前回、あえてこう言い切りました。「ゲームをプレイしていなくても、サウンドトラックだけを聴いていい」のだと。
繰り返しになりますが、ゲームの音楽を作るコンポーザーにも、当たり前のように確固たる作家性が存在します。そして、彼ら/彼女らが生み出す特有のサウンドが、ゲームのトーンやシステムそのものを大きく左右することも決して珍しくありません。
お気に入りの開発者やスタジオを追うのと同じように、「コンポーザー」を一つの選択基準に据えてみる――その面白さを、今回もたっぷりとお届けします。
第2回で並んだのは、ゲームボーイやコモドール64といった実機の音色に惚れ込んだ作品から、レコード店という“音楽カルチャーそのもの”を主題に据えたゲームなどなど。ジャンルもアプローチもバラバラですが、いずれも「この音でなければならなかった」という必然を抱えた作品ばかりです。
今回も、誰もが知るヒット作から多くの人が取りこぼしてしまった作品まで、「ゲーム音楽」という評価軸で紹介していきます。Steamではなく、Bandcampからゲームを探す面白さを是非ご堪能下さい。
(※もし、さらに深くゲーム音楽のディグに勤しみたいという方がいらっしゃいましたら、筆者の著書『海外ゲーム音楽ガイドブック ビデオゲームからたどる古今東西の音楽』もぜひお手に取っていただけると幸いです。)
『Burger Ninja』(5月4日発売)
ハンバーガーみたいな忍者が世界を救う、iOS/Android対応のタッチ操作アクションプラットフォーマー『Burger Ninja』。

本作を手がけたのはインディーゲームスタジオ・Gabboco Games。アニメーション・プロデューサー兼ディレクターで、スティーヴン・スピルバーグ製作の「アニマニアックス」(リブート版)のショーランナーを務めたことでも知られるゲイブ・スワー(Gabe Swarr)が立ち上げたスタジオです。
サウンドトラックを担当するのはアメリカのチップチューンバンド・8 Bit Weapon。Seth SternbergerとMichelle Sternberger(別名ComputeHer)の夫婦デュオで、1998年からコモドール64やゲームボーイ、NESといった実機のハードウェアで“ブロック・ロッキン・ビート”を鳴らし続けてきました。かつて存在していた世界最大級のゲームイベント・E3でのライブパフォーマンスでもお馴染みです。
意外なことに、8 Bit Weaponがゲーム本編のサウンドトラックを手がける機会はそう多くありません。今回の起用は、二人がゲイブ・スワーと旧知の友人であり、前作『Bub-O Burst』でもサウンドを担当した縁によるものだそうです。
モーグ・シンセサイザーやコモドール64を駆使した、骨太でクラシックな8bitサウンド。こだわり抜かれたその説得力を、ぜひ確かめてください。
『MOTORSLICE』(5月5日発売)
『ミラーズエッジ』『プリンス・オブ・ペルシャ』『ワンダと巨像』などから影響を受けたパルクール3Dアクション『MOTORSLICE』。

ブラジルに拠点を置くインディースタジオ・Regular Studioが開発した本作は、崩壊したブルータリズム建築の巨大遺構を、壁走りと滑走で駆け抜け、暴走する重機を青髪の少女がチェンソーで両断していくゲームプレイが核となっています。
サウンドトラックを手がけるのはPizza Hotline。ドリームキャスト、セガサターン、プレイステーションといった往年のハードを想起させるY2Kサウンドを身上とするアーティストで、ジャングル/ドラムンベースを基調とした作風は本作の爽快感とまさに好相性。
コンパクトにまとめられたブレイクビーツの上に、浮遊感のあるシンセがミニマルに積み重なっていく感覚がスタイリッシュ。激しいアクションシーンと穏やかな探索パートを行き来する本作のリズムを、緩急をつけて巧みに下支えしています。
好きなゲームやキャラクターの要素をここぞとばかりにてんこ盛りにした、マキシマムなインディーゲームである本作。そのプレイ感覚をノスタルジーや愛好ゲームに留まらず接続してみせた、Pizza Hotlineの新たな代表作といえる一枚です。
『Wax Heads』(5月5日発売)
レコード店「Repeater Records」を経営する、コージー・パンク(=パンクらしい反逆精神/DIY精神と、日常の安らぎや居心地の良さを合体させたサブジャンル)なゲーム『Wax Heads』。

