
生物の進化や地球の歴史の概念は少なくとも西欧科学において近代に登場し、環境負荷を意識するエコロジーの研究はまだ50年ほど。それまでの人間の発展が地球にどんな影響を与えてきたか、人類がようやく気が付いたときには既に取り返しの付かないところまで来ていました。開発や外来種による生態系の破壊は言うに及ばず、地球温暖化の影響は最早誰にも否定できない被害を出すまでになっています。
その動きは地球の歴史において最も特異なものの一つであり、その前後で環境が激変していくのはもう避けられません。今私達が生きているこの時代が、やがて土に埋もれて地層になったときどんな痕跡が残るだろうか。そして、地球史においてどんな意味を持つのか。それを表わす「人新世」(アントロポセン)という言葉が今注目を集めています。

ゲーム中では人間の構造物らしきものが化石状態で地表に現れていました。こうした良い状態で保存されるケースは稀で、溶岩に飲まれる、ポンペイのように火山灰で包まれるなど、風化から遮断された状況に置かれる必要があります。
現在普及している一般的な木造やコンクリート建造は、住人のメンテナンスが無ければ風雨の浸食や紫外線による劣化、植物の繁茂であっという間に崩壊してしまいます。岩石が削られていくように、生物の骨が残らないように、人類文明が滅んでしまえばその遺物の大半がいずれ灰燼に帰すでしょう。もちろん、それに至るには数百万年かかるでしょうが、地球の歴史からすればそこそこ短い方です。もし知識などの情報を永久に残す気でいるなら徹底した対策は欠かせないでしょう。あなたのSNSのつぶやきも、どこかに保管しておいたら千年後に貴重な文献になっているかも?
海底に沈んだプラスチックゴミはおそらく形が残りやすいものの一種です。海底は光が届かず紫外線の影響がありません。近年は低酸素の海域も増えてきているので、プラゴミがそのまま半永久的に溜まり続ける可能性が示唆されています。海底は化石になりやすい環境なので、ヒマラヤやアンデスには太古の海の貝類が大量に見つかります。
人類が捨てたゴミもいずれやがて地下に埋もれていき、将来的には文明遺物の化石と、アスファルトや金属、マイクロプラスチックでできた一層が形成されると予想できます。私達はあくまでも膨大な地球史に於ける最新の1ページに過ぎない、そんな捉え方がこれから重要になるかも知れません。
万年単位の「地層」になるには途方もない時間がかかるでしょうが、実はもっと身近な単位、一年単位で地球の活動が記録される「年縞」という現象があります。湖底や海底の安定した環境に積もった泥は、雨が多く降ったり、逆に少なかったり、洪水で土砂が混ざったり、季節の周期などで薄い膜ごとに色が変化していきます。これをボーリングで掘り出すと縞模様が現れ、この模様一つ一つにその年の気候を読み解く手がかりが秘められています。
福井県の水月湖には世界でも最も保存状態が良い7万年分の年縞が有り、特徴的な火山灰と歴史上の記録を照合して、数年程度の誤差で記録を読み解くことが可能です。水月湖の年縞を基準に世界各地の年縞を組み合わせることで、人類有史の範囲を含めた世界の気候変動を詳細に確認できるようになりました。
現在メキシコでは年縞からマヤ文明の興亡を探る研究が行なわれています。年縞に含まれる窒素やリンの濃度から周辺地域の人口を推定でき、それと干魃や冷害などの気候変動の状況と組合わせ、文明が衰退した原因を探っていきます。
恐竜の大量絶滅が起きた中生代の終わりであるK-Pg境界(旧K-T境界)には、隕石由来のイリジウムの痕跡が見つかり、地球全体を隕石が巻き上げた塵が覆ったことが推定されています。人類の活動、特に産業革命以降は二酸化炭素や核実験による放射性物質など、地球の環境を変えてしまう程大量の排出物を大気に出してきました。そうした情報も年縞には含まれています。
この世界に絶対の永遠が存在できない以上、人類文明はいずれ滅亡を迎える……などと気の遠い話になる以前に、既に人類は自爆スイッチを押してしまっていて、あと100年もしないうちに地球が熱帯化するという警告をする人も出てきました。
事実、年縞をはじめとする地球に刻まれたあらゆる情報は、この200年で加速度的に環境が激変してきたことを示しています。特に大気中二酸化炭素量は200年で200ppmから400ppmに急上昇していて、過去の大絶滅期が800~2000ppm(推定)だったことを鑑みると、人類どころかビッグファイブに連なる大絶滅時代が到来する可能性も決して低くはありません。
とはいえ、生物全体で見れば少なからず生き延びる種はいるでしょうし、そこからまた新たな知的文明が築かれることもあるでしょう。そうなったとき、人新世の地層を彼らはどう見るでしょうか。レア資源の鉱脈にはなりそうですが、はるか先の未来、人類は自滅した愚かな種とみなされるかも知れませんね。







