Forever Entertainmentは、ニンテンドースイッチ向けドラマティックシミュレーションRPG『フロントミッション サード: リメイク』を2025年6月26日にリリースしました。
本作は、プレイステーション向けに1999年発売した『フロントミッション サード』のリメイク作品。物語の舞台となるのは前作からおよそ10年後の2112年、横須賀で発生した爆発事故をきっかけに、主人公「武村和輝」とその仲間たちが、恐るべき威力を秘めた新兵器「M.I.D.A.S.」を巡る陰謀に立ち向かいます。
ゲームには分岐によってヒロインとの結末が変わる「ダブルフィーチャーシナリオ」や、戦闘中にパイロットが乗降可能な「ディスチャージ・バトル・システム」を採用。リメイクでは、リアレンジされたサウンドや新モード「クイック・コンバット」など、本作独自の要素も盛り込まれています。

本稿では、そんな『フロントミッション サード: リメイク』のレビューをお届けしていきます。
「人類は何も学ばない」
本作の物語は、とある基地の襲撃シーンのイントロムービーから、数か月が経過した沖縄より始まります。霧島重工のテストパイロットを務めている主人公の和輝(リネーム可能)が、最新鋭ヴァンツァーの操作テストを行うという流れで戦闘のチュートリアルがスタート。
ゲームはターン制のシミュレーションで、ターンごとに各ユニットはAP(アクティブポイント)と呼ばれる数値内で移動・攻撃・反撃などのアクションを行います。移動中には装備している武器がいつでも切り替え可能で、テスト戦闘ではショットガンと近接戦闘を駆使して敵ヴァンツァーを破壊していきましょう。





テスト終了後には親友「草間亮五(クサマ リョウゴ)」との会話が発生し、亮五の用事に「付き合う」「付き合わない」かの選択肢が現れます。
これらの選択肢によって、物語の主要キャラクターである「エミール・クラムスコイ」ことエマと「武村アリサ」ことアリサ、どちらかをメインとした物語へと分岐。大きなひとつのストーリーが、2つの視点と展開で進行していくのも大きな特徴です。
『フロントミッション サード』の基本的な流れは、インターミッションと戦闘を繰り返しながら、さまざまな戦場や土地でストーリーを進行させる形式となっています。
各編のストーリー上では加入する仲間や戦闘の変化など、いくつかの分岐はありますが、基本的にはひとつの物語を体感していくという流れです。





なお、リメイク版ではPS版のオリジナルムービーも閲覧できるので、ぜひ見ておきたいところ。
本作のテーマは、「人類は何も学ばない」というもの。前作の悲痛な戦いから10年後に再び、人類による陰謀や野望、恐るべき実験などの末に悲劇が起こるという部分もしっかりと描かれています。




幅広いヴァンツァーのカスタマイズ
『フロントミッション』シリーズといえば、機動兵器「ヴァンツァー」の存在でしょう。ゲーム内では多彩なヴァンツァーが登場し、胴部・左腕部・右腕部・脚部の4つのパーツと両腕・両肩用の装備を自由に組み合わせてオリジナル機体を作れます。
本作の最大の特徴は、各パーツごとに戦場で取得できるバトルスキルが設定されている点です。
バトルスキルには攻撃回数アップや命中率アップ、特定の部位攻撃、ステータスへのバフ/デバフなど多くの種類があり、覚えたものは各ユニットのコスト内で付け替え可能。またバトルスキルは何度も取得でき、複数装着も行えます。




このシステムの利点として、初期のパーツでもバトルスキルのために長く運用できるというものがあります。ゲーム内ではパーツを改造することによって最大HPや命中率などをアップグレードできるので、便利なバトルスキルがあるならば、序盤から安定して運用していくことも不可能ではありません。
各パイロットは、戦闘で武器熟練度を上げていくことでダメージが向上。パイロットごとに得意武器が設定されているので、命中率などの基礎能力や覚えるバトルスキル、重量などを考慮し、ヴァンツァーをカスタマイズしていきましょう。もちろん、ヴァンツァーのカラーや迷彩なども変更できます。




カスタマイズは本当に面白いのですが、本格的に利用できるまでの期間が少し長め。
装備パーツの「盾」が入手できるとダメコンがしやすくなり飛躍的に戦闘が楽になるので、序盤の厳しい戦闘を乗り越えることこそが最初の試練といっても良いかもしれませんね。



「パイロット」の存在が重要な戦場
『フロントミッション サード』の戦闘には4人までが出撃可能で、これまでのシリーズと比べると戦場サイズもややコンパクトに。そのため、最初のターンから激しい戦闘が発生することも珍しくありません。
戦闘は主に敵の全滅が目的で、敗北条件は自軍の全滅およびゲストユニットの破壊など。当然敵の数が多いので、相手をいかに無力化するかというのは重要な戦術のひとつです。敵を単純に破壊するだけでなく、バトルスキルで武器を持った腕を壊したり、攻撃時に気絶や混乱などのバッドステータスを発生させたりすることも可能です。



そして、前述した本作の「ディスチャージ・バトル・システム」も戦闘の局面を左右する大きな要素です。
ヴァンツァーに攻撃が当たると確率で「強制排出」が発生し、パイロットはヴァンツァーから降ろされます。再び機体に乗り込む際には1ターン消費しますし、パイロット状態だと簡単な攻撃で倒されてしまうことも。しかし、なによりもこの状態を敵側に発生させれば戦闘終了後に敵ヴァンツァーを鹵獲できるという大きなメリットが生まれます。
また、パイロットがいない敵兵器(ヴァンツァーやヘリコプター)に乗り込んで操作することもあります。「まだ敵が乗っていない機体を奪う」というテクニックが使えるステージも存在しているため、敵兵器にはパイロットの有無に関係なく常に目を光らせておきましょう。
本作はとにかく状態異常が強力なゲームで、気絶といった行動不能にするものも一部のネームドキャラに通用します。それを引き起こすバトルスキルもあるので、人数の不利も苦になりません。




