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「イギリスの暗黒面」を容赦なく再現…80年代ワーキングプアシム『Landlord's Super』で知る国際事情

「80年代イギリス貧困シミュレーター」という、極めてニッチな内容の『Landlord's Super』というゲームがあります。

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「イギリスの暗黒面」を容赦なく再現…80年代ワーキングプアシム『Landlord's Super』で知る国際事情
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「80年代イギリス貧困シミュレーター」という、極めてニッチな内容のゲーム『Landlord's Super』。

主人公はローンの残っているオンボロ一軒家を改築しつつ、仕事を見つけてお金を稼ぐ日々を過ごします。しかし、この時代のイギリスは失業率が高く、継続的な仕事はまず望めない状況です。それでもどうにかお金を貯めて建材を買って家を修理し、貧困からの脱出を目指す……というなかなか重苦しい内容になっています。


一方で、このゲームはイギリスの「暗闇の80年代」を極めて精巧に表現しています。今回はそんな『Landlord's Super』をプレイしつつ、イギリスのお国事情について解説していきたいと思います。

日本にとっては華の時代だった80年代

日本の80年代は素晴らしい時代でした。

国際情勢は未だ東西冷戦が続いていましたが、ソ連のゴルバチョフ書記長が融和的な政策を打ち出して西側陣営に急接近していました。その西側陣営の中で、最も成功していた国と言えば日本です。「メイド・イン・ジャパン」が盤石の信頼性を獲得し、様々な工業製品が世界各国の市場を席巻していきました。

自動車、二輪車、白物家電、黒物家電、通信機器、時計、デジタル機器、そして半導体。現在の若者に説明してもなかなか信じてもらえないのですが、80年代当時の半導体市場に君臨していたのは日本のメーカーでした。

日本の旺盛な工業力と魅力的な製品を生み出す独自の発想は、経済にも好影響をもたらします。北条司先生の『キャッツアイ』や『シティーハンター』を読んでみると、80年代の日本がいかに豊かでいかに明るかったかがよくわかります。バイクもクルマも海外旅行も、それに打ち込む時間さえ確保できれば難なく実現できる時代でもありました。

ところが、それと対照的な国も存在しました。イギリスです。

イギリスの「不満の冬」

戦後のイギリス労働党は「ゆりかごから墓場まで」というスローガンを打ち出し、終生に渡って国民全員が手厚い福祉を享受できる環境を構築しようとしました。これは聞こえはいいのですが、現実は膨大な財政支出をもたらしてしまいます。

さらに、労働党政権下では鉄道、鉄鋼、運輸、エネルギー、鉱石採掘といった分野が次々に国営化されます。何と自動車産業まで国営化されたこともあるほど。

もちろん、分野によっては国営化したほうが大きな利益をもたらす場合もあります。しかし、自動車産業が役所と同様の組織になってしまったらどうでしょうか。「政府の方針に従う仕事だけをすればいい」という考えが蔓延し、斬新で魅力的な製品は議題にすら上がらなくなってしまいます。また、各分野で労働組合の権力が強くなり過ぎたため、イギリス全土でストライキが頻発するようになりました。

1978年に発生した「不満の冬」は、各分野の労組が「他の労組に後れを取るな」とばかりにストライキを敢行した出来事です。これにより病院も学校も公共交通機関も活動を停止してしまいます。ゴミ収集車のドライバーもストライキに参加していたため、何週間もゴミを回収できなかったという出来事もありました。

サッチャリズムの功罪

そのような状況を劇的に変革しようと考えたのが、保守党のマーガレット・サッチャー首相です。

サッチャー首相の経済方針は、一言で言えば「規制緩和」。労働党政権時代とは逆に、あらゆる分野の事業を民営化した上で新自由主義に則った規制緩和を行えばイギリス企業の競争力は復活するはずだ! とサッチャー首相は考えました。

