列車に揺られた1匹の犬が夢の底へと降りていく。次々と情景が移りゆく曖昧模糊な夢の世界を、プレイヤーは「犬」として探索していきます。
Steamにて発売予定の『Don’t Wake Up My Dream』は、そんな“夢”を題材としたパズルアドベンチャーゲーム。可愛らしい手書きのイラストであまりにカオスな夢の世界での冒険を描く、作家性溢れる一作品といえるでしょう。
本稿では、そんなクリエイティビティに富んだゲームを開発しているNaivus Luo氏(以下、敬称略)に、開発の経緯や正式リリースへの意気込みなどについてたっぷりと伺ったインタビューをお届けします。
目指したのは「どこかおかしいのに受け入れられる」状態
――本作『Don’t Wake Up My Dream』の制作を始めたきっかけについて教えてください。
Luo本作はもともと、「現実と夢(あるいは理想)」のあいだに生じる葛藤を、私自身が実感していたことから生まれました。私は日々の生活の中で、美しい幻想や夢の中にずっと浸っていたいと思うことがしばしばありますが、現実ではふとした瞬間に遮られてしまいます。
その感覚は、たとえば、とても美しい夢を見ている最中に、目覚まし時計や周囲の状況で無理に起こされてしまうようなものです。あのとき感じる、悔しさや心残り、夢への未練が、ずっと私の心に残っていました。
まさにこの「美しい夢が断ち切られる」感情を具体的な形にし、プレイヤーがゲームの中でもう1度その夢へ入り直せるようにしたいと考えたのが本作を開発するきっかけです。

――本作で表現したいことやテーマ、プレイヤーに伝えたいこと、あるいは制作において最も重視した点はなんでしょうか?
Luo本作では、夢の中にある自由で奇妙、だけれどもどこか真実味がある「探求の喜び」を表現したいと考えています。夢は現実とは違って、予期できず、飛躍的で直感的なものです。だからこそ人は夢に没頭し、「目覚めたくない」と感じるのだと思います。
ゲームの核となるテーマは「夢の中の探求」です。とある一匹の犬が果てしない夢の中、一瞬で消え去る影を追いかけていきます。その過程でプレイヤーは選択を重ね、時には“温かみ”や“癒し”を得たり、時には笑いを誘うような予期せぬ出来事にも出会ったりするでしょう。こうした体験が積み重なって、一つの旅路を形作っていくのです。
制作でいちばん大切にしたのは、「驚き」と「癒やし」が同時にあることです。プレイヤーのみなさんには、気負わず謎解きや探索を楽しむうちに、ふと心を動かされ、気づけば感情に寄り添われている――そんな体験を届けたいと思っています。

──ご自身の「原体験」や創作の源泉についてお聞かせください。たとえば幼少期の記憶や、強い影響を受けた作品などがあれば教えてください。
Luo私は幼い頃から絵を描くことが大好きでした。ひとりで一日中外に出ず、飽きることなく絵を描いたり、考えを巡らせたりしながら、自分の想像の世界にずっと浸っていられました。私にとって、想像の中で「遊ぶ」ことそのものが、最も純粋な喜びでしたね。
現実世界と比べると、私は頭の中にあるそうした空間にいるほうが慣れていますし、心地よく感じていました。感情やイメージ、直感だけで成り立つその世界は、私の夢に対する捉え方に直接影響を与え、本作の気質を形作ってもいます。本作は、すべてを説明し尽くすことを目的とはせず、むしろ感情体験の流れに近いものを目指しています。
──なぜ「犬」を主人公に選んだのでしょうか? 動物を主人公にとして開発する際、特に意識したり考慮したりした点はありますか?
実は、前作(『風になびくマントを見ましたか』)の主人公も「犬」なんです。その理由についても非常に個人的なもので、私が人生で初めて飼った犬がモチーフとなっています。ゲームに登場する犬の姿はほとんど瓜二つと言ってもいいかもしれません。