敵を劣勢にすることで戦意喪失状態になり、そこから投降させることでも機体を入手可能。敵の機体を奪うのは資金獲得だけでなく、前述の「パーツごとにバトルスキルが設定されている」という面でも重要です。
鹵獲でしか入手できない機体もあるので、殲滅だけでなく効率的に戦うテクニックを探す楽しみもあります。



2つの側面で語られる物語
また2人の分岐するストーリーが楽しめる「ダブルフィーチャーシナリオ」では、恐るべき威力を持つ新兵器、人為的に生み出された兵士などを巡る物語が2つの視点と展開で描かれます。
ゲーム内ではエマ編とアリサ編で仲間になるキャラクターや戦闘もまったく異なり、各編で味方だったキャラクターと敵対することも当たり前になってきます。
ストーリーでは本作の起点のひとつである日本を中心に、アジアのさまざまな国を舞台に内戦や陰謀なども多く登場。主人公・和輝と親友・亮五はヒロインと共にその渦に巻き込まれ、やがて世界の運命をも左右する野望と戦いに立ち向かうことになっていくのです。




あくまでテストパイロットだった2人が運命に巻き込まれ戦うという、かなりヒロイックな展開はこれまでのシリーズに比べるとやや異質に感じます。特に和輝はカッとなりやすく直線的で、軍人だろうと謎の存在だろうと気に食わなければ噛み付くようなタイプなので、人によっては少し驚くかもしれません。
各編ではヒロインだけでなく、仲間になったキャラクターたちも活躍するシーンが多いのも特徴。会話だけでなく、各キャラクター向けに届くメールやネットワーク通信「天網」を介した紹介など、語られるストーリー以外でも『フロントミッション サード』の世界観を知れる要素が多いのも嬉しいです。





一方で和輝の性格を含め、ストーリーでは“すれ違い”や“隠し事”があまりにも多く、展開としてはやや強引さを感じるかもしれません。いろいろな真相が明らかになるまでの“溜め”が長いのは、評価が分かれるかもしれません。




リメイク要素には改善を望みたい部分も
そして今回のリメイク版では、グラフィックやサウンド、UIの刷新だけでなく、戦闘向けの新たなシステムの追加など多くの変更点が施されました。
ゲーム開始時にはサウンドをオリジナルにするか、それとも気持ち新たにアレンジ版を使用していくかを含め、さまざまなオプションを設定可能です。
またマップや戦闘シーンに関しては、大胆に作り直されました。戦闘アニメや効果音、演出などはオリジナルの雰囲気とは大きく異なっています。これまでリリースされたシリーズリメイクでも指摘されていた演出面は本作の方がより向上している印象ですが、個人的には格闘戦闘がゆっくりなのが気になってしまいます……。

また、最大の不満点としては新要素「クイックコンバット」の存在です。これはいわゆる戦闘アニメーションをスキップする簡易戦闘モードなのですが、戦闘があまりに簡素すぎて“どこの部位にダメージが入ったのか表示されない”のです。一応ダメージを受けた部位は赤く光るのですが、それも一瞬で分かりづらい……。
結果として、どれだけダメージを受けたかを知るため結局ステータスを参照する必要があり、“シンプルすぎる上に二度手間”になっています。
ほかにも自軍は移動をスキップできるのに、敵ターンは一切スキップできません。そして敵AIの挙動やターゲットがたまにおかしくなること、状態異常が起こりすぎ(これは確率なので仕方ないかもしれませんが)という不満点などもプレイ中に感じました。




せっかくの新要素として紹介しているものの、「クイックコンバット」の不便さは大きく気になる点です。せめてパーツHPを表示するなど、UIに何かしらの改善があれば嬉しいのですが……。


『フロントミッション サード: リメイク』では、分岐するストーリーやパイロット要素のある戦闘、幅広いカスタマイズなど、オリジナル版での特徴的な部分を楽しめます。
コンパクトながら多彩な戦場での戦闘も魅力的で、自分のカスタマイズがしっかりと結果として結びつきやすいのも嬉しい部分です。前述したグラフィック面を含めた演出など、これまでのリメイクで指摘されてきた部分も少しは良くなっている印象を受けました。
ただし、やはり「クイックコンバット」が不便極まりないものであったりと、気になる点が多いことも否定できません。テンポを良くしたいのは伝わるのですが、細かな部分で結果的に遊びやすさに直結していないのです。


とはいえ、自分の好みでヴァンツァーをカスタマイズできるという面白さは間違いないものです。2つのストーリーも長くやり応えがあるので、シミュレーションRPGが好きな人ならばプレイしてほしい作品です。もちろん「天網」を使って、より世界観をも深く楽しんで欲しいですね。
Game*Spark レビュー 『フロントミッション サード: リメイク』 ニンテンドースイッチ(ニンテンドースイッチ2対応) 2025年6月26日
『フロントミッション』ナンバリング第3弾がリメイク!多彩なスキルやパイロット要素が特徴的な戦闘
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GOOD
- 序盤のパーツでも終盤まで運用できる幅広いカスタマイズ性
- 片方では味方だったキャラが敵になることもある、2つの視点と展開で描かれるシナリオ
- スキルとパイロット要素が特徴的な、コンパクトにまとまった戦闘
BAD
- リメイク版追加要素が使いづらい。特に「クイックコンバット」は看過できない
- 主人公のキャラを含めたストーリー展開は人を選ぶかも