『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』「分断」したからこそ守られたもの―有袋類とオーストラリア大陸の分離【ゲームで世界を観る#104】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』「分断」したからこそ守られたもの―有袋類とオーストラリア大陸の分離【ゲームで世界を観る#104】

繋がりは良いものも悪いものも呼び寄せる。

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『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』「分断」したからこそ守られたもの―有袋類とオーストラリア大陸の分離【ゲームで世界を観る#104】
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いけ! ドールマン!

『DEATH STRANDING 2: ON THE BEATCH』の舞台はアメリカ大陸から遠く離れたオーストラリア大陸です。サムは「プレートゲート」と呼ばれている謎のワープ装置をくぐって、メキシコからオーストラリアに乗り込みます。オーストラリアと言えば、コアラやカンガルーなどの有袋類が多く残っていることが有名です。一般的な哺乳類の有胎盤類と異なり、有袋類は子宮で胎児を大きく育てることが難しく、未熟児がカンガルーのポケットのような育児嚢に移動して成長するのが大きな特徴です。作品中では群れからはぐれた個体を保護する活動が推奨され、保護区に行けば放し飼いしている風景が見られます。

アメリカのオポッサムなどオーストラリア以外にも有袋類は生息していますが、勢力としてはあまり大きくはありません。他の大陸とは大きく異なる動物群がオーストラリアにいるのは何故なのか、それは『DEATH STRANDING』の物語の核である「分断」に理由があります。

哺乳類の進化の過程においては、最初はカモノハシ、ハリモグラのような卵生でした。そこから1億8000万年前に有袋類、1億6000万年前に有袋類から有胎盤類に分岐していきます。それと時期を同じくして、現在の6大陸が合体した超大陸パンゲアが分裂を始め、分断された生物はそれぞれの大陸で進化していくことになります。

つまり、元々はオーストラリアだけでない世界全域に有袋類は生息していたのです。有胎盤類は子宮内で未熟児を保護し続けることが可能なため、有袋類よりも繁殖力の面で有利でした。そのため、有胎盤類の勢力は競合する有袋類を駆逐していき、ユーラシア、アフリカ、北米で有袋類は絶滅してしまいます。

一方、凍結した南極大陸を除き、オーストラリアと南アメリカは「分断」に守られて有胎盤類の進出はありませんでした。恐竜絶滅後の6500万年前から生物史的には「最近」まで有袋類は他の大陸のような危機にさらされること無く繁栄を続けていたのです。

長い間有胎盤類と有袋類は別の大陸で進化していきますが、面白いことに両者の間で「モモンガ」と「フクロモモンガ」、「オオカミ」と「フクロオオカミ」など、似た形態の種が出現しました。これは、生態に有利な特徴を獲得するに当って、環境や捕食など同じ条件下では似通ったものが出現する「収斂進化」という現象です。

例えば、アリクイとフクロアリクイは大きさこそ違うものの、共に長い舌を持ち、土を掘り返す硬い爪を持っています。食べるものが蟻塚を築くシロアリだったため、蟻塚を崩してシロアリを舐め取る方向に自然と最適化されたのです。

ところが300万年前に北米と南米が陸で繋がると、北米で進化していた有胎盤類が南米に進出。極僅かな種を除いて南米から有袋類はいなくなります。「繋がり」が滅びを招いた例といえるでしょう。このときに北米へ進出して生き延びたのがオポッサムです。そしてオーストラリア大陸でも、氷河期後の人類到達や近世の入植による、乱獲や家畜の持ち込みで有袋類の絶滅が起こっています。

有袋類はかつて3メートルほどのディプロトドンのような大きな種がいましたが、大型獣を狩猟する人類が駆逐したと考えられています(諸説あり)。オーストラリア先住民が持ち込んだディンゴと競合するフクロオオカミは衰退し、欧州から牧畜が導入されると駆除の対象にされて絶滅しました。

『DEATH STRANDING』では「繋がり」を求めてひたすら駆けずり回るのですが、繋がりとは境界が破られること、そして共通化を推し進めることでもあります。それは強者による一方的な進出を許し、弱者の淘汰を招くリスクを抱えています。生物界で言えば、人間活動によって他地域に進出した「侵略的外来種」が在来種を弱らせていくのがその例です。アルゼンチンアリやヒアリ、ナガエツルノゲイトウ、ジャイアント・ホグウィードなど、各所が力を入れて対策している様子を見たことがあるでしょう。

コトドリ ゲッツだぜ!

長い歴史の中では人類もまた侵略的外来種の一つと見ることもできます。20世紀から21世紀にかけてグローバルな繋がりができあがった現在の地球では、生物の絶滅スピードはより加速しています。この大混乱の先に何が待っているのか、それはまだ誰にも分かりません。


ライター:Skollfang,編集:宮崎 紘輔


ライター/好奇心と探究心 Skollfang

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編集/タンクトップおじさん 宮崎 紘輔

Game*Spark、インサイドを運営するイードのゲームメディア及びアニメメディアの事業責任者でもあるただのニンゲン。 日本の新卒一括採用システムに反旗を翻すべく、一日18時間くらいゲームをしてアニメを見るというささやかな抵抗を6年続けていたが、親には勘当されそうになるし、バイト先の社長は逮捕されるしでインサイド編集部に無気力バイトとして転がり込む。 偶然も重なって2017年にゲームメディアの統括となり、ポジションが空位になっていたGame*Sparkの編集長的ポジションに就くも、ちょっとしたハプニングもあって2022年7月をもって編集長の席を譲る。 夢はイードのゲームメディア群を日本のゲーム業界で一目置かれる存在にすること、ゲームやアニメを自分達で出すこと(ウィザードリィでちょっと実現)、日本武道館でライブすること、グラストンベリーのヘッドライナーになること……など。

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