人類が宇宙人という共通の敵と戦うために、人種・国家・思想を超えて手をつなぎ、地球人としてひとつにまとまる。感動的な話だ。だが、各々が見たい真実を見て信じたい真実を信じる、人の数だけ真実がある現代社会ではそういかない。もしも異星人の脅威が実在したなら、徹底抗戦・回避逃亡・服従隷属と見解が分かれるだろう。見解が交わることは決してない。君がやつらを出し抜かねば人類は滅亡するのだ。そして2026年、1機のUFOが地球に墜落した。
SFストラテジー『テラ・インヴィクタ』はスーパーヘビー級ストラテジーです。『XCOM』風エイリアンの侵略を最後まで戦い抜く「Paradox調グランドストラテジー」、というゲーム概要をそのまま作りあげました。先に挙げた2作(または関連作)を両方プレイ済みのストラテジーファンだけが楽しめる、とても敷居が高いゲームです。その分、ゲーム攻略というプレイヤー自身の物語も濃厚だと保証します。
メーカーPavonis Interactiveの前身は『XCOM: Enemy Unknown』の有名MOD「Long War」開発チームです。ストラテジーゲームのブラッシュアップに定評があり、さらには「宇宙人と戦う秘密組織」モノにおいてはトップスタジオと言えます。本作はこの前評判に違わない品質だと感じました。データを眺めるだけのゲーム、という苦痛への耐性が高いストラテジーのハードコアファンであれば「すぐ」に――20時間ほどで楽しいと感じ始めるでしょう。

本記事はメーカー提供の正式版プレビュービルドを用いたレビューです。ゲームの安定性に支障はなく、日本語も固有名称を除いて完全対応でした。日本語で遊べる希有な近未来SFゲームを求めるゲーマーは、レビュースコアを問わず手に取ってください。
先手を打ち続けるインディペンデンス・デイ
序章で述べた通り、本作の人類は団結しません。人類は主義思想の違いで相も変わらずバラバラです。一方、エイリアン艦隊は太陽系に侵入し、すでに天王星以遠で要塞を構えました。エイリアンを懐柔するにせよ、講和するにせよ、同じ軍力を持たねば会話に応じないでしょう。人類の存亡という必然性のもとに宇宙艦隊を作るため、太陽系を産業化するゲームなのです。

太陽系の産業化を目指すなら宇宙ロケットを手にいれましょう。宇宙戦艦を建造する資源を稼ぐため、月や火星に採掘場を建設するには宇宙ロケットが欠かせません。しかし他惑星・衛星の資源量が多い土地は早いもの勝ちで、AIライバル派閥が狙っています。これより、宇宙ロケットをより多く飛ばせる力(作中用語ブースト)を持つ国家を味方につけるのが上策だと分かります。

『テラ・インヴィクタ』のエイリアンは地球侵略シナリオを丹念に練り上げました。まずは地球にエージェントを送り込み、アブダクションで人類を分析し、要人洗脳、国家支配と段階を踏みます。エイリアン学を研究して対抗手段を見つけなくてはなりません。ここから、技術力が高い国家を味方につける必要もあると気付くでしょう。

エイリアンはソフトパワーだけでなくハードパワーも使い、侵略植物を繁茂させて地球をエイリアン用に作り替えようとします。それがうまくいかないなら巨大怪獣を送り込みます。怪獣が相手なら軍隊の出番。地球を守るため、味方となった国家に軍隊を作らせねばなりません。核兵器の使用も時によってはやむなしです。

本作の面白さ、そして難しさは、エイリアンの地球侵略にあらかじめ備えなくてはならない点です。エイリアン侵略の全容が明らかになってからパニックに陥るのは遅いのです。プレイヤーが持つ唯一の武器「リスタート」を活用しゲーム序盤・中盤・終盤の展開を学びましょう。ゲーム展開を知るごとにデータの意味を理解でき、どの国家を味方につけるべきか、というプレイ方針が変わります。ゲーム攻略というプレイヤー自身の物語が奥深くなっていくのです。
すべての陰謀が現実となる
『テラ・インヴィクタ』のもうひとつの面白さ、そして難しさは、国家を味方に引き入れる手段です。プレイヤーは国家の施政者ではなく、国際秘密組織のリーダーです。組織のエージェントを用いて国家を傀儡化します。太陽系全域が舞台のポスト地政学は、超国家組織が主役のエスピオナージュ・ストラテジーとなりました。

