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“BLゲームの保存”ならではの問題とは?女性向けBLゲーム資料の収集・保存・公開を行う「BLゲーム資料保存館の取り組み」講演レポ

ゲームの保存に共通する問題、そしてならではの問題もありました。

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“BLゲームの保存”ならではの問題とは?女性向けBLゲーム資料の収集・保存・公開を行う「BLゲーム資料保存館の取り組み」講演レポ
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2025年12月19日、「図書館とゲーム部」による主催企画「BLゲーム資料保存館さんによるゲーム保存についてのお話し」が開催されました。

本企画は、ゲームアーカイブに精力的に取り組んでいる大学図書館勤務の司書・「格闘系司書」さんをホストに、個人的にBLゲームの保存・収集やデータベース作成などを行なっている「BLゲーム資料保存館」さん(以下、保存館さん)に活動の詳細を聞くイベントです。ゲストとしてBL読者であり司書課程の大学教員でもある「小鼠」さんを迎え、三者による鼎談として展開されました。

この記事では、イベントで語られたBLゲームアーカイブの現在地について紹介します。

まずBLゲーム資料保存館の取り組みとは、女性向けBLゲームを中心とした、資料の収集・保存・公開です。注目すべきは、保存館での収集・保存と国立国会図書館寄贈を同時に行い、2か所での保存を試みている点。そもそも国立国会図書館にゲームの寄贈ができることを知らない人も多いのではないでしょうか。「(1か所だと)当館に何かあったら資料もデータも失われてしまうので」「確実に未来に残るようにしている」という保存館さんの強い意向には、筆者も胸を打たれました。なお、保存しているのは基本的に未開封品であり、自宅保存の場合はOPP袋を使用してシュリンクの破損にまで気を使いながら、中性紙でできた箱で管理しているとのお話がありました。

BLゲームの保存ならではの問題とは

ここまでのBLゲーム保存への情熱は、いったいどのように生まれたものなのでしょうか。そのきっかけとして、保存館さんは「あるBLゲームが歴史から消えるかもしれないと感じたできごとがあったから」と話しました。

かつてとあるBLゲームについて、発売から1年後に無関係のアニメーションが全く同じタイトルで発表され、「国立国会図書館で検索すると、先発のBLゲームは出てこないが、後発のアニメ作品の関連CD・DVDが出てくる」状態になったとのこと。この様子を見た保存館さんは、「BLゲームの存在がなかったことにされてしまうのではないか」という危機感を覚え、活動を決意したのだそうです。

ただし、BLゲーム保存活動は当然ながら楽ではありませんでした。BLゲームは、特にプレイヤー以外からの認知度が非常に低く、存在が認知されないという根本的な障壁があるのだそう。

マンガ、アニメ、ゲーム、メディアアートなどをアーカイブする検索エンジンとして、文化庁の「メディア芸術データベース」はよく知られていますが、PC向けのBLゲームはほとんど登録されていないといいます(コンシューマー向けに移植された作品は登録されていることが多いとのこと)。このような「そもそもアーカイブされていない」状況があると、保存・研究の対象として、BLゲームは最初から外されてしまいかねません。

一方で、活動において確かな手応えもあったといいます。保存館さんによる国立国会図書館への寄贈活動はおよそ2年前から開始されたとのことですが、その成果もあり、2019年時点では国立国会図書館に1本も登録されていなかったBLゲームが、現在では43本も登録されているそう。なお、そのうち1本は保存館さんが寄贈していたものではないようで、同じ危機感を覚えていたのは保存館さんひとりではなかったのかもしれません。

イベントでは、質疑応答も盛んに交わされました。「BLゲーム資料保存館」公式サイトの年表に関して、「BLゲームリストはどう作っているのか?」という質問が出ましたが、その答えはなんと「雑誌を全ページめくって手入力している」とのこと。「Cool-B」「B’s-LOG」「GAMEピアス」「微熱王子」「電撃若」といったBLゲームを取り扱っている雑誌をできる限りすべて確認し、リストアップしているそうです。しかも「雑誌に載っていても発売しなかったものもある」そうで、最終的には現物との照合も必要になるとのこと。あまりに壮絶な作業です。

