【特集】サグラダ・ファミリア完成へ―2026年に『Gaudi バルセロナの風』をプレイしてみた【ガウディ生誕100周年】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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【特集】サグラダ・ファミリア完成へ―2026年に『Gaudi バルセロナの風』をプレイしてみた【ガウディ生誕100周年】

おそらく世界で唯一「ガウディ」をタイトルに冠したゲーム。ガウディ没後100年となる今年にそれをプレイして見えてきたものとは

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「サグラダ・ファミリア」ついに完成”……6月のはじめ、そんなニュースが報じられSNSでも話題を呼びました。

「サグラダ・ファミリア(聖家族教会)」といえば、スペインはカタルーニャの建築家アントニ・ガウディが設計を手がけた巨大建造物。着工から140年以上、ガウディが没して100年目となる現在も完成せず、長きに渡り建造が続けられています。こうしたことから「サグラダ・ファミリア」というフレーズは“未完成”の象徴・代名詞のように用いられており、その外見の荘厳さとは裏腹に日本でも馴染み深い存在です。

それがついに完成するということで、ネット上では驚きの声が上がりました。ですが、実のところ完成するのは「イエスの塔」と呼ばれる主要構造部分。どうやらニュースの見出しはやや誤解を招く表現だったらしく、のちに「メインタワーついに完成」に訂正されています。とはいえ、完成に向けた大きな一歩であることは間違いありません。全体の完成予定は2030年代ともう少し先になるようです。

さて、そんなサグラダ・ファミリアをはじめガウディの建築物が多数登場するゲームがかつてあったのをご存知でしょうか?

その名も『Gaudi バルセロナの風』というゲームです。


『Gaudi バルセロナの風』とは?

本作が発売されたのは1992年のこと。当時美麗なグラフィック表現に定評のあった日本テレネット/ウルフチームが販売・開発を手がけたアドベンチャーゲームで、PC-88、MSX2といったホビーパソコン向けにリリースされました。

なぜこの時期に「ガウディ」を題材にとったのでしょうか。そこにはある理由が思い浮かびます。それはバルセロナ1992 夏季オリンピックの開催……まさしくオリンピックイヤーを迎える年だったのです。いわば本作は五輪開幕前の擬似観光ソフトのような一面も含まれていたのかもしれません。

では、その内実はいったいどんなものだったのでしょうか。ここからはそのエンディングを含めネタバレ込みで述べていきたいと思います。

以降では本作のネタバレを多分に含みますので、閲覧にはご注意ください。

主人公は英国人「ヘンリー・ハワード」。元刑事である彼は拭いされない過去を抱えています。ある事件の犠牲となり命を落とした彼の妻と息子。その仇である犯人を見つけ、彼は追跡中に一発の銃弾を放ちます。しかしそれは偶然近くにいた一般市民の青年に命中、図らずもその命を奪ってしまったのでした。ヘンリーは責を負って職を辞し、いまでは裏世界の情報コンサルタントを稼業としつつロンドンで無気力な日々を送っています。

そんな彼のもとに、ある日スペイン共産党の政治家「リーオ・ガルシーア」が依頼を携えてやってきます。ところがリーオは依頼について聞いてもどこか要領を得ない様子。ヘンリーが改めて問いただすと「我々に協力し、スペインを救ってほしい」と懇願、前金と後金あわせて100,000ポンドの報酬を用意し、ヘンリーにバルセロナ行きを依頼するのでした。

ゲームの設計としてはポイントアンドクリックタイプのアドベンチャーゲームで、クリックした地点に応じてコマンドが現れます。現在でこそ当たり前ですが、こうしたシステムの採用は当時としては珍しく、本作では「OPS(オブジェクト・ポインティング・システム)」という名称が与えられています。

