
2026年7月22日から24日までパシフィコ横浜ノースで開催された、ゲーム開発者向けの国内最大級のカンファレンス「CEDEC2026」。そのセッションのひとつとして実施されたのは、「連続攻撃アクションと多人数格闘アクションのアニメーションデザインレシピ ~中国武術実演をそえて~」と題した講演でした。
「どのような考え方でアクションを組み立てたら良いアクションシーンになるのか?」を論点に、実際の動きをもとに展開した本セッションでは、初期の『鉄拳』や『ソウルキャリバー』シリーズでゲームデザインやモーションデザインなどを兼任した石黒正隆氏と、実際に指導者として「燕武館」館長を務める佐藤太一氏が登壇。
リアルの視点で解説しつつ、ケレン味のあるアクションシーンを解説していきました。

◆運動を理解するための基本ポイント
格闘アクションにおけるアニメーションデザインコンセプトは、まず土台に物理法則・解剖学・運動学に根ざした「リアルの動き」があり、そこへキャラクターらしさを表現する「演技」が上乗せされ、最後に誇張や演出を加えた「ケレン味」を乗せるような考え方があるのではないかと石黒氏は語ります。つまりいきなり超人的なアクションを展開するよりは、リアルに肉付けをする形なら説得力が増すという考え方です。
そのうえでリアル寄りにするのか、ケレン味を重視して荒唐無稽アクションに寄るのかは各作品のコンセプトによるところ。いずれにしても「リアル」をベースにすることに変わりはありません。本セッションではその「リアル」の部分に注目し、実際のアクションをもとに要素を分析しました。


まず踏まえておきたいのは、運動を理解するための基本的な考え方です。最初は「動作にはつながりがある」ことから開設されていきました。
予備動作と呼ばれる準備局面、おもなアクションとなる主要局面、動きの終着点である終末局面があり、その3点がスムーズにつながることを「局面融合」と呼び、この流れを踏まえることで自然な運動の流れが表現できます。例えば、投球モーションの最後で唐突に回転したりすると「その運動エネルギーはどこから湧いて出た?」と感じられてしまうため、違和感のない流れを作ることが大切です。

第2に語られたのは「運動連鎖」です。これは動きに対して、筋肉や関節がどのように動作するかといった考え方です。力の伝わり方も同時に理解する必要があり、例えばボールひとつ投げるにしても、地面を蹴る床反力からはじまり、そこから生まれたエネルギーを筋肉・骨・関節の動作などを伝って最終的にボールに乗せ、放たれるという結果まで考えます。

これをエンタメ表現に置き換えると、あえて運動連鎖を崩すことでキャラクター性が表現できるようになります。
例えばパンチを繰り出す動作。運動エネルギーを最後にパンチに乗せると、武術家相手なら手の内がバレてしまいます。そこで先にパンチを繰り出して、後から身体がついて来るようにすると達人感が表現できます。またオラオラ喧嘩風にするなら、パンチを繰り出すタイミングをギリギリまで遅らせることで表現できたりします。このように「リアル」を土台にすることで表現の幅も自由度も上がるというわけです。

◆ケレン味に説得力を持たせるポイントは「エネルギーの逃げ先」
続いて、中国武術実演における攻撃動作のメカニズム解説です。キーワードは3点。「質量の射出と反作用」「不安定」「筋肉の協調による瞬発的剛性」です。
実演では、例えば連撃を披露。一発目と二発目の相手の攻撃を払うところから始まり、払った際に身体を引いて、浮いたところから体重を乗せて強烈な一発を叩き込みました。運動エネルギーなどを考慮した動きです。その際、よくある表現として、放ったポーズでインパクト演出が加わるアクションシーンがありますが、本来ならその1段階前の動作でエネルギーを叩きこんでいるため、打ち抜いた瞬間にエフェクトが出るのは演出による嘘となります。つまりケレン味を活かした演出のひとつです。
ただし誇張することに囚われすぎると、リアリティーが失われる要因にもなりかねないので注意が必要です。


誇張したいなら、運動エネルギーをどこへ逃がすかをポイントに置くと考えやすくなります。例えば剣を横薙ぎする際は、一閃した後、剣から片手が離れるほど背後へと振り抜けばリアルを保ったままケレン味が表現できます。ケレン味を出す際、膝が前に出がちになりますが、前に出すぎるほどエネルギーが乗っていて、なおかつそのエネルギーがどこへ移動するかを考えれば、説得力が増すというわけです。

また武器攻撃で重さを演出したい場合は、重量を考慮した動作がポイントになります。槍を振り回す際は、重いものを持ち上げる時と同様、まず身体の軸に武器の重心を近づけ踏ん張る足で地面を押しつつ、重心移動しながら振り回すことをイメージします。動作が軽く見えてしまうのは、腕の動きだけで処理しようとした点が原因であることが多いようです。
斬馬刀のような巨大な刀を振り回す際も、やはり重量を考慮します。まずは斬馬刀を自身の軸に引き寄せ、その勢いで持ち上げてから、重力を利用して振り下ろす。もちろん振り下ろした際は身体がついていくので、低い姿勢が終点となります。このように、運動エネルギーを考慮することがポイントとなります。


◆知識を応用して連続アクションを構成する
それでは連続攻撃アクションを構成する際の注目ポイントはいかがでしょうか? 基本的な考え方に加え、ここでは対戦相手の動きを踏まえて動きを組み立てていくことになります。
例えば相手の攻撃を払った後、その動作の運動エネルギーを利用して次の攻撃を繰り出したり、相手の隙を見つけてそこを攻めたりするなど。カンフーアクションでよく見る「この動作って必要?」と思うアクションも、そういった流れから来るものです。
しかしコツは掴めても、実際にアクションを組み立てるのは容易なことではありません。なにか勢いとパッションで対応できることはないのか? という悩みに提案されたのが、簡単な落書きから発想する方法でした。
まず指揮者気分で武器の先端の動きを描き、その形状に沿ったアクションを当てはめ、アクションとアクションをつなぐための重心移動や相手の攻撃を加えていきます。そうすることでアイデアを整理できます。


このようにアクションを理解した後は、格闘アクションの実際の組み立てです。
ポイントは、各アクションを要素分解して考えること。攻撃が行われると、まず回避するのかダメージを受けるのか、それによって次の動作へとつなげていきます。その際、「蹴りだけで構成したい」「このアクションをやりたい」等、テーマがあると構成がしやすくなります。また攻撃方向、狙う部位、使用する技などが重複していないか、絵的にはどうなのかを考慮すると、さらに完成度が上がります。

最後に解説するのは、対多数の格闘アクションの緩急の付け方です。
たとえば自分の攻撃がかわされて裏に回りこまれた時。攻撃者としては隙が生まれてピンチになりますが、攻撃の勢いをそのまま裏拳に切り替えて窮地を脱すれば意外な展開につなげられます。またヒューマンシールドと呼ばれる、相手を後ろ手に取って盾にすることで、囲まれた状況を好転させる場面に繋げられます。


組手だけでなく周囲の状況を利用したり、逆転状況を作り出したりすることで緩急ができ、よりユーザーを惹きつけるアクションへとつなげられるでしょう。



このように、「リアル」をベースにしっかりと土台を作りつつ、誇張表現を加えることで納得のいくアクションシーンが作れるとして、実演を交えたセッション「連続攻撃アクションと多人数格闘アクションのアニメーションデザインレシピ ~中国武術実演をそえて~」は幕を閉じました。












