カプコンを代表するスタイリッシュアクションゲーム『デビル メイ クライ(以下、DMC)』シリーズは、2025年8月に24周年を迎えました。同年にNetflixで配信開始されたシリーズ原作アニメ『Devil May Cry』もあってか、ナンバリング最新作『DMC5』の販売本数は全世界1,000万本を達成しました。
シリーズ累計出荷本数3,300万本を考えるとかなり好調な『DMC』ですが、その歴史を紐解いていくとなかなかに波乱万丈で、ひときわ目立つのは『DMC4』と『DMC5』の間、2013年に発売された『DmC Devil May Cry(以下、DmC)』かもしれません。
本作はイギリスのNinja Theoryが中心になって開発した海外産の外注作品であり、伊津野英昭氏をはじめ、本家シリーズの一部スタッフも関わっているものの、主人公「ダンテ」の外観や演出など、様々な点で従来作から大幅なイメージチェンジ。Ninja Theory側スタッフの「もしダンテが昔の格好のまま東京の外にあるバーにいったとしたら、彼は笑い飛ばされるだけでしょう」という発言もあって、かなり物議を醸しました。
最終的に本家から切り離されたパラレル作品という立ち位置に落ち着いた本作ですが、シリーズの大ファンだった筆者は前述の騒動もあって発売当初はスルー。数年後にプレイしたものの、あくまで“食わず嫌いはよくない”という義務感から軽く一周しただけに留まりました。

そして長い時が経った2025年、ふと同作に様々な要素が追加された決定版『DmC Devil May Cry Definitive Edition』をプレイしてみたところ、筆者の中での印象は一変、“このまま眠らせるには惜しい作品なのではないか?”と思わせられました。
そこで本記事では『DmC』とその『Definitive Edition』について、シリーズ最新作までプレイしたファンの視点からご紹介!後の本家作品への影響も見ていきます。なお、紹介する上で『DmC』や『DMC5』のストーリーにも触れるため、ネタバレを避けたい方はご注意ください。
日本語で遊べるのに国内未発売…『DmC Devil May Cry Definitive Edition』とは?
まず、大前提となる『DmC Devil May Cry Definitive Edition(以下、DmC DE)』の概要ですが、本作は『DmC』発売から2年後の2015年に登場した同作の決定版です。
PS3/Xbox360/PC向けの無印版から次世代のPS4/ Xbox Oneにプラットフォームを移し、PC版以外は30fps上限だったところ60fpsにまで引き上げられ、追加要素も満載となっています。

本家シリーズからゲームスピードを1.2倍にする「ターボモード」や「手動ロックオン」といったシステムが輸入され、各種エネミーのバランス調整に新難易度やカットシーンの追加、『DMC1』風「ダンテ」と『DMC3』風「バージル」のコスチュームも収録されました。

そんな良い所だらけの『DmC DE』ですが、実は日本語字幕に対応しつつも日本国内向けには発売されていません。カプコン公式サイトによると、『DmC』無印版の売上げは310万本なのに対し、当時の本家シリーズ最新作『DMC4』は300万。
売れていないどころかシリーズ全体で見ても好調な部類のため、記事冒頭で述べた騒動を理由に“国内の売り上げ割合が低かった”等の背景が未発売の決定にあるのかもしれません。
悪魔と天使の力で戦うスタイリッシュACT!本家を再解釈したストーリーも魅力的な挑戦作

本作の背景と概要を紹介したところで、ここからはゲーム本編を見ていきましょう。舞台は悪魔の王「ムンドゥス」が世界を牛耳る人間界、彼に天使と悪魔の両親を殺された主人公「ダンテ」がその支配を終わらせるため戦う…という物語が展開されます。

ゲームシステムは3Dスタイリッシュ・アクションとなっており、剣をはじめとする近接攻撃でコンボを決めたり、敵を宙に打ち上げてから銃撃を浴びせたりといった派手な戦闘が特徴。映像や画像だけを見ると『DMC3』以降の本家シリーズと似ているものの、各所にゲームとしての設計理念の違いが見られます。


