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きょうだい、実家を売る―心動かされるDONTNODの新作ADV『Tell Me Why』プレイレポート

最終チャプターが配信されたばかりの、DONTNOD Entertainment最新作『Tell Me Why』のプレイレポートをお届けします。

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きょうだい、実家を売る―心動かされるDONTNODの新作ADV『Tell Me Why』プレイレポート
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ライフ イズ ストレンジ』シリーズの開発を手掛け、日本国内でも根強いファンを持つDONTNOD Entertainmentの最新作『Tell Me Why』。その最終エピソードであるチャプター3が、現地時間9月10日に配信されました。


ローカライズにある程度の時間がかかった『ライフ イズ ストレンジ』シリーズと違い、国内でも(字幕ですが)オンタイムで日本語版を遊べました。個人的には『ライフ イズ ストレンジ』シリーズに匹敵、または凌駕するほど心動かされ、傑作だと感じました。が、国内では何故かあまり注目度が高くないようなので、是非読者の皆様にも遊んでいただきたく、今回の記事では熱の入ったプレイレポートをお届けできたらなと思います。


本作のジャンルは、ストアページの説明を借りるなら「私的ミステリー」です。「ミステリー」というように、小さい謎が少しずつ明らかになっていくというような物語構造ですので、可能な限りネタバレを避け、できればレビューやゲームメディアの紹介文なども読まずにプレイするのが、本当は一番良いと思います。が、もちろんそれでは何がなんだかわからないし、手を出しようがないという方も多いでしょうから、ここからはそんな方のための「最小限」の説明をしていこうと思います。


物語は主人公となるタイラーとアリソンという双子(作中ではひらがなで「きょうだい」と表現されます)が10年ぶりに再開するところから始まります。子どもたちが主人公でジュブナイル的な側面のあった『ライフ イズ ストレンジ』シリーズと違い、二人は物語開始時点で20代の大人です。

そのため、物語は非常に落ち着いたトーンで進み、大きな事件が起こってジェットコースター的な展開をする物語というよりは、会話劇や主人公の内面の葛藤がフィーチャーされたストーリーになっています。チャプター1からチャプター3までを通してプレイしても、おそらく10時間程度しかかからない(アドベンチャーゲームとしては)短編作品です。

物語の舞台はアラスカ、デロス・クロッシングという小さな街です。アリソンにとっては現在も住んでいる場所ですが、タイラーにとっては10年ぶりに帰郷する「ふるさと」。そして二人の目的の一つは、かつて住んでいた彼らの実家を売りに出すことです。実家を片付けてゆく中で、彼らは幼年期の思い出……すなわち10年前、彼らが別れて暮らすきっかけになった“事件”に向き合うことになります。

本作はほとんど大げさな事件が起こらず静謐に進行していくゲームですが、冒頭に明かされるその“事件”はかなりショッキングなものです。ただ、グロテスクな表現や極度のホラー描写などは無いので、そこは安心してプレイしてください。


本作ではパートごとに、タイラーとアリソンのきょうだいどちらかを操作することになります。ゲームプレイはほぼ「探索」と「選択肢の選択」で進行していきますが、一部絵本を用いた特徴的な「謎解き」が登場します。絵本は物語序盤に入手し、それ以降はいつでも内容を参照できますが、これがかなりの文章量。全部読もうとすると結構大変ですのでご注意下さい。ちなみに、きちんとストーリーを読めばどの部分に答えが書いてあるかは提示されていますので、絵本の内容すべてを読む必要は無かったりもします。


本作の魅力はミステリーパートの求心力、重厚なテーマ性、魅力的なキャラクターと色々あるのですが、美しいグラフィックスで描写されるデロス・クロッシングの雄大な自然も欠かせない要素です。自然には厳しい側面もあることがきちんと描かれますし、ストーリーのプロットにもデロス・クロッシングという場所の持つ性質が大きく関係しています。

何度も繰り返しになりますが、本作では大きい事件が(ほとんど)起こらず派手な演出もほぼないので、ともすれば地味になりかねないわけですが、美しい風景のおかげでプレイしている間はずっとヒマしません。人物の微細な表情の変化を捉えるキャラクターグラフィックスも素晴らしく、注意を払って画面を見るだけで見返りがある豊かな情報量を持った作品に仕上がっています。

さて、ここから先はちょっと踏み込んだ作品紹介をしていこうと思います(とはいえほとんどは物語冒頭で説明されますし、「ネタバレ」的な結末は述べませんが)ので、ここまで読んで充分に興味をそそられた方や、最低限の情報でプレイしたい!という方は回れ右でお願いします。


「きょうだい」の片割れであるタイラーは、FtMトランスジェンダーの青年です。自分のそういった傾向に自覚的だった彼は10年前のある日、自らの決断で髪を切る決意しました。そしてそのことによって、母親であるメリー・アンに銃を突きつけられ、動転し、彼女を刺してしまいます。結果として母は死亡。彼は施設に送られることとなるわけです。かなりヘビーな経緯ですので、本作は中盤ぐらいまでプレイするのがかなりしんどい作品となっています。


作中のトランスジェンダー表現は(あくまで当事者でも専門家でもない筆者が評価する限りは、ですが)かなり先進的で、テストステロン(男性ホルモン)の投与やそれにまつわる体調/体臭の変化が描かれるなど、この規模のビデオゲームにおいてはエポックメイキングなものだと思います(筆者もそこまで詳しいわけではないので、前例はあるかもしれません)。

10年ぶりに故郷に帰ってきた彼の見た目の変化は、周囲の人々を静かに動揺させます。本作のクレバーなところは、表立ってタイラーを非難するようなわかりやすい差別主義的な悪人が登場しないところです。しかし、それでもどこかコミュニケーションはぎこちなくなり、小さな齟齬が生まれていきます。この辺りとてつもなくリアルに感じられ、胃がキリキリするような緊迫感のあるシーンも数多くありました。


また今作にも、DONTNODの作風とも言える“超能力”が登場します。二人のきょうだいはテレパシーのような特殊能力でつながっており、脳内で会話ができますし、それだけでなく記憶の一部をビジョンとして再生し、それを二人で共有できます。

とはいえそれは、実際に起こった「事実」というより、あくまで「記憶」。二人で覚えている記憶に違いがある場合は、どちらかの記憶を選択することでゲームが進行していきます。『ライフ イズ ストレンジ』シリーズで描かれたものとは違い、二人の超能力はかなりささやかで現実に影響を与えるようなものではないため、本作の静かでリアルな雰囲気を壊す事はありません。


果たして兄弟は事件の真相にたどり着くことができるのか。そして彼ら二人を待ち受けるものとは何なのか。それは是非皆さんの目でお確かめください。静かで重厚ながらも、意外性のあるミステリー展開で最後まで全く飽きずにプレイできること請け合いです。

繰り返しになりますが、筆者は過去作と同等か、それを超えるような良質な読後感のある傑作だと思います。Steamで購入できる他、Xbox Game Passにも含まれますので、PC(Microsoft Store)/Xbox Oneを所持している方は是非遊んでみて下さい。
《文章書く彦》
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