Nexonは、連結子会社Embark Studiosが手がける新作PvPvEエクストラクションアドベンチャー『ARC Raiders』を、PC(Steam/Epic Gamesストア/NVIDIA GeForce NOW)/PS5/Xbox Series X|S向けに10月30日リリースしました。Steamでは最大同時接続人数が35万人を突破するなど、順調なスタートを記録しています。
Nexonは『メイプルストーリー』『アラド戦記』などの老舗オンラインゲームを中心に、さまざまなゲームをPC/スマートフォンをメインにリリースしています。近年は『デイヴ・ザ・ダイバー』『The First Berserker: Khazan』などの高評価作品がコンソール向けにも登場しているほか、今後は『マビノギモバイル』(韓国では3月にリリース済み)『Vindictus: Defying Fate』『Woochi the Wayfarer』など注目作品のリリースを控えています。
Game*Sparkは、NexonのCEOであるイ・ジョンホン氏へのインタビューを実施。リリースされたばかりの話題作『ARC Raiders』についてはもちろん、今後の展開やゲームへの想いなど、さまざまな質問に答えていただきました!

Nexon CEOイ・ジョンホン氏インタビュー
――Game*Sparkでは2024年のG-STAR会期に、イ・ジョンホン氏にインタビューを実施していました。約1年前から現在に至るまで、日本と韓国のゲーム市場にそれぞれどのような変化が起きたと感じますか。
イ・ジョンホン:大きく二つあります。まず両国ともグローバル展開が急速に進んでいること。日本企業は人気フランチャイズを軸に海外市場へ積極展開し、安定的な収益を確保しながら成長していますね。
韓国企業も内需中心からグローバルシフトを加速させ、買収や投資も含めてマルチプラットフォーム対応を進めています。特にモバイルファーストからコンソールやPC対応への移行スピードは目覚ましいですね。
ーー韓国のゲーム企業といえば「PCゲーム」「スマホゲーム」の印象が特に強いです。「韓国と言えばゲーム」と感じながらも、家庭用ゲーム機に向けて舵を切ることは意外に感じます。
イ・ジョンホン:そうですね。マルチプラットフォーム対応に向けたリソース投入は強まっていると感じますし、家庭用ゲーム機の市場は今も拡大しているので、韓国企業は積極的に攻め込んでいきたい領域かなと思います。
ーーなるほど。
イ・ジョンホン:ただ、Nexonの場合は「家庭用ゲーム機市場が拡大しているから投資している」というだけではありません。私たちはFree-to-Play(基本プレイ無料)のオンラインゲームを長く開発・運営している企業ですが、「パッケージゲーム」は開発工程自体が大きく違います。
1本のゲームとして開発・販売し、その工程を学んでいくことで、Free-to-Playタイトルやオンラインゲームにも相互にノウハウを活かせないかと考えています。

ーーNexonは、主力IPを軸にフランチャイズを拡張するアプローチ(垂直的成長戦略)を取られていました。2025年第3四半期までの主なタイトルの業績や動きがどのようなものだったか、またその結果は今後の全体戦略にどう活かされていくのか、お聞かせください。
イ・ジョンホン:垂直的成長戦略であるIP成長においては、大きな進展がありました。PCゲーム市場が再び盛り上がったというのもありましたし、『MapleStory Worlds』の急成長といった背景を含め『メイプルストーリー』フランチャイズの成果も大きなものでした。『アラド戦記』のライブサービス運営も、顕著な進歩を生み出せました。
ーー『アラド戦記』IPに関しては、先ほどの「パッケージゲーム」の取り組みである『The First Berserker: Khazan』がリリースされていましたね。
イ・ジョンホン:『The First Berserker: Khazan』について更に細くすると「パッケージゲーム」の第1作ということもあり、ゲームをプレイしてくださる方が「こんなIPがあったのか」「ゲーム性が良いな」などと評価してもらえればと期待していたので、そういった意味では達成できましたし、2027年までに発売予定の『Project OVERKILL』『Dungeon&Fighter: ARAD』に向けての土台が整いました。
ーー『The First Berserker: Khazan』の日本での反響について、どう感じられていますか? Steamでは「老眼のおばちゃんだけど“イージーモード搭載”と聞いてプレイしてみた」という日本人からの好意的なレビューが寄せられていて、話題となっていました。
イ・ジョンホン:Steamのレビューは私もよく見ていましたが、このレビューは初耳でした(笑)。本当に、この場を借りて感謝の言葉を伝えたいです。
私を含め、韓国の開発チームとしては「日本のゲーマーはレビュー点数の基準が高い」と感じています。ときには厳しい意見もいただきますが、その中で高く評価されれば「日本で愛されたゲームだから、世界のどこの地域にも通じる」という自信につながるのです。

