禁酒法時代。もしかしたら、この時代こそが「アメリカ黄金期」だったのではないでしょうか。
第一次世界大戦が終わり、世界は(結果的に見れば)つかの間の安定期を迎えます。その中でアメリカは技術的発達を遂げた重工業を生かして、自動車を始めとした大量の製品を生み出し、巨万の富を得ていきます。
アメリカ人は着実に豊かになり、それと同時に大衆文化が花開く。しかし、その大衆文化を「退廃的」と考える人たちも多く存在し、結果として酒類の製造販売や輸送を禁止する、アメリカ憲法修正第18条が制定されました。
しかし、この憲法修正条項がアメリカ国内から酒類をなくしたかと言えば、結果は真逆。マフィアたちが密造所や潜り酒場を作り、そこに様々な階層の人々が押し寄せます。
今回は、そんな禁酒法時代の潜り酒場を経営できるシミュレーションゲーム『Speakeasy Simulator』をプレイしていきたいと思います。

「神の国」アメリカで導入された禁酒法
本作の舞台となる時は1923年、まさに禁酒法真っ只中の時代です。
この時代は「ジャズ・エイジ」とも呼ばれ、黒人演奏家によるビッグバンドジャズがミュージックホールを彩っていました。少人数のバンドで即興演奏を行う、モダンジャズではありません。ちょっとした楽団と言うべき大人数でスウィングするジャズです。
軽快なリズムを奏でる金管楽器、その音色に乗って踊るダンサー。ジャズを鑑賞する客たちは、人生で初めて自動車を購入したり自宅に電話を設置したり、妻にせがまれてミシンを買ってあげたり……といったように、20世紀の重工業文明の泉に肩まで浸かっていました。
そのような人たちが、たとえ禁止されていようともマフィアが経営する潜り酒場へ向かうのは自然の理とも言えるでしょう。ミュージシャンたちもマフィアの手引きで、潜り酒場での演奏の仕事を引き受けていました。
そもそも、なぜアメリカでは禁酒法なるものが制定されたのでしょうか? これをざっくり説明すると、アメリカとは「神の国」でもあるからです。
禁酒を呼びかけるキリスト教プロテスタント教会と伝道師は、アメリカでは禁酒法時代の遥か以前から存在しています。斧を片手にバーに突撃し、中にある酒瓶や酒樽を破壊して回った女性社会活動家「キャリー・ネイソン」という人もいました。
彼女のこの行動は確かに迷惑行為ではあるのですが、その話題を聞いて彼女を大絶賛する人も少なくなかったのです。個人の心情はともかく、やっていることも、それがなぜか支持される流れも現代のSNSと似たような構造になっています。
元プロ野球選手のプロテスタント伝道師「ビリー・サンデー」は、憲法修正第18条の制定に尽力し、法律により酒類がなくなるアメリカの近未来を絶賛しました。アメリカは今もそうですが、自分たちが黙っているとカトリック教会に迫害されるという不安と反動で、急進的なプロテスタント教会の伝道師が極めて大きな発言力を持つことがあります。
しかし、人は教条的な文言だけでは生きていけない動物。禁酒法制定以後のアメリカでは、むしろ酒を中心とした風俗文化が大成し、同時にそれをシノギにするマフィアが勢力を拡大していきます。
葉巻屋の奥で酒を密造だ!

さて、舞台となる時代をおさらいしたところで、『Speakeasy Simulator』本編に触れていきましょう。
ここは1923年のアメリカ都市部。ゆえに、街の大通りを走る車は、T型フォードのようなレトロカーです。街行く人も、みんなビシッとしたスーツを着ている様子。
そんな中で主人公は穀物、酵母、水、そして酒の製造に必要な作業台や蒸留器などを購入します。拠点は、葉巻屋の奥の部屋。ここに機器を設置し、酒を製造します。材料が大麦の場合はウイスキー、ジャガイモの場合はウォッカ、バナナの場合はピサンアンボンといった具合です。

序盤は作った酒を近所にあるマフィアの事務所まで運び、それを売る仕事をこなします。次第にゲームが進むと、自分の店……つまり潜り酒場を持てるように。おおっ、すごい!

酒はマフィアの事務所だと安く買い叩かれてしまうのですが、自前のバー(葉巻屋の地下の部屋を使います)を持つと、より高い収益を得られるように。シェーカーを導入すれば、カクテルだってお手の物です。
本作には“プレイヤーの体力”や“睡眠”という概念がなく、それゆえに24時間働いていてもプレイに支障は出ません。ただし、酒の製造からその材料の購入、店の整備、接客に至るまでワンオペ作業なので、仕事は次々と発生します。深夜の牛丼屋みたいだ……!?

材料の比率に要注意
製造にあたり、筆者の頭を特に悩ませたのが、“同じ組み合わせ、同じ名前でも実質的に異なる材料”になるシステムです。
どういう意味なのか? つまり、水と酵母と穀物のそれぞれの比率に応じて、そこからできる二次材料(マッシュ)の質が決まるシステムが採用されているということ。蒸留器にかけて出てくる酒がたとえ同じ種類でも、そもそもの水・酵母・穀物の割合が異なる以上はマッシュが別物になるため、出てきた酒も別の扱いになるのです。

要は、水を多めにして作った二次材料と、穀物を多めにして作った二次材料を1個分のストレージに収めることはできず、それらで作った酒は同じ瓶に入れることもできません。
従って、瓶に中途半端に残ったウイスキーを新しく作ったウイスキーで継ぎ足そうと考えても、一次材料のそれぞれの比率が違っていたら継ぎ足し不可能。となると、残っているウイスキーは早めに出さなければならなくなります。
酒を入れる瓶もストレージ容量を1個占有してしまうので、先のことまで考えないと瓶が余ったり不足したり……。潜り酒場の仕事って、楽じゃない!

レビューはまだまだ少ないものの
そしてこの『Speakeasy Simulator』、外出時はやはり警官の目を気にしなければならないという要素も持ち合わせています。
マフィアの事務所に酒を持ち込む際は要注意。ノロノロしていると、警官にパクられてしまいます。キーボード操作なら、シフトキー押しっぱなしで走ることを行動原則にしましょう。幸い、スタミナゲージがないので走り続けられます。

一応、本作は題材の関係上、マフィアゲームと言えるのかもしれませんが、銃撃戦の代わりになかなか奥の深いクッキング要素が備わっていて、誰でも楽しめるような仕上がりです。
また、酒場にやって来たお客さんをいつまでも待たせると店の評価が下がってしまうシステムが搭載されているものの、いざとなればマフィアの事務所へ駆け込んでお金稼ぎをすれば良いというのもあり、資金繰りの難易度はやや低めではないかというのが筆者の見解です。
2026年1月16日にリリースされて以降、Steamでの評価は記事執筆時点でも2桁に到達したばかりというところ。まだちょっと、話題作りが実っていない状態の模様です。
しかし、時代背景を綿密に描き、細かな酒造りが体験できる「凝った良作」であることは間違いありません。デモ版も配信されているので、気になった方はぜひプレイしてみください。













