個人開発者のSergey Noskovは、11月25日よりPC(Steam)向けに一人称サイバーパンクADV『Hail to the Rainbow』を配信しました。
本作は、悲惨な戦争で両親を失った孤独な少年「イグナット」が懸命にサバイバルしていく姿を描いています。舞台は、大戦後の荒廃したロシアであり、降り注ぐ放射能や人間に襲いかかってくるロボットなど、暗く危険に満ちた“終末世界”です。
作者は、文明崩壊後のロシアをフィルムカメラ片手に歩くウォーキングシム『35mm』や、サイバーパンク世界を2.5Dで描いた『7th Sector』といった作品を手がけており、本作もそうした系譜に属したゲームと言えます。

イグナットは、新たな環境に適応し必死にもがきます。生き延びるための術を少しづつ学んでいった矢先、予期せぬ電子メールが届いたことで事態は急変することに…。
そして本作のシステムは、ホラー的雰囲気とシューティングの要素を取り合わせた一人称アドベンチャーになっており、各要素が偏りなく融合していて飽きの来ない設計でした。とくに「終末ロシア」を反映した廃墟の風景やレトロフューチャーな世界観は、美しくも儚い「退廃美」をこの上なく感じられ非常に魅力的。廃墟マニアや静けさを求めるプレイヤーにはうってつけかもしれません。
また、重厚なストーリーや頭をしっかりと使う謎解きパズル、リッチで豊かなグラフィックスなど、個人開発とは思えないほどクオリティの高い作品でした。というわけで今回は、そんな『Hail to the Rainbow』のプレイレポートをお届けします。
◆操作、対応言語

まず、各オプション設定を見ていきます。本作は、UIと字幕が日本語に対応しています。イベントシーンにおける会話、ゲーム内のメッセージ、アイテム名などなど、日本語翻訳は自然かつ精度が高く素晴らしい出来で、没入感を削がれることなくプレイしました。

次に操作方法ですが、本作はゲームパッドおよびキーボード&マウスに対応しています。筆者は最後までXboxコントローラーを使用しましたが、操作感や操作性はおおむね良く、問題なくプレイしました。ちなみに、設定項目の「視点の揺れ」は最小にしておけば、3D酔いしにくいのでおすすめです。ほかには画質や解像度、BGM音量などの調整が行えます。

また、ゲームの進行具合によって名場面を切り取った「ギャラリー」を解放できます。こういうちょっとしたお楽しみ要素が好きなので嬉しい限りです。
◆退廃美と危険が同居する世界で体験する“世紀末ロシア紀行”


さて本編がスタート。本作の主人公は、「イグナット」という小柄な少年。体格などから、年齢はおそらく中学生くらいでしょうか…普通の世界であれば。
イグナットは窓を破って廃墟の建物に侵入します。目的はなんなのか分かりませんが、分厚い手袋と防護マスクで装備したその姿は、身のまわりの環境がいかに過酷なのかを物語っています。ちなみに、ゲームはチャプターごとに進んでいく形式で、高品質なムービーも相まって本当に映画を見ているような没入感があります。

短いムービーが終わると、さっそく実際にプレイできます。建物内は雑然としており、宇宙飛行士の壁画人工衛星の模型などが飾られています。きっと戦争前は、宇宙に関する資料館として運営されていたのでしょう。


バッテリーを探すため一階へ。イグナットは「IIS」というガジェットを装備していて、そこからインベントリやアイテムの確認などが可能です。クイックアクセスは十字キーに割り当てられ、レンチやドローンといったさまざまな便利ツールを即座に呼び出せます。
探知機もそのひとつで、レーダーには目標物が映し出されるので、それをたよりにキーアイテムを見つけていきます。


探索の手触りとしては、基本的にほかのアドベンチャーゲームと変わりませんが、インタラクトできる場所が思ったより少ない印象です。とはいえ、情報量が多くないゆえに世界観を壊すこともないし、チルな雰囲気を存分に堪能できる良いゲームデザインだなと感じました。


