“あー、楽しかった”だけで終わらない作品を作りたい―『ナツノカナタ』『午前五時にピアノを弾く』開発者・Kazuhide Oka氏インタビュー | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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“あー、楽しかった”だけで終わらない作品を作りたい―『ナツノカナタ』『午前五時にピアノを弾く』開発者・Kazuhide Oka氏インタビュー

新作リリースに先んじて、魅力的な世界観を作り出すその秘密やこだわりを伺いました!

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“あー、楽しかった”だけで終わらない作品を作りたい―『ナツノカナタ』『午前五時にピアノを弾く』開発者・Kazuhide Oka氏インタビュー
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個人ゲームクリエイターのKazuhide Oka氏は、PC向け短編アドベンチャーゲーム『午前五時にピアノを弾く』を2023年5月2日にリリースします。

本作は、高評価アドベンチャー『ナツノカナタ』で知られる同氏が手がける最新作。舞台となるのは午前五時くらいになると霧の発生する町で、主人公の少女は霧の濃い朝に必ず散歩に出かけています。プレイヤーは霧の中で出会う不思議なものに対処しながら、一日一日を過ごして物語を進めていきます。


Game*Sparkは、新作『午前五時にピアノを弾く』のリリースにあわせて同作を制作したKazuhide Oka氏へのインタビューを実施。魅力的な雰囲気の作品を生み出すその秘密や、作品へのこだわりについて伺いました!

◆会社員として働きながら……『ナツノカナタ』制作エピソード

――まず、自己紹介をお願いします。

Kazuhide Oka: はじめまして、個人でゲームを開発しているKazuhide Okaと申します。この名義では『ナツノカナタ』『午前五時にピアノを弾く』というゲームを制作しています。広島県の生まれで、今は東京で会社員として働きながらゲームを作っています。

ゲームそのものは学生時代から作っていて、以前はモバイル向けのゲームなどの配信もしていました。それから心機一転じゃないですが「Steamでゲームを出そうかな」と思って、働き始めてから『ナツノカナタ』を作り始めました。余談ですが、実はゲーム制作者としてこういったインタビューを受けることが夢でした(笑)。

――『ナツノカナタ』の世界観や設定に強い魅力を感じました。どういったきっかけで着想を得た作品なのでしょうか?

Kazuhide Oka:そもそも『ナツノカナタ』は、世界観や設定の前にゲームパートから作り始めた作品だったんです。僕は小説を読むのが好きなので、テキストを読みながら情景や世界観を想像して、「こういう空気感っていいな」みたいな雰囲気を感じ取るのが好きなんです。

でも、小説っていつか読み終わってしまうんですよ。大好きな作家さんの作品でも、全部読んだらもう読めるものがなくなってしまう。もちろん読み返すこともできるんですが。

それがゲームだったら、ストーリーが終わったあとでも続けられるものがあるんですよね。例えばRPGだったら、クリアしてないクエストで遊んだりとか。僕が好きだと思う「テキストを読んで想像する」という楽しみは、ゲームでならずっと続けられるんじゃないか……というのが、『ナツノカナタ』の最初のイメージでした。

なので『ナツノカナタ』はゲームパート、しかも「エンディングを迎えたあとのずっと遊び続けられるゲームパート」を前提として作り始めました。その上で「何かをずっと続けられる世界観や設定」ってどういうものだろう、というところを考えてから話を作っていったんですね。なので、ストーリーは後から作ったものでもあるんですよ。

――なるほど。

Kazuhide Oka:『ラブプラス』みたいに、毎日学校に行って勉強して、放課後に彼女とデートして、みたいなゲームはまさしく「クリア後も続いていく」ゲームなんですね。他にも、“RPGで依頼を受けてダンジョンに潜って生活する”みたいなゲームもそういったジャンルに近いと思います。でも、そのジャンルだと「テキストを読んで情景を想像する」という僕のやろうとしているテーマとは相性が悪いかな、と思って自分なりの世界観を探しました。

個人的には、「現代の爽やかさと寂しさみたいな雰囲気」が好きなので……たとえば、終末を迎えた世界なら「物資を探すために探索する」というシステムがあれば、ずっと続けられそうかな、と思い至りました。

世界観に関しては、僕の出身地である広島の尾道市の風景に大きな影響を受けていると思います。尾道市で生まれ育って感じた潮の香りのような、ノスタルジックな日本の風景は僕の原点なのかも知れませんね。地元なのでオススメしておきますが、尾道は良いところですよ(笑)。