また、独自の要素として「HRS(ヒストリー・リピート・システム)」があります。これはコマンド選択といったプレイヤーの行動をゲームが記憶し、任意の地点まで巻き戻しが可能なシステムです。本作はマルチ展開するストーリーを採用しており、プレイヤーの行動によってシーン描写に変化が生じます。もし別の展開でプレイしたい場合には、HRSを用いて当たりをつけた場所まで戻り、異なる展開を楽しむこともできます。

ゲーム序盤は陰りある雰囲気のロンドンが舞台で、やがてリーオの依頼を受けてバルセロナへ舞台を移します。

登場するロケーションの数々はガウディの建築をメインとした観光名所。メインとなるバルセロナの景観の多くは、おそらくアナログ写真を取り込んでデジタイズしたものだと思われます。対して、ロンドンや室内のグラフィックはイラスト調です。とはいえ、もともとビジュアルに定評のある同社が手がけていることもあり、後者のグラフィックのクオリティも高くまとまっています。

題材は「ガウディ」と「バルセロナ」、しかし主人公は……

オリンピックに湧く南欧の都市、色彩豊かなグラフィック、そしてガウディの建築……と来ればいやがうえにも盛り上がりそうなもの。しかしそんななかにあっても、ヘンリーは徹頭徹尾、英国の陰りを引きずったままの状態を保ち続けます。どんより曇った彼の心情は、まぶしいバルセロナの陽射しをも阻むのです。

先述した通り、ヘンリーは辛い過去を持ち、それもあってかゲーム中のテキストは終始シニカルです。

加えてヘンリーは「芸術的なもの」に対してとんと興味を示しません。彼はタイトルになっているガウディの建築にすら冷ややかな反応を示します。その振る舞いにはプレイヤーである筆者も「大丈夫だろうか?」と、ゲームそのものに対して要らぬ心配を抱いてしまいました。 

ミラーリェス邸の石門(Portal de la Finca Miralles)

それは本作のヒロイン的存在である「アンナ」とのデートシーンにおいても同様です。彼女はリーオと志を同じくする議員のひとりで、バルセロナ市街の案内にヘンリーを誘います。あたかもツアーガイドの如くガウディの建築について紹介するアンナに対し、ヘンリーはこれまでの姿勢を崩す気配がありません。

熱っぽく語るアンナと冷ややかな感想しか述べないヘンリー。その間にある「ギクシャク」とした雰囲気。これは『Gaudi バルセロナの風』というゲームを象徴するものといえるかもしれません。というのも、本作はアンナ以外の各キャラクターとの会話や流れもどこか噛み合っておらず、ストーリー的にもなぜそういった流れに至るのか腑に落ちない部分があるからです。

カサ・ミラ(Casa Milà)

実は本作のストーリーはマルチ展開ではあるのですが、マルチエンドというわけではありません。最終的なエンドはほぼ同一で、プレイヤーの選択に応じてそこに至るまでのテキストや状況に差異が生まれるようになっています。しかし異なる展開やロケーションを複数用意した弊害なのか、本来登場人物たちにあったであろう目的や意図といった軸が省略されてしまい、なぜかはわからないがストーリーだけが進んでしまっている……そのように見受けられる場面が多々あります。

そもそも事の発端はリーオの「スペインを救ってほしい」という依頼でした。ヘンリーはその詳細な内容を聞くためにバルセロナに飛び、リーオのほかにアンナ、フランシスコといった議員らと会合を持ちます。しかし彼らが伝えてきたのは「自分たちはスペインを真の共産主義国にしたい。その実現のために共産党と社会党との糾合を望んでおり、そのために力を借りたい」という、依頼というよりもいささか曖昧な願望に近いもの。

結局その場では結論が出ず、先に述べたアンナとのデートシーンを挟んだ翌日、再び会合をおこなうことになります。しかしそこでも議員から具体案は示されず、しびれを切らしたヘンリーは、狂言テロの自作自演を提案します。それは「バスクETA」(バスク地方独立を掲げる民族組織「バスク祖国と自由」)をテロの実行犯にでっち上げ、共産党と社会党とが協力して「共通の敵」への対処に当たることで互いを歩み寄らせ、世論の賛同を得るというものです。

