『moon』「三体」「トップをねらえ!」、そしてECD――ヒーロー、社会問題、サブカルが入り乱れるADV『くつひも物語』開発者KITTYPOOL氏が語る、思想を“ポップ”に包むゲーム作り【インタビュー】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

ハードコアゲーマーのためのWebメディア

『moon』「三体」「トップをねらえ!」、そしてECD――ヒーロー、社会問題、サブカルが入り乱れるADV『くつひも物語』開発者KITTYPOOL氏が語る、思想を“ポップ”に包むゲーム作り【インタビュー】

ゲームで爆笑だぁ!

ニュース セール・無料配布
『moon』「三体」「トップをねらえ!」、そしてECD――ヒーロー、社会問題、サブカルが入り乱れるADV『くつひも物語』開発者KITTYPOOL氏が語る、思想を“ポップ”に包むゲーム作り【インタビュー】
  • 『moon』「三体」「トップをねらえ!」、そしてECD――ヒーロー、社会問題、サブカルが入り乱れるADV『くつひも物語』開発者KITTYPOOL氏が語る、思想を“ポップ”に包むゲーム作り【インタビュー】
  • 『moon』「三体」「トップをねらえ!」、そしてECD――ヒーロー、社会問題、サブカルが入り乱れるADV『くつひも物語』開発者KITTYPOOL氏が語る、思想を“ポップ”に包むゲーム作り【インタビュー】
  • 『moon』「三体」「トップをねらえ!」、そしてECD――ヒーロー、社会問題、サブカルが入り乱れるADV『くつひも物語』開発者KITTYPOOL氏が語る、思想を“ポップ”に包むゲーム作り【インタビュー】
  • 『moon』「三体」「トップをねらえ!」、そしてECD――ヒーロー、社会問題、サブカルが入り乱れるADV『くつひも物語』開発者KITTYPOOL氏が語る、思想を“ポップ”に包むゲーム作り【インタビュー】
  • 『moon』「三体」「トップをねらえ!」、そしてECD――ヒーロー、社会問題、サブカルが入り乱れるADV『くつひも物語』開発者KITTYPOOL氏が語る、思想を“ポップ”に包むゲーム作り【インタビュー】
  • 『moon』「三体」「トップをねらえ!」、そしてECD――ヒーロー、社会問題、サブカルが入り乱れるADV『くつひも物語』開発者KITTYPOOL氏が語る、思想を“ポップ”に包むゲーム作り【インタビュー】
  • 『moon』「三体」「トップをねらえ!」、そしてECD――ヒーロー、社会問題、サブカルが入り乱れるADV『くつひも物語』開発者KITTYPOOL氏が語る、思想を“ポップ”に包むゲーム作り【インタビュー】
  • 『moon』「三体」「トップをねらえ!」、そしてECD――ヒーロー、社会問題、サブカルが入り乱れるADV『くつひも物語』開発者KITTYPOOL氏が語る、思想を“ポップ”に包むゲーム作り【インタビュー】

デベロッパーのKITTYPOOLによってリリースされたビジュアルノベル『くつひも物語』、そして同作のスピンオフ『PAIC: ムーンライダー物語』は、現実に存在する社会問題を活写しつつ、サブカルチャーへの偏執的な愛が詰め込まれた"闇鍋的"なインディーゲームでした。

しかし開発者のKITTYPOOL氏によると、両作は「あくまでもポップなエンタメ作品」だといいます。筆者自身振り返ってみると、両作に最初に感じた魅力は「ひねくれながらも直球の面白さ」でした。

KITTYPOOL氏の考える「面白さ」とは? RPGの名作『moon』、現代中国SFの金字塔「三体」、初期GAINAXを代表する「トップをねらえ!」、そして日本語ラップのクラシックであるECD――。KITTYPOOL氏のこれまでの趣味や遍歴を振り返りつつ、彼の思う「ポップなゲーム作り」について深く訊きました。


――自己紹介をお願いいたします。

KITTYPOOL:KITTYPOOLという名前で2021年からゲーム開発をし始め、現在は個人開発者として、Steamでビジュアルノベルゲームをいくつかリリースしています。