例えば本家シリーズと比べると、回避やジャンプ、近接コンボと打ち上げ攻撃など、本来スティック入力+ボタンで行える操作がワンボタンで行えるよう割り当てられているので、コマンド入力が苦手な人には優しい仕様です(『DMC2』のみ回避は『DmC』と似た仕様)。

そして、L2トリガーを長押しすると手数&範囲とスピード重視の「エンジェルモード」、R2トリガーを長押しすると一撃の火力に優れる「デーモンモード」に切り替わり、武器とアクション内容が変化。

前者は本家の「トリックスター」に近い回避と移動が行うことができ、後者は本家の「デビルブリンガー」のようにエネミーを自身の元へ引き寄せられます。

それに付随してエネミーにはエンジェルモード・デーモンモード、それぞれで戦わないと処理しにくいギミック付きのものが多く登場し、時には相反する弱点を持つエネミー達と同時に戦わなければいけません。
本家『DMC』シリーズにもギミック付きのエネミーはいますが、当時の最新作『DMC4』が絶え間ないコンボやプレイアブルキャラの性能で大半を無理やり処理できるゲーム性だったのに対し、『DmC』はギミックの強制力が強めで、安易に攻撃を仕掛けると手痛い反撃を食らってしまいます。

筆者の印象として、本家『DMC(特に3以降)』はプレイヤー側がキャラクター性能を操作技術で引き出し、やりたいことをいかに押し付けていくかというゲームなのに対し、『DmC』は操作難度が低い代わりにギミックを適切に処理しなければいけない、エネミー側に行動を合わせるゲームと感じました。
『DmC』はアクションゲームとしてプレイヤーに要求する能力に違いが見られ、好みは分かれるかもしれませんが、筆者が遊んできた類似ジャンルの中では間違いなく良作です。

ビジュアル面においては、本作の戦闘は人間界と魔界の狭間「リンボ」を中心に行われますが、ここでは人間界の景色をベースとしつつも「ダンテ」を襲うように建物が変形。本家シリーズとも毛色の違う、現実と非現実的な光景が入り混じる圧巻のステージとなっています。

また、筆者が特に魅せられた場面を紹介すると、悪魔側が世界を掌握する一環として放送しているニュース番組、そのキャスターと戦うボス戦です。

ボス自体はホログラムのような上半身が浮かんでいるだけですが、戦闘の合間にニュース中継のような画面に切り替わり、遠景の独特なカメラワークで戦う必要があるなど、現実だけど現実ではない、狭間の世界を描く本作ならではの演出となっています。

キャラクターについては、本家に先駆けてフォトリアルなCGを採用しており、グロテスクさが目立つエネミーも含め、後に発売された『DMC5』に慣れ親しんだ後だとあまり違和感はありません。
特に発表当初に賛否のあった『DmC』版「ダンテ」に関しては、『DmC DE』の追加コスチュームを着せると“本家「ダンテ」の親戚に1人くらいいそう…”と思える程度には似合っています。

そして本作を彩るストーリーですが、主人公「ダンテ」やその兄「バージル」、そして宿敵「ムンドゥス」と、本家を踏襲したキャラクター達を起用しつつも独自のアレンジで差別化。

「ダンテ」は粗野さと他人を見捨てられない善良さを併せ持った、本家の「ネロ」に近い性格になっており、「バージル」は知的で兄弟を大切に思い、“人類のために戦う”と本家版とは一見正反対な特徴を持ちつつも、“あくまで人類は保護の対象であり、対等な立場ではない”と仲間であっても人間ならば道具扱いする冷血漢になっています。

敵である「ムンドゥス」も“物理的な力による強制的な支配”だけではなく、“人間に化けて世界最大の銀行・会長の立場から政財界を手玉に取る”という、悪役としては中々にリアルな角度から攻めてくるのも注目です。

自身の権力を使い、悪魔だけでなく人間の警察やSWATも動員して追い詰めてくる「ムンドゥス」や、目的を共有しつつも価値観の違いで対立する「ダンテ」と「バージル」など、本作のアレンジから生まれたドラマには目を見張るものがあり、『DMC』の再解釈として捨てがたい魅力を持っています。

