ゾンビゲームは数あれど、「遅いゾンビ」の恐怖に真正面から向き合った作品は、近年むしろ少なくなっているのかもしれません。スピードや派手さが重視される中で、新作ゾンビFPS『Undead Chronicles』はあえてその逆を行きます。
本作を手がけるのは、ゾンビという存在に強く魅せられた開発者、セイフェッティン・ディンクトゥルク氏です。彼は“本物のゾンビ”を取り戻すべく、走らず、圧迫し、逃げ場のない恐怖を設計しようとしています。プレイヤーはゆっくりと、しかし確実に迫り来る死と対峙することになるのです。

本記事では、本作に込められた思想と設計について、開発者本人に話を聞きました。
“遅いゾンビ”が生む恐怖
――まずは自己紹介と、『Undead Chronicles』におけるご自身の役割、そして開発体制について教えてください。
セイフェッティン・ディンクトゥルク:私はセイフェッティン・ディンクトゥルクです。業界では9年以上働いており、主に開発QA(品質管理)としてPlayStationやエレクトロニック・アーツ、2Kといった企業に関わってきました。現在はアムステルダムを拠点にしており、自宅のアパートで自分の小さなスタジオを立ち上げています。私はビデオゲーム、とりわけゾンビというテーマに強いこだわりを持っています。
本作における役割ですが、これは会社でも投資プロジェクトでもなく、私自身がこのプロジェクトの設計者です。この作品を作るために自らスキルを磨き、現在はロア(設定)も執筆しています。フリーランスのプログラマー1名と、テクニカルアーティスト兼レベルデザイナー1名を中心に、ほかにも複数のフリーランサーと協力しています。すべて自己資金で賄っており、企業は関与していませんが、完全なソロ開発というわけでもありません。
――本作を制作するに至った経緯やきっかけについて教えてください。
セイフェッティン:私はトルコの海沿いの町で育ち、父のインターネットカフェで働きながら、あらゆるゲームを遊び、改造してきました。特に『バイオハザード4』には強く影響を受けていて、PC版をテンキーだけでクリアしたほどです。いつか自分なりの解釈であのような作品を作りたいと考えていました。
ゾンビゲーム自体は好きなのですが、常に引っかかる部分がありました。「もっとゾンビそのものにフォーカスした作品はできないか」「『バイオ2』の警察署のように、ゆっくりと圧迫してくる構造にできないか」と。それが本作の始まりです。必ずしも長時間の大作ではなく、よりホラーに特化した体験を目指したいと思いました。そしてその恐怖を成立させるために、一人称視点が必要だと考えました。

決定的だったのは、イスタンブールの旧オスマン銀行(現在のSalt Galata)を訪れたときです。その建築や空気感に、『バイオ2』の警察署と同じようなものを感じ、その瞬間に方向性が固まりました。ただし現代ではなく、より古い時代にしたかったため、「1923年のイスタンブール占領期」という設定にしました。これにより軍の存在や武器、物語に歴史的な説得力を持たせることができました。

――本作を初めて知る読者に向けて、『Undead Chronicles』はどのようなゲームなのかご紹介いただけますか?また、どのような体験を目指していますか?
セイフェッティン:『Undead Chronicles』は、ジョージ・A・ロメロ的な“遅いゾンビ”と、ADS(照準)を重視したリアル寄りのFPSガンプレイを組み合わせた作品です。倒しにくいが、倒したときにしっかりとした手応えがあるゾンビを求めるプレイヤーに向けています。
オープンワールドや過剰な変異要素、常に冗談を言う主人公、ウェイポイントによる誘導といった、大作でよく見られる仕組みはあえて排除しています。その代わりに、世界そのものがプレイヤーを導く設計にしています。
構造としては『バイオハザード RE:2』と『The Last of Us Part I』の中間のようなリニア性を意識しつつ、よりシンプルにしています。体験としては、「これは現実なのか悪夢なのか分からない」と感じるような、不安定で不気味な雰囲気を目指しています。
ユーモアを排し、語りすぎない
――本作はユーモアに寄らないシリアスな世界観が印象的ですが、この方向性を選んだ理由を教えてください。
セイフェッティン:これは業界の構造とも関係しています。大作は価格に見合うボリュームが求められるため、長時間プレイに耐えられるよう、ユーモアが取り入れられることが多いです。30時間ずっとシリアスだと、プレイヤーにとって重すぎる体験になってしまうからです。

しかし私は、そうした方向には違和感を持っていました。本作では過度に説明的なセリフや、演劇的なやり取りは避けています。私はマムブルコア映画(※)の影響を受けており、主人公の発言がはっきり聞き取れないことすらありますが、それも意図的な表現です。
これはリスクのある選択であり、多くのプレイヤーはCo-opや軽口のあるキャラクターを好むことも理解しています。しかしこれは自分のビジョンであり、それを実現することを優先しています。
※マムブルコア映画:低予算のインディー映画に多く見られるスタイルで、自然で即興的な会話や、あえて説明を省いた曖昧な表現を特徴とする。セリフが聞き取りづらいなど、“現実に近い空気感”を重視する点が特徴。
――世界観やビジュアル面での影響について教えてください。
セイフェッティン:雰囲気面では『Bloodborne』のヤーナムに強い影響を受けています。あの陰鬱さや孤独感です。ビジュアル面では『The Last of Us』が大きな参照になっています。
また、三上真司氏の作品は私にとって非常に大きな存在です。彼の作品とともに育ってきましたし、強く影響を受けています。
――本作のゲームプレイループはどのように設計されていますか?また、プレイヤーが繰り返し遊びたくなる動機付けについて教えてください。
セイフェッティン:基本的なループは、弾薬を集める、ヒューズを探して電気を通すなどの軽いパズルを解く、ゾンビを倒す、そして先に進む、という流れです。レベルデザインは通路型になっているため、ゾンビを避けることはできません。プレイヤーは銀行から脱出しなければならず、その先には港で銀行員を待つ軍の船があります。そこにたどり着くことが目的です。

