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イメージとは異なる西洋甲冑のリアル!実戦・競技・パレードの3タイプを知らずしてデザインはできない?【CEDEC 2020】

西洋甲冑武器研究家・奥主博之氏が「デザイン発想に役立つ、西洋甲冑講座」のセッションで、3タイプの西洋甲冑の違いを語りました。

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イメージとは異なる西洋甲冑のリアル!実戦・競技・パレードの3タイプを知らずしてデザインはできない?【CEDEC 2020】
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スマートフォンゲームが主流の現代においても、『Fate/Grand Order』や『グランブルーファンタジー』、『プリンセスコネクト!Re:Dive』など、ファンタジー作品が人気です。作中には西洋甲冑が多く登場し、キャラクターの魅力を引き立たせるデザインがされています。

これらのデザインは、『イース』(1987年)や『ファイナルファンタジー』(1987年)など初期のファンタジー作品と比べると、全体的に鎧の装飾が豪華または軽量化されている方向性にあります。豪華絢爛やかっこよさと防御力・機動性を両立させるのはフィクションの醍醐味ですが、甲冑デザインをする上では現実の資料は欠かせません。


9月2日~3日までオンライン上で開催された「CEDEC 2020」では、西洋甲冑武器研究家・奥主博之氏が「デザイン発想に役立つ、西洋甲冑講座」のセッションを実施しました。『写真とイラストで見る西洋甲冑入門~三浦權利作品集~』の著者による西洋甲冑デザインの入門講座とも言える内容で、デザイナーに撮っては需要の高い情報が公開されたのでご覧ください。

■騎士の西洋甲冑が活躍したのはわずか100年あまり?


西洋甲冑は命を守るための戦争の道具であると同時に、その人の地位を示し、ファッション要素もありました。歴史を見れば、戦争が激しくなるにつれ、メイル(鎖鎧)から全身を甲冑で覆うプレイトへと変遷しました。




西洋甲冑は騎士が着用するイメージがありますが、騎士の戦場用甲冑が活躍したのは1400年~1500年代初頭のわずか100年ほど。それ以降は傭兵が活躍した銃撃戦が主流になったため、銃撃戦に特化した甲冑や競技用甲冑が増えました。
武器と戦法が変わることによって、甲冑も変わっていったのです。




■使用目的によって西洋甲冑は変わる


西洋甲冑の歴史は1100年頃から1630年頃までに括られ、甲冑のタイプは大きく分けて3つあります。戦場での動きやすさ、大量生産のコストを考えて開発された「実戦用甲冑」、徹底的な防御重視で機動性やコストは二の次とされた「競技用甲冑」、祭事やパレードで衣装として利用された「パレード用甲冑」です。




インターネットや書籍でよく紹介されるのが「パレード用甲冑」であるため、これが西洋甲冑だという印象が強くなっています。しかし、あくまでもパレード用の見栄え重視で、重量が軽く、装甲が薄く、さらに動きにくい造りです。

3タイプには、どのような形状があったのか、実際に残っている甲冑を見ていきます。博物館などで展示されている甲冑は、バラバラに発見された同時代のものを組み合わせた形が多いのに留意する必要があります。


■実戦用甲冑


近接戦闘、弓矢、銃など時代ごとの主流の武器に対する防御力を重視しつつ、動きやすさとコストを抑えることを考えて造られました。士官クラスを除いた歩兵は兜や胸当てだけといった軽装備であることも。

1500年代初頭。鎧の表面にある凸凹のウネは、平面に打ち込んで鉄板を強化する技術

1500年代中~後期。銃撃戦が増えたことで、当たると致命傷になる胴体を強化し、他の部分は省略した設計になっている。コスト削減しつつもデザイン性を保っている

1600年代前期。士官や貴族が着用した。銃の発達に伴い、甲冑のデザインが大きく変わった。戦争が大規模になったので、量産して多くの兵士に装備させるのが難しい状況だった。ある程度コスト削減し、銃撃から身を守れる機能を持った甲冑が主流として造られた

1400年代初頭。歩兵が着用した。複雑な装飾はなく、顔を叩かれるのを防ぐために鼻あてが付いている。ここから次第に、頬あて顎当てなど、顔を守るパーツが増えていった。しかし、銃撃戦が主流になった中世の終わりには、視界確保の優位性から顔を守るパーツを省略した兜になるという逆転現象が起きた


1400年代。こちらも歩兵が着用。造りが一般的であれば、歩兵用とみなしている

1500年代中期。歩兵用だが、造りが良いので小隊長またはある程度の役職者が身に付けたと考えられる。密集して斬り合う戦いから銃撃戦へと変わったので、視界確保のための設計が優位とみなされるようになった

1500年代中期。装飾が多いので地位が高い人が身につけていたと考えられる。戦場では敵に対して左側を向けるので、空気穴が開いていない設計が多い

■競技用甲冑


ある程度地位が高い騎士たちが参加する大会のために製造されました。スポーツとしての色が強く、安全面を重要視したため、重くて動きにくい設計です。槍で突いて落馬させた方の勝ちだったり、兜の上に取りつけた頭巾を棍棒ではたき落とした方の勝ちだったり、様々な大会ルールがありました。

槍試合用。相手を槍で突いて落馬させれば勝利のため、槍が突き刺さらないように左側に補強具をつけている。補強具が付いていることで、競技用甲冑が盛んに造られた槍時代のものだと分かる

補強具。鎧の上からネジで付ける。首から肩までガッチリ固定される。槍の衝撃で首や腕を負傷しないため

1500年代中~後期。歩いて戦い、相手の上半身を槍や剣で攻撃する競技で使われたため、足のパーツは造られていない。装飾が豪華であることから、持ち主がかなり裕福であったことが窺い知れる