いろいろ物色していると「マグネットキー」を発見しました。開かずの部屋の鍵と照合し無事にアンロック。


航空博物館らしき部屋を通り抜けると、無力化されたメカの残骸が転がっており、不穏な空気に包まれています。


奥へ進んでいくと、固く閉ざされた地下扉がありました。インベントリから「改造レンチ」を取り出します。道具を使ったアクションはプレイヤー自ら操作する必要があり、スティックを左右に動かしてこじ開けていきます。このように、行動のすべてがプレイヤーに委ねられているため、ゲームへの没入感や一体感がとても高いところも本作の魅力でした。



ハシゴを降りていき、凍りついた地下シェルターを探索。すると、ひときわ明るい部屋に何かが置いてあります。ランプのような形のガジェットに電池を差し込むと…、「パワーバンク」というモバイルバッテリーになりました。これさえあれば、ライトや他のデバイスに電力を供給可能です。


パワーバンクを使って電池切れのデバイスを復旧すると、人々が残したさまざまなメッセージや写真を読むことができます。こんな風に、文明崩壊前に何が起きたのか、なぜ破滅してしまったのか…など、プレイヤーが自ら調べて断片をつなぎ合わせることで、物語の核心が少しずつ明るみになるという、スリル感のある仕掛けになっています。

またパワーバンクは、謎解きにも使えます。地下シェルターの一角にあやしげな金庫があったので開けたいところですが、暗号が必要です。
なにかヒントはないか…と周りを見渡すと、壁に「4桁 年月 ルナ2M号」と謎のメッセージが。これは一体なにを言ってるのでしょうか。


そこで、さきほどは見れなかった博物館のディスプレイなどに電源を入れ、片っ端から調べてみます。そして、古い映写機を再生したところ、宇宙開発の歴史が描かれています。その中には、月探査ロケット「ルナM2号」の打ち上げに関する描写も。もしかしてこれの事なのか…?

案の定、打ち上げ年の数字を入力するとアンロックされました。金庫から「鉄製のコイン」を入手しますが、どこで使うかは不明。


当初の目標である、パワーバンクをゲットできたのでこの廃墟から脱出することに。トイレにあったハンドルを使って、滑車レバーを巻き上げます。先端には、大きな鉄くずが結ばれており、勢いをつけて放しドアの破壊に成功。ようやく外の世界へ出れます。


外の世界は、一面雪に覆われた極寒の環境で、人の気配がしません。そのうえ、「レインボー党」と呼ばれる独裁政党が幅を利かせているようで、監視用の気球が上空を偵察している、まさに“終末”にふさわしい世界です。

廃墟を脱出した後、イグナット少年の住処である基地に戻ってきました。ここで初めて素顔が明かされますが、素朴な少年らしい顔つきとは裏腹に、これまでの過酷なサバイバル生活の様子が深く刻まれている印象も受けます。


イグナットのPCに、差出人不明のメッセージが届きます。「お前の中には 宇宙が広がっている!」という文面に、心がざわつくイグナット。そのメッセージは、崩壊直後に行方不明になった父親が誕生日プレゼントに書いてくれたものと一言一句同じだったのです。
父親からのメッセージだと確信したイグナットは、信号の発信源を特定するべく送信元を探す旅に出る決意をします。


その前に、2個目の送信機を作るため作業場へ。イグナットは理系でエンジニア気質なので、工作機械を作るのが得意です。送信機の組み立ては謎解きパズルのようになっており、プレイヤーが実際に操作して部品を組み立てる必要があります。これが案外頭をひねるので、やりがいがあって楽しかったです。


完成した送信機を「塔」に持っていきます。なぜここに運んだかというと、以前からメッセージをやり取りしていた「ニコライ」が欲しがっていたからで、送信機と自動車部品を交換する約束をしていたのです。


イグナットは、基地のほかに「ガレージ」も保有しており、車をそこに置いています。今までと同じように、車の修理もプレイヤー自らの手で行います。


まずは、リストを見つけて手順を確認。そして、キャブレターと新しいスパークプラグを取り付けて、ホイールを交換し、車をジャッキから外せば修理成功です。
取り付けは、アイコンの点をスティックをうまく使って中央の円から出さければ成功する、ミニゲーム的なアクションをクリアしないといけません。また、タイヤをはめるのも、スティックを回転させながら取り付けていきます。