――代表作である、『くつひも物語』の開発のきっかけについて教えていただければと思います。

KITTYPOOL: まず、2021年にゲーム開発自体を始めた当時は、友達と2人で「KITTYPOOL」というチームでした。最初に「どういうゲームを作ろうか?」ということを考えたとき、97年に発売された『moon』というゲームが2人とも好きだったんですね。それで、「じゃあ『moon』っぽいものを作ってみよう」と。そこからどんどん肉付けしていったのがきっかけです。

――なるほど!『くつひも物語』の「マモノを率いている魔王を、勇者として説得する」という、伝統的なRPGをオルタナティブに読み替えたあらすじも、『moon』から影響を受けているのですね。

KITTYPOOL: おっしゃる通りで、「影響を受けた」どころか、むしろ『moon』っぽく作ろうとはっきり意識して作ったのが『くつひも物語』ですね。

箱庭的な「KITTYPOOLユニバース」

――KITTYPOOLさんの作品を俯瞰してみたときに、世界観を共有した仮想戦記という風にも言えるような作品群かなと感じます。仮想戦記というジャンル自体、形作るにもすごく労力がかかるジャンルだとお見受けしています。あえてこうしたジャンルで、さらに個人制作でゲームを作られるというのは、なかなか大変なことかなと思うのですが、どういうきっかけがあるんでしょうか?

KITTYPOOL: 実は、仮想戦記というジャンルはあまり意識したことがないんです。そもそもどういうものが仮想戦記に当たるのかも、いまいち分かっていないんですけど……。

――代表的なもので言えば、「指輪物語」(J・R・R・トールキン著)などがパッと出てくる仮想戦記かなと思います。

KITTYPOOL: 確かに、そう言われてみるとそうですね。昔からいろんな小説に限らず、漫画でもアニメでも、核となる世界観があって、かつロジカルに設定が構築してあるような作品に惹かれていたのかなとは思います。

――ということは、どちらかというと仮想戦記みたいなジャンルよりも「箱庭的な世界観」というか、そういった作品の方を好んでいたのでしょうか?

KITTYPOOL: そうですね、戦争モノが好きで読んでいた記憶はほぼないので、どちらかというと、箱庭的な作品の方にむしろ魅力を感じていますね。

労力の話で言えば、世の中には架空の東京の路線図だったり、あるいは東京ですらない、「架空の日本の路線図」みたいなものを作っている方もいらっしゃいますよね。ただ、なまじディテールが詰め込める分、自分で設定を考え出すと、「じゃあこれはどう辻褄を合わせるんだ」みたいに、制作の手が止まってしまうことも起きます。そこはあるポイントでセーブしている部分も多々ありますね。

まず、僕の作っている作品では、「KITTYPOOLユニバース」という世界観の中で、全部共通して起きている出来事だよ、という言い方をしています。

例えばその中には、明らかにアフリカ系のエスニシティを持ったキャラクターが登場しています。ピクセルアートですから、細かい人種だとかはおそらく判別できないのですが、明らかに肌が黒いことは当然わかりますよね。

じゃあ肌が黒いっていうことは…という風に考えだすと、「公民権運動はあったのか?」とか、「公民権運動があったということは…」という風に、無限に考える事ができてしまう。そこで「ロジカルな言い訳もちゃんと用意しておかなきゃ」と考え出すと、おそらく一生完成しないんです。

設定の一つ一つについては、「もうこのぐらいでいいや」という風に、基本的には労力がかかりすぎないように気をつけていますね。

――なるほど!特に『くつひも物語』では、大量のイベントや登場キャラなど、世界設定とストーリーがしっかりとリンクしていて、そこを楽しんでプレイしていました。それこそ、箱庭的な作品特有の魅力と言えるのかなと感じているのですが、初期構想の段階では、どの程度ストーリーを作り込んでいたのでしょうか?

