1926年3月16日、世界初の液体燃料によるロケット飛行が実施されました。それからちょうど100年目に当たる記念すべき日に、『Keplerian Space Discovery』がリリースされました。宇宙好きに好評を博した『Kerbal Space Program』のフォロワーとして、日本の個人開発者キドカオル氏(Kugelblitz)が製作したスペースクラフトシミュレーターです。『KSP』の次作『KSP2』が実質ペンディング状態であるため、4K環境に向けた同ジャンルの新作として注目が高く、SF映画や目前に迫る有人月周回で高まる宇宙熱を放散させるにはもってこいです。

今、僕の目の前にあるスクリーンには一つのプログラムが映し出されている。タイトルロゴは『Keplerian Space Discovery』とある。背景には虚空に浮かぶ我らが太陽系第三惑星。空はとても暗い。一方、地球は青みがかっている。トップメニューの「新規ゲーム」の文字から、どうやら僕はこのゲームをプレイしなければならないらしい。何故急に文体が変わったかというと、某SF小説に感化されてしまったからだ。そういうわけで宇宙熱の放散にしばしお付き合い願いたい。

順当に「新規ゲーム」をクリックし、指示されるまま操作していくと、何故か謎の契約を結ばされることになった。内容は「ロケットを高度15,000mまで打ち上げろ」というものらしい。どうやら僕に拒否権はないらしい。まるで悪徳企業に監禁された技術者のようだ。

仕方なく契約を受諾すると、今度はVAB(ロケット組立棟)に連れてこられた。たった5回のクリックであっという間に単純なロケットが組み上がった。ワーオ、まるでダンブルドアの魔法だ!
このロケットは液体燃料とエンジンだけの極めてシンプルな構造だ。つまり、億単位のドルをかけた超豪勢なロケット花火。幸いコックピットは付いていない。完全無人の遠隔操作でコントロールするらしい。ライカでもリトルグリーンメンでも、とにかく僕は英雄的行為の志願者リストに心を痛める必要は無いようだ。
ここでは資材も資金も一切気にせず、僕の好きなサンドボックスとして好きなだけ使って良いという。「契約」をこなせば使える部品をアップグレードしてくれるらしい。つまり、僕のやるべき事はこうだ。ロケットを設計し、打ち上げ、契約を達成できるか確かめ、改善する。Plan、Do、Check、Action、ひたすらPDCAを回すのだ。


オーケイ、ここからは実験の時間だ。僕は最初に造ったロケット花火の発射ボタンを押す。轟音を立ててロケット第一号は遙か上空の成層圏目指して飛んでいった。安いドラマならここで景気づけに「ロッキーのテーマ」でも流すかも知れないが、エイドリアーン!と叫ぶにはまだ早い。
ロケットを垂直に打ち上げたとき、落下するのは元の場所にはならない。なぜなら地球が自転しているからだ。地表にいる僕らは地球の自転と同じスピードで回転している。つまり、僕らが保持している横回転のエネルギー量は、地表地点の円周を地球と同じ速度で回転できる量に等しい。高度を上げればその分円周は長くなり、完全な垂直を維持するには長くなった分の速度を足してやる必要がある。完全な垂直の維持とはつまり静止軌道だが、そのための加速度を考えてみるといい。それ抜きで完璧な垂直離着陸を計画しているなら、まずは南極点を目指そう。
フィギュアスケーターがスピンをするとき、同じ回転エネルギーでも手足を広げれば減速し、軸に合わせて閉じれば加速する。高度を上げれば上げるほど、ロケットは発射地点から西方向へ「置いて行かれる」というわけだ。よって、垂直方向の推力を最大に使いつつ、細長い放物線を描いて地表に戻ってくる。ロケット発射は最初から最後までこの追加ファクターに付き合わなければならない。

とはいえ、実は今回の打ち上げは初期ピッチ角、つまり打ち上げ時の角度は僅かに東方面へ向けてあり、東方面に向いた放物線を描いた。なぜなら、地球に与えられた東向きの慣性にプラスする形でロケットを加速するのが効率的だからだ。これを相殺する西に向かって打ち上げた場合、東方向と比べて効率は半分に落ちるとも言う。故に、あらゆる発射台は西に向けないのが絶対条件である。

さて、肝心の結果を見てみよう。スクリーン右の情報ウインドウの中で必要な項目は一つ、「遠点」だ。他の星のことは脇に置いて、地球上においては地表からの海抜距離を表わす。数値は17.93km。目標はなんとか達成だ。僕は「じゅーる」だの「でるたぶい」だのを計算できるような数学の才はないから、ひとまずこの数値は大事に記録する。