ーー2026年以降の日本市場をターゲットにした戦略について、お聞かせください。
イ・ジョンホン:まず、3月に韓国でローンチした『マビノギモバイル』について、韓国以外の地域では初の海外展開となりますが、日本専用のビルドで、2026年内の日本でのローンチを計画中です。10月30日にグローバルローンチを迎える『ARC Raiders』も、今の私たちの成長戦略の要となるゲームです。サーバースラム(通信負荷テスト)でも、良い結果を出せました。
その影響もあってか、PlayStation Storeでのセールスランキングで『ARC Raiders』デラックス版が1位、通常版が3位まで上昇しました。Steamでも20万人近くの同時接続プレイヤー数を記録しています。
――なるほど。日本のゲーマーの間でも『ARC Raiders』への興味関心は非常に高まっているため、このIPで日本市場に向けてどう取り組まれていくかについても、お聞かせください。
イ・ジョンホン:『ARC Raiders』にとって、日本は潜在的なニーズが高い重要な市場と認識しています。発売後も月次アップデートや人気ストリーマーとのコラボでライブサービスを継続し、知名度向上とコミュニティ強化を図ります。このゲームが持っている世界はユニークですし、私としても新鮮に感じています。
――Embark Studiosにとっての2作品目となる本作は、どのように開発が進められていたのでしょうか。
イ・ジョンホン:特にこだわっていたのは、世界設定と雰囲気や印象の統一感です。Embark Studiosのアート担当チームのメンバーは、実際にカメラを持って世界中を巡りながら写真を撮影し、「この『ARC Raiders』にはどのような雰囲気のビジュアルがマッチするか」を考えながら仕上げてくれました。
本当に斬新でユニークな風景を味わえる作品なので、ビジュアル面からもゲームの楽しさを感じていただき、没入してもらえると嬉しいです。緊張感も大切にしていますが、気軽にプレイしてもらえるように設計しているので、ぜひ体験してみてください。

――Embark Studiosが手掛けた『THE FINALS』の開発技術は、どのように『ARC Raiders』に活かされているでしょうか。
イ・ジョンホン:『THE FINALS』のローンチ以降は、2つの学びがありました。まずひとつは、私たちの想定以上にプレイヤーの皆様からアップデートのご要望を多くいただいたこと。もっと多くのコンテンツ、優れたコンテンツの追加を常に求めてくださっていると実感できたので、『ARC Raiders』のアップデート計画は既に綿密に立てています。
そしてもうひとつは、チート対策です。不正プログラムを使って不当な利益を得ようとするプレイヤーが発生したら、企業として速やかに対応して、ゲームプレイの公平性・利便性を整えねばなりません。これらを『THE FINALS』から得た教訓としています。
――なるほど。
イ・ジョンホン:これは余談なのですが、Embark StudiosのCEOとはメッセージアプリを使ってよく話し合っていて、彼のプロフィール画像は本人の顔写真でなく、ヒゲとオーバーオールでおなじみの某有名ゲームキャラなんですよね。彼らは本当に日本産ゲームへの愛情と尊敬を強く持っているので、日本マップを導入した『THE FINALS』同様に『ARC Raiders』にとっても日本のコミュニティは大切な存在です。

――(笑)。他にも、リリースを控えている『Woochi the Wayfarer』や『Vindictus: Defying Fate』なども日本のゲーマーから注目されています。いずれも韓国の古典文学や御社IPである『マビノギ英雄伝』と、既存のコンテンツを背景に持っていますが、こうしたタイトルを日本に送り届けるときに重要視していることについて、お聞かせください。
イ・ジョンホン:先ほどお話したところと重なりますが、私たちNexonの開発チームは「日本のユーザーは高い評価基準を持っている」と考えています。ゲームやその運営だけでなく、さまざまなエンターテインメント分野で世界トップと言えると思います。
そういった日本のユーザーに向けて効果的にアプローチできる方法として考えたのは「感情を込めて、没入できるゲーム体験を届ける」ということです。世界設定やストーリーの品質は当然として、ゲーム開発会社として心の底から取り組んでいる姿勢やその気持ちをユーザーに向けて伝えることは、非常に大切だと考えています。
『Woochi the Wayfarer』と『Vindictus: Defying Fate』はいずれのタイトルも大規模な作品となりますし、バックボーンにある小説やNexonの『マビノギ英雄伝』に興味を持ってもらえればと思いますので、そのためにまずは両作のゲームとしてのクオリティを高めていきます。

