Game*Sparkレビュー:『ファークライ6』 2ページ目 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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Game*Sparkレビュー:『ファークライ6』

シリーズで最も面白いFPSともいえる戦闘の楽しさはあるものの、シナリオなど各所の詰めの甘さも感じざるを得ません。

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意外にも実際には存在感が薄い大統領親子、その物語は失敗している

そしていよいよストーリーについての評価ですが、まずこのトレイラーをご覧ください。

こんなシーンはインゲームで出てこないのです。親子の繋がりが描かれる場面はとても少ないです。メインクエストは大統領の圧政に対抗するため、各地のゲリラを決起させるものが主軸となっており、トレイラーで登場したアントン・カスティロ大統領とその息子ディエゴの登場シーンはかなり少なめとなっています。メインストーリーはアントン親子との対決ではなく、各地を回って武装蜂起をうながすのに割かれています。本作はゲームの進捗がパーセンテージで確認できますが、80%を超えてなお各地ゲリラの著名人を決起させる内容で埋められており、アントン大統領の登場シーンは10回にも満たないです。その少なさ故、大統領という非常に作劇上重要な存在でありながら、彼がなぜ圧政を敷くのか、その行動原理がほとんどわからないのです。そして、それは最後まで続きます。

きちんとは描写されていないものの国民に正当に選ばれた大統領であるはずという点も含め、ここまで敵対視して革命をするほどのことかという印象を“中盤までは”抱いてしまうかもしれません。その原因はカスティロ親子の存在感の薄さにあるといえるでしょう。とにかくアクティビティが多すぎて、ほかのことをしているうちにアントン親子の印象がさらに薄くなっていきます。ブラックマーケットの王のために東奔西走させられたり、1967年にあったという革命のレジェンドと話を進めていったりと、ヤーラでは革命以外のタスクも膨大です。そうこうしている間、アントン親子はどこで何をしているのかも分かりません。また別のミッションを進めているつもりで移動していても違うミッションの話が入ってくるので、ますます話が散漫になっています。

息子のディエゴは気弱で哀れみを知っていますが……。

戦闘中毒者である、クライシスジャンキーのダニーですが、作中ではそのこと否定するそぶりも見せつつ、止められなかった死を悔やみますが、それでも彼の戦闘への加担は止まりません。クライシスジャンキーではないと否定するのなら、もっと死を悔やむべき行動を取るべきです。でなければ説得力がありません。結局彼は、プレイヤーはクライシスジャンキーなのだと突き放すのが今作です。作中でダニーに向けられるある台詞があります。それは「お前は永遠に革命が終わってほしくないんだ」というものです。これはプレイヤーとの同化を果たさない異化としてみることができますが、プレイヤーとしては革命を終わらせたい。しかしプレイアブルキャラクターのダニーはずっと戦いたい、その異化によって突き放されたように感じられるのです。

また作劇上、もっとも問題なのはアントン大統領と息子のディエゴをうまく扱えていない点です。繰り返しますが彼らは60時間におよぶプレイの中で10回登場したかどうかというところですし、なぜアントン大統領はヴィヴィロでヤーラを楽園にしたいのか、まったくみえてこないのです。ディエゴもまた傀儡に留まる配置で、物語の深みに寄与していません。どういう人物なのかほとんどわからないまま進んでいくことになるので、エンディングは意外性というより悪い意味で納得がいきませんでした。トレイラーでは出ずっぱりだったので彼らを中心とした物語が繰り広げられると思うと肩透かしを食うでしょう。実際には各地のゲリラの決起を描くのにシナリオの大半が割かれているのです。

また、トランスジェンダーのキャラクターが出てきて「俺はトランスジェンダーとしてヤーラで生きていくんだぞ」といいますが、ヤーラでのトランスジェンダーの扱いがわからないため感情移入が難しいですし、なおかつ彼のストーリーを追っていくと「トランスジェンダーである」という肩書きがなくてもまったく変わらず成立する物語しか待っていませんでした。どうしてトランスジェンダーとして手術に踏み切ったのか、葛藤はあったか、そういったものは軽くしか触れられません。これは「性別は生まれた身体によって決まる」というトランス排除的な言説を盛んに行う者が少なくない、分断が起こっている状態にある現在、トランジェンダーを描くにあたって作劇が軽すぎて不適切です。当たり前に何の理由もなく出てきていい、シスジェンダーと同様に扱われる、それは現実の社会においても目指すべき未来ですが、トランスジェンダーはまだまだ理由や背景が丁寧に深掘りされるべきキャラクターとして作劇する必要があったのではないかと感じました。

