2026年は数々の有名ゲームの40周年です。日本国内だけに目を向けても『ドラゴンクエスト』『ゼルダの伝説』『メトロイド』『悪魔城ドラキュラ(Castlevania)』などは、今も新作がリリースされ世界中で人気を博しています。
それら名作が発売された1986年ですが、ひとつの迷作(?)も誕生しています。

『ミシシッピー殺人事件』。ジャレコが1986年10月31日にファミリーコンピュータ向けに発売したミステリーアドベンチャーゲームです。
ミシシッピ川を下る豪華客船での旅の途中、殺人事件が発生。乗り合わせていた主人公の探偵チャールズ・フォックスワース卿が助手のワトソンとともに事件解決に乗り出すという筋書きですが、その謎解きがあまりにも難易度が高いことで知られています。現在でも攻略サイトや動画を頼らなければクリアは困難でしょう。
また船内になぜか仕掛けられているナイフや落とし穴の罠にハマって死んだり、容疑者に聞き込みしようとしても一度聞いたことは二度と話してくれず詰まってしまうなど、その後に発展したアドベンチャーゲームと比較するとかなり理不尽かつ不親切でした。このため『ミシシッピー殺人事件』はいわゆるバカゲーとする見方もありますが、一般には低評価のゲームとして悪い意味で有名になっています。

『ミシシッピー殺人事件』のオリジナルは、アメリカの大手メーカーであるActivisionが同年にコモドール64向けに発売した『MURDER on the MISSISSIPPI』です。
このオリジナル版は助手の名前がワトソンではなくリージスだったり、フロッピーディスクを活かしたセーブ機能があったり、使われていない客室への入室が自由にできない(そのためゲーム開始直後に落とし穴やナイフの罠にハマることはない)など、ファミコン版とは多くの差異があります。
筆者はコモドール64の実機を所持しており、オリジナル版を実際にプレイした上でその評判についても調査したことがあります。当時の海外のコンピュータ雑誌のレビューを見てみると、実はファミコン版と違って決して悪くない評価を得ており、プロデューサーもその出来映えに自信を持っていたことを知りました(興味のある方はページ末の関連リンクからご覧ください)。
以降も筆者はこのゲームに関心を持ち続けていたのですが、先日偶然にも、オリジナル版に関する珍しい資料を入手しました。

『MURDER on the MISSISSIPPI』のプレスリリース用のドキュメント、サンプル版のフロッピーディスク、そして製本前のゲームマニュアルです。ドキュメントの日付は1986年の4月28日で、小売店向けに頒布されたものと思われます。
このプレスリリース文に、注目ポイントが複数あります。
a 19th century murder mystery set on a Mississippi riverboat
19世紀のミシシッピ川の蒸気船を舞台にした殺人ミステリー
まず年代が19世紀ということ。時期については「爽やかな6月のある日」というテキストがオープニングで確認できるのですが、年代についてはオリジナル版やファミコン版のパッケージやマニュアルにも記されていませんでした。
しかしゲームの舞台となるデルタ・プリンセス号は、船の両脇に水車型の装置を持つ「外輪船」として描かれています。このタイプの蒸気船が主に活躍していた時代は確かに19世紀であり、それが裏付けられた形です。
また、スタッフのコメントも載せられています。
"Murder on the Mississippi provides the player with an exciting challenge that introduces a new way to play a computer adventure," said Ken Coleman, vice president of product development. "Because the adventure is completely joystick operated, keyboards and a knowledge of parser phrases are unnecessary," he commented.
製品開発担当副社長のケン・コールマンは次のように述べています。「『MURDER on the MISSISSIPPI』は、コンピューターアドベンチャーの新しい遊び方を提示するエキサイティングな挑戦です。このアドベンチャーは完全にジョイスティックで操作できるため、キーボードやパーサー(コマンド入力)の知識は一切不要です。」
初期のアドベンチャーゲームは、キーボードで「GET LAMP」などとコマンド入力で進めるシステムで、この方式は1986年当時もまだ現役でした。実際にはエニックスが1985年に発売したファミコン版『ポートピア連続殺人事件』など、キーボードのコマンド入力に頼らない作品はすでに存在していました。しかしアメリカのPCアドベンチャーゲームにおいては相当に珍しい取り組みであったことが窺え、セールスポイントにしたいという狙いが見て取れます。
発売時期についても記されており、コモドール64版が5月、Apple II版が6月とあります。ちょうど40年前の今ごろです。オリジナル版の発売時期がいつなのかはこれまで情報が見当たらなかったのですが、かなり正確なところまで判明しました。このオリジナル版が発売間もなくライセンスを得たジャレコによって日本に取り寄せられ、およそ数ヶ月でファミコン版が開発されたわけです。

そしてもっとも注目すべき点は、犯人当てコンテストを実施していたことです。正解者の中から抽選で2名、当時ミシシッピ川を運行していた「ミシシッピ・クイーン号」でのクルーズ旅行を獲得するチャンスが与えられるとあります。推理小説では「読者への挑戦状」という形式がすでに知られていましたが、ビデオゲームで扱うのは非常に斬新だったでしょう。
『MURDER on the MISSISSIPPI』の製品版購入者は、ゲームに同梱されているエントリーフォームに事件の犯人を記入してActivisionに送ることで抽選に参加できました。
加えてユニークなのが、プロモーションに協力した小売店も抽選の対象になっていたことです。
Retailers may also qualify for a separate drawing by setting up a display, running an advertisement or promoting Murder on the Mississippi during the contest period.
小売店側も、コンテスト期間中に店内ディスプレイの設置・広告の掲載・販促活動を行うことで、別途実施される抽選への参加資格を得られます。
製品版プレイ済みの筆者はエントリーフォームの実物を確認しており、この施策自体は以前から知っていたのですが、発売前のプロモーション段階からここまで力を入れていたキャンペーンだったというのが驚きでした。

最後に、サンプル版はどのようなものだったのでしょうか。結論から述べると、製品版との違いはどうやらほとんどないようでした。
最初から最後までプレイしてみましたが、テキストやグラフィックやサウンドの目立った相違点は見当たらず、ちゃんと真犯人の追及まで進み、エンディング画面まで表示させることができたのです(このエンディングもファミコン版とは少し違います)。このまま製品にできるほど完成していたものと思われますが、はたしてこのサンプル版でクリアできた小売店の人はいたのでしょうか……。
日本国内では様々にネタにされつつ、どうしても評価の低い『ミシシッピー殺人事件』ですが、そのオリジナル版『MURDER on the MISSISSIPPI』は意外にも評価を得ており、また斬新なプロモーション手法を採用していました。このことは40周年を機に、多くの人に知られてほしいと思います。