それは一面においてはその通りだったのですが、急な方針転換は必ず歪みをもたらします。

サッチャー政権下の緊縮財政は、イギリスに多くの失業者を発生させてしまいました。また、不採算の炭鉱を閉鎖するサッチャー政権の計画に炭鉱労組が大反発し、イギリス史上最も際立つ大規模なストライキが行われました。

そんな混沌の時代を舞台にしたのが『Landlord's Super』です。

このゲームをプレイしてみましょう。まず最初に登場する選択肢からして、日本人には馴染みのない文言が現れます。主人公の父親の入国書類には何と書かれているか、です。ここでは「ウィンドラッシュ」と「難民」が用意されています。

難民はともかくとして、ウィンドラッシュって何? と首を捻る人が大半のはず。これは極めてセンシティブな問題ですが、後述したいと思います。

日雇いの仕事で今日を生き抜け!

このゲームを一言で評するなら「大金を稼ぐことが極めて難しい!」です。

主人公は一応家と土地を持っていますが、その家は柱と外壁しかないような有様で、これから自分で補修&改築していく必要があります。これが『Landlord's Super』のクラフト要素です。そして主人公は仕事を見つけて稼ぐことができるわけですが、街の職業安定所にある仕事と言えばどれも日雇いの軽作業。中には割のいい仕事もあったりしますが、それらは専門のライセンスがないとできなかったり……。

要はこれ、「ワーキングプアシミュレーター」です。いつか家を完全修復するという淡い夢を抱きつつ、天候の悪い日はパブで小銭を使い果たして酔っ払う……という「閉塞感が支配する80年代イギリス」を見事に再現しています。

本当にこれ、『キャッツアイ』と同時期の地球上の出来事なのか……? それだけ日本とイギリスの経済状況には天地の差があった、ということでもあります。

国家に裏切られた移民

さて、上述の「ウィンドラッシュ」とは何でしょうか?

これは1940年代から70年代にかけて、カリブ海のイギリス領地域からグレートブリテン島へ移民を乗せたエンパイア・ウィンドラッシュ号を指します。つまり最初の選択肢で「ウィンドラッシュ」を選んだら、主人公はアフリカ系英領カリビアンになるという意味でもあります。

カリブ地域からの移民受け入れは、当時労働力不足に悩んでいたイギリスが国策として実施した事業。「遠慮なくどんどん本土に移住してくれ」と言っていたのですが、大西洋を渡ったカリブからの労働者は妻帯していればもちろん子供も連れてきます。問題は、この子供たちに正式な入国書類や永住権を与えないままあいまいにしていた点です。

2014年に移民法が改正されると、イギリス国内に住む移民は就労や社会保障申請の際に在留資格書類を提出しなければならなくなりました。それを持っていないということは、彼は不法にイギリスへ入国した移民……ということに制度上ではなってしまいます。ですが、上述の通り親に連れられてグレートブリテン島にやって来た未成年の移民にはそのような書類は発行されていません。国策事業だったにもかかわらず、極めて杜撰な入国管理が行われていたことが明らかになりました。

実際に移民法が改正されてから「書類の不備」が理由で職を失ったり、医療保険の対象外になったりというウィンドラッシュ世代が相次ぎました。何と、不法移民と見なされて国外追放された人までいます。

この「ウィンドラッシュ・スキャンダル」は当時のテリーザ・メイ首相を謝罪に追い込みました。しかし、政権への非難は止むどころかさらに拡大する有り様。メイ首相が内務長官だった頃、内務省がウィンドラッシュ世代の数少ない入国記録を処分していた事実にも猛烈な批判が集まりました。

『Landlord's Super』は、このような「イギリスの暗黒面」を容赦なく内包しているゲームです。今の時点で日本語ローカライズはされていないものの、今後の言語対応が待ち望まれる期待のタイトルでもあります。

『Landlord's Super』はWindowsを対象に通常価格2,300円でSteam配信中です。


【参考】
英内相、カリブ海移民「ウィンドラッシュ世代」に謝罪 英国育ちでも強制退去の危険-BBC News Japan
イギリスに汚点を残した「ウィンドラッシュ」問題-Newsweek日本版


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《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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