
1月20日にPS4/PS5のクラシックスカタログで配信された、ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)の人気レースゲームシリーズ1作目PS版『リッジレーサー』。初代PS版は、コースこそアーケード版と同じであるものの、操作やペナルティを含めたゲームバランスや登場車種、グラフィックの細部が異なっています。
この記事ではそんな初代PS版に注目し、AC版との違いや後の移植作や後のシリーズ作にどんな影響を与えたかなどを語ります。なお、AC版とPS版を含めた『リッジレーサー』そのものの開発経緯などは、アケアカ配信時に執筆した特集記事にて記載しています。こちらの記事も合わせてお楽しみください。
同じなようで全く違うPS版とAC版『リッジレーサー』
初代PS版の特徴をおさらいしておきましょう。PS版初代『リッジレーサー』は1993年にアーケードで稼働していた同名タイトルの移植版で、1994年12月3日発売のPlayStationのローンチタイトルでした。AC版との差異が小さいことから大きな注目を集め、家庭用ゲームへ初参入した当時のソニーとPlayStationを象徴する作品です。
PS版の開発は1993年5月にスタート。PS版の開発には『アイドルマスター』シリーズの総合プロデューサーを務めたことで知られる坂上陽三氏(ガミP)が関わっており、少数人で開発期間6か月という厳しい状況のなか進行していました。
PlayStationのローンチタイトルとして発売されたPS版『リッジレーサー』は、電撃王1995年2月号に掲載された1994年11月7日から12月3日までの推定販売本数チャートによれば、発売初週に約9万5,000本を売り上げを達成(ランキングとしては5位。1位は『スーパードンキーコング』)。初代PlayStationローンチ時の販売台数が約10万台なため、本体を買った人のほとんどがリッジレーサーを購入したと推測できます。
PS版『リッジ』は当時完全移植と評価されていたものの細かな仕様がオリジナルと異なります。例えばオリジナル版よりフレームレートが60fpsから30fpsへと変更されていることを筆頭に、コースのテクスチャや看板、自車のデカールなどが異なる他、音楽が鳴るタイミングもレース開始直後です(『オリジナル』ではコースに入ったタイミングで鳴る)。
また、自車に書かれたデカールの一部はAC版だと「RAVE WAR」と記載されているもののPS版だと「NAVIWAY」へと細かな文字が変わっている他にも、レース開始時のカメラ演出やメカニックの有無、登場する看板の違い、エンジン音、タイヤのスキール音、三人称視点の切り替えなどです。






加えて、ゲームシステムに関してもドリフトなどの挙動がアーケードの『リッジレーサー2』寄りとなっていること、敵車が密集しにくいこと、そして敵車や壁の接触時ペナルティの減速が高くないことなどもAC版と異なる要素です(速度低下のペナルティは小さいものの、敵車が加速するため難易度緩和の幅が小さい)。
細かな仕様に注目してみてもPS版はアーケード版の仕様をそのまま落とし込んだわけでなく、アレンジを加えた調整であることがわかります。実際にAC版とPS版を遊び比べてみても、プレイ感覚の違いが大きいことに驚かされ、特にフレームレートと当たり判定、そして敵車挙動の違いによって、コースの攻め方もかなり変わると思いました。


PS版実機に関してはナムコの特殊コントローラー「ネジコン」の存在が欠かせないでしょう。このコントローラーは本体中央の回転軸を筆頭に、アナログ操作を実現する機器です。初代PSの通常コントローラーは100と0(ON/OFF)しか入力できませんが、ネジコンではコントローラー中央の回転軸を筆頭に、I/IIボタン、そしてLボタンの4つが40や60といった力加減の異なるアナログな入力が出来ます。
PS版『リッジ』においては、中央の回転軸をハンドルに、I/IIボタンなどにアクセルを割り当てることでアナログ操作が可能となります。それによって、コーナーの角度に合わせた適切なハンドリングやスタート時を含めた絶妙なアクセルワークなどを実現し、レースゲームとの相性の良さから操作する面白さと楽しさを各段に高めてくれるデバイスでした。




