点に立つ体験をゲームで表現できないか」と考えるようになったのです。彼女が祖母の病気を経験したのはまだ10代の頃で、どう寄り添えばいいか分かりませんでした。Marlèneにとってこのゲーム開発は、当時の経験や悲しみを整理し、祖母の晩年の視点を理解しようとする試みでもあったのです。

2018年、コペンハーゲンIT大学のゲームデザインの授業で、Marlèneはこの企画を発表しました。その後まもなく、彼女は開発チームを結成し、その多くが、Ryanを含め、身近に認知症を患った家族がいるという共通の背景を持っていました。開発チームとしての最初のミーティングでは、全員が自分の祖父母の思い出を語り合うところから始まったのです。

――本作の開発にあたって影響を受けた作品はありますか?

MarlèneとRyan本作の開発にあたり、私たちはアルツハイマー病に関する様々なメディア作品を参考にしました。その中には、リサ・ジェノヴァの小説「アリスのままで」のようなフィクション作品や、フランス映画「愛、アムール」も含まれます(こちらは認知症ではなく脳卒中を扱っていますが、描かれる症状や影響が非常に似ているため参考になりました)。

特に「愛、アムール」は、本作の主な舞台となるアパートのデザインに大きな影響を与えています。また、認知症を「映画的なメタファー」として扱った作品から着想を得たシーンもあります。例えば、映画「もう終わりにしよう。」の階段のシーンなどです。さらに、『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』における「ゲーム世界に浮かぶテキスト」の使い方にも強く影響を受け、主人公の思考表現に活かしています。

一方で、認知症の症状を正確にモデリングするため、より信頼できる資料も集めました。アルツハイマー関連の団体が制作した、患者の感覚を伝え、共感や介護支援を目的とする短編映像もいくつか参考にしています。特に、Alzheimer’s Research UKが制作したYouTubeの「A Walk Through Dementia - walking home」は、この病気を上手く伝えており、とても参考になりました。

Marlèneはまた、デンマーク人女性のアルツハイマー体験を綴った「Kirstens dagbog : et liv med Alzheimers demens(著:Kirsten Ewaldsen、Jonas Lautrop)」と言う日記も見つけ、アルツハイマー病を抱える女性の内面を知る貴重な資料となりました。私たちは本作の開発期間中、これらの資料に何度も立ち戻り、作品づくりの指針としてきたのです。

――本作の開発中に一番印象深かったエピソードを一つ教えてください。

MarlèneとRyan本作の一番最初のプロトタイプは、ゲームデザインの授業の課題として作った、20分ほどで遊べる完全なプレイアブル版でした。開発期間はたった8週間しかありませんでしたが、授業が終わったあと、私たちはそのゲームを無料でitch.io(多くの小規模インディーゲームが公開されているサイト)にアップロードしたのです。

数週間後、ダウンロード数が突然何千回にも増えていることに気づきました。調べてみると、YouTuberのCoryxKenshinさんが、数百万の登録者に向けて私たちのゲームをプレイしてくれていたのです。現在、その動画の再生数は700万回を超えており、Coryさんのリアクションはとても温かく、優しいものでした。

その反応を見て、私たちは「とても特別なものを作ったのかもしれない」と実感し、そのゲームをフェスティバルに出展し、やがて会社を設立して資金を調達してみようと言う勇気が湧いてきました。もしあの動画がなかったら、『あなたがここにいる限り』は今ここに存在していないかもしれません。そのことに、私たちは心から感謝しています。

――リリース後のユーザーのフィードバックはどのようなものがありましたか?特に印象深いものを教えてください。

MarlèneとRyan私たちは、いただいたフィードバックのほとんどが非常に好意的で、むしろ絶賛に近いものであることにとても驚き、そして喜んでいます。何百人ものプレイヤーがコメントを残してくれていて、その多くが「アルツハイマー病の家族との経験に深く響いた」と言った、非常に個人的なエピソードを共有してくれました。これらのコメントには本当に心を動かされましたし、これ以上の賛辞はありません。

また、いくつかのゲーム系メディアのレビューでは、デザイン面で、プレイヤーに登場人物の体験を「実感」として与えることに成功しており、このゲームによってゲームというメディアの可能性について考え直された、と評価してくれました。

この7年間、私たちが情熱を注いできたこのプロジェクトの「創造的価値」と「感情的な価値」を他の人たちも見出してくれたことに、私たちは心から感謝しています。

――ユーザーからのフィードバックも踏まえて、今後のアップデートの方針について教えてください。

MarlèneとRyan現在、本作はPC向けにSteamでリリースされていますが、私たちは本作をもっと多くのプラットフォームに届けたいと考えています。まず、多くの方からご要望をいただいているMac版の対応に取り組んでいるところです。

また、スイッチなどのコンソールへの展開もぜひ実現したいと考えています。ただし私たちは小規模なチームのため、まずはそれが経済的に成り立つかをしっかり確認する必要があります。幸い、リリースからはずっと順調ですので、これからどうなるか、ぜひ一緒に願っていてください!

――本作の配信や収益化はしても大丈夫ですか?

MarlèneとRyanはい、もちろん問題ありません。私たちは、自分たちのゲームが短いナラティブ作品であることを理解しています。つまり、人によっては「自分でプレイするより動画で見れば十分」と感じるかもしれません。

もちろん、もし可能ならゲームを購入していただけると、私たちの活動を支える大きな助けになります。しかし、プレイヤーがそれぞれ好きな形でゲームを楽しむことを、私たちは心から願っています。

――最後に日本の読者にメッセージをお願いします。

MarlèneとRyanアルツハイマー病は、日本国内外を問わず、世界中で何百万人もの人々に影響を及ぼしています。私たちは、このテーマが世界中の人々を共通の思いやりでつなぐ手助けになると考えています。本作を通して、高齢者や認知機能に障害を持つ人々に対する忍耐力や共感力を体験して欲しいと思っています。

このゲームの大きな目的の一つは、アルツハイマー病と共に生きることが辛く、時には恐ろしいこともあると示す一方で、決してその人の人生が苦しみだけで定義されるものではないことを伝えることです。本作では、長年抱えてきた後悔に区切りをつけようとする一人の女性の体験を描いています。そして、ある意味で、彼女がその区切りを見つけられるのは、病気が彼女の時間や記憶との関係を変えたからにほかなりません。

ぜひ、本作のプレイを検討してみていただけると幸いです。そして遊ぶ時には、あなたの身近な人々の中で認知症の影響を受けている方のことを思い浮かべながらプレイしてもらえたら嬉しいです。

――ありがとうございました。

◆「注目インディーミニ問答」について

本連載は、リリース直後インディーデベロッパーメールで作品についてインタビューする連載企画です。定期的な連載にするため質問はフォーマット化し、なるべく多くのデベロッパーの声を届けることを目標としています。既に700を超える他のインタビュー記事もあわせてお楽しみください。

ライター:Chandler,編集:Akira Horie》

ライター/バイク乗り Chandler

ゲームと風をこよなく愛する暇人。趣味は多い方だったはずが、最近は家でぼーっとしている時間が増えてきた気がしている

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Akira Horie

編集/『ウィザードリィ外伝 五つの試練』Steam/Nintendo Switch好評発売中! Akira Horie

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