KITTYPOOL: 物語とキャラクターをひとつずつ考えていったので、「どこまでが初期段階と言えるか?」というと、難しい部分がありますね。

というのも、実は『くつひも物語』の制作にはブランク期間がなかったんです。2021年に構想を始めてから、他の作品も作りつつ、ずっと積み重ねのように作ってきたものですから。

ですから答えに詰まる部分ではあるのですが、基本的な大きな道筋、メインストーリーにあたるプロットは、その時点で完成していました。

例えば初期段階で言うと、「マニエラ」と「パニュリペ」という2人のキャラクターが、同性愛の物語を展開する、というプロットだとか、「ジョスリンベル」というキャラが、テキサス州の中絶禁止法についての話を展開する、というプロットは構想していましたね。もちろん初期構想にあったプロットが大幅に変化したり、ボツになったものもありますが。

――初期構想の段階から、物語のフックになるような部分はしっかり作られていたんですね。一方でレンガ組みのように、プロットやイベントを積み重ねていった部分も大きいのでしょうか?

KITTYPOOL: そうですね、そういう言い方が近いかなと。

アメコミと「三体」からの強い影響

――続いて、世界設定やキャラクターについて、掘り下げてお訊きしたいです。『くつひも物語』をプレイしていて、アメリカSF作家のカート・ヴォネガット(代表作:「スローターハウス5」)だったり、マジック・リアリズムで有名な、ガブリエル・ガルシア=マルケス(代表作:「百年の孤独」)などの小説家を想起しました。具体的には、エスプリの効いた展開や設定などです。そこで、同作のストーリーやキャラクター設定には、どのようなものから影響を受けましたか?

KITTYPOOL: 挙げていただいたものからすると、この2人の作家のことは、実はあまり知らないんです。

影響を受けた、という話だと、映画からの影響が強いかもしれません。本当に昔から色々な映画を見まくっていたので。さらに言えば、映画雑誌やパンフレットなどの、映画批評を読むのも好きでした。それが高じて、ホラー映画の解説動画を上げていた時期もあったりしましたね。そういう意味で、物語がどういう風に作られているか?という構造を、色々な映画から学んでいますね。

他にも影響源になったものがあるはずなんですが…。今ちょっと本棚をさらってみますね(声が遠ざかる)。漫画でも映画でも、スーパーヒーローものが特に好きです。先ほど質問の中にあった、「突飛なストーリー」という括りでも、スーパーヒーローものが思い当たるかなと。

僕が本当に一番好きなヒーローものは、アラン・ムーアの「トップ10」(ヤスダシゲル訳、ヴィレッジブックス)というコミックです。「スーパーヒーロー」というジャンルの中であれば何をやってもいいんだ、という自由さは、「トップ10」を始めとした、突飛な作品たちから影響を受けました。

――それこそ、『くつひも物語』も『PAIC:ムーンライダー物語』も、KITTYPOOLさんの「ヒーロー観」というものが感じられる作品なのかな、と感じました。

KITTYPOOL:そうですね、基本的には「ヒーローもの」に限らず、ジャンルものであればなんでも、「その枠組みを起点として何を描くか?」というところが勝負のしどころかなと考えていて。

例えば、「X-MEN」におけるミュータントでもなんでもいいのですが、「とりあえず描きたい問題提起」は最初にあるものの、その容れ物はあくまでポップに、売れるようにしようと。「書きたい話」を、面白おかしい枠組みに落とし込む、という作法は、「ヒーローもの」の影響が強いかもしれないです。

――ちなみに、本作はSFモノからの影響も強いかと思うのですが、愛読されていた小説はありますか?

KITTYPOOL: どちらかというと、専門書の方が読むことも多いのですが、子供の頃はスティーヴン・キング(代表作:「IT」、「スタンド・バイ・ミー」)が大好きでした。多分、作家単位で言うとスティーヴン・キングを一番読んでいると思います。ただ、『くつひも物語』に一番影響を与えているのは、「三体」(2019年、劉慈欣著、大森望, 光吉さくら, ワン・チャイ訳、早川書房)です。

――へえ!個人的にはとても意外でした。てっきり、もっとクラシックなSF作品からの影響が強いのかと。

KITTYPOOL: 大好きですね。邦訳を読んでから、未だにRedditの「三体」のファンコミュニティを毎日チェックしてるくらい、入れ込んでいます。

――言われてみれば、『くつひも物語』のマモノと、「三体」の三体星人には近しいものが感じられるかもしれません。

KITTYPOOL:自分としては、どこにどう影響を受けているか判別できないぐらい「三体」が大好きなのですが、確かにいろんなところから影響を受けていると思います。

僕の自覚がある中で、一番直接的な影響を受けている部分で言うと、『くつひも物語』でのあるキャラクターは、「三体」の重要キャラである、「葉文潔(イェ・ウンジェ)」という物理学者から影響を受けています。