子どもの頃の私は、その犬と共に数々の忘れられない時間を過ごし、たくさんの思い出を残してきました。そうして私が感じたのは、犬とは純粋さ、一途さ、そして疑うことなく感情を追い求めることの象徴だということです。
犬を主人公に置き換えたことで、言語や文化の壁を減らして、プレイヤーがより直接的に感情移入できるのではないかと考えました。本作が、あの犬が私に与えてくれたような、優しくて長く心に残る記憶をプレイヤーにも届けられることを願っています。
――「説明を最小限に抑え、夢のような体験を主とする」というゲームプレイをデザインする際、どのような方針に従いましたか?
Luo大切にしたのは、「没入感を優先し、負担なく探索できる」という方針です。
ゲーム内には明確なチュートリアルがほとんどありません。プレイヤーには、まるで本当に夢を見ているかのように、直感に従って遊んでもらいたいと考えています。そのためのゲームプレイには、文字による説明ではなく、環境による物語と画面の変化、そしてわずかなインタラクションによって導かれることを重視しました。
そのため、意図的に「夢から目覚める直前」のような状態に調整しています。プレイヤーに強い挫折感を与えることなく、ゲームが進行できるイメージです。ゲーム体験としては、まるで夢の中を自由に散歩しているかのように、いつも予期せぬものに出会える体験を目指しました。
――ゲーム中には複数の「異なる夢」が登場するようですが、これらの夢はどのように発想され、構築されていったのでしょうか?
Luoこれらの夢のほとんどは、日常生活の中で通り過ぎる一瞬の光景や考えから生まれています。たとえば、とある映画の一場面、漫画の1ページの構図、あるいは日常生活で偶然目にした光景などですね。
面白かったり、奇妙だったり、あるいは「ぶっ飛んでいる」と感じたものは何でも記録していて、後からそれらを時間をかけて整理し、最終的にゲームの中で再構築して組み込みました。思い返すと、私にとってこれは“喜びの共有”とも言えるかもしれません。ゲームを通して私が感じた日常のひとときを、プレイヤーには体験してもらうことになるのですから。
ただ、夢と夢の間に厳密な論理を求めるのではなく、我々が普段から見る夢のように、自由で飛び飛びで予測不可能なものにしたいと考えています。

――ゲームには夢の中で「破片(Fragments)」を収集する要素が導入されていますが、このシステムの意図と目的は何ですか?
Luo「破片」の意図は、好奇心を促して物語を組み立てることにあります。これらの破片は単なる収集アイテムではなく、物語の鍵のようなものです。
ゲームでは、犬がとある姿を追い求める断片的な背景や感情を手がかりにして、徐々に夢の秘密を明らかにしていきます。ですが、プレイヤー側は1度に得られた情報のすべてを理解する必要はなく、ゆっくりと探索を通じて自分なりの理解を組み立てていくことができます。
このようなデザインにしたのは、直線的な物語で見られる“一辺倒な体験”を避けたかったからです。また、探索そのものに達成感を与えて、ゲームのリプレイ性を高める効果もあると考えました。
――ゲームに登場する「列車」が印象的ですが、作中ではどのような役割なのでしょうか?
Luo以前、列車の中で眠ってしまったことがあり、半分夢の中のような感覚を体験しました。そのとき以来、「列車」には強い感情的な結びつきを感じています。
私の中で列車とは、ただ遠くへ向かう乗り物というより「どこかへ連れていかれる感覚」を象徴している乗り物です。列車に乗り込むと、次の停車駅に“会いたい誰か”がいるかもしれない――そんな予感がするんです。このイメージが、ゲームの「誰かに会いに行きたい」というテーマとも強く結びついています。
物語の中心は夢の中の追いかけですが、列車は「旅」を表すモチーフとして置いています。現実と夢のあいだを進み続けるのに、終着点だけは見えない。そんな感覚を重ねました。

――本作の夢の世界は「シュールさとユーモアが共存している」という印象を与えますが、このような雰囲気をつくる上で特に意識した点はありますか?
Luo私が構築したかったのは、「時空が歪んだ夢の世界」です。そこでは、論理と物理法則が1度分解されて、再構築されていますが、完全に制御不能な混沌ではありません。むしろ、「どこかおかしいけれど、直感的には受け入れられる」という状態です。
デザインする際には、プレイヤーが現実世界で慣れ親しんでいる因果関係を意図的に壊しました。例えば、空間の突然の転換、キャラクターの不合理な行動、物体の機能の逆転などですね。
ゲームではこれらの不合理さ自体がユーモアを生み出していると思います。ユーモアを取り入れているのは、単に笑わせるためではなく、プレイヤーがリラックスし油断した状態で、より夢の世界に入り込めるようにするためです。