――キャラクター同士の掛け合いや世界の雰囲気も素敵で、話が進む度に「気付かされていくこと」「ずれていくこと」など、とても印象的な作品でした。

Kazuhide Oka:「気付かされていくこと」「ずれていくこと」みたいな要素は、おそらく僕の好きな世界観や雰囲気などの前提を元に、僕自身が元々持っていた引き出しから選んだものだろうと思います。

日常の中で感じたいろんなことから、今回の設定に合いそうなものを選んで使っている感じです。メインストーリーの主題となるような内容も、ゲームの「ランダムな要素(=偶然)」と相性がよさそう、という理由で選んでいます。ゲームシステムに関しては、僕なりに「こうしよう!」と決めてから、物語として書き出せる世界観を当てはめた感じですね。

――3月にも更新があるなど、精力的なアップデートが続いています。今後も『ナツノカナタ』の世界は広がっていくのでしょうか?

Kazuhide Oka:正直なところ『ナツノカナタ』がここまで長く続くとは思ってなかったんですよ。でも、フルリリース(早期アクセスは2022年8月18日に終了)してからも「あのキャラクターのエピソードもまだやってないよな」といった気持ちがあったんです。

なので、追加エピソードに関しては「やらなきゃいけない」という使命感で作っているところもあるかなと思います(笑)。僕が区切りをつけられたかな、という部分まで作ろうと思います。

――“メグル(登場キャラクター)”の話も追加してくれるんだな、と驚きました。

Kazuhide Oka:“メグル”の話もない訳にはいかないよな、という感じですかね(笑)。本当に想像してなかったくらい多くの人々に『ナツノカナタ』を受け入れてもらって、大きなやる気につながっています。

また、ユーザーの方から「あのキャラの話はないんですか?」といった質問や意見が来ることもあります。それを聞いて「書きます!」と行動に移すこともありますが、こういったキャラクターエピソードも、僕の引き出しから自然に出していける部分ですね。

アップデート計画としては6月の終了予定です。Twitterなどで「全部完成したら遊びたい」という意見もあるので、完成したところで改めて告知する予定です。

――『ナツノカナタ』で、一番お気に入りのキャラクターは誰でしょうか?

Kazuhide Oka:やはり主人公にするくらいなので、“ナツノ”が一番のお気に入りです。あとは“ミナモ”も好きなキャラクターですね。

実は僕自身はそこまでキャラクターに強い思い入れを持つタイプじゃないんです。例えばゲームやアニメとかだったら「このキャラ、いいな」と思うことはあっても、グッズを買うことなどはないんですよね。どっちかというと、作品に触れたら「物語が良かったな!」と感じるタイプだと思います。

『ナツノカナタ』のキャラクターに関して、担当してくださったイラストレーターの手腕も大いにあると思います。作品ではキャラクターがそれぞれ悩みを抱えてるんですが、それをイラストでしっかり伝えてくれていると思います。


――個人的には(明るいお姉さんキャラの)アカネさんがお気に入りです!

Kazuhide Oka:実は僕はお姉さんキャラが得意じゃなくて、“アカネ”は作るのに非常に苦労したキャラです(笑)。当初は今よりもずっと堅苦しい性格で、全然笑わないキャラクターだったんですね。

でも、今のままじゃキャラが弱いよねってイラストレーターのChijiさんと話し合って、ビジュアルから大きく作り直したんです。実はChijiさんもお姉さんキャラがあまり得意じゃなくて、2人で頑張って頑張ってアカネを今のように作り直しました。

――(作り直してもらって)ありがとうございます!本作ではストーリーにリンクしたエピソードアイテムを発見できることもあり、世界観も楽しめる探索パートを毎回遊んでいました。その一方で「探索のスキップ機能」もあるのですが、こちらは当初から予定していたのでしょうか?

Kazuhide Oka:スキップ機能の実装は、最初から予定していたものではありませんでした。でも、早期アクセスリリース後に「探索パートが単調でつまらない」と言った意見もあったんですね。僕としては『ナツノカナタ』の探索はあれくらい簡単なものがいいと思っていて、世界観を伝える一要素だったんです。僕自身、ゲームをしていて「もっと穏やかでいいのに」とか「いわゆる『ゲーム性』みたいなものを推したものばっかりじゃなくてもいいのに」と思ってしまうタイプなので、ゲームという媒体のいろんな可能性を試してみたい、というのもあります。

でも、ゲームとしての面白さを求めるプレイヤーさんの中にも「ストーリーが気になる」と言ってくださる方がいたので、そういったところからスキップ機能を実装したという背景があります。逆にゲームを普段やらなくて探索が難しいと感じたプレイヤーさんもいらっしゃったみたいなので、その意味でもスキップ機能は入れてよかったですね。

……正直、ゲームの総プレイ時間を長くし過ぎたという反省点もあります(笑)。物語も長いのに、探索でさらに時間を取られるのはダメだろうと。実際のところ、それがスキップ機能を入れた一番の理由です。スキップ機能を入れたことで、レビューなんかでも好意的な意見を言ってくださる方もいました。

――遊んでいる国ごとにファンからの反応は違ったりするのでしょうか?

