
借家で生まれ、借家に育ち、借家を転々と暮らして幾星霜。出るも入るも真っ新な部屋ですが、当然そこには人の歴史があるもの。Blue Backpack開発、PARCO GAMESパブリッシングによる『The Berlin Apartment』は、ベルリンのとあるアパートの1世紀を描いた一人称視点アドベンチャーです。
本記事では、本作の魅力をお届けします。なお、プレイにあたってはパブリッシャーよりSteamキーの提供を受けています。
2020年 ロックダウン
本作の舞台はベルリンの一角にあるアパート、そこへ親子が車で到着するシーンから幕を開けます。時は2020年、会話からはコロナ禍によるロックダウンで学校が閉鎖している様子がうかがえます。

少女ディラーラは、父マリクを手伝ってアパートのリノベーションに取りかかることに。壁紙は汚れ、タイルは割れ、ところせましと瓦礫の山でいっぱいです。

本作の特徴として、マウスないしスティック操作による様々なインタラクションが挙げられます。壁紙剥がしであれば掴んだ後に下へ引っ張って剥がすように、随所で単なるボタン押下ではないインタラクションが盛り込まれており、独特の没入感を生んでいます。

そして、剥がした壁の中には一通の手紙。手にしたマリクは、かつての住民たちの歴史を物語りはじめます。本作はこうして、2020年をハブとして様々な時代、様々な人々の挿話を追ってベルリンの100年間を描き出します。
1989年 壁崩壊
ルームメイトは姿を消し、金魚と語らい植物を世話する退屈な日々。床に倒れ、寝そべる青年コーリャの目に紙飛行機が飛び込んで来ます。

開けば、向こう側からの手紙。本作は、一つの窓辺から各時代のベルリンを眺めていくことになります。1989年、窓の下には長い壁が広がり、警備隊が目を光らせています。

こちらも手紙を書き、紙飛行機を折り、祈りとともに窓へ投げ、また返事が飛んでくる。時に風を読み、時に警備の目を欺き、交流を繰り返すうち、会えないまでも同時に食事を取る運びに。

棚一杯に詰められた缶詰はソ連から伝わった東欧お馴染みのスープ、ソリャンカ。そう、ここは東ドイツ。しかし、壁には西側ロックアーティストのポスターが並びます。1987年にデヴィッド・ボウイが西ドイツの壁際で、1988年にはブルース・スプリングスティーンが東ドイツでライブを開催した時代。二人の交流は、やがて来る新時代を予感させます。
1967年 東西冷戦
東西冷戦の真っ只中、1957年のスプートニク1号打ち上げから幕を開けた宇宙開発競争は激化の一途を辿り、世はまさに大科学時代。SF作家アントニアは窓辺に腰掛け、新作の執筆に苦悩します。

出版当局の承認を得られなければ本を出せない時代、編集者のビューロウは検閲を通すべく、修整を電話越しに要求します。1961年、ガガーリンは世界初の有人宇宙飛行に成功し、神の不在を観測した時の人でした。女性宇宙飛行士は主人公として受け入れられない、そう忖度を利かせます。

本作は、各時代ごとに少しずつ異なる遊びを味わえます。本章は、まさにテキストアドベンチャー。枝葉末節に至る要求の数々に対し、妥協したり折衷案を提示したり、選択肢が提示され、本来書きたかった物語は徐々に姿形を変え、その先には奇妙な展開が待っています。そして、同時代における一人の女性SF作家の境遇も。

1967年、遥かアメリカではジェイムズ・ティプトリー・ジュニアという男性名義のSF作家がデビューします。そして、翌1968年はベトナム戦争への抗議活動から西側諸国で反体制運動が起こり、西ドイツも例外ではありません。
1945年 ドイツ分割
5月8日に大戦は終わり、6月5日のベルリン宣言をもってしてアメリカ、ソ連、イギリス、フランスの四カ国によりドイツは分割統治されます。1945年12月25日、少女マチルダは荒廃したアパートでクリスマス飾りを探します。

占領下のベルリンは極貧の状況。母マグダに弟ルーカスとの三人家族、配給を切り詰めどうにか日々をしのぐ様子がうかがえます。他の時代に比べ、狭く、小さく、物がなく、寒々とした一室。それでも、集められる物を集め、せめてクリスマスを祝います。スプーン、フォーク、ロウソク、人形、空き缶、薬莢などなど。

その中には、父の勲章も。1914年、先の大戦が起こった年と鉄十字が刻まれた盾は今や砕け散り、マチルダには正体も分かりません。

そして、母に尋ねるのです。無邪気な質問を。
1933年 ナチス台頭
窓辺には、ユダヤ教の象徴的燭台メノラーを思わせるロウソク立て。彼方には、鉤十字の旗。1933年、アドルフ・ヒトラーが首相に任命され、全権委任法の成立により第三帝国が始まります。映画館のオーナーであるジョセフはドイツを離れるべく荷物をまとめます。

1895年、フランスのリュミエール兄弟が上映した「ラ・シオタ駅への列車の到着」は、映画史のはじまりを彩る一作。1929年、アメリカ市場の暴落をきっかけに始まった世界恐慌の波はドイツにも打ち寄せます。ジョセフは映画館を切り盛りして経済危機を乗り越えますが、ドイツは先の敗戦からの回復の道のりから転落し、ナチ党の台頭に繋がります。

本章では思い出の品々をカバンに詰め込んでいくのですが、その騒音に隣人から怒声が飛んできます。「特別警察を呼ぶよ!」1933年は秘密国家警察、俗に言うゲシュタポが活動を開始します。当時のベルリンは社会主義および共産主義が勢力を持っており赤いベルリンと呼ばれていましたが、反乱分子と見なされた人々は強制収容所へ収監されていました。

本作で、唯一アパートを後にする場面を題材とした本章。カバン一つで部屋を、国を出て行くジョセフの姿は、2020年に次なる入居者のためにリフォームを進めるディラーラとは対照的に映り、一層の味わいを与えます。
2025年『The Berlin Apartment』
本作の魅力は、様々な時代の人々が、ただ今を生き抜く姿を体験できる点です。大きな歴史の流れを前に、個人はあまりに無力ですが、それでも生き抜くのです。時代を変える英雄は一人としていませんが、変わりゆく時代を誰もが生き延びようとしています。その姿は美しく、遠いベルリンを実感できるゲームプレイには旅情を感じますが、2020年のコロナ禍を生きる親子の姿はむしろ共感的です。
本稿では、ゲーム内で多く語られない歴史的背景をいくらか補足していますが、アパート内に散らばる物の数々、人々のセリフの端々には、語り尽くせないほど豊かな時代性を鮮やかに感じられます。最後に付け加えるならば、2020年の主人公、ディラーラは主にトルコ系の女性名です。

1つの窓を通してベルリンの100年を描く『The Berlin Apartment』は、PC(Steam) / PS5 / Xbox Series X|S向けに2025年11月18日より配信中です。











