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【e-Sportsの裏側】誰が為の「ゲーム」なのか?プロゲーマー ももちがすべてのゲーマーに問う

“プロゲーマー”とは何なのか、ライセンスは誰のためのものなのか?プロゲーマーおよび忍ismの代表として活動するももち氏が昨年末に発表した、プロライセンス制度についての声明は、大きな反響をよびました。声明に込めた想い、そして伝えたかったことを改めて伺いました。

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【e-Sportsの裏側】誰が為の「ゲーム」なのか?プロゲーマー ももちがすべてのゲーマーに問う
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e-Sportsに携わる「人」にフォーカスを当てて、これからの日本のe-Sportsシーンを担うキーパーソンをインタビュー形式で紹介していく【e-Sportsの裏側】。

前回の連載では、大手ゲームメーカー株式会社コナミデジタルエンタテインメント 猿楽 一成氏に同社が描くe-Sportsの在り方についてお話を伺いました。

■e-Sportsとは?
e-Sports(Eスポーツ)とはElectronic sportsの略で、コンピュータゲームやビデオゲームで行われる競技のことです。高額な賞金のかけられた世界的な規模で行われるプロフェッショナルな大会から、アマチュアまで競技が行われており、ジャンルやゲーム毎にプロチームやプロリーグが多数あります。現在e-Sportsの対象となっているゲームを遊ぶ人の数は、全世界で5500万人を超えています。
(ゲーム大辞典参照:http://game-lexicon.jp/word/e-Sports


第15回目はプロゲーマーおよび忍ismの代表として活動しているももち(百地祐輔)氏に、2017年末に発表した「日本国内におけるプロゲーマーのライセンス制度について」と題した声明文へ秘めた想いをインタビュー。未来についての意見を語って頂きました。




――国内初のプロゲーマーライセンスのニュースが年末に発表されました。改めて、プロゲーマー ももちから見て、どう感じていますか。

2011年からプロゲーマーという職業を始めましたが、プロゲーマーって定義がなくて、周りからプロと呼ばれたりとか、自分が番組に出演したり取材を受ける際に「プロゲーマーです」と話をしていました。

「どうすればプロゲーマーなんですか?」というのもそうですし、周りからも「どうやったらプロゲーマーになれますか?」と言われた時に、自分たちは苦しみながらやってきたのもありますし、どうやって認められようとか、プロゲーマーという定義を作らなきゃな、というのを考えながらやってきました。その中でプロゲーマーライセンスというのが出てきて、ちょっとびっくり、というか急だな、というのはありますね。自分たちが数年間悩みながらやってきたところに、そのライセンスをもらったらプローゲーマーですよ、というのに個人的には違和感があります。

とはいえ、明確な定義というのがない中で誰かがそれを作る必要がもしかしたらあるかもしれないので、そういった点に関しては全否定ではありません。とはいえちゃんと定義を作ってくれたりだとか、プロライセンスを目指す若い子達に対しては、プロライセンスを取ることがゴールではなくて、取ってからが新しい人生がスタートだよ、というのはきちんと伝えたいです。プロライセンスを取得したその先に何かがあるとすごく良いな、というのがあったんですが、いま現在発表されていることに関しては、「誰のために作ったものなのか」、「それがプレイヤーのためなのか」、「どこを目指しているのか」という部分が不透明に感じました。


周りの人にも考えて欲しいなというのもあったので、そこで声明を投げかけました。これをきっかけにみんなに考えて欲しいなと思っています。自分の周りの人に意見を聞いてみると、プロも含めて割と否定的でも肯定的でもないというか、他人事のように感じているような気がします。プロライセンスを作ることによって、多額な賞金を出せます、というメリットもあると聞きます。実際はライセンスがなくても多額の賞金付き大会は開催が可能というご指摘もあるようで、そうなるとますます何のためのライセンスなのかはわからなくなりますよね。