なお筆者としては好印象なストーリーですが、一部の翻訳が大雑把なことは許容できる一方、どうしても気になった点が存在。本作ではDLC(『DmC DE』には最初から収録)として、本編後の「バージル」を主役にしたストーリーが描かれますが、全体的に強引な展開が見られます。
話としては、「ムンドゥス」を下し新たな支配者として人類を導こうとするも「ダンテ」に倒された「バージル」、そんな彼が死後の世界で体験した出来事を追う内容です。

この物語を通して「バージル」は「ダンテ」に劣等感を覚えるようになっていきますが、その過程は終始“突拍子もなく現れた「ダンテ」らの幻覚に煽られる”というもの。

“「バージル」が私的感情から「ダンテ」と敵対する”というシチュエーションを実現するためのご都合主義に思えてしまい、筆者は本編ほどの展開の説得力は感じられませんでした。

DLCのストーリーは“人としての心を無くした「バージル」が復活し、悪魔を従えるようになる”形で終了するため、当時は続編を考慮していたのかもしれません。しかし、『DmC DE』発売の10年後である2025年にも新作の情報は無く、開発元のNinja Theoryがマイクロソフトに買収されたのもあって続編はあまり期待できず、せめて単体で綺麗に完結して欲しかったところです。
余談―本家への影響について
2013年に発売された『DmC』ですが、その後のシリーズ作として2015年に『DMC4 Special Edition(以下、DMC4SE)』、2019年に『DMC5』、2020年に『DMC5 Special Edition(以下、DMC5SE)』がリリースされています。

『DmC』はパラレルストーリーかつ操作方法も違ったものの、本家に逆輸入された要素もいくつか存在します。例えば、『DmC』の時点で本家「バージル」は『DMC3 Special Edition』が唯一のプレイアブル作品でしたが、元々エネミーだった影響かメイン武器「閻魔刀」は攻撃バリエーションが少なめでした(武器だけなら『DMC1』にも登場するが他武器のコンパチ)。
一方『DmC』の「バージル」はあらゆる局面に対応できるようアクションが追加されており、本家「バージル」が再プレイアブル化した『DMC4SE』や『DMC5SE』では、これらの多くがモーションこそ違うものの、似たコンセプトのものが逆輸入されました。


中には本家『DMC3』で「ダンテ」の能力だった「ドッペルゲンガー」を『DmC』の「バージル」が使い、『DMC5(とSE)』で今度は本家「バージル」も使うようになる…といった輸入からの逆輸入までされています。

また、ゲームシステムの観点では『DMC5』で本作の戦闘終了後にスローモーションが挟まる「キルカメラ」や敵の攻撃を攻撃で弾く「パリィ」も実装されており、ストーリー的にも心なしか両作品の「バージル」の最終的な行動原理に共通点が見られます。

公式から“『DMC』のDNAを受け継ぐ”と宣伝された『DmC』ですが、逆に本家にも本作のDNAが受け継がれていると言えるのかもしれません。
おわりに

これにて『DmC』ならびに『DmC DE』の紹介は以上となります。発売から10周年になる『DmC DE』ですが、2025年に遊んでも本家とは違った魅力のあるアクションゲームです。
ちなみに、今回の『DmC DE』は何故かPC向けにリリースされておらず、後の本家『DMC5』も『SE版』はPC向けでは未発売。昨今のカプコンのPC市場への力の入れようや、『DMC』がシリーズ換算で売り上げ上位なことも考慮すると、少し不思議な判断がされています。
筆者としては、シリーズの大半に関わった伊津野氏がカプコンから退社している事実も相まって、“『DmC』はおろか、そもそも本家『DMC』の新作もどうなってしまうのだろうか”という不安がぬぐい切れません。

今回のプレイを経て、“マルチバース的な展開で『DmC』の「ダンテ」を本家キャラクターと共演させても面白いんじゃないか”、そんな気持ちも湧いてきた筆者ですが、何よりもまず、『DMC』シリーズ自体に新たな展開があることを切に望みます。