キャラクターとしては全然違うものになっていますが、「社会からの抑圧や、あらゆるしわ寄せを受けて、絶望と復讐心を持ってしまった個人」という部分は、葉文潔というキャラをとにかく意識して、ストーリーを制作しました。

実家にあった「トップをねらえ!」のレーザーディスク

――『くつひも物語』と『PAIC:ムーンライダー物語』の両作では、大量で無差別なサブカルチャーの引用が埋め込まれているなと感じていました。
しかもそのオマージュが「答え合わせ」的な面白さではなく、他人の頭の中をまじまじと見ているような、オタク的な言葉を使えば「怪文書」を読んでいるような楽しさを与えてくれています。そこでお訊きしたいのですが、最初にオタク的な入り口になったような作品があれば、教えていただきたいです。

KITTYPOOL: そうですね、オタク的…。本当の入り口としては小学校の頃に見ていた「シンプソンズ」なのですが、これはそんなに「オタク的」ではないですよね?

――意外とそうでもない気もします。

KITTYPOOL:そうですかね? 子供の頃に、実家のWOWOWで「シンプソンズ」などのカートゥーンが流れていて、それをずっと見ていた記憶があります。より「オタク的」なものでいうと、「トップをねらえ!」(1988年、GAINAX)のレーザーディスク※が実家にあったのが最初かもしれません。

※DVDの台頭以前にあった、直径30cmほどの光ディスク規格。VHSよりも高画質であることが特徴。

――「トップをねらえ!」の、それもレーザーディスク!まさにといった感じですね。

KITTYPOOL:実を言えば『くつひも物語』自体、『moon』と同じくらい「トップをねらえ2!」(2004年、GAINAX)を参照しています。「トップ2!」の方が作品としては好きなのですが、入り口としては「トップをねらえ!」の方になるかなと。

どうして観たのか、きっかけはもう覚えていないくらいなのですが…。いわゆるサブカル引用の精神を学んだのは、「トップをねらえ!」が源流にあるかもしれません。

元ネタを知らずに見ても「普通の物語」として面白く見られるけど、元ネタを知っている人には、例えばタイトルは「エースをねらえ!」からだよね、といった様々な小ネタが挟まっている。「このネタ知ってるよね」のような、"クネクネ"が楽しいという気分は、「トップをねらえ!」から来ているかもしれないです。

――「トップをねらえ!」と言えば、ロボットアニメからの文脈はもちろん、戦艦や岡本喜一(映画監督)だったり、あるいはSF小説からの引用がとにかく多いですよね。そういった意味でも、SFモノの入り口にもなったのかな、という風に推測していました。

KITTYPOOL: 話していて僕もそうかなと思えてきました。あまり深く考えたことはありませんでしたが、そうかもしれないです。

「一番好きなラッパーはECD」

――また『くつひも物語』では、例えばBUDDHA BRANDの「緑の五本指」など、音楽面においても様々な引用がされています。音楽に関してはどういうものを入り口に聴かれていましたか?

KITTYPOOL: 音楽に関しては、小学生の頃からよく聴いていましたね。すごく覚えているのは、「色んなジャンルを聴く俺かっこいい!」みたいな意識が強くあったこと。なので「ある特定のアーティストが好き」というよりは、色々なジャンルの中古CDをハードオフで探しては買って…ということをずっとしていました。

先ほどBUDDHA BRANDの話が出ましたが、僕にとって日本語ラップの原点は、中学生の頃に聴いたLUMP EYEの「下克上」(1995年)。人生で一番最初に聞いたヒップホップミュージックでしたね。「こんなにかっこいいものが世の中にあったんだ!」と、とにかく衝撃を受けました。そこから90年代日本語ラップにはまり、20代になって地元のクラブでショーに出させてもらって、自分で作ったトラックでラップをさせてもらったり、友達とアルバムを作って、仲間内で配ったり…。

そういう経験もあって、日本語ラップがとっても大好きでして。音楽全般、様々な小ネタが『くつひも物語』に挟まれていますが、特に日本語ラップが多いのは、単純に僕が好きだからです。