また、シュールさと可愛らしさのバランスを非常に重視しています。あまりに抽象的すぎるとプレイヤーは疎外感を感じるでしょうし、あまりに普通すぎると今度は夢らしさが失われてしまいます。
そのため、画面やキャラクターは親近感のあるままにしておき、空間のつながり方や物の働き方といった“世界の仕組みだけをこっそりおかしく”することで、プレイヤーがニヤニヤしながら「これは夢だね」と気づけるようにしています。
──手描きのアートワークは本作の大きな特徴ですが、具体的な制作プロセスとこだわった点についてお聞かせください。
Luo手描きスタイルは、私にとって最も馴染み深く、最も自然な表現方法です。構想、スケッチから最終的な完成に至るまで、ほぼ全工程を手描きで仕上げたため、創作活動を非常にスムーズに進めることができました。
制作プロセスにおいては、機能性よりも感情と画面の雰囲気を優先するようにしています。つまり、「このシーンで何を感じさせたいか?温かさか、不条理さか、それとも孤独か?」とまず自問し、感情が定まってから、構造やインタラクションを考えるようにしています。
画面については、過度な装飾をせず、線の「手触り」や不完全さを残すことにこだわり続けました。このわずかに粗い質感こそが、夢の状態に近しいものだと考えているからです。精緻さよりも手触りを残したい。正確さはなくても生々しさがあり、整っていなくても温度がある。そういう質感です。


――サウンド関連については、どのようなイメージやコンセプトで制作されているのでしょうか?
Luoサウンドデザインに関しては、現実世界よりも「カートゥーンアニメーション」を参考にすることが多かったですね。効果音は少し誇張されていますが、全体的に軽快で可愛らしいものに仕上がりました。
これらのサウンドは現実感を強調するのではなく、作中の雰囲気を引き立たせています。プレイヤーが無意識のうちにリラックスできて、「何でもアリの世界」だと認識させるためです。BGMも同様で、物語を盛り上げる役割というより、感情の基調となるものです。
このゲームにおいてサウンドが担っている役割は、「ここは夢の中だ」とそっと思い出させることです。起きる出来事は肩の力を抜いて受け止めていい。でも、そこから生まれる気持ちだけは、ちゃんと心に残ってほしいと思っています。
――本作にはパズルやクリック操作など、軽いインタラクションがありますが、難易度やテンポはどのように調整しましたか?
Luo全体的な方向性としては、カジュアルな体験を目指していますが、全く挑戦性がないわけではありません。また、パズル要素はプレイヤーが遊びとしての意識を保つためのものであり、ストレスを与えないくらいの難易度です。
人を選びそうなパズルはメインストーリーに入れず、やり込み要素にしています。こうすることで、考えることが好きなプレイヤーは探索を通じて満足できるでしょうし、気軽に夢を体験したいプレイヤーの邪魔をすることもありません。
プレイヤーには「アニメを見ながら、ついでにゲームをプレイしているような」感覚で楽しんでほしいと思っています。もし行き詰まっても、挫折感を感じるのではなく、画面を眺めたり、音楽を聴いたりする時間を楽しんでほしいですね。
――体験版が公開された後、プレイヤーからはどのようなフィードバックがありましたか?すでにゲームの改善に反映された内容はありますか?
Luo嬉しいことに、現在までのフィードバック内容は全体的にも非常に好評なものばかりです。特に嬉しかったのは、多くのプレイヤーがフィードバックの中で「プレイしているうちに笑ってしまった」「こんな展開になると全く予想していなかった」と、コメントしてくれたことでした。これこそが私の狙いです。プレイヤーには心理的な負担を感じず、ただ純粋にゲームを楽しんでもらいたいのです。
今回リリースした体験版では、こちらが意図した方向性が有効であることを確認できたので、今後の正式版ではこれらの体験をさらに強化しつつ、特にフィードバックが集中した部分について調整とブラッシュアップを行なっていく予定です。

――プレイヤーの選択によって異なるエンディングに到達しますが、本作でマルチエンディングを採用した理由は何ですか?
Luoマルチエンディングを採用した目的は2つあって、ゲームの没入感を高めることと、リプレイ性を高めることです。ですが、さらに重要なのはマルチエンディングが「夢に定型はない」というテーマに非常に合致していることですね。夢そのものに正解はなく、同じ感情、同じ出発点でも、全く異なる結果へと進む可能性があります。
ですから、私はプレイヤーにこのゲームの「どのエンディングが正しいのか」を教えるつもりもありません。プレイヤーのみなさんが選択したことは、その瞬間に感じたことの延長だからです。
――最後に、正式リリースに向けて現在どのような作業を進めているか、また本作の展望についてお聞かせください。
Luo現在は正式リリースに向けて、ステージを増やしながら、全体の物語も少しずつ厚くしているところです。犬が追いかけているものが、プレイヤーの中でもよりはっきりとつながっていくように、展開や感情の流れを丁寧に再構成しています。
本作が、ただクリアされて終わる作品ではなく、あとからふと思い出してもらえるような体験になってほしいと考えています。時間が経ってからでも、夢の中のある景色や、突拍子もないのにどこか優しい一瞬がふと浮かんでくる――もし本作がそんなふうに記憶に残るなら、私にとってそれがいちばんの成功と言えます。
――ありがとうございました!
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