『ゴースト・オブ・ヨウテイ』カムイの来訪を願って―アイヌの供犠「イオマンテ」とクマ【ゲームで世界を観る#120】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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『ゴースト・オブ・ヨウテイ』カムイの来訪を願って―アイヌの供犠「イオマンテ」とクマ【ゲームで世界を観る#120】

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『ゴースト・オブ・ヨウテイ』カムイの来訪を願って―アイヌの供犠「イオマンテ」とクマ【ゲームで世界を観る#120】
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『ゴースト・オブ・ヨウテイ』(Ghost of Yōtei)の名寄ヶ沢では、「フチ」と呼ばれる女性との交流を通してアイヌプリ(習俗)に触れていきます。「フチ」は高齢女性に対する敬称であり、個人を特定する名前ではありません。男性の場合は「エカシ」で、「ゴールデンカムイ」でもアシリパの祖母が同様に「フチ」と呼ばれている例を知っている人もいるでしょう。口承のアイヌ文化ではフチとエカシは伝統を次代に伝える重要な役割を担いました。

物語の中では、岩崩れで母を失った子グマをコタンに迎え入れる場面が描かれ、クマのラマッ(霊魂)を神霊の領域であるカムイモシリに送る「イオマンテ」についても言及していました。アイヌの世界観では、動植物や自然、人工物問わず、あらゆる存在に不滅のラマッが宿っていて、その中でも人間の暮らしに大きな影響を与えるものを「カムイ」とします。

カムイは「カムイモシリ」では人の姿をして人と同じように暮らし、現世の「アイヌモシリ」に役目に応じた生き物の姿をまとって降りてくるのです。カムイの一人称として語られるカムイユカラ(神謡)では様々な生き物の視点から描写されており、その中には動物から人に化身する異類婚の話も出てきます。

アイヌの世界で起こるあらゆる出来事は、すべてカムイが望んだ必然だと解釈されます。そのため、狩猟の獲物として死ぬことはカムイ自身がそうすることを役割として選択した結果であり、カムイが帰った後に残る肉と皮は恵みとしてアイヌが享受します。アイヌにとって狩猟とは、強引に相手の命を奪うことではなく、それを通じてカムイから暮らしの糧を拝領する行為なのです。

アイヌが暮らしていくには、カムイがアイヌモシリを「訪れる」のが何よりも重要であり、それが「イオマンテ」を行う大きな理由です。アイヌは毒を使った弓矢でクマを狩っていましたが、その中には母熊を仕留めることもありました。残された子グマをイオマンテのためにコタンで数年間保護し、狩猟最盛期が近くなるとイオマンテの供犠を実行します。

イオマンテはコタンで飼育した動物をカムイモシリへのメッセンジャーとして送り出す儀式で、カムイが自然の恵みをアイヌに渡すお返しとして、人間の造る酒や料理、工芸品でもてなします。歌や舞で宴を催した後、矢を射かける、丸太で首を挟むなどの方法で屠り、丁重に解体して肉と皮を分配します。最初に矢を射るのは子供と決まっており、イオマンテは狩りの練習としても機能していました。

クマに供された品は送られるカムイがカムイモシリへと持っていき、他のカムイたちと宴を開いて人間の品を知ってもらい、アイヌモシリに出向くよう促します。イオマンテとは、アイヌモシリやそのコタンにおけるもてなしをカムイが気に入って、向こうから来訪してくれるよう願う豊穣の儀礼なのです。

イオマンテの対象となるのはクマだけでなく、キツネやフクロウ、沿岸ではシャチなどの大型海獣で行われた記録がありますが、多くは最も大きい獲物であるクマで行われていました。一方でアイヌを襲って暴れるようになったクマは悪いカムイ、ウェンカムイと呼ばれ、殺した後の肉と皮をアイヌは一切利用しません。ウェンカムイがもたらす恵みを排することで、クマの霊魂をカムイモシリに行かせないようにするのです。獲物としてのクマ、脅威としてのクマ、その両面に間近に接しながらアイヌの人々は自然の中で暮らしてきました。

アイヌの狩猟採取を基盤とした習俗は多くが政策によって禁止され、その回復は現在でも一部に留まっています。イオマンテも1955年に法律で禁止されて以来、逮捕される恐れがある中で継承のために行われてきました。行政や警察との折衝に苦労したという話もあり、映画「チロンヌㇷ゚カムイ イオマンテ」では1986年に行われたキツネのイオマンテを観ることができます。2007年にようやく正式な撤廃になりましたが、狩猟の技術が衰退する中で、それを再興させるかについて、当事者の間でも意見は分かれています。

近年は野生のクマと人間の接触が相次ぎ、死傷者が増加する大きな問題になってきました。動物と人間の適切な距離感をどう作っていくかについても、かつてのアイヌの暮らしから学ぶことは多いかもしれません。

おまけ

サウンドトラック収録に参加したOKI DUB AINU BANDのOKIとMAREWREWのRekpoによるユニット。他にも複数のアイヌ音楽奏者が出演しているので、クレジットの奏者欄にぜひご注目ください。


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ライター:Skollfang,編集:宮崎 紘輔


ライター/好奇心と探究心 Skollfang

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編集/タンクトップおじさん 宮崎 紘輔

Game*Spark、インサイドを運営するイードのゲームメディア及びアニメメディアの事業責任者でもあるただのニンゲン。 日本の新卒一括採用システムに反旗を翻すべく、一日18時間くらいゲームをしてアニメを見るというささやかな抵抗を6年続けていたが、親には勘当されそうになるし、バイト先の社長は逮捕されるしでインサイド編集部に無気力バイトとして転がり込む。 偶然も重なって2017年にゲームメディアの統括となり、ポジションが空位になっていたGame*Sparkの編集長的ポジションに就くも、ちょっとしたハプニングもあって2022年7月をもって編集長の席を譲る。 夢はイードのゲームメディア群を日本のゲーム業界で一目置かれる存在にすること、ゲームやアニメを自分達で出すこと(ウィザードリィでちょっと実現)、日本武道館でライブすること、グラストンベリーのヘッドライナーになること……など。

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