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“後悔”が平和賞を作った『戦場のヴァルキュリア4』科学の誘惑に取り込まれた男―「死の商人」ノーベル【ゲームで世界を観る#20】

科学のダークサイドに堕ちた研究者は数知れず。

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“後悔”が平和賞を作った『戦場のヴァルキュリア4』科学の誘惑に取り込まれた男―「死の商人」ノーベル【ゲームで世界を観る#20】
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戦争と科学技術は切り離せないもので、テクノロジーが大きく発展するのは戦時中の軍事研究であることは否めません。予算も資材も平時とは比べものにならないほど投入され、人を殺すものであると分かっていても、その環境に魅惑された多くの研究者が様々な形で歴史に名を残しています。戦時の技術は後に人々の生活を支えるものとなり、極論にしてしまえば、私たちは平時に於いても戦争の恩恵を受けて生活しているとも言えます。

『戦場のヴァルキュリア4』も間接的に戦争と科学について描いており、擲弾砲を研究するレイリィ・ミラーはダイナマイト開発で知られるアルフレッド・ノーベルがモデルになっています。ダイナマイトで得た資産を元手に、科学技術に発展した人物を表彰するノーベル賞を創設した人物ですが、存命中は「死の商人」と揶揄され、その莫大な資産の大半は兵器として軍に供与したダイナマイトの売り上げによるものでした。

ノーベルの父親は発明家で、ストックホルムで貧しい暮らしをしていましたが、機雷開発で財を成して一転裕福に、ノーベルもロシアで恵まれた幼少期を送りました。クリミア戦争への供与で会社は潤いましたが、終戦後は需要がなくなり一気に倒産、再びストックホルムに戻ったノーベルは父と同様に爆発物の研究を始めます。

ノーベルは1846年に発明されたばかりのニトログリセリンに目を付けました。ニトログリセリンは強力な爆発力を生むものの、僅かな衝撃でも着火してしまう性質があります。そのうえ着火の成功率が低く、爆発させたいときに爆発せず、意図しない状況で爆発を起こすという取り扱いが非常に困難な代物でした。

ノーベルは雷管の発明による「確実な着火」、珪藻土を使用した「安全性」の2点を改良し、ダイナマイトとして商品化に成功しました。しかしその途中、爆発事故を起こして工場が全焼、従業員4人と弟を亡くしています。

1867年、アルフレッドが34歳でダイナマイトを完成させると、土木工事の爆破作業を劇的に効率化することから一気に普及しました。各国に工場を据えて企業の規模も拡大していきます。それから間もない1870年にプロイセン・フランス間の普仏戦争が始まりました。するとダイナマイトは爆弾として転用され、参戦国がこぞって購入、使用します。ノーベルは戦場で使われることを承知の上で、ダイナマイトの生産を更に加速しました。

ノーベルはダイナマイトとともに火薬の改良にも取り組みました。当時の火薬はいわゆる黒色火薬で、弾丸を発射する毎に白煙が出ていたため、連射をしていると周囲が煙に覆われて視界を塞ぐ欠点がありました。その白煙を抑えた火薬「バリスタイト」を開発、これによって銃の連射能力が向上します。またプラスチック爆薬の元祖「ゼリグナイト」も発明しています。

ダイナマイトと兵器開発によって、ノーベルの私財は最終的に現在の価値に換算して約250億円にも上りました。ノーベルは「戦いにすらならない強力な兵器を各国が持てば、逆に戦争は起こせなくなるだろう」と、今で言う核抑止力のような考えを持って軍需産業に携わっていたようです。戦争を早く終わらせるために戦争を加速させる。今の日本では待ったがかかるでしょうが、戦時下にいる人々には「希望」として映る考えでしょう。それを正義と信じるが故に、いつの間にか狂気へとすり替わっていく。『戦ヴァル4』のラグナイト、ヴァルキュリアの研究も、核兵器などの実際の歴史もその例を挙げればきりがありません。過ちに気づくのはもう後戻りできないところに立ってからなのです。

ノーベルがそのことを後悔するきっかけは、人違いで自分の訃報が新聞に載ったことでした。そこで自分が「死の商人」と表現され、自分の業績が本当はどう思われていたのか、図らずも見てしまいました。戦争を早く終わらせることに貢献したと思っていたのが、多くの恨みを買っていると気づきショックを受けたそうです。

戦争の利益によって得てしまった財産は、せめて本当に人々の役に立つ研究に使って欲しい。その思いからほとんどの私財をノーベル財団の資金源に充て、業績を残した人に賞金を贈るノーベル賞が設立されました。科学部門とは別に平和賞が存在するのは戦争に加担したことへの償いとしてなのです。戦時の利益が財源であることへの批判もあり、バーナード・ショーは文学賞の受賞を当初拒絶していました。

1人につき約1億円になるノーベル賞の賞金は財団の資産運用によって拠出しているもの。「死の商人」の利益が原資になっていることは否めません。私たちの身近にある製品の数々も、大本を辿れば軍事テクノロジーを由来とするものに溢れています。そんな科学技術の闇をどのように受け止め、どのように使っていくのか、時々立ち止まって考えてゆくことが大切ではないでしょうか。


《Skollfang》

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