――なるほど!90年代日本語ラップというと、わたしからパッと出てくるのは、スチャダラパーとか、RHYMESTER、THA BLUE HERB、そしてECD…。

KITTYPOOL: 一番好きなラッパーです。

――やはりそうですか。ECD、いいですよね。

KITTYPOOL: 人生で一番好きなラッパーです。亡くなられた時、僕は職場で訃報を知って。その場で泣いたことを覚えています。その後、NHKでECDのドキュメンタリーを制作されたヘッズの方がいらっしゃったんですが、その方に感謝のメッセージを送ったり、それぐらいには大好きですね。

『くつひも物語』でも、「怒られるかな」というぐらい、ECDの曲としか聴こえないような自作曲を入れたり、ECDの個人レーベルから章タイトルを引用したりしています。

――それこそ、KITTYPOOLさんはサウンドトラックや挿入歌も制作されていらっしゃいますが、特に挿入歌は、曲の内容はもちろんのこと、流れるタイミングも完璧で戸惑うほどでした。個人制作で、劇伴まで制作される開発者の方はそう多くないと思うのですが、劇伴を制作されていた際は、どのような意識を念頭に置いていましたか?

KITTYPOOL:確かに、ゲーム開発者全体で見ると多くない印象はありますが、著名な方は意外と曲まで作っている印象もありますね。例えば、『ファミレスを享受せよ』のおいし水さんだったり、『Bat to the Heavens』のceroroさんや、『BAD END THEATER』のNomnomNamiさんなど……。

その中でざっと俯瞰してみると、基本的には自分の得意ジャンルの中で制作されている方が多いのかなと思うんです。例えば、『ファミレスを享受せよ』のサウンドトラックを聴くと分かりやすいのですが、おいし水さんが制作された曲って、完全にピアニストの曲なんです。推測でしかないですが、鍵盤楽器からデモ曲を作り、それをアレンジメントしていくというのが一番作りやすいのではないかなと。

そして、ジャンルこそ違いますが、僕も「自分のやりやすいメソッド」で曲作りをしています。僕の曲作りは基本的にバンドサウンド、もっと言えばヒップホップ的な、ビートメイクと呼ばれるものです。まずドラムがあって、ベースがあって、リズムが成立したうえでウワモノ(メロディなど、中高音域のパート)があって…という方法論ですね。

ピアノで演奏するような、次々と展開するような曲ではなく、決まった音が4小節ごとに繰り返されるようなループミュージックが、僕の一番作りやすいものです。かといって、自分の作りやすいように楽曲制作をすると、今度はその曲がいいのか悪いのか、判断しづらい部分もあって。

過去作では、そういう意味で迷いが残るものもあったので、『くつひも物語』では「基本的にスーパーファミコン風の音を使う」という縛りで制作を行いました。制限をかけて楽曲制作をすると、できることが限られる分、自分の思うような表現はしやすかったですね。

縛りの中でちょっとだけ遊んだり、道を外れてみたり、という作り方もしましたが、基本的には「自分の作りやすいジャンルで、かつ自分に制限をかけること」というルールが、劇伴制作において念頭に置いていたものでした。

設定の整合性より、物語自体の面白さ

――『くつひも物語』と『PAIC:ムーンライダー物語』をプレイしていて、ストーリーや、キャラクターの個性に関する引用も面白く読ませていただいたんですが、個人的には、「これってKITTYPOOLさんの無意識から出ているのでは?」と思えるような引用の方が強く印象に残っていて。

KITTYPOOL:なんと!

――過去作品からの引用は、軸となるストーリーを「意味あるもの」にするために、綿密なコントロールが求められがちです。しかしKITTYPOOLさんの作品ではむしろ、世界観がきれいに均されていない部分こそ、群像劇としての面白さに寄与しているなと感じています。実際制作されるうえで、各ストーリーはどのようにして作り込んでいったのでしょうか?