ゲームにはプレイヤーを含む7つの秘密組織(以下、派閥)が登場します。それぞれエイリアン侵略への対策=勝利条件は違うものの、太陽系の資源独占を目論む点ではライバルです。ライバル派閥を出し抜くには前章で述べたブーストや技術力で勝らねばなりません。豊かで強く、さらに将来性も見越し、傀儡化する国家を選ばねばなりません。

国家の傀儡化とはメディア・団体・要人・政府=コントロールポイント(CP)の獲得です。大国はCPの獲得が難しく、他組織のCPを奪うのも難しいです。エージェントのアクション成功率を高めるために、広報や工作といった下準備を要します。この下準備をコツコツと積み立てるのは陰謀的な楽しさがあります。それと並行し、エージェントを強化して成功率を高めるのも楽しいです。
エージェントは企業や団体といった組織をアイテムとして装備できます。アイテム組織はリソースを産出し、エージェントの能力値を高めます。また、エージェントアクションも組織を通じて可能になります。高性能のアイテム組織を購入する、というRPG風の成長要素でエスピオナージュ・ストラテジーをひきたてました。

国家を傀儡化したあとは利益化を目指します。派閥の最大CPには限りがあり、CPをどれだけ効率良く使うかを競います。国家GNP=発展力は派閥が搾取すれば衰え、経済発展や治安改善に用いれば栄えます。もちろん、育てるだけでなく奪うこともできます。他国と外交で連合を組む。領土権を主張し外交で併合する。軍隊を使い戦争で占領する。それら国土拡大を狙うならライバル派閥との衝突が激化します。

太陽系の産業化という華々しい宇宙ゴールドラッシュの水面下、ならぬ大気圏下で、国際社会を暗躍するエージェントたちが諜報戦を繰り広げます。この2層構造をシームレスにつなげたのが『テラ・インヴィクタ』の魅力です。膨大なデータのどれもがディティールを持つゆえにプレイ方針は迷子になりそうですが、エイリアン侵略に立ち向かうというテーマでゲーム目標で指し示しました。そしてエージェントという主役の成長がテーマを貫く軸となりました。

ゲーム序盤のエイリアン暗殺ミッションを達成できれば、ひとまずゲーム操作方法の習得は卒業です。20時間ほどプレイすれば、ゲーム攻略の最初の節目に到達できるでしょう。
データゲームの宿命
本稿のスクリーンショットを見ての通り、本作はデータを眺めるゲームです。遊び方が分かれば楽しいものの、遊び方が分かるまでに時間がかかります。PCゲーム黎明期の名作『Balance of Power』から続くデータゲームの宿命と言えるでしょう。遊び方を分かろうとする工程を楽しむゲームの成否は、工程を楽しめるサポートの有無にかかっています。本作はこの点がやや弱いです。

真っ先に感じる不満点は、宇宙進出までに長い時間を要すること、そして国家数が非常に多いことです。この2点は、クイックスタートにあたる2070年シナリオで対処しました。標準設定の2026年シナリオと違い、他惑星の基地を所持し資源が貯まる状態からスタートします。また、地政学的に関連性が高い国家群は連合化し、地区ごとの国勢が分かりやすくなりました。オプショナルな解決法ですが、上記2点については不問とします。
データゲームならではの欠点は、ゲームの理解を助けるUIが弱いことです。ゲームを理解すれば快適なUIですが、UIから必要な情報を得るには習得を要するため、その時間を短縮するサポートがほしかったところです。特に国家データの相関をつかむのが難しいと感じました。民主制国家シミュレーター『Democracy 4』のようなデータ相関のビジュアル化があれば、理解が大きく進んだはずであり、ここは悔やまれます。