「はたしてそれでうまくいくのだろうか?」と筆者は思ったのですが、しかし議員らはこの提案にあっさりと乗ってしまいます。しかも計画実行はその翌日という異例のスピード。結果としてこの計画はあまり功を奏さず、リーオとフランシスコ、そして社会党党首は何者かによって殺害されてしまいます。状況は最悪で、依頼は失敗……はたから見ればそう言っていい結果だと思うのですが、「自分への依頼は情報提供であって身辺警護は含まれていない」として、ヘンリーはアンナに後金はきっちり要求し母国へ帰ろうとするのです。

おそらくヘンリーのキャラクター性や設定は「ハードボイルド」な演出を狙ったものなのだと思います。そして端々に見られるシニカルな発言の数々は、もしかしたら「皮肉屋な英国人」というステレオタイプなイメージが参照されたものなのかもしれません。

しかし本作のプレイヤーのほとんどにとってヘンリーという人物は「よくわからない人」に映るのではないか、と筆者は思いました。先に挙げた狂言テロ計画はどうにも考えが飛躍しているように思えますし、芸術がわからないと言うわりには、内なる声を描写したテキストはどことなく詩的です。またバルセロナの駅舎を見た際のヘンリーの感想は「もっと斬新なデザインのデザインの駅があってもいい」というものであり、単に無頓着なのではなく彼なりの美学があるようにもみえます。

もしヘンリーが主人公でなければ、少々風変わりな人物としてプレイヤーもいったん納得できるのかもしれません。しかし彼の主観でテキストがつづられ、ストーリーが進む以上、一般的な意味でのプレイヤーキャラクターとして感情移入することは難しいのではないか……と思ってしまいました。

グエル公園(Parc Güell)

一方で、芸術から縁遠い人物を主人公に据えたことはそれほど悪くないことだと思います。それは芸術やガウディを高尚なものとして特別視しないで接することができるということでもあり、こうしたものを詳しく知らないプレイヤーにとっては、親しみやすい存在になりえたかもしれません。問題は先述したように、彼自身の性格がとっつきづらいことで、その点がプレイヤーとヘンリーとの間に溝を生んでしまっています。ちなみに、彼には無い芸術的な部分の説明はアンナが十分すぎるほど補完してくれます。

そして、曲がりなりにも「ガウディ」の名を冠した作品であることを踏まえれば、描写に不足があるのはたしかです。本作を最後まで通してプレイしてみても、ヘンリーやプレイヤーの持つガウディの建築に対して抱くイメージや見方が変わる、ストーリーにおける意味合いに変化が生じる、ということはほぼありません。

終盤には「ガウディは実はアナーキストであり、スペインを理想の無政府国家とすることを望んでいた」という情報が明らかになります。しかしそれはガウディの建築や生き様と重なり合うものではありません。もちろんこれは史実ではなく本作の設定・創作です。そしてアンナはそんなガウディの理想を信奉する組織「ガウディ」の一員であり、社会党党首らを手に掛けたのも組織の手によるものであることが判明、最期はヘンリーの前で命を落とします。

その直後に迎える結末は「1992年 スペイン第二次内戦勃発」という救いようのないもの。平和の祭典であるオリンピックの年にリリースされたにしてはずいぶんな幕切れです。当然これも史実ではありません。きっとグッドエンドがあるはずだ……とつい思ってしまいますが、先述の通り本作はマルチストーリーであってマルチエンディングではありません。途中どんな展開を通ったとしても必ずこのエンディングに辿り着きます。

先のガウディの設定もこのエンディングも、かなり突飛なものであり、また胸のすくものではありません。しかし、そうしたものを用いてプレイヤーが「ありえそう」とか「おもしろい」と思えるような説得ができたなら、どんなに現実離れした創作や露悪的表現だったとしても受け入れられるのでしょう。本作の惜しいところは、ガウディをはじめ歴史上の人物・組織・地域・建築・イベントといった実在するものを用いていながら、物語やキャラクターといった創作物が無関係なものになってしまっていることです。