そんな中「賞金がもらえる」、「プロゲーマーライセンスを取ることでプロゲーマーになれる」、というところしか見えていなくて、例えば若い子がプロライセンスを取るために進学を諦めてプロライセンスを取るとか、仕事をしている方も仕事をやめてプロライセンスを取りますとなったときに、その先に何もなかったらどうするんだろうなっていうところを考えてしまいます。「ライセンスを取ったからその先どうなる」といった点や「プロライセンスを発行して盛り上げていきます」と言う以上は、その先の3年後、5年後10年後はどうなっているのかな、というのはちょっと何かしらのビジョンのようなものを見せていただきたかったなというのが正直なところですね。

――声明文について、反響はありましたか

すごくありましたね。自分が拾える範囲というか、聞こえてくる声というのは基本的にはユーザー側・プレイヤー側の声がすごく多いのですが、割とプレイヤーの方々は賛成の意見が多かったですね。格闘ゲームはもともと、ローカルな全国各地のゲームセンターとコミュニティイベントで盛り上がってきたジャンルでもあるので、「コミュニティを大事にしてくださいね」、「協力してやりましょう」という部分では賛同をしていただけましたね。

――プレイヤー(選手側)はゴールや未来が不透明という点や、コミュニティに対するケアはどうなっているのか、などいろいろ疑問点はあると思いますが、強いて言うならばどの部分が一番気になっているのでしょう

やはりコミュニティを大事にして欲しいというのが一番ですね。とはいえ、今までずっとコミュニティだけに注力してイベントをやってきて「自分たちだけの手弁当ではこれ以上大きくはならないのでは」と感じている部分もあります。忍ismとしてイベントを運営していますが、それ自体で利益を出すような仕組みってそこまで育っていないんですよね。海外のe-Sports系のゲームイベント同様にスタッフに関してもボランティアで手伝って頂いたりとか、あとはやはりある程度まとまったお金のスポンサーさんに定期的に御参画頂いたり、そういう「お金の流れ」みたいなものをつくって、それが地方で開催される小規模コミュニティのイベントにまでキチンと何かしらの形で流れたりですとか、できればいいんですけど。コミュニティで育ってきたが故にあまり成熟していなくて、そういった意味ではプロライセンスを作られる方達も含めた多くの方々に協力していただくことで、新たなお金の流れや人の流れ、価値を作り出すことはできるかもしれないですし、コミュニティと共に業界を発展させていくというのは、特に日本のe-Sportsでは必要だと思うんですね。


とはいえ、そこをすっ飛ばして「賞金出すから参加してよ」、「賞金出すから喜ぶでしょ?」というのはちょっと乱暴かなと感じています。「プロライセンスで賞金を獲得できます」ということをユーザーやプレイヤーが本当に求めているのか、と思いますね。高額賞金があれば特定のタイトルやジャンルが盛り上がるのかといえば、イコールではないと思うんですね。今発表されている情報を見ると、コミュニティへの還元という意味ではあまり何かを感じることはできません。

――現在複数タイトルがプロライセンスの指定タイトルとして発表されています

割と「オリンピック競技を目指している」というのを言っているかと思うんですが、そもそも国内でしか盛り上がっていないタイトルもあったりするので、そういった点では矛盾しているなと思いますね。上手い人や人気がある方がいると思うので、そういった方がプロライセンスを取得してそのジャンルやタイトルが盛り上がるというのはいいと思うんですが、あくまでそれは「特定のパブリッシャーさんが扱われているタイトルの1つ」でしかないので特定のスポーツ競技のような中立性・公共性のあるものではないですし、そもそも本当に盛り上がるのかなというのは不安ですね。

――例えば、『○○○』というゲームのプロになるとします。いつかは『○○○2』が出てくると思うんですが、そうなった場合は新規に取らなければならないのでしょうか?