Kazuhide Oka:『ナツノカナタ』は現時点では日本語でしかリリースしていないので、海外からの反響は正直なところよく分かっていないです。ただ中国や韓国の方も遊ばれているみたいですね。

ちなみに中国語へのローカライズは決まってるんです。ローカライズ担当に「完成はまだですか」って言われてるので、早くゲームを完成させなきゃという気持ちはあります(笑)・

――『ナツノカナタ』には、モデルとした土地があるのでしょうか?

Kazuhide Oka:僕としては、明確な土地のモデルを決めていません。イラスト担当のChijiさんは東北出身なので、なんとなく「山形の海沿いあたり」から着想を得たという話をしたことがありますね。ただ、それで明確にどこがモデルということはありませんし、それが物語に大きな影響は与えることはないと思います。

◆新作『午前五時にピアノを弾く』はどのような作品に?

――前作『ナツノカナタ』は夏が舞台になっていて、テキストなどで伝わってくる暑さや、どこか気怠げな風景感も魅力的でした。『午前五時にピアノを弾く』でも、季節を設定されているのでしょうか。

Kazuhide Oka:『午前五時にピアノを弾く』は一応“秋”が舞台なのですが、今回は『ナツノカナタ』ほどの強いこだわりはありません。ゲーム内で「霧」を重要な要素としています。「霧」について調べていたら、どうやら秋の季語だったようなのでそうした、という感じですね。

なので、『午前五時にピアノを弾く』で話を書くときは、あんまり季節を意識していませんでした。どちらかというと、“午前五時”という早朝の肌寒い感じとか、あんまり音がしないとか、なんか変なことが起こるかもみたいな、つんと鼻が痛くなるような朝のイメージで書いていました。

『ナツノカナタ』の“夏”という題材はとてもキャッチーだったんですが、実は少し反省点もあるんです。タイトルを含め“夏”というイメージが強すぎたせいで、夏以外の季節に遊ぼうとした人が「次の夏でいいかな」と思うこともあったみたいなんです。ゲームを配信する方なんかは、やはり季節をかなり意識するみたいですね。「真冬に“ナツノカナタ”はちょっと……」みたいな。なので、今回はそこまで季節を強くイメージしてないんです。

――逆にこのタイトルだと“午前5時”を過ぎたら遊ばない人が出たりするかもしれないですね(笑)。

Kazuhide Oka:それは勘弁してほしいです(笑)。

――『ナツノカナタ』にあった「ゲームならではの仕掛け」のような、いわゆるメタフィクションに近い展開は登場するのでしょうか。

Kazuhide Oka:『ナツノカナタ』のメタ的な演出って、実は入れたくて入れたわけじゃないんです。メタ的な作りというのは、演出的にどうしても存在感が強くなり過ぎて、下手したらゲームの印象の全てを持っていかれてしまうので難しいんですよ。ただ『ナツノカナタ』の場合は、設定上としても演出として入れるべきと判断しました。

(メタ的演出で)ゲームとして面白くなってくれるのは嬉しいんですが、お話より先に「あの演出が面白かった!」と言われると、話を作る側としてちょっと悔しいかなと思う部分もあります(笑)。今回の 『午前五時にピアノを弾く』では、題材的な理由も含めてそういった「ゲームならではの仕掛け、メタ的要素」というのは入れていません。

――前作から「森」というものの描写にこだわりを感じます。Kazuhide Okaさん自身も森が好きなのでしょうか?

Kazuhide Oka:僕の出身地の尾道市は、南は海があって、すぐ北に山も森もある土地でした。子供の頃、家の裏にある山に入って遊んだりした思い出なんかがあります。

独りで森に入ってるときの怖さとか、自分が世界と繋がっている感じとか、自分が死んだらこの世界の養分になってしまうんだろうな……とか、子供の頃にそう感じたイメージが強く出ているのではないかと思います。

『午前五時にピアノを弾く』の主人公には、家族で森の家を離れるという物語の背景があるんですが、僕が大学生になって実家を出たときに「ああ、もうあのときの生活はないんだろうな」と思った記憶も、今回のゲームの根幹として存在してるかもしれませんね。

――『午前五時にピアノを弾く』におけるサバイバル要素の難易度はどれくらいでしょうか?