KITTYPOOL:前述した通り、基本的に、ストーリーは積み重ねで作っています。ストーリー設計では、まず「何の話をしたいか?」というところをどんどん列挙していきます。

前述したテキサスの中絶禁止法についての話だったり、ウナギの漁獲高の話だったりをネタ帳に書き込んでいくんですね。そこから「この街に住んでいるこのキャラは、どの話が合っているかな?」といった具合に、ネタに合わせてキャラを当てはめる作業をしています。

このようなキャスティングがストーリーの組み立て方としてありました。そこから物語を作り込んでいくわけですが、作り込みの段階で設定ベースでの整合性を優先させてしまうと、最初の骨組みで作った「物語で伝えたいこと」が、どうしても面白くならないことがあるんです。

「世界観に沿った中で、どういう物語にするか?」という方法論が、ある種足かせになってしまって。場合によっては物語の核心が埋もれてしまうこともあるので、まずは物語としての面白さを優先しています。多少設定が一貫していなくても、物語が面白くないと意味がないですから。パッと具体的な例は出せないのですが…。

――モノローグ単位で言えば、「『FF9』のビビのような目」という台詞だったり、『PAIC:ムーンライダー物語』での「AKAIのサンプラー、買ってもらえたのかな……。」という述懐は最高でした。そのキャラがボカロPになって挫折する、という回想まで含めてとても面白かったです。

KITTYPOOL: ありがとうございます、そういうことですよね。先ほど話した「KITTYPOOLユニバース」の中では、「インターネットやパソコン、スマートフォンはどうなってるの?」みたいな、いわゆる技術レベルの話はまるで出てこないんです。

でも、「だったらあまりそういう話はしない方がいいかな」なんて考えてしまうと、がんじがらめになって面白いものが書けなくなってしまいます。ですから、別に「ボカロP」という単語も使うし、むしろ使った方がいいとまで考えています。そもそも言及していない設定は、後から何とでもできるので、とりあえず面白ければ気にせずに、物語優先で考えていますね。

――なるほど! 今聞いていて、キャラクターや物語の「根っこ」に、引用が強く結びついているように感じられました。「確かに、このキャラだったら『FF9』って言葉が出てくるよね」と思わせてくれるような。他にも映画作品だったり、文芸雑誌の「ユリイカ」などが出てくるシーンもありますが、各キャラクター特有の個性と、ニッチな固有名詞の相性の良さが共鳴しているのかもしれませんね。

被害者に向けたエンターテイメント

――ここからは重ための質問に入ります。『くつひも物語』のChapter 5では、忌々しいフェミサイドと、フェミサイドに対して超常的な能力でアメコミ的に立ち向かう女性たちが描かれます。
私自身、最初は胸のすく思いでプレイしていたのですが、次第に、「これってスカッとしていいものなのかな?」という疑問が芽生えまして。こうした「エンタメ作品としての気持ちよさ」と、言いようのない「居心地の悪さ」の同居は、本作の端々に表れています。こうしたストーリー設計には、どのような理由があるのでしょうか?

KITTYPOOL:「いつか誰かに指摘されるだろう」と思いながら制作していました。まず大前提として、Chapter 5では、物語の最終盤としてクライマックスを作らなければいけませんでした。要するに、ものすごく大きな事件を一つ起こさなければいけない。

また、僕自身の好みとして、ファンタジックなフィクション作品の中で、ギョッとするぐらい現実的な話題が出てくる、という物語に強く惹かれるんです。『くつひも物語』の中でも、現実的な問題提起が多々出てくるのは、僕自身の好みから来ています。

「フィクションとはいえ、フェミサイドを痛快に解決していいのか?」という問いについては、僕自身、印象に残っている映画があります。

マシュー・ヴォーン監督作の「キングスマン」(2014年、20世紀フォックス)という映画があります。作中では、アフリカ系アメリカ人のスター俳優である、サミュエル・L・ジャクソン演じる悪役によって、キリスト教教会で集会を行っている差別主義者同士が殺し合いをする、というシーンがあるんですね。Lynyrd Skynyrdの「Free Bird」まで流れて、とにかく痛快なシーンなんですが、公開当時は猛烈な批判に遭いました。

続編の「キングスマン:ゴールデン・サークル(以下、ゴールデン・サークル)」(2017年、20世紀フォックス)では、少しひねりのある構造になりました。同作でのヴィランは、ドラッグ依存症の人々を殺してしまおう、という人たちなんです。ヴィランの役回りが明らかに1作目の反省になっているんです。

