「ゲームをプレイしていなくても、サウンドトラックだけを聴いていい」。この連載は、そう言い切るところから始まりました。
ゲームの音楽を作るコンポーザーにも、ゲーム開発者と同じように確固たる作家性が存在します。そして、彼ら/彼女らが生み出す特有のサウンドが、ゲームのトーンやシステムそのものを大きく左右することも決して珍しくありません。
お気に入りの開発者やスタジオを追うのと同じように、「コンポーザー」を一つの選択基準に据えてみる。その面白さを、今回もたっぷりとお届けします。
第4回(7月分)は、前回の「知る人ぞ知る個人制作」路線から少しだけ視野を広げ、名うてのコンポーザーたちの仕事に光を当てます。
目玉は何と言っても『電車アタック』。目黒将司、光吉猛修、永松亮、藤田晴美(おかんP)といった日本のゲーム音楽レジェンドから、Tee Lopes、Richard Jacquesら世界の名手までが集結した、20名超・全80曲というとんでもない一枚です。
もちろん、名の知れたコンポーザーがいるからといって、地に足のついたディグの姿勢を忘れるわけではありません。
ミーム発の無料ゲームに詰め込まれた全59曲のサウンドトラックや、100を超えるゲーム作品を手がけてきたデュオが放つ“暑苦しい”ウエスタン・サウンドなど、規模を問わず「この音でなければならなかった」作品が今月も揃いました。
誰もが知るヒット作から、多くの人が取りこぼしてしまった作品まで、「ゲーム音楽」という評価軸で紹介していきます。Steamではなく、Bandcampからゲームを探す面白さを是非ご堪能下さい。
(※もし、さらに深くゲーム音楽のディグに勤しみたいという方がいらっしゃいましたら、筆者の著書『海外ゲーム音楽ガイドブック ビデオゲームからたどる古今東西の音楽』もぜひお手に取っていただけると幸いです。)
『Uncanny Cat Golf』(7月12日)
インターネット・ミーム「Uncanny Cat」(“猫ミーム”よりもちょっと前に流行った猫ミーム)の画像群を下敷きにした、itch.io発のミニゴルフゲーム『Uncanny Cat Golf』。開発はニュージャージー州出身のSlappyHappy2000ことSH2Kと、その仲間たち「Canny Crew」です。
プレイヤーは「Canny Cat」という猫の画像をゴルフボールのように操作し、ゴルフの作法通りに規定打数を守りながらゴールを目指してコースを駆け抜けていきます。厄介なのは、壁をすり抜けてどこまでも追いかけてくる不死身のドッペルゲンガー「Uncanny」の存在(とても怖い)。
Uncannyに捕まればジャンプスケアとともにやり直しという、ミニゴルフとホラー鬼ごっこが同居した奇妙な一作で、ローファイながら独特なアートワークが光ります。

サウンドトラックは、開発者SH2K本人が主導し、fogwaves、Penny Rigate、greenhead352といった面々がゲスト参加。全59曲・約2時間という、無料のミーム発ゲームとは思えない大ボリュームで構成されています。
おバカなゲーム性からは想像もつかないほど作り込まれた楽曲群は、メガドラを彷彿とさせる疾走感あふれるチップチューン、Wiiを彷彿とさせる任天堂風おしゃれサウンド、ジャズにスウィング、ハウス、ブレイクビーツなど振れ幅が広く、この作品を「奇妙だが妙に癖になる」体験へと引き上げています。
特に、作中でもきっての難度を誇るジェットコースターのステージに使われている「Forever Fun Times」は絶品。軽快なピアノと、猫好きDTMer界隈ではあまりにも定番なフリーシンセ「Meow Synth」が(恐らく)使われている甘いメロディーが至高の一曲です。途中に挟まるアーメンブレイクのパートも切れ味抜群で、まさにジェットコースターのごとく展開する、遊び心に溢れた楽曲となっています。
『電車アタック』(7月15日)
これほど胸が高鳴るラインナップがあっていいのでしょうか?最初から最後まで聴き通せば、あなたも立派なハードコア・ゲーム音楽マニアです。2026年のインディーゲームにおいて、間違いなく音楽面での主役を張るのがこの『電車アタック』。
「もしトニー・ホーク(スケートボーダー)が電車でトリックを決めたら?」という一言に集約される、電車をジャンプ・発進・フリップさせるトリックアクション。気候大災害後、富裕層が空気清浄ドームで暮らし、地下ではギャングが廃電車で抗争を繰り広げるディストピア日本を舞台に、プレイヤーはレールを飛び移りながら軽快なコンボを繋いでいきます。開発はバルセロナのUndercoders、ディレクターはDavid Jaumandreu(『NINJA GAIDEN: Ragebound』)が務めます。