槍試合用。正面から相手の矢類を受ける競技で使うため、背中を守るためのプレートは取り付けられていない。競技用の槍は4mと長いため、手前の右肘が槍を持った状態で固定する造りになっている

槍試合用。前しか見えない。側面のスリットから頭を包んだ頭巾を外側に出して止めることで、頭が全方向で固定されるため、槍を突かれても、兜に頭をぶつけることがない。頭を重点的に保護するためだけの兜なので、8~10キロもあり、被っただけで倒れかねない

槍試合用の装備。馬に乗って戦うために足を守るパーツはないので実戦では使えないため、実践甲冑とは完全に別物だと考えるべき

徒歩で戦う競技用の兜。メッシュで相手の武器が顔に滑り込まないようにしている。競技用の共通は首や顔を重要視して守ることにある

通気性と視界を優先した兜。棍棒で相手の兜に取り付けた飾りを叩き落とせば勝ちという、競技に合わせて造られた

■パレード用甲冑


お祭りやパレード、凱旋などで着る装飾性の強いデザイン。昔も今と同じで、より派手、奇抜、個性的な要素を付け加えることがファッションの最先端だとされました。鎧もファッションと同じ感覚なので、同時代の服飾と共通点が多く、ファッション性を甲冑に反映させることが多かったのが分かります。ただ、あくまでも防具として成り立った上でデザイン性を加えています。

1500年代初頭。装飾やメカニズムが独特なデザインで、甲冑というよりは服飾のような構造

奥主氏曰く、「鎧というよりは衣装なのでは?」。当時の人たちの服装は絹や麻で造られており、全身を覆う金属鎧はとても注目を集めた分、ものすごくコストがかかったそうだ

1500年代前~中期。正面が鳥の顔のパーツで覆われている。こめかみにネジで取り付けられているため、外すことができる。奥主氏は「実戦用のパーツと付け換えられたのではないか?」と推測。この年代くらいから兼用の甲冑が登場したそうだ

博物館でよく見られるパレード専用の兜。薄い鉄板で造られており、金属で作られた帽子のよう。奥主氏は「防具として紹介するのは違うかもしれない」と述べた。たくさん製造されたので多く残っている

1700年くらいに皇太子が晴れ着として着用していたもの

■実戦・パレード・競技用兼用甲冑


1500年代頃からは面などのパーツを取り換えることで、競技やパレード、実戦など兼用の甲冑も登場するようになったそうです。

1500年代中期。甲冑に色んな要素が混じっていて、実戦、槍試合など用途に応じて使い分けていたと考えられる

1500年代中~後期。槍試合で使われていた甲冑だが、面を付け替え、肘や顎の部分を補強すれば実戦としても使用できる造りになっている

有名な人の甲冑で、装飾が過度に付いているが実戦でも使われた。しかし、この時期になると前線で戦うというよりは、指揮官として後ろにいるため、目立つ甲冑を着て行ったのだと考えられる

大変高価な甲冑で、一般の甲冑が100万だとしたら、数千~数億円にもなると見られる。奥主氏曰く「今でも学者の間で議論になるが、こんなに豪華で目立つ甲冑で戦場に行ったとなかなか考えられない。しかし、戦場に着て行ったと記録には残っている」


■実物の甲冑を着た体験談はデザインのヒント


奥主氏によれば、甲冑の資料をインターネットで探す場合は、「日本語ではなく、英語やフランス語などの専門用語でパーツや部品の名前を検索する」必要があるとのこと。日本語を使ってしまうと、ゲーム関連の情報ばかりになってしまうからです。専門用語に関しては、『図説 西洋甲冑武器事典』などの専門書を参照するように勧めました。

同日の甲冑は海外で売られていた現代製で、歴史的資料としては問題があった点を造り変えたものです


また、最後に奥主氏が装備してきた甲冑を見せながら体験談を語りました。甲冑をフル装備した際の重量は平均25kgほどですが、腕や肩の装甲は薄いため、特に重いのは兜と胸当てに集中しています。兜は2.5~3.5kg、胸当ては4~6kgのものが多く、装着していても鎧が直接体に触れることはありません。



例えば、同日装着していた腕の甲冑は革手袋の上に金属パーツが鋲で取りつけられており、「バイクの手袋」を着用しているのと似た感触に。体に密着していれば、部品同士が多少擦れてもガシャガシャと金属音がぶつかる音はしません。稼働領域も制限はあれど窮屈ではなく、両手をバンザイする動作が想定されていないなら、甲冑に合わせた剣術を使えば良いのです。



甲冑剣術と言って、ロングソードの柄と刀身をそれぞれ握り、肩や脇など隠し、手の甲で指を守りながら、相手を刀身で小突くというのが一般的な戦い方でした。甲冑は重いけれど、防御する必要がないのが利点です。顔を含めて全身を覆ってしまえば、相手の攻撃が多少当たっても衝撃で済むから、防御する意識を取らずに攻撃に集中できるのが心理的に大きいそうです。

また、戦場では大概は馬に乗っていることが多いので、全身甲冑の重さを完全に背負うこともありません。歩兵であれば動きやすい軽装備など、実戦を考えられた設計になっています。その点に関しては、奥主氏は「人が道具に合わせている」と語り、戦場では無茶な動きをして転倒などすれば命を失うことに繋がると説明しました。

現実の甲冑はフィクションと異なる点が多いですが、リアリティーがあってこそ没入感も増すので、専門知識の重要さを改めて感じさせるセッションだったのではないでしょうか。
《乃木 章》
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