ーー日本でのイベント出展(東京ゲームショウ)についてお聞かせください。2024年は『The First Berserker: Khazan』、2025年は『The First Descendant』と、ひとつのタイトルにフォーカスされていました。Nexonは多くのIPを所有していますが、単独タイトルを展示する狙いや、展示を通してユーザーへ伝えたいことについてお聞かせください。
イ・ジョンホン:お客様に「我々が作るゲームそのものに集中していただきたい」と考えているためです。もちろんNexonのブランディングを重視したプランも考えましたが、まずは一作に注力し、没入感のある環境を提供することで、Nexonのゲームの魅力と企業としての認知度を周知したいと思っています。
ーー日本と韓国の「ゲームイベント」には、どのような違いがあると考えられていますか。韓国では11月に大規模ゲームイベント「G-STAR 2025」が開催されますが(※本年はNexonは展示予定無し)、各地域で異なるアプローチ、あるいは逆に一貫しているアプローチについてお聞かせください。
イ・ジョンホン:私は「G-STAR」専門チームのリーダーを担当した経験もあり、展示するゲームやブースの構成なども決定していました。その当時に最も大事なこととして考えていたのが「試遊の待ち時間を最小限にすること」です。そのためには「ブースを大きくすること」「試遊デバイスを増やすこと」が必要でした。やはり、ゲームイベントに足を運ぶ方は「発売前のゲームが遊べる」という点に魅力を感じると思うのです。
すべてとは言わずとも、多くの韓国のゲーム企業は「ゲームを遊んでもらうために、試遊環境を増やすこと」を重視しています。一方で、日本のゲーム企業は「ゲームの世界設定を伝える展示」や「企業に親しみを感じられるブース作り」を大切にされていますよね。
例えば巨大なフィギュアを展示したり、ブースデザイン自体がその会社のゲームやIPらしく彩られていたり。「ゲームの世界に入ったかのような感覚」を味わわせてくれるゲームイベントとしては、東京ゲームショウは世界一と言えるのでは、と思っています。

ーーCEOの視点から、生成AIを始めとした「新たなゲーム開発技術」は御社タイトルに今後どのような影響をもたらすと考えられますか。
イ・ジョンホン:やはりゲーム制作の工程やライブサービス運用においては、AIを導入したことによって大きく効率化されました。そういう意味で、ゲームやライブサービスの「平均」が徐々に高まっているようにも感じます。
まずは「すべてのゲーム企業がAIを使っている」「すべてのゲーム企業が同じか、類似する技術を使っている」と考えることが必要です。同じAIや技術を持っていると考えた中で、どのように生き残るか。どのように競争力を高めていくのか、と戦略を選ぶことが大事だと思います。
いろいろと工夫してみたのですが、結論から言うと……そういった未来の世界で差別化を図れるポイントがあるとしたら、やはり「人間の創造性」になると考えています。
――なるほど。
イ・ジョンホン:まだビデオゲームという文化が根付いていなかった頃、初めてゲームが世の中で認知されたときに「ヒト」と「技術」をどのように分けて考えていたのか、ということも振り返りました。ゲームの黎明期では、日本の「世の中になかった新しいIP」を海外に向けて発信する力は世界一だったと思います。実際、Embark Studiosのヘッドも私も日本のゲームは大好きですしね(笑)。

――「G-STAR 2024」で取材させていただいた際、『悪魔城ドラキュラ(キャッスルヴァニア)』が好きだというお話を伺いました。いちゲーマーとして、ここ1年間で特に好んでプレイしたタイトルはありますか?
イ・ジョンホン:最近では『デイヴ・ザ・ダイバー』やパズルゲームをプレイしています。でも、既に世に出ているゲームというよりは開発中の作品のテストプレイのほうが多いですね。今も『ARC Raiders』をテストで遊んでいるのですが、本当に面白いです(※取材時は10月中旬)。
――CEO自らもテストプレイされるのですね。
イ・ジョンホン:はい。日本に訪れているこの期間にも、どうしても『ARC Raiders』をプレイしたかったのでゲーミングノートPCを新しく購入して遊んでいます(笑)。
――Nexonが発売予定のタイトルは、どれも日本のゲーマーから非常に期待視されています。インタビューの結びとして、新作リリースを楽しみに待っているファンに向けて、メッセージをお聞かせください。
イ・ジョンホン:『Woochi the Wayfarer』と『Vindictus: Defying Fate』はもちろん『マビノギモバイル』にもぜひご期待ください。
また、Nexonの創業者はいろいろな希望と願いを持ってこの会社を立ち上げました。その中のひとつが「ヒットメーカーとして日本のゲーマーの皆様に認められたい」というものです。私もその意志を引き継いで、Nexonのゲームが日本で愛されるよう取り組んでいくことが、最優先のミッションであると考えています。
やはり「ゲーム会社」は「ゲーム」で語るべきだと思いますので、日本で新作を出すこと、ライブサービス運用に取り組むことを大切にしています。それ以外でも、オフラインイベントなどの催しももっとたくさんお届けできるよう積極的に取り組んでいくので、応援よろしくお願いします。
――本日はありがとうございました!




2026年に『マビノギモバイル』が日本専用のビルドでローンチするという話まで飛び出した今回のインタビュー。今後の期待作である『Woochi the Wayfarer』『Vindictus: Defying Fate』のさらなる情報はもちろん、これからもNexonの動向からは目が離せませんね!