ただ僕としては、1作目の「キングスマン」が、「表現として誤っている」とは思えませんでした。もちろん、2作目の「ゴールデン・サークル」において、前作の反省を行う、という姿勢については賛同します。しかし、こうしたエンタメ作品は、「物語として、悪役をどのように裁くか」というものです。

カタルシスを生むために「悪役を無惨に殺す」という表現を選ぶのは、確かに物議を醸すものではありますが、僕自身は「そういう表現を選んだ作品があってもいいんじゃないか」と思います。なぜならそれは、「被害者に向けた物語」なのですから。ただもちろん、こうした「悪役を無惨に殺す」表現が、倫理的に正しいと言うつもりもありません。

ハッピーエンドの「その後」のおはなし

――『PAIC:ムーンライダー物語』では、「マニエラ」というトランス男性と、「パニュリペ」というAFAB※のパートナーの、精子バンクを利用した出産における法的な壁や、切実な苦しみが描かれます。
「AFABのパートナー同士での出産や子育て」というイシュー自体、現実において何重にも語ることが困難なトピックですよね。さらに言えば、当事者が容易にアクセスできる情報や、ましてやエンタメ作品というもの自体も、ほとんどありません。だからこそ必要な物語だと感じていますが、同作を開発したきっかけは、どんなものだったでしょうか?

※AFAB:出生時に女性と割り当てられた(Assigned Female At Birth)という意味。トランスジェンダーやノンバイナリーなど、出生時のジェンダーを自身のアイデンティティとしないクィア当事者に使われる。

KITTYPOOL: 『PAIC:ムーンライダー物語』は、『くつひも物語』の宣伝のためにフリーゲームを1本作ろう、ということで始まったスピンオフ企画です。題材を選んだきっかけとしては、『くつひも物語』をリリースする以前に、クィア・フェミニストのライターである、近藤銀河(著書:「フェミニスト、ゲームやってる」など)さんに同作のレビューを依頼したことからなんです。

近藤さんには快諾いただけて、「なんて優しいレビューを書いてくれるんだろう」と思いながらX(旧Twitter)を見ていると、近藤さんが「同性愛をメインとした物語は、紆余曲折ありながらも、最終的には恋愛が成就してハッピーエンドになることが多いけど、本当の苦難はその後にある」といったことを投稿されていて。

おそらく当該のポスト。

もちろん、この指摘が『くつひも物語』に宛てたものかは分かりませんが、しかし『くつひも物語』でのマニエラとパニュリペのラブストーリーは、近藤さんの指摘のとおりになってしまっているという問題に気がつきました。そこで、「早々にマニエラとパニュリペの、その後の話を描こう」と思ったのが、『PAIC:ムーンライダー物語』のきっかけです。

また、メタな話をすると、今後開発するゲームのために描いておきたい設定がありました。今後の「KITTYPOOLユニバース」では、「死後の幽霊が住む世界」があったり、一方で現実世界ではマモノが人間に化けていたり、人間とマモノの間の子供もいるという世界にしようとしています。そうした設定も織り込みつつ、物語を考えていたのが『PAIC:ムーンライダー物語』でしたね。

――それこそ、『くつひも物語』や『PAIC:ムーンライダー物語』では、幽霊という存在が描かれます。また、先述された人間とマモノの子供だったり、「プロセシアン」と呼ばれる機械生命体だったり。
寓話的に描かれたマイノリティがさまざまな姿で暮らしているのは、「KITTYPOOLユニバース」の特徴かなと感じるのですが、「これを描こう」と思ったきっかけはありますか?

KITTYPOOL: そうですね…。多分、「これがきっかけだ」というものはないかもしれません。僕自身、本を読むのが好きで、特にクィアネスだったり、差別について書かれた本を読むのが好きだったんです。長年の興味の偏り、みたいなものが、僕のアイデアやクリエイティビティに無意識下で働きかけた結果かもしれません。

ただ、「被差別者が差別者側に回ってしまう恐怖」というものはずっと描きたかった題材でした。『PAIC:ムーンライダー物語』では、主人公であるマニエラの恐怖も描いています。

また僕自身、4歳になる娘がいまして、子供にまつわる話も書きたいという気持ちもありました。「子供が生まれる」、つまり、妊娠があって、出産までの長い時間があり、子供が生まれたあとの子育てがあって…というつぶさな経験。そういった経験をした後に、「子供が生まれる」ことを描いた作品に注目してしまうのは多分、あるあるかなと思います。