Kazuhide Oka:難易度に関しては、申し訳ないくらい低いです。『ナツノカナタ』でもそうだったんですが、ゲームとしての駆け引きや試行錯誤を楽しむというよりは、世界観のフレーバーとして楽しんでもらいたいんですね。

『午前五時にピアノを弾く』では、主人公が朝の散歩をして、そこで不思議なものに出会ったという雰囲気を感じ取って欲しいですね。パラメーターはあくまでその味付けくらいのイメージで考えていただけると嬉しいです。

とは言え、多少はゲームオーバーになるくらいのことはあります。ある程度やってもらうとわかるんですが、結構運ゲー要素も強めです(笑)。

画像は開発中のものです。

――「『午前五時にピアノを弾く』の“ここ”にはぜひ注目して欲しい!」というポイントがあれば教えてください。

Kazuhide Oka:作り終わって自分で一通り遊んでみて、実際に散歩をしているような、ヒーリング音楽を聞いてるような、癒される感じになってると思えました。特に今作は世界観にあった音楽が素敵なので、例えば「寝る前にいい音楽を聞きながら読書をしている」みたいな楽しみ方をしてもらえると嬉しいですね。

作曲担当の奏乃さんと通話をしながら、実際に楽器で曲を弾いてもらいつつ雰囲気を伝えてゲームのBGMを作ってもらったりもしましたね。めちゃめちゃ緊張しましたけど、そういった体験もゲームの世界観を磨き上げる貴重な体験になったと思います。曲を作れる人って本当にすごいですよね(笑)。

――『ナツノカナタ』は会話が中心に物語が進んで、今回の『午前五時にピアノを弾く』はモノローグを中心に話が進行します。この対比のようなものは、意識したのでしょうか?

Kazuhide Oka:『ナツノカナタ』はセリフがメインで進行するので、普段本などを読まない方でも遊びやすかったみたいです。あと、僕自身は意識してなかったんですが、僕の作り出したキャラクターが好きだと言ってくださる人もいて、そこは非常に嬉しかったです。

ただ、このセリフがメインの作り方は、自分としては良くも悪くも少し後悔した部分もありました。このやり方だと情景を想像させたりとか、空気感を伝えるのが難しいんですね。僕自身がもともと小説を書いているんですが、会話メインの文章は地の文ではないんです。

『ナツノカナタ』の場合は、設定として主人公とナツノが通話をしている形式だったので、会話を中心とした文章になった経緯があります。その結果として本来の僕の地の文とは異なるものになったんですが、これも間口を広げることになったので良かったとも思いますね。

実は、『ナツノカナタ』は開発中に小説っぽい構成で作り直そうとしたことがあったんですよ。でも、どうしてもくどくなってしまったので、今のようなセリフメインの進行になりました。これも試行錯誤の歴史ですね。

今回の『午前五時にピアノを弾く』は、最初からゲームのシナリオとして書いたんじゃなく、まず小説として完成させてからゲーム向けに再構成したんです。なので、読み口としては小説らしくなっているんじゃないかなと思います。

――そういった意味では『午前五時にピアノを弾く』の方が本来の文章に近いんですね

Kazuhide Oka:そうですね、僕は元々ゲームとは別に小説を書いているんですが『午前五時にピアノを弾く』の方が、文章としては近いと思います。公式サイトでも『ナツノカナタ』の小説を公開していますし、pixivでも他の作品を掲載したりしています。

その中には、もしかしたら『ナツノカナタ』や『午前五時にピアノを弾く』と関係が有るかもしれないし、無いかもしれない、そんな作品が載っているかもしれません。

Kazuhide Oka氏の世界を堪能できる小説はこちらから!

◆作り手としてのこだわりや、さらなる次回作の情報も!