現状の情報だと、取らなければならないということになるんでしょうかね。。。格闘ゲームなんかはナンバリングが変わるとバトルシステムそのものが別物になったりすることも少なくないので。実際はどうなんでしょう、気にはなりますよね。

――そういう制度の形に対して、「人生をかけて熱狂できるのか」というのは気になります。上手い方法はないのでしょうか

そうですね…。「連携」が重要だと思います。声明自体もそれがひとつの目的で、コミュニティ側とメーカー側、協会側全員が協力しあわないとダメだなと感じています。自分がコミュニティだけに寄り添った意見を言ってしまうと、結局閉鎖的な小さいところで完結してしまって、本来の目的である「コミュニティを軸として、キチンとお金の流れを作り、今の歴史の土台をつくってきてくれた先人たち、熱狂を生み出しているプレイヤー一人一人が報われる環境を作りたい」という目的は達成できません。自分の今の立場はそこを繋げられる立場だと思っているので、そこをやっていきたいという思いはあります。

――一般誌などでは「2018年のe-Sportsは明るい!」という言葉が踊るようになっています。賞金が出る、日本も流行る、2020年オリンピックだ!というような雰囲気が出ていますが、当事者としては今とこれからをどう感じていますか

毎年e-Sports元年って言われてますよね。実際右肩上がりで、どんどん盛り上がってきているという実感はあります。企業さんの動きもそうですが、ほんとうに色々な人が動いてきたという感じがしています。全国各地の小さいコミュニティでただただゲームが楽しいだけで回ってきたものが、いろいろな人の思惑やお金の流れなどもあり大きくなってきているので、今年も勝負の年だと思います。毎年言われてきてはいまいちパッとせずそこを抜け出せていないというのも事実としてあると思います。何かきっかけがないとか、やり方が間違っているとかあると思いますが…。

――逆に、プロライセンス制度が出来てしまったからこそ、ももちさんは声明を出したわけですが、ある意味いろいろまとまってくる最初の年なのかなというのも感じます

それも自分が声明を出さなければ、ライセンス制度に対してはたぶん誰も意見表明はしていなかったかもしれないと思うんですよ。自分がやらなければ誰かがやるだろうっていう問題じゃなくて、格闘ゲームの業界に関してはプロゲーマーもそうですし、ある程度発信力がある人達が、ライセンスに対して何かを言ったというのはないと思うので、自分がこれを言わなかったらどうなっていたのかな、というのはありますね。

声明を出したのはより良くしたいという想いがあるので。みんなが自分が考えているものとリンクさせてSNSでいろいろと自分の言葉で発信をしてくれたりして、そういうのはいわゆるコミュニティと寄り添って協力し合うというものの1つだと思っているので。あらためて多くの人が様々な意見を自身の言葉で発信し、それが可視化されたという、そういった意味では、声明を出したことについては今の段階では良かったなと思っています。こうした多くの人の声がやがて、一つの道筋をつくり、そこから何かしらの流れが見えてくれば…と思っています。

――良くも悪くもe-Sportsというものの定義も徐々に進んで決まっていくのかなと捉えています。これを機に競技として定義が決まるのは良いことかなと思っていますが、その定義が誰もが納得できるようなものでないとダメだと思います。お金儲けをしたい人達が都合よく作って終わり、みたいな

実際そういう風に見えてしまっているじゃないですか。それが悪だとは思わないんですよ。ビジネス的にも、お金がそこでビジネスとして回らなければ盛り上がることはないのでそれは良いんですが、見せ方や持って行き方、段階の踏み方など、プロセスはすごく大切にして欲しいなというのは、自分がコミュニティ側なので特にそう思ってしまうんですよね。自分みたいに「えっ?」みたいな人が出てきてしまうとその途端に軋轢が出てしまうので。


――この一連の騒動を通して、ゲームの社会的な地位が出来上がると良いなと思っています

そうですね。でも「プロライセンス」というものに対してあまり良い印象を抱いていないというのは正直ありますね。ライセンスがあるものはあまり成熟していないイメージがあります。

――ライセンスっていります?

「何のために作るのか」というのがはっきりしていれば見えてくるんですが、現状自分は必要性をあまり感じないので。

――この制度が進んでいくとしたら保有していないと不利になるってことですよね。今のプロゲーマーの方はある意味別にもらわなくても良いという感じなんでしょうか?

