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RTAのために転職する走者達。1周100時間オーバーの「超長時間RTA」の世界

世の中には、1周100時間を超えるRTAに挑むために転居や転職をする走者が存在します。『バテン・カイトス』100%RTAにて338時間切りという偉業を達成したプレイヤーへの取材に基づいて、「超長時間RTA」の世界を紐解きます。

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RTAのために転職する走者達。1周100時間オーバーの「超長時間RTA」の世界
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「長時間のRTA」と聞いて、皆さんはどれくらいのプレイ時間を思い浮かべますか?先日当サイトで紹介した『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の100%RTAの世界記録は15時間52分でした。これはアクションゲームのRTAとしては驚異の長さですが、RPGをはじめとする他のジャンルではどうでしょうか。

【RTA特集】『ゼルダの伝説 BotW』100%クリアRTA、16時間切りの領域へ突入。「アイテム999個増殖バグ」がもたらした革命とは

長時間RTAの代名詞としてよく名前が挙げられるのが、2003年に発売されたRPG『バテン・カイトス 終わらない翼と失われた海(以下、バテン・カイトス)』です。ギネス世界記録にも登録された、100%カテゴリーの世界記録(2016年時点)はなんと341時間20分。本記事では、今年1月に同カテゴリーにおいて337時間55分という世界記録を樹立した-m(ハイフンエム)氏への取材を通じて伺った話をもとに、100時間オーバーの「超長時間RTA」の世界を紐解きます。

下準備10年、研究3年、本番2週間。『バテン・カイトス』100%RTAの深淵

『バテン・カイトス』100%RTAには、何故300時間以上もかかるのでしょうか?その原因は、ある1つのアイテムにあります。100%クリアの達成条件は全ギャザリング(マグナス、SPコンボ、ミュージック)を集めることなのですが、その中でも「潤いさらさらヘア」というマグナスは、「シャンプー」という別のマグナスを入手した後に336時間(24時間×14日)かけて時間変化させることでしか手に入りません。すなわち、「潤いさらさらヘア」を正規の手段で入手する限り、336時間以内に100%クリアすることは不可能です。

では、「シャンプー」取得後は何も考えずに通常プレイをすれば良いのかというと、そんなことはありません。ゲーム内でマグナスの時間変化を止めてしまう行動がいくつかあるため、それらを可能な限り避けるための適切なルートを組む必要があります。

『バテン・カイトス』100%RTAでは、放置時間などを除いた実質プレイ時間は、攻略ルートにもよりますが、50時間程度と言われています。そのため、プレイヤーは食事や睡眠、仕事といった日常生活をこなしながらRTAを走ることになるのですが、こうしたゲームプレイが生んだ悲しいエピソードがひとつあります。100%カテゴリー最初の走者であるBaffan氏は、ある日Twitchにて記録挑戦の様子を配信していました。ところが、配信画面が長時間アイドル状態だったことが「ゲーム以外のコンテンツ」とみなされてしまい、利用規約違反としてアカウントを一時的に停止されてしまったのです(利用規約の改訂により、現在はアカウントを停止されることなく100%RTAに挑戦できます)。

Random: Baten Kaitos Speedrun Attempt Leads To Temporary Twitch Account Ban

そんなBaffan氏の記録に挑んだのが、日本の-m氏です。元々『バテン・カイトス』の大ファンで、2007年から低レベルクリアの研究に打ち込んでいた同氏は、Baffan氏が2015年に創始した100%カテゴリーに興味を持ち、自身の研究成果はRTAにも役立つのでは、と考えました。そこから3年のルート研究期間を経て100%RTAに挑戦した同氏によると、13年間にわたる長い準備期間もさることながら、2週間の本番を走りきるためには、転職・転居を含めた「人生のセットアップ」も重要だったとのこと。

同氏が使用する攻略ルートは、土曜18時に走り始めることが前提となっているほか、3日目には12時間以上プレイするための有給休暇の取得が必要で、残業の許されない日も多いなど、多くの制約が存在します。同氏はこうした条件に対応するために、業務調整のしやすい会社への転職や、会社近くへの転居を行い、338時間切りの偉業を見事達成したのです。

今後の課題として同氏は、土曜18時に走り始めなければならないという制約を緩和し、開始時刻に幅を持たせられるようなルートの開発を挙げています。この問題が解決すれば、「シャンプー」取得までの最初の区間で良いタイムが出るまで何度か試行を重ねることができ、結果として更なる世界記録の更新が期待されます。

『グランツーリスモ4』や『とび森』も。世界の超長時間RTA

『バテン・カイトス』以外にも、超長時間のRTAチャレンジは様々なタイトルで行われています。『グランツーリスモ4』では、アメリカ人走者4人のチームによるリレー形式ではありますが、230時間35分ものノンストップのプレイによって、2020年に「100% No B-Spec」カテゴリーが完走されています。

「B-Specモード」とはAIに車を運転させるモードのことであり、これを禁止する同カテゴリーでは、手動運転による「24時間耐久レース」を複数回こなす必要があります。『バテン・カイトス』100%クリアより100時間ほど短いものの、プレイ密度の高い、非常に過酷なチャレンジと言えるでしょう。

『とびだせ どうぶつの森 amiibo+』では、2021年にアメリカのColdeggman氏によって638時間27分での100%クリアが報告されています。集めるべきアイテムは、同氏の4877行に及ぶPastebinのリストに見られるように膨大ですが、中でも支配的なのは、プレイ時間が500時間経過しないと獲得できない「めいよそんみんのバッジ」の存在です。

638時間中、実際のプレイ時間は300時間強と推定されており、これは『バテン・カイトス』100%よりも1割短い程度です。この1回のチャレンジを成功させるのにどれだけの労力が必要だったのか想像もつきませんが、かかったタイムを見るだけでも、同氏の『とび森』への深い愛が感じられます。

一方で、超長時間チャレンジの中には、ゲーム内の季節が変わるのをじっと待ち続けるものや、ひたすら遠くまで歩き続けるだけのものも存在します。こうしたチャレンジは、RTAの計測基準(ゲームスタートからクリアまでに経過した実時間)に則れば、数千時間要することもあります。「世界一長いRTA/スピードランとは何なのか?」に関する議論は、speedrun.comのフォーラム等で度々起こりますが、どこまでをRTAとみなせるかの基準が人それぞれであるために、決して収束することはありません。

RTAとは何なのか、どこまでがRTAなのかという疑問を投げかける超長時間RTAの世界。そんな世界の中で、わずかな更新余地を求めてルート研究に励み、ひたむきに努力を重ねる走者達には、ただただ感心するばかりです。

最後になりますが、-m氏が運営メンバーの1人として参加している「Long Speedrun Summit 2022」というオンラインのRTAイベントが、9月16日~25日にかけて217時間連続で開催されます(スケジュール)。「RTA in Japan」といった他のイベントではなかなかお目にかかれないタイトルのRTAが目白押しの本イベント。秋の夜長に、長時間RTAの世界を覗いてみてはいかがでしょうか。

LongSpeedrunSummit - Twitch



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《とんこつ》

RTAプレイヤーです とんこつ

福岡県出身。東京大学卒業後、2018年にRTA(リアルタイムアタック)に出会い、現在に至るまでTwitch & Youtube Partnerとして活動中。主なプレイタイトルはスーパードンキーコングシリーズとマリオ&ルイージRPGシリーズ。RTA in JapanやGames Done Quickへの出場多数。

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