そして本作最大の見どころが、20名を超えるコンポーザー/アーティストが集結した全80曲超のサウンドトラック。
ビデオゲーム音楽専門レーベルKid Katana Recordsからリリースされたこの一枚は、メインコンポーザーを『ソニックマニア』『TMNT: Shredder's Revenge』のTee Lopesが務め、コアコンポーザーとしてSean Bialo(『Donut Dodo(ドーナツ・ドド)』)、Andrew One(ミックス/マスタリングも兼任)が全体を支える布陣となっています。
そして、ゲスト陣がとにかく壮観。『ペルソナ』シリーズの目黒将司、『ジェットセットラジオ』のRichard Jacques、『スプラトゥーン』『マリオカート』の永松亮、『デイトナUSA』の光吉猛修、『ロックマン3』などの藤田晴美(おかんP)、『ペルソナ』のラップでおなじみLotus Juice(アニキ)、『Bomb Rush Cyberfunk』の2 Mello、そして『風のクロノア』『リッジレーサー』高橋コウタ。
さらには世界的に知られるプエルトリコのVTuber・Ironmouseや、日本のラッパー・MIYACHIまで名を連ねます。ファミコン期から現役で活躍する日本のレジェンドたち、現代のインディー/ネットカルチャーのアイコンまでを横断する、まさに世代もジャンルも越えたクロスオーバーです。

音楽性も、疾走感あるブレイクビーツ、Y2Kヒップホップ、パンク、ファンクグルーヴ、さらには日本語ボーカルを乗せた楽曲まで縦横無尽。
特筆すべきは、各地方のギャングにそれぞれ固有の音楽的キャラクターが割り当てられている点。たとえばギャル系キャラ「Yoshie」にはギャルポップなバトルテーマが与えられるなど、サウンドがそのままゲームのアイデンティティを担っています。
曲名を眺めるだけでも「Beppu Ramen Express」「Mikan Kingdom ~みかん王国~」「Gozan No Okuribi ~五山送り火~」と、日本各地の風物をモチーフにした遊び心が満載。舞台はディストピア日本。ときに“偽物めいた”日本要素をふんだんに盛り込んだサウンドは、ユーモアにもあふれています。
ゲームをプレイせずとも、この一枚は「VGM愛」の結晶として完結していると言えるでしょう。
『Atomcraft』(7月22日)
環境のあらゆるピクセルを拾い上げ、配置できる、『テラリア』を彷彿とさせるルックのサンドボックスアドベンチャー『Atomcraft』。ピクセルは周囲の環境に反応し、それを利用して機械や装置を組み上げ、化学反応を引き起こしていきます。

ドリルや道具を強化して惑星の奥深くへ掘り進み、鉱石を精錬し、周期表の全118元素を探索・抽出していくという、化学のロマンを凝縮したような一作です(ニトログリセリンのような高度な物質は、爆発させずに作るための反応装置を慎重に設計せねばならないという細かさが最高)。
サウンドトラックを手がけるのはKnaddersound。ハンブルクを拠点とする2人の作曲家兼サウンドデザイナー、Felix BarbarinoとMathilde Hoffmannによるユニットで、代表作は『Unrailed!』シリーズ。それぞれが演奏する楽器と個性を持ち寄り、風変わりで愛嬌のあるサウンドを生み出しています。