店名は共同制作者であるMurray Somerwolffが敬愛する、ストレート・エッジの代表格として知られるハードコアパンクバンド・フガジ(Fugazi)の1990年のアルバム「Repeater」に由来します。90年代を封じ込めたような店内の雰囲気そのままに、コミュニティと音楽への愛が全体を貫く一作となっています。
サウンドトラックは全29曲中25曲を、ノッティンガムを拠点とするコンポーザー・Gina Loughlinが担当(残り4曲はゲストによる楽曲)。『Mail Time』『Mythmatch』といったインディー作品で知られる作家で、本作では作曲・プロデュース・録音・ミックスまでを一貫して手がけています。
特筆すべきは、楽曲の多くが家族や友人、開発チーム本人たちの歌声で吹き込まれているという点。Gina Loughlin自身もギターやベース、ボーカルで参加しており、その手作り感がそのまま温度になっており、まさにDIYの精神がここにあり。
ガレージロック、ハードコア・パンク、グランジといったバンドサウンドはもちろん、ドラムンベース、インダストリアル、ニューウェーブといった90年代的な電子音楽まで網羅。さらにはネオ渋谷系風のポップスやアイリッシュ音楽まで、なんでもござれ。
あらゆるジャンルに真っすぐ向き合って作られた楽曲たちは、新しさと懐かしさを絶妙にマッチさせ、さまざまなカルチャーに影響を受けたインディーゲーム作家が体現する「レコード店」を表すサウンドトラックに仕上がっています。
『Burden Street Station』(5月21日発売)
『Burden Street Station』の開発を手がけるIODINEは、アイルランド出身のミュージシャン兼ゲーム制作者。「もともと音楽家で、自分の音楽を運ぶ器としてゲーム制作を始めた」と自ら語る通り、アートワークからプログラミング、そして楽曲までを一手に引き受けるタイプの作家です。

本作は「失踪した神」を巡るシュールなナラティブアドベンチャー。ノベルゲームのような会話主体のストーリーテリング形式をとりつつ、ヴェイパーウェーブと都会の路上的な要素を組み合わせたような3DCG空間が印象的。90年代のアドベンチャー古典を下敷きにした、夢のように奇妙で現実に根ざした世界観が唯一無二の質感を生み出しています。
サウンドトラックは、その世界観を映すローファイで気だるい「ラウンジ」調のサウンドが基調。ゆったりとしたもの悲し気なシンセドローン、ピアノのアルペジオ、歪んだギターのサウンドを中心に、ジャズのエッセンスと、どこか不穏で怪しげなムードが全篇に漂い、ゲームのテーマに寄り添う。
公式が10時間ループ版をYouTubeで公開しているあたりにも、楽曲そのもので長く浸れる自信がうかがえるでしょう。単体で愛聴に堪える、とにかく作者の全てを受け入れたい人にはうってつけの塊のような一作です。
『Mina the Hollower』(5月29日発売)
メジャー/インディーを問わず、現代のゲーム音楽を代表するアーティストのひとりと言っても過言ではないジェイク・カウフマン(Jake Kaufman)がコンポーザーを担当。第一回の『Dosa Divas』の項でも引き合いに出した名匠で、ゲーム音楽を語るうえで絶対に欠かせない重要人物です。

『Mina the Hollower』の開発は『ショベルナイト』のYacht Club Games、つまりカウフマンの代表作と同じ座組。本作はゼルダ風の見下ろし型アクションアドベンチャーで、発売直後から大絶賛を浴びた今年のGOTY筆頭格。そのサウンドの肝は、音源そのものにあります。
カウフマン曰く、楽曲はゲームボーイの内蔵音源チップに、MSX用拡張音源であるコナミの「SCC+」を組み合わせて制作されているという。古典的なチップチューンの枠の中で、あえて独特の音色を引き出す職人芸が光ります。
さらに、カウフマンが幼少期からの憧れだという古代祐三氏(『イース』『アクトレイザー』『ベアナックル』など)がゲストとして2曲を提供している点も聴きどころ。
『Mina the Hollower』のアートスタイルからも分かるように、本作からはゲームボーイのサウンドへの並々ならぬ愛情が感じられる、チップチューン好きは絶対に見逃せない一作です。
なお、本作のサウンドトラックはカウフマンにとって極めて私的な一枚でもあります。「ミュージックホール」に登場する各バンドの楽曲(84~92曲目)は、制作期間中に亡くした近しい家族へそれぞれ捧げられているそうです。