ナムコのPR誌「ノワーズ1994年冬号」のインタビューによると、ネジコンがコントローラーそのものを回転させられるようになったのは、CS開発部の人がゲームプレイ中にコントローラーと体を左右に動かしてしまう下手なプレイヤーの動きを見て「コントローラーそのものが動けば、ねじれたら面白いはずだ」ということが発想の源であったと語られています。
また「HYPERPlayStation誌1995年4月号」に掲載されたインタビュー「ネジコンの謎と真実」よれば、ネジコンは『リッジレーサー』のために開発されたものでなく、もともと当時として未発表のタイトル向けに作られていたものでした。1995年1月の発売より2年以上前から開発しており、価格を4000円台に抑え、PlayStation向けに最先端のハードとソフトを使ったゲームを作ろうと生まれたのがネジコンのアナログボタンであったそうです。
また、「自分の思ったことがパッとできて、なおかつ難しくて悔しい」ということがゲームの面白さであると前置きしつつ、ネジコンは手先が器用すぎるデジタル的な入力の上手い人だけが面白さを得る、ということに歯止めを掛けたいことも作った切っ掛けでもあると語られています。そういった曖昧な入力が出来るゲームの例えとして同ナムコのAC版『超絶倫人ベラボーマン』の感圧ボタンなどが、その一つであるとも述べていました。
そんなコンセプトがあるためか、『ワールドスタジアムEX』では、バットのスイングや投球の強弱がネジコンのアナログ操作に対応していました。しかしながら、主要なネジコン対応タイトルとしては『リッジレーサー』シリーズやSCEの『グランツーリスモ』を筆頭としたレースゲームでした。
ネジコンそのものは2026年現在でも人気のデバイスです。主に、レースゲームにおいて巨大なハンコンを用いらなくても絶妙なハンドリングとアクセル/ブレーキワークが可能であるために、現行機/PCに対応したネジコン再登場を望む声が今でも多く挙がっています。
逆走コース、ミラーコース、追加車種、ミニゲーム、エンディングなど…、PS版ならではの追加要素
ここからはPS版の特徴をひとつずつ紹介していきましょう。まずはロード画面でのミニゲーム『ギャラクシアン』です。

この『ギャラクシアン』はアーケード版そのものを移植したわけでなく、あくまでも一部要素を再現したものであるために、アーケード版のように、敵編隊の端から敵機が襲い掛かるわけではありません。一方で、難易度はそこそこ高く、弾丸を発射するタイミングが悪ければ敵を全滅させられずに終わってしまうこともよくあります。
メニュー画面もPlayStation向けに刷新。AC版では1枚のイラストにコースとAT/MTの選択があるぐらいでしたが、PS版ではコースセレクト、AT/MT切り替え、車種選択、BGM選択、オプションからのネジコンを含むコントローラーの設定、セーブ&ロード、最速タイムの確認などが追加されています。またプレイアブル車種もF/A RACINGとRT RYUKYU、RT YELLOW SOLVALOU、RT BLUE SOLVALOUの基本4車に増加。さらに、ゲーム開始時のミニゲームをクリアすると新たに8車種が追加されます。



プレイヤーが攻略するコースは、AC版と同じ初級と中級、そして追加区画がある上級コース、そしてタイムトライアルの4種類。全てのレースで1位を獲得できれば新たに実装されたエンディングが観覧できます。
さらにPS版を特徴付けたのは、追加のエクストラ(逆走)コースでしょう。チェックポイントの間隔が1周となったことで全体的な難易度が上昇。もちろん、逆走のためコースそのものは同じでもカーブを攻めるポイントが変わってきます。また、中級コースでは、2週目暗闇に包まれるなど難しく調整されているほどでした。


極めつけは、エクストラのタイムトライアルに登場する13” RACINGのデビルカー。コース途中に停車した状態から現れて、コース一定の地点から驚くべき速さでプレイヤーを追い抜いていく強敵です。プレイヤーのミスに応じて後方から突き上げてきますが、バックミラーが実装されていないために、その追撃を退けることが本当に難しいものでした。
加えて、黒くて速くて強いことから通称ゴキブリカーとも呼ばれていました。見事このデビルカーを抜いて勝利するとエンディングへ突入。破格の性能を持つデビルカーが操作可能となります。


順走と逆走だけでなく、コースそのものを左右反転させたミラーコースもPS版を象徴するものです。スタート位置から少し走って反転し、時速100km以上でスタート地点背面の壁へ衝突するとミラーコースに突入。コースの左右反転だけでなく、テクスチャそのものも反転し、既存のコースと組み合わせれば、全体で順走/逆走を合わせて全16コースも遊べてしまいます。
これら多くの追加要素がありながらも、PS版『リッジレーサー』そのもののゲームプレイに慣れてしまえば、すべての内容を1時間足らずで味わえてしまうほどの規模でした。