探索に関しては、プレイヤーの直感に任せる設計にしています。引き出しがあれば開けたくなる、というあの感覚です。開けられない引き出しがあると不安になるんです。だから、ほとんどすべての引き出しや棚を開けられるようにしたいと考えています。銀行であり、軍が占領している都市でもあるため、弾薬は存在しますが、ゾンビは非常にタフなので、リソース不足は常にプレッシャーになります。
プレイヤーを前に進ませるのは、「急がなければならない、脱出しなければならない」という感覚です。この感覚がゲーム全体を引っ張っていくと考えています。ただし、このゲームがすべての人に合うわけではないことも理解しています。
リロードはもっとも神経を使う瞬間のひとつ
――『Undead Chronicles』の銃の挙動は印象的ですが、銃器設計における思想について教えてください。リアリズムとゲームとしての手触りのバランスはどのように取っていますか?また、リロード動作はどのように設計していますか?
セイフェッティン:正直に言うと、銃のフィーリングについてはまだ改善の余地が多くあります。現在もテストと調整を続けており、まだ理想の状態には到達していません。この部分を強化するため、短期間で専任の人材をチームに加えることも検討していますし、新しい武器の追加も進めています。目標としているのは『コール オブ デューティ ワールドウォーII』に近い感触です。ただ、私たちのチーム規模では簡単ではありませんが、目指す方向はそこです。

リロードは非常に緊張感のある要素になります。本作では弾薬数を表示するHUDが存在しないため、自分が何発残っているのか正確には分かりません。暗闇の中でリロードすることもありますし、ゾンビに一度噛まれると即死する設計と組み合わさることで、リロードはゲーム内でもっとも神経を使う瞬間のひとつになります。
――開発において直面した最大の課題と、最もやりがいを感じた部分について教えてください。
セイフェッティン:最大の課題は、自分のビジョンを曲げないことです。自分の考えに共感しない人たちからのフィードバックは常にありますし、それに引っ張られて方向性を変えたくなる誘惑もあります。現在のゲーム業界はデータやA/Bテストが中心で、それ自体は理解できますが、リスクのある作品は作られにくくなっています。
しかし、これは自分の人生で一度きりのチャンスかもしれない。この作品を平均的なCo-opゾンビシューターにすればもっと売れるかもしれませんが、それでは意味がない。毎日その葛藤と向き合っています。

一方で最もやりがいを感じたのは、5万件のウィッシュリストです。遅いゾンビや、ウォーキングシミュレーターとゾンビシューターの中間のような作品を求めている人が実際にいると分かったことは、本当に大きな意味を持っています。ときにはプロジェクトの中を歩き回りながら、これが子どもの頃からの夢だったのだと実感して、感情的になることもあります。
気になる日本語対応予定は
――日本からの反応についてどのように感じていますか?また、日本語対応の予定はありますか?
セイフェッティン:日本はウィッシュリスト数で第2位の国であり、日本のプレイヤーからのコメントを見るたびにとても嬉しく感じています。私がゲームを好きになったきっかけは日本のゲームであり、『バイオハザード4』は合計14回クリアしています。自分のビジョンの多くは日本のゲームデザインと深く結びついており、そのつながりがプレイヤーにも伝わっているのだと感じています。
日本語ローカライズについては、日本人の友人と、その兄弟で翻訳をしている方と話を進めています。まだ検討段階ですが、日本語対応が実現する可能性は高いと思います。
――今後の開発計画と、コミュニティのフィードバックの取り入れ方について教えてください。
セイフェッティン:私はこのプロジェクトに毎日、週末も含めて取り組んでいます。まずはハロウィンに向けて、コンパクトで最適化されていて、不気味で恐ろしく、それでいて手応えのあるデモを完成させることが目標です。同時に、フルリリース版の開発も並行して進めています。
QAのバックグラウンドがあるため、最後にまとめて修正するのではなく、最初からバグを抑え込む形で開発を進めています。
現在はDiscordサーバーも運営しており、デモ公開前にベータテストを行う可能性もあります。データ主導の開発は好まないと話しましたが、それでもコアなファンの声はしっかり聞いており、期待と現実のバランスを取りながら開発を進めています。
――最後に、『Undead Chronicles』に興味を持っている読者へメッセージをお願いします。
セイフェッティン:本物のゾンビを取り戻します。Steamでのウィッシュリスト登録で、ぜひ応援してください。

『Undead Chronicles』は、PC(Steam)向けに配信予定です。