これはシリーズが抱える構造的な問題なのかもしれない

本作の結末には納得がいきません。『ファークライ ニュードーン』のように続編を出す意図があるのかもしれませんが、そうであったとしても本作だけで納得がいく脚本を用意すべきでしょう。しかし、本作の脚本は納得を与えてくれません。端的にヴィランであるアントン大統領周辺の語りが少なすぎるのです。全体を通して語られるのは、革命を起こす側の諸事情であり、シリーズの売りであるはずのヴィランに対する言及が明らかに不足しています。

これは「ファークライ」シリーズ全体を通しての問題かもしれません。なぜなら同じシナリオライターを採用せず、毎回違うシナリオライターを採用しているので、過去の実績を活かしたライティングが行えていない、そういったスタジオ側のある種の冒険が生んでいるミスマッチなのかもしれません。

エンドコンテンツがあるが空虚

エンドコンテンツは革命後の反乱軍を抑える軍事作戦を行うことになり、検閲所やCo-opミッションを通して反乱軍のボスの居場所を探り当てます。そして倒すとアイテムがもらえる、と無限に戦闘を楽しめるようなデザインになっています。しかし、本作のストーリーを鑑みるとどうも戦い続ける気になれない、そう思うプレイヤーは少なくないはずです。

これまでプレイヤーの戦闘行為を揶揄してきたシリーズ。時に皮肉り、時に主人公に「自分は怪物になってしまった」と言わしめる。しかし本作は「永遠に革命が続いてほしいんだろう」とプレイヤーに突きつけてくる発言があります。もちろん革命は終わりますが、終わってからエンドコンテンツが始まります。終わりなき闘争が続くのです。プレイヤーの戦闘行為をなじりながらも否定しない本作は、どこか空虚です。なぜならば革命のあとに戦闘を続けるモチベーションが保てないからです。とてもコンバットドリブンな本作ですが、それはストーリードリブンとしての性質が弱いため、相対的にそう感じてしまうのかもしれません。

永遠に革命が続いてほしいんだろう、といわれてもプレイヤーとしては革命は終わらせたい。そして「ゲリラになった者は永遠にゲリラだ」といわれますが、プレイヤーがいつまでも戦い続けたいと思っているような皮肉は、本作にストーリー終了後もずうっと付き合い続けられるようなモチベーションを維持し続けられるほど深いコンテンツを用意していない以上、空回りしています。作劇での台詞にせよ、詰めが甘い、それが本作の評価をこれまでのシリーズを上回るものにしていないのです。

総評

本作はシリーズで1番シューターとして充実しておりおもしろく、基地を攻めるときは見つかったときの猛勢が以前にも増していて緊張感が高く、なおかつシューターとしてよくできているためリカバリーとしてのいわゆる「プランB」が楽しいです。扱える銃の数は驚くべきバリエーションがありますし、さまざまな創発性を発揮して戦えます。しかし、シリーズにとってもっとも重要だったはずのシナリオは、配役になにをやらせるかといった点に問題を抱えており、シリーズで1番心に残らないヴィランになってしまいました。息子のディエゴの扱いには迷いがみえ、自由意志を持たせたかと思えば結局は傀儡、事前情報でプレイヤーに抱かせる期待とのミスマッチに不満を覚えます。アントン大統領にどうして分断を作るのかを問う核心的な場面は強襲で答えを遮られ、想像の余地も少なく、大統領親子に関するさまざまなトピックが語り切れていないままエンディングを迎える点に納得がいきません。

評価:★★☆良い点
・シューターとしてのおもしろさをこれでもかと詰め込んだコンバットデザイン
・市街地戦も盛り込んだバリエーション
・やり込んでしまう海賊団などのミニゲーム
悪い点
・語られるべきストーリーが散漫
・アントンとディエゴの作劇上での扱いを間違っている
・エンドコンテンツがおもしろみに欠ける
  • ソフト名:『ファークライ6』

  • 価格:9,240円

  • 筆者のプレイプラットフォーム:PC(UBI CONNECT

  • エンディングまで到達してからエンドゲームまでの時間を含めたプレイ時間:60時間



《SHINJI-coo-K(池田伸次)》

FPSとADVを偏愛しつつネトゲにも造詣のあるフリーライター SHINJI-coo-K(池田伸次)

「Game*Spark」誌に寄稿しつつも「IGN JAPAN」誌と「GAMERS ZONE」誌にも寄稿。「インサイド」誌にも寄稿歴あり。今はなき「Alienware Zone」誌や「週刊Steam」誌にも寄稿していたフリーライター。 そしてヒップホップビートメイカー業も営む音楽家兼ゲームライターの兼業家。通称シンジ。

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