そしてリストアップ作業においては、「作品の線引き」も難しい、との話題が出ました。BLゲーム資料保存館さんの活動では、主にメーカーからPC向けに発売された作品を取り扱っており、同人ゲームの情報はまだ集められていないといいます。また、保存の基準に関しても、ある程度範囲を限定するために、「主人公、攻略対象が全員男性である」という制約を設けているとのことでした。

一方で参加者からは、女装ものや美少女ゲームのBLルートについてはアーカイブの対象にならないか、といった問いが投げかけられ、ジャンルの区切り難さもあらためて浮上することとなりました。BLというジャンル自体には明確な歴史と系譜がありますが、明らかにBLの系譜を持った表象がジャンルをずらしながら現れるのも当然ありうる事態であり、判断はなかなか難しいところです。

さらに、ゲームアーカイブにおいて最も悩ましい問題とも言える、動作環境についても話が及びました。まず、古いDRMや互換性の問題があります。オンライン認証やダウンロード販売が前提になっていると、ストアが閉鎖した場合に起動できなくなってしまうのです。

なおWindows 10になった頃からセキュリティレベルが上がり、起動できない作品が増えたこともあって、保存館さんではWindows XPとWindows 11の2台を稼働させているといいます。また、CD-ROMの寿命はおよそ10年から30年であるのに対し、BLゲームの歴史は25年ほど。つまり、そろそろ媒体そのものの寿命が来てしまうおそれを帯びています。保存館さんは、「そろそろバックアップ作業の必要がある」とも語りました。

また、「修正パッチ問題」も俎上に上がりました。BLゲームでは雑誌の付録として修正パッチ入りのCD-ROMが発表される場合が多く、どの雑誌にどの修正パッチが収録されているかは、BLゲーム資料保存館公式サイトから確認できます。

しかし、この雑誌は国立国会図書館で見つけたとしても、国立国会図書館の規定上その場で自分のPCにインストールすることができないのです。よって、修正パッチが欲しい場合は中古の雑誌を自ら購入するしか方法がないといいます。修正の軌跡も含めて作品である、というゲームの特徴は、アーカイブにおいてはかなり複雑なテーマと言えそうです。

しかし、「プレイできる状態にする」だけがアーカイブではない、という光明も示されました。それが「動画保存」です。なんとコメント欄に『BOY×BOY ~私立光稜学院誠心寮~』(1999年)を録画保存しているという猛者が現れました。ここから話題が広がり、いずれゲーム配信も貴重なゲームアーカイブの一部になるだろう、という展望が語られました。

公共のゲームアーカイブに関しては、立命館大学が先進的な試みをしているほか、2026年4月からゲーム&インタラクティブアート専攻を開設する東京藝術大学がゲームアーカイブの構想を立てています。しかし、BLゲームのような「そもそもプレイヤー以外に存在が認知されない」傾向を持つ作品群については、やはり今後も個人レベルでの保存活動が重要になる可能性が高いといえます。

いちゲーマーとしては、公共のゲームアーカイブの拡張を切に祈りつつ、BLゲーム資料保存館さんの挑戦も支援したいところです。なお、現在BLゲーム資料保存館さんでは、『ドーリィナイト』β版(バーコード下2桁が54のもの)が入手できる場所を探しているとのこと。ご存じの方は、公式サイトからぜひ情報提供を!

ライター:高島鈴,編集:みお

ライター/フリーのライター、編集、アナーカ・フェミニスト 高島鈴

大学院で10年日本史を勉強したのち、ゲーム業界の会社員を経てフリーに。ADVとクィアゲームが大好き。

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編集/取材も執筆もたくさんやる、半ライター半編集 みお

ゲーム文化と70年代の日本語の音楽大好き。2021年3月からフリーライターを始め、2025年4月にGame*Spark編集部入り。

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