その中で、『Void Stranger』というインディーゲームでのある描写に、強い違和感を感じました。「この表現はどうなのだろう?」とモヤモヤしながら、「妊娠や出産についての描写」というものを、自分なりにどこかで一回表現しておきたかったんです。

――ありがとうございます。では最後に、プレイヤーの皆さんにメッセージをお願いします。

KITTYPOOL:『くつひも物語』はある意味、僕の思想と呼ばれるようなことを詰め込んだ物語ではあります。僕の伝えたいこと、表現したいこと、社会に対しておかしいと思っていること、こういうことが正しいんじゃないか?といったことですね。

ただ同時に、僕はポップなものが大好きです。ポップミュージックだったり、映画も基本的にはポップな映画が好みです。「ポップなものを作るのはとても難しい」ということも重々理解した上で、基本的にはポップなゲームを作ったつもりです!

もしかしたらこの記事を読まれる限りでは、「そんなに重たいゲームなの?」と思われるかもしれませんが、プレイしてみると意外に楽しい表現や演出、テキストが満載のゲームとなっております。皆さま、まずは『くつひも物語』をプレイしていただければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

――ありがとうございました!


KITTYPOOL氏の考える「ポップネス」について、再確認することができた本インタビュー。しかしその「ポップネス」を体感するには、まず両作をプレイしてみるのが一番の早道!

『くつひも物語』・『PAIC: ムーンライダー物語』は、PC(Steam)にて配信中です。

《タキトウ ハル》

ゲームも音楽も大好きな雑食ゲーマー タキトウ ハル

ローグライクとダンスミュージックが大好き。Redditのゲーマーコミュニティをよくチェックしています。

+ 続きを読む

編集部おすすめの記事

ニュース アクセスランキング

  1. 【今ならまだ無料】地球環境保全シム『Save the Earth』1週間後に有料版への移行を発表。Steamで今ライブラリ追加しておくと今後も無料でプレイ可能

    【今ならまだ無料】地球環境保全シム『Save the Earth』1週間後に有料版への移行を発表。Steamで今ライブラリ追加しておくと今後も無料でプレイ可能

  2. 老舗MMO新映像に生成AI使用疑惑。指が6本、中世騎士の靴がスニーカー…「説明がつかない」と開発元謝罪。外注先は“AI不使用”明言のはずが…

    老舗MMO新映像に生成AI使用疑惑。指が6本、中世騎士の靴がスニーカー…「説明がつかない」と開発元謝罪。外注先は“AI不使用”明言のはずが…

  3. 「選ばれし者になるRPGにはもううんざり」…『キングダムカム・デリバランス』開発スタジオ共同創設者が語る―「ただの一般人のRPG」は存在するのかなど議論に

    「選ばれし者になるRPGにはもううんざり」…『キングダムカム・デリバランス』開発スタジオ共同創設者が語る―「ただの一般人のRPG」は存在するのかなど議論に

  4. Steamで90%以上割引のゲーム集合!お金が少なくてもPCゲームは楽しめる、激安オトク作品11選【Steamオータムセール】

  5. 「物理派が仮に20%でも、その20%こそ最も忠実なファン」元PS幹部、ディスク廃止はブランドへの大打撃と警鐘

  6. コジプロ新作『PHYSINT』は「『メタルギア』のルーツを感じさせるような作品」に―でも、新しい要素を入れたちょっと(かなり)違うスパイ・アクションにしたい

  7. G TUNEブースに『シージ』レジェンド再集結!世界ベスト4 vs 父ノ背中で1v4クラッチして爆笑するけんき―熱戦をレポート【TGS2026】

  8. アニメーター・桂憲一郎氏の訃報受け『SYNDUALITY』アニメ製作委員会が声明。「多大なるご尽力を賜りました」

  9. 日本ファルコム、『空の軌跡』グローバル販売好調で再び業績予想を上方修正―営業利益28億円など過去最高へ

  10. 次世代ゲーム機、わずかな性能アップだけで1,000ドルも消費者は払うのか―元PS幹部ショーン・レイデン氏がPS6や新XBOXの価格に疑問を呈す

アクセスランキングをもっと見る

page top