ゲームの理解は「失敗に気づきリスタート」するしかなく、ゲーム中盤以降の学びに膨大な時間を要するのも欠点です。最初から最後まで通してプレイするノーマルシナリオと別に、シチュエーションを固定したミニシナリオを用意してほしかったところ。アメリカのCPを独占する、台湾を独立し中国から守る、エイリアン宇宙基地を襲撃する、といったシナリオを通じてノーマルシナリオ攻略の知見を得たならリスタートの回数は減らせたでしょう。
画面の変わり映えの少なさも本作の欠点です。データ変動のビジュアル化がなく、データに目をこらさなければなりません。エージェントへの指示は月2回なので、ほぼターン制ゲームです。ターン処理中は地球を眺めるしかなく、BGMの曲調が似通っており、単調さを目立たせています。技術研究を完了するとフレーバーテキストをボイスで読み上げる、というストラテジーファン向けの演出はあるだけに、BGMの曲数と曲調が乏しいのは手落ちだと感じました。

舞台の広さやディティールの深さでトレードオフとなった、とっつきにくさを緩和する工夫に欠けています。擁護しますが、メーカーはインゲームチュートリアルをはじめとする多大な工夫をほどこしました。早期アクセス開始バージョンでクリアまでに100時間かかるゲームが、発売日バージョンでは80時間で済むようになったのは素晴らしい点です。それでも最初の20時間はゲーム展開を高速化する方法が分からず、作中の転機を得るテンポが遅くなってしまいます。本作を通じてストラテジーのハードコアファンになるのは難しい、これを本作の欠点とします。
※ 補注
歴史がテーマであれば武将や偉人といった有名人がコンテンツになります。本作は近未来が舞台で実在人物は登場しません。近未来技術や国際情勢、エイリアンがコンテンツとなります。宇宙開発モノやXCOMシリーズに明るいゲーマーは楽しめますが、ナポレオン・ボナパルトや織田信長と比べればマニア向けの知識です。この点でも本作はプレイヤーに高い適正を求めています。
人類には早すぎたゲームを手に取る喜び
『テラ・インヴィクタ』は多くの人類にとって早すぎたゲームです。『XCOM』とParadox調グランドストラテジーの融合、そう聞けば2倍楽しいゲームに聞こえるでしょう。しかし扱う舞台の広さとディティールの細かさで、プレイヤーに「データを眺めて楽しみを見いだす努力」を強く求めます。
それは数値と成功率からシチュエーションを想像する遊びです。アブダクションを繰り返すエイリアンを暗殺するために国際組織を総動員する。巨大怪獣と戦う軍隊を派遣できるよう国家外交を取りもつ。こうしたデータの動きにフレーバーを感じて没入するのは特殊な才能を要します。その特殊な才能を発揮したい、というワガママを完全に満たせるゲームだと請け合います。

人類の団結と太陽系の開拓は今日から解決すべき問題だ、と信じてやまないハードコアストラテジーファンかつSFファンに強くオススメします。本作で明日の人類を導くリーダーとなり、宇宙艦隊で徹底抗戦、または他星系へ脱出、もしくはエイリアンの支配を歓迎しましょう。その熱意と信念を満たせる本作は、スーパーヘビー級ストラテジーならではの醍醐味、人類には早すぎたゲームを手に取る喜びに満ちています。
Game*Spark レビュー 『テラ・インヴィクタ』 プラットフォーム 発売日
太陽系開発のスケールと国際社会のディティールを両立した、2026年の地政学ゲームにふさわしいフィクションとリアリティ
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GOOD
- 太陽系まるごとエスピオナージュストラテジー
- エイリアンの侵略で動機づけたゲームプレイ
- マニア心をくすぐるディティール
- 完全に習得すれば快適なUI
BAD
- ゲームの遊び方を学ぶ工程の手助けが弱い
- 画面の変わり映えが乏しい