先に触れたように、『テラリア』ライクな本作は音楽も同様に『テラリア』ライクなチップチューンと生楽器を組み合わせた音楽が使用されています。特に2曲目の「Snappy Dust」は、そのテイストを強く感じる爽やかな一曲。
地下世界を掘り進む本作の探索感に寄り添う、爽やかでありながらクセのある一枚です。
『How Many Dudes?』(7月30日)
「野郎(Dudes)が何人いればゴリラを倒せる? ちびっこ1000人は? ウマサイズのアヒルは? 神様は?」という人を食った惹句を掲げる、ローグライク“野郎”ビルダー『How Many Dudes?』。
プレイヤーは「Dude Ranch(野郎牧場)」というむさ苦しい場所で野郎の軍団を雇い、シナジーを駆使して血みどろでばかばかしい戦いに挑んでいきます。

サウンドトラックを手がけるのは、『Crashlands』『Levelhead』といったButterscotch Shenanigans作品でおなじみのFat Bard。エモ/パワーポップバンドLobby Boxerのメンバーであるザック・フェンデルマンと、パトリック・クレセリウスによるデュオです。メジャー・インディーを問わず頻繁に名前を見かける彼らがこれまでに手がけたタイトルは、100を超えるという異常な仕事量。Fat Bardの名前は知らずとも、Fat Bardの音楽は聴いたことがあるゲーマーは多いかもしれません。
ハードコアやメタルといった激しいバンドサウンドを主軸に据えることの多い二人ですが、『How Many Dudes?』ではまさにその暑苦しいパワーがいかんなく発揮されています。

「Yee-haw」「Hell yeah, brothers」といった掛け声のサンプルを織り込み、小気味よいハーモニカ、ブルージーなギター、駆け回るようなバンジョー、そして奇天烈なシンセアレンジ。パワーポップバンド出身なだけあって、ときおりのぞかせる爽やかでオシャレなメロディも小気味よく響きます。
ハイテンポなウエスタン調のサウンドと、歪んだミドルテンポのミクスチャーメタルとが交互に押し寄せ、ゲームのばかばかしいエネルギーをそのまま音に変換したような一枚に仕上がっています。
『Hyperstacks』(7月30日)
「VR版マリオメーカー」とも評される、8年もの歳月をかけて開発されたVRアクションプラットフォーマー『Hyperstacks』。
コンバット、パルクール、ロジックパズルという3本柱で構成された手作りのキャンペーンに加え、開発者自身が使ったのと同じレベルエディタが搭載されており、プレイヤーが自作レベルを作って共有できます。
7月30日にSteam VRで正式リリースされ、同時にMeta版もアーリーアクセスを終えて1.0となりました。開発は、創業者Extrys Casasola Díaz率いるSquirrel Bytes。

製品版のサウンドトラックを手がけるのはParsolar。アーリーアクセス初期の2020年には、Predator名義で『Hyperstacks Original Soundtrack』が発表されているので、そちらも合わせてぜひ。
すべてのレベルが音楽と同期して色鮮やかにダイナミックに動くという本作の設計において、音楽はまさに体験の背骨をなす要素。
テクノ、ハウス、ジャングル、ドラムンベースといった定番のクラブサウンドを主軸にしたエレクトロは、どれも軽やかな聴き心地。ファンキーなベースを軸に、ニワトリの声をサンプリングした楽曲「Chicken Dance」のノリの良さも実にナイス。

どれも情報量を詰め込みすぎず、しかし多彩な音を鳴らす——そんな技ありなParsolarのセンスが垣間見える一枚になっています。