無事修理が完了したので、さっそく乗ってみます。運転はいわゆるマニュアル操作で、ギアを切り替えながら進めていきます。ハンドリングの感覚は、すこし慣性がきいていますが快適でした。これで父親の痕跡を探すための準備が整いました。


出発前に、新しい「ドローン」の確認をします。ドローンはいつでも使用可能なデバイスで、実際に操作して上空からの調査に役立ちます。操作はRTボタンで上昇、LTボタンで下降し、スティックで左右移動。イグナットから離れすぎると通信が途切れるので注意です。


基地を飛び出して、いざ本格的な“終末ロシア旅行”へ。本作はオープンワールドではありませんが、要所要所にランドマーク的な建物や廃墟などが存在し、立ち寄ることができます。


こうした場所で崩壊前の世界の痕跡や、貴重なアイテムを集めながら進んでいくわけですが、この「ちょっと」立ち寄れるくらいのマップ規模が終末旅行感を掻き立ててくれて心地よい。余計なBGMも流れないので、とてもチルで落ち着いた雰囲気でプレイできます。



それと本作は、「フォトモード」を実装しており、退廃的な美しい世界の風景を余すことなく堪能できます。高品質なグラフィックも相まって、スクショの撮影だけでも時間が溶けてしまうでしょう。

ガソリンスタンドを探索していると、電池切れのタブレットを発見。充電してメッセージを見ると、このスタンドから遠くない場所に廃バンカー「オブジェクト281」があるとのこと。ただ美しい世界を旅するだけでなく、ミステリアスな情報をもとに次の目的地を探す…アドベンチャーゲームとしてもしっかりと魅力的でワクワクします。


メカニクスの残骸や機械の廃棄場を通り抜け、山道を登っていきます。急峻な道は、ちゃんとギアをLowに入れ発進しないと登れないのがリアルでした。



メッセージの発信元と思しき「通信ステーション」へ到着。中へ侵入し、ドローンを駆使しコンソールの暗号を解読します。

コンソールのログには、発信元の人物と管理者とのやりとりが残っていました。それによると、イグナットの故郷エリア付近からのメッセージのようです。


父の行方をたどる、大きな手がかりを掴んだイグナットは一旦基地へ帰ることに。順風満帆の旅のようですが、帰路中に事件が起きます。

なんと、偶然にも巨大な「戦闘型メカニクス」に遭遇してしまいます。こいつはだいぶ危険らしく、人間を容赦なく襲うハンターとのこと。全力スピードで車を走らせなんとか切り抜け基地へ避難します…!


ワークベンチでは、あつめた素材を使用して回復アイテムを合成したり、武器やツールを強化することができます。

すると案の定さきほどのメカニクスに襲撃され、基地は火の海に…!かろうじて逃げ出すイグナット。


しかし、避難経路にも小型のメカニクス「ハンディマン」が侵入しており、戦闘になります。戦闘システムはとてもシンプルで、武器を装備してRTで振り下ろし攻撃、LTで防御となります。
バトルは良くも悪くも平均的といった感触で、激しさはありますが爽快感などはとくに感じませんでした。敵は2~3回殴れば倒れるので、そこまで難しさもありません。

基地を脱出し、ふたたび極寒の荒野をさまようイグナット。果たして、父親を見つけることはできるのか、この孤独な旅路の果てに何が待ち受けるのか――。ぜひ、プレイして確かめてほしいと思います。
ちなみに筆者は、開発者のデビュー作『35mm』からすべての作品をプレイ済。それを踏まえて今作は、グラフィック、ゲームプレイ、シナリオ、演出、世界観など、すべてが「正当進化を遂げている」と感じました。
とくに作り込まれたグラフィックスと退廃的なロシアの美しい風景、孤独な少年の抱える深みのある物語は、非常に完成度が高く、とても素晴らしい出来になっていました。冒険と廃墟が好きなプレイヤーには、突き刺さるアドベンチャーゲームなのでオススメです。




『Hail to Rainbow』はPC(Steam)向けに現在配信中です。
タイトル:『Hail to the Rainbow』
対応機種:Window PC(Steam)
記事におけるプレイ機種:Window PC(Steam)
発売日:2025年11月25日
著者プレイ時間:7時間