契約は成層圏飛行、高度50kmを目標とする。VABに行くとご丁寧にもタンクを二つ使えと言ってきた。すぐさま2号機を打ち上げると高度は65.41kmを記録。燃焼剤は単純に2倍の量だが、高度を上げれば上げるほど重力と空気抵抗の影響は少なくなり、より効率よく推進力を得られる。だから到達高度は単純な2倍にはなっていない。つまり、可能な限り高度を上げるまでは、可能な限り曲がらず無駄な燃焼剤を消費するな、ということだ。

垂直飛行という打ち上げボタンを押すだけの簡単な仕事に飽きたところで、今度の契約はいよいよ「弾道飛行」の出番だ。角度を付けてより遠くに飛ばした方が勝ち、実に単純明快。
ふと画面左側を見ると、最初はケプラー宇宙センター1つだけだった発射基地の候補が、いつの間にか世界各国の基地を使えるようになっていた。地政学的政治学的緊張を超えて、僕はクリック一つで世界中の宇宙開発機構を操れてしまう。これはいよいよ世界を裏から操る秘密結社か、全世界の国家権力を掌握した全権委任だ。
弾道と言えば、「ロケット」と「ミサイル」の違いは、ただ単に目的の違いでしか無い。僕が作った超豪勢なロケット花火でも、例えば「うっかり手が滑って」ホワイトハウスを狙えば立派な弾道ミサイルだ。ここまで来てしまった以上、XOFあたりがケプラー宇宙センターに乗り込んでこないよう品行方正にやるしかない。

飛行の第三段階である高度100kmは、例の世話焼きが提案した2段ロケットで容易く達成した。到達高度は約130km。今度はこの設計を使って弾道飛行に挑んでみよう。
弾道は真空状態の単なる放物線と違い、空気抵抗などの様々な要素を加味して計算される。ロケットまたはミサイルの場合、大気圏への再突入で大きく減衰するため、理想の綺麗な放物線とは行かない。ホールインワンを狙うなら重要だが、今回はラグビーのゴールポストを越えさえすれば契約達成なので無視していい。肝心なのは垂直ではなく横方向へ飛ばす効率だ。

この契約からは「ターン終了速度」を自分で設定しなければならない。つまり、ロケットの軌道を重力の力でどのくらい曲げるか、自分で考えて決めろ、と要求している訳だ。放物線を描くに当たって最も効率が良い射出角度は45度と相場が決まっている。ならば垂直高度の約半分でターンさせれば数学的に見栄えする軌道を描けるはずだ。垂直で達成した高度は130kmだから、ターン終了高度を75kmに設定する。

打ち上げ結果は見事目標達成。綺麗な円弧とは行かなかったが、放物線の軌道としては無理がない。控えめに言っても上々だ。

恒例の弾道軌道スケールアップミッションをクリアすると、次のステップはいよいよ地球周回軌道だ。ここで良い報せと悪い報せがある。良い報せは、犬を乗せろという条件は付いていないことだ。これまで通り全て遠隔で信号を送ればいい。
悪い報せは、意地悪にも軌道の遠点近点が数値で明確に指定されていること。これははっきりいって大問題だ。なぜなら、僕からはマニューバのセッティングに関する知識はすっかり抜け落ちているからだ。説明書を読めば素人でもロケットランチャーを扱えるが、肝心の説明書がないとこれはもうお手上げ。脳裏に緑のなにかと過ごした日々がちらつくが、ハッキリとは思い出せない。僕は『KSD』を一旦閉じ、マニューバ制御をいちから検索するネットの広大な海へと旅立った…。
早期アクセスのリリース直後ということで、まずはたたき台がうまくまとまっていることは確認できたものの、現時点でこのシミュレーターを扱える人は限られています。軌道遷移のチュートリアルがないので、事前知識が無いまま本作を買うのは今のところ勧められません。基礎的な理屈を学びたいなら開発完了した本家『KSP』のチュートリアルを経験した方が早いでしょう。
とはいえ、最初から無人飛行とマニューバ計画のシンプルな運用からスタートするため、重力ターンなどプランニングの面白さはこちらの方が一つリードできるかも知れません。取り急ぎ軌道遷移のチュートリアルを備えて貰えれば、ひとまず月旅行までは十分楽しめると思います。架空ではない現実の宇宙開発とリンクする発射場や着陸地点の配置は、それだけで遠大なロマンを演出してくれます。新しい時代の幕開けを迎える宇宙開発と共に、是非とも「ムーンショット」を成功させて欲しいところです。