――ゲームを作る上でのこだわりや作品で伝えたいことなどがあれば教えてください。

Kazuhide Oka:僕がなんでゲームを作っているのかというと、世の中の人に「こういうこと聞いて欲しい、思っていて欲しい」といった、色々な思いを伝えたいからなんです。誰だって、日常生活の中でポジティブなこともネガティブなことも受け止めるじゃないですか。僕はそれをエンターテインメントを通じて伝えたかったんですね。

一方で、その思いをゲームに出しすぎるとつまらなくなってしまうことも理解しています。なので、『ナツノカナタ』を遊んでくれた方には「ナツノちゃん可愛いな」「この世界観好きだな」と思ってもらえれば充分なんです。その上で、ゲームが終わっても遊んでくれた人の心に何かしらの思い出が残っていてくれれば嬉しいですね。そういう意味で「“あー楽しかった”だけでは終わらない作品」を作りたいというこだわりがあるんだと思います。

――影響を受けた小説や漫画、映画などがあれば是非とも教えてください。

Kazuhide Oka:僕は日本のSF小説に強い影響を受けていて、普段はハヤカワ文庫や河出文庫などの小説ばかり読んでいるんです。その中で人生で最も影響を受けた作品といえば、大学の頃に出会った神林長平先生の「戦闘妖精・雪風」になると思います。『ナツノカナタ』でも、その影響を感じる人がいるかもしれませんね。

僕は中学生くらいから小説を書いていたんですが、大学生のときに「言葉でどこまで伝えて良いのか」と悩んでいました。僕自身は理屈っぽいので、なんでも言葉にしちゃうタイプで。しかしなんでも伝えすぎる文章は小説としてどうなんだ……と、悩んでいた時期があったんです。

そこで出会った「戦闘妖精・雪風」は、その“伝える”という表現がとてもストレートで、その上で素晴らしい作品として完成されているんです。それが僕自身にとって衝撃的で、心が救われた思いでした。大学生の頃にあれを読んでいなかったら、僕は今お話を書いてなかったかも知れません。

――『午前五時にピアノを弾く』に続く、次回作の構想などは考えているのでしょうか?

Kazuhide Oka:今は『午前五時にピアノを弾く』のリリースと『ナツノカナタ』のアップデートを優先していますが、実は裏でさらに2本ほどゲームの開発に取り組んでいます。まだまだ構想や初期制作の段階で、出るのは未来の話になると思いますが、楽しみにしていてください。

――今年の頭に「霧の惑星」のゲームの構想を公開していましたが、これは『午前五時にピアノを弾く』へ世界観や雰囲気を落とし込んだのでしょうか?

Kazuhide Oka:あれも元々作る気はなかったものなんですが、作ってみたら思ったより面白くなったんです。このまま完成させようかとも考えたのですが『ナツノカナタ』制作者の2作目としてのブランドイメージを作り上げたいという意味で、イメージの異なる惑星ではなく、霧の中の森という世界観になったところがありますね。

――最後にKazuhide Okaさんのファンやゲームのファンに向けてのメッセージをお願いします。

Kazuhide Oka:こうやって「Kazuhide Okaファン」とか「『ナツノカナタ』ファン」といった言葉をもらえるほどに、人々にゲームを受け入れてもらえるとは思ってなかったので今もびっくりしています。本当に感謝しています。

『ナツノカナタ』は、僕が本当に作りたいものを作って、それが世の中でどんな風に受け止められるのかを知るためのゲームでした。無料のゲームということもあるのですが、日本語だけのゲームで20万本以上ダウンロードしてもらって、高い評価(編集部注:Steamユーザーレビューでは“圧倒的に好評”)を受けていることも本当に励みになります。

至らぬところもたくさんあると思いますし、僕としても今も感じてはいるんですが、皆様に受け入れてもらえてるという評価のお陰で、今後も改善しながらゲームを作り続けようという気持ちになっています。

僕が「こうあるべき」と思っているところは作品として譲れませんが、それ以外の部分はプレイヤーの皆様が楽しんでもらえる方向にしていきたいし、その意味でどんどんいろいろな意見をいただければ嬉しいですね。

なので、ぜひとも『午前五時にピアノを弾く』を遊んで、感想をレビューやツイートなどで教えてください!

最後になりますが、最後まで読んでくださった方も、今回お声がけくださったGame*Spark編集部の皆さまも、ありがとうございました!今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

――ありがとうございました!


『ナツノカナタ』は現在PC(Steam)向けに無料で配信中。Kazuhide Oka氏の最新作『午前五時にピアノを弾く』は、2023年5月2日よりリリース予定です。



《Mr.Katoh》

酒と雑学をこよなく愛するゲーマー Mr.Katoh

サイドクエストに手を染めて本編がなかなか進まない系。ゲーマー幼少時から親の蔵書の影響でオカルト・都市伝説系に強い興味を持つほか、大学で民俗学を学ぶ。ライター活動以前にはリカーショップ店長経験があり、酒にも詳しい。好きなゲームジャンルはサバイバル、経営シミュレーション、育成シミュレーション、野球ゲームなど。日々のニュース記事だけでなく、ゲームのレビューや趣味や経歴を活かした特集記事なども掲載中。

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