他の方はわからないですが、自分はそうですね。「もらわなくてもいいです」というよりは、保有する以上は納得して保有したいなというところなので、そっちの方が強いですね。あと、そもそも自分の場合は主戦場となるのが海外のe-Sports市場なので、国内は国内で当然盛り上がって欲しいとは思いますが、前にも述べた通り国内の土台を築いてきたコミュニティや先人たち、プレイヤーたちの声にもキチンと耳を傾けたうえで、双方が納得した上で進めていって欲しいです。

――ゲーム大会は日本でも増えてきました。お祭りに近くて良いなと思っています

日本のe-Sportsをどうやって盛り上げるというのは課題としてあると思うんですが、海外のフォーマットを日本に持ってきて単純にやっても、日本と海外は文化が全く違うので、日本ならではのe-Sportsの盛り上げ方を一度考えなきゃダメなのかなと思いますね。単純に海外でこれが流行っているから日本に持ってきました、これがe-Sportsです!って言っても盛り上がらないので。
そういった意味でRAGEやEvoJapanといった動きには期待感がありますし、注目しています。RAGEは選手を格好よく見せようとしてくれている、あのイベントからスターを生み出したいという思いが伝わってきますし、EvoJapanも大変な挑戦だとは思いますが、コミュニティと対話しながらイベントをつくって根付かせていこうという気概を感じますよね。自分たちもTOP(TokyoOfflineParty)というお祭り的なコミュニティイベントをやらせていただいているんですが、こういった大きな挑戦をしている国内の企業に続けるように地道に頑張りたいと思っています。

――本件について「関心が無い」というのが一番怖いですからね


そうですね。当初は自分としても9割以上関心がなかったです。他のプロゲーマーでもそういう人はいるかもしれません。「もらえるならもらいますよ」ぐらいなんですよ、たぶん。それで賞金付きの大会が開かれて、賞金が出るからないよりはあった方が良いからとりあえずもらっておこう、ぐらいだと思うのですが、それって興味がないというだけであって、肯定でも否定でもないじゃないですか。よくゲームをわかってない人達に今後業界を動かされるというか。本当にそれでいいの?って思っちゃいましたね。

――e-Sportsやゲーム業界をどう盛り上げていくのか、見つめ直す良い機会では?

自分の声明に対しコミュニティ側からの賛成の意見が多いとは言いましたが、コミュニティ側でも否定的な意見の人がいて、「盛り上がらなくても良い」という人もいるんですよ。自分の遊ぶ範囲で楽しければ良いという。でもそれって至極真っ当で、そのタイトルが高額賞金かどうかなんて大半の人は関係ないじゃないですか。その辺も含めてみんなで盛り上がれたら良いなというのがあります。そういう人たちも納得できるような形でというか、今まで通りに「ゲームコミュニティ」という枠で一緒にやっていきたいと思っています。賞金獲得できるような一部のプレイヤーだけが得をするような世界はダメだと思っていて、それは先細りになると思うんですよ。賞金出なくなったら終わりじゃないですか。

ビジネスになり始めちゃうと、肩身の狭い思いをする方もいると思います。大人になっても仕事以外の時間はゲームしていますとか、下手したら定職につかずにゲームばっかりしていますとか、やっぱり後ろめたいですし、日の目を見ないことなので。それがちょっとずつスポットライトを浴びるようになってきたわけじゃないですか。その事自体に否定的な人はいると思います。

――今後動きはまだあると思います。どのようになって欲しいと考えていますか

みんなで協力しあわないと発展していかないと思うので、ユーザー・プレイヤー側はユーザー・プレイヤー側で考えなければならないですし、その発行されたライセンスが本当に良いものかどうかを考えないと、今まで自分達含め多くの人たちが大事にしてきた世界がコミュニティのそれとは直接関係のない第三者の意図によって影響をうけることになってしまうかもしれないので、それについて考えて欲しいです。ライセンスを発行される側の企業の方々にはそのあたりを汲み取ってもらって、コミュニティときちんと対話をし、今のこの土台を築いてきた先人や多くのプレイヤーのところにまで想像力を働かせ、より良いものにしていくアクションをしないと絶対上手く行かないと思うので。やはり、賞金だけではユーザーは喜ばないよ、と思います。やるからには本当に良くなって欲しいと思います。



自身の想いを吐露したプロゲーマー ももち。これから益々日本のe-Sportsを取り巻く環境は激変が予想されます。

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《森元行》
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