今回配信されたPS版『リッジレーサー』を改めてプレイしてみると、アーケード版とグラフィック的に遜色ないために初プレイの感触の良さは強く感じますが、ゲームそのものに理解が進んでくるとAC版と感触やバランス面で大きく異なることに気付かされます。
特に大きいの違いを感じるのが敵車の挙動とドリフト。これによって進路上に存在する敵車を微妙なハンドリングやアクセルワークで避けることが難しく、衝突してしまうことが多々ありました。それでも、移植の品質自体は高く、ネジコンでプレイできればおおよその不満が解消されるために、古さをAC版より強く感じてしまうものの価値は失っていないようにも思えます。
また、本作以前よりクラシックスカタログとして配信されていた『R4 リッジレーサータイプ4』と同じく、グラフィックは現行機向けにアップレンダリングされ見やすくなっており、どこでもセーブ&ロード、リワインド機能での即復帰、コントローラーのスティックでも操作できます。
しかし、どちらもアナログ入力に対応しておらず、実機のネジコン操作のように絶妙なハンドリングやアクセルワークを使って攻略することができないのが残念です。方向キーのみで操作するより各段にプレイしやすいのですが、難しいことには変わりないために、ハンコンなど対応してくれればとも思ってしまいます。
3D時代におけるナムコの移植作特徴を作り出したPS版『リッジ』
PS版『リッジレーサー』の特徴と言えば、前述の通りアーケード版を大きな違いを出さずにコンソールへと落とし込むことが出来た点と、コンソール(家庭用)向けのタイトルとしての追加要素を盛り込むことが出来た2点でしょう。
人気アーケードゲームからの移植という点では、1994年11月20日に発売したセガサターンのローンチタイトルであるSS版『バーチャファイター』と同じく、オリジナルのアーケード版からグラフィックを筆頭とした品質の差が小さいということは同じでした。
しかしPS版『リッジレーサー』が同時期の移植作として特殊だったのは、初代『リッジレーサー』の移植でありつつも前述のゲームバランスが『リッジレーサー2』寄りであるだけでなく、前述に述べた各種追加要素が盛り込まれたところにあります。エンディングの実装を含めて、当時ここまで内容を盛り込んだ移植作は他になく、その充実さは一際目立っていました。

この特殊さを際出せているのが、後発のナムコのアーケードタイトル移植作。PS版『スターブレードα』ではテクスチャモードが追加されたほか、PS版『鉄拳』では初回ロード時に『ギャラガ』やアレンジBGM、そしてエンディングが実装されましたが、新モード追加などの大きく変化はありません。つまり、先発のPS版『リッジレーサー』と同じぐらいの追加要素がないのです。
ある種、アーケードゲームの移植という枠を超えて、オリジナルを保ちつつも多くの追加要素から家庭用ゲームとして再構築したことがPS版『リッジレーサー』の新しさでした。

この「ゲーム内で往年の名作が遊べる」や「充実した追加要素」というのは後のナムコ(バンダイナムコ)タイトルにおいて度々登場しています。
例えば1997年の『ゼビウス 3D/G+(プラス)』では、本編となる『ゼビウス3D/G』に加えて『ゼビウス』過去作を3バージョン収録し、1998年の『R4 リッジレーサータイプ4』では60fps対応版の初代『リッジレーサー』を同梱。さらに、2005年のPS2版『鉄拳5』では、AC版『スターブレード』やAC版『鉄拳』初期3作がプレイ可能であることに加えて、家庭用オリジナルモードとして風間仁にまつわる3Dアクションの「DEVIL WITHIN」モードが実装。また、2004年の『リッジレーサーズ』では『ラリーX』が、2006年の『リッジレーサー7』では『ゼビウス』が遊べるなど、あるこれらの追加要素は意味ナムコ(バンダイナムコ)を象徴する施策でした。

ある種、PS版『リッジレーサー』はゲーム進行をオリジナルから再構成し、レトロゲームを冒頭で遊べるようにしたことで過去と現在を繋ぎ、プレイヤーの意識を大きく変えたタイトルでもあったのかもしれません。
コンソールで世代を重ねることになった『リッジレーサー』
このPS版『リッジレーサー』は、アーケードゲームの移植でありつつも家庭用ゲームとして様々な要素を導入したことで、新たにコンソール向けに独自展開される『リッジレーサー』シリーズを生み出すことに繋がりました。
PS版『リッジ』の後には『リッジレーサー レボリューション』や『レイジレーサー』などが発売されると共に、アーケードよりコンソール版の存在が強くなり、『リッジレーサーV』に至っては逆にコンソールからアーケードへ逆移植されるという、コンソール版が主流となる流れまで生み出したのです。しかしながら、今現在は2012年の『Ridge Racer Unbounded』を最後にシリーズの新展開が止まっており(今回のDL版や、アケアカでのAC版配信などはある)、往年のファンからは今でも新作を希望する声が挙がっています。

一方で、ナムコ(バンダイナムコ)のレースゲームで今現在も独自に新展開をしているものは、目立つものでアーケードで展開される『湾岸ミッドナイト』シリーズが挙げられます。最新作『湾岸ミッドナイト スピードイグニッション』の開発も進められているためレースゲームそのものの血脈は途絶えていませんが、コンソールでなくアーケードタイトルが生き残っているというのは、『リッジレーサー』がコンソール中心となったことと対照的です。
PS版『リッジレーサー』はAC版と並べても、それぞれの違いが多く出ていることからAC版が移植された2026年1月現在でも楽しめるタイトルであることは確かです。ハンドリングやアクセルワークの感覚がPS版と大きく異なるために、それぞれの価値が薄れていないのは珍しいといえるでしょう。PS版を楽しんだプレイヤーはAC版が、AC版を楽しんだプレイヤーはPS版がそれぞれ楽しめるのが嬉しい時代です。
PS4/PS5のPS版『リッジレーサー』はPS Plus プレミアム会員なら無料でプレイ可能。単品でも販売されており価格は1,100円です。この配信を機会にプレイしてみてはいかがでしょうか。