シウタデリャ公園 (Parc de la Ciutadella)

こうしたことが、高い技術を用いたグラフィック表現やHRSといった独自のシステムと相反する「ギクシャク」とした結果を招いているのだと筆者は思いました。なお、アドベンチャーゲームのUIがある程度標準化した現代に本作をプレイしてみると、行動地点の管理が数値表記しかないHRSの使いづらさや、クリック地点の分かりづらさは難点となるかもしれません。

そうした意味において本作はまだまだ発展の余地のある、当時としても“完成されていない”ゲームだったのではないか……2026年に本作をプレイしてみて、筆者はそのように感じました。

サグラダ・ファミリア(Temple Expiatori de la Sagrada Família)

なお、今回筆者がプレイしたMSX2版『Gaudi バルセロナの風』はゲーム配信サイトプロジェクトEGGで配信中です。どうもネガティブな点ばかり述べてしまったかもしれませんが、本作はガウディを題材としたおそらく唯一無二のゲーム。桜庭統氏の手がけた心地よい音楽とともに、偏屈な主人公のスペイン滞在記を味わってみてはいかがでしょうか。

流行――それは人々の間を吹き抜ける風

この記事の冒頭で述べたように、本作の制作背景にはおそらく1992年開幕のバルセロナオリンピックが念頭に置かれていたのだと思います。それは身も蓋もない言い方をすれば「流行っている」からというミーハーな動機といえるのかもしれません。そして今回筆者が『Gaudi バルセロナの風』をプレイしてみようと思ったのも、まさしくサグラダ・ファミリアやガウディがいま「流行っている」と感じたからです。

エル アベニーダ パレス(El Avenida Palace)

ガウディの没後100周年にあたる2026年は、ガウディについての展覧会といった催しや特集も盛んです。たとえばガウディ没後100年公式事業である「NAKED meets ガウディ展」は東京では1月~3月、大阪では4月~6月にかけて開催されており、YKK AP主催の「ガウディ: 未来をひらく窓」は東京にて5月~7月にかけて開催中です。そして、ガウディの命日である6月10日には、現地にて塔の完成を記念するセレモニーが執り行われ、NHKでは翌6月11日に生中継番組が放送されました。そして本稿が掲載される28日には生放送の裏側に迫るNHKスペシャル「サグラダ・ファミリア 輝く道標 イエスの塔」が放送されます。

サンタ・クレウ・イ・サンタ・エウラリア大聖堂 (La Catedral de la Santa Creu i Santa Eulàlia)

筆者は、サグラダ・ファミリアとガウディの存在は知ってはいたものの、だからといって特段詳しかったわけではありません。もし“「サグラダ・ファミリア」ついに完成”というニュースがインターネット上でバズっていなければ、完成が近づいていることなど知らず、ガウディのことを知るべく展示を見に行くこともなかったでしょう。なにより、存在だけは以前から知っていた本作についても、今回のようなきっかけがなければプレイせずに一生を終えていた可能性は十分にありえます。なぜなら筆者もヘンリー同様、芸術に対する感性がそれほど豊かではないからです。

1992年、『Gaudi バルセロナの風』の作中ではスペイン第二次内戦が起こってしまいます。

一方私たちの世界ではその年、無事にオリンピックが開催されました。ゲーム中では開発時期の関係か、ソビエト連邦がまだ存在することになっていますが、実際にはその前年である1991年にソ連は解体されています。そして1992年のアルベールビルオリンピックとバルセロナオリンピックでは、解体後の臨時措置として旧ソ連構成国家がEUNという統合チームを結成し、出場を果たしています。

かつて実際に起こった1930年代のスペイン内戦では、戦災によりガウディの建築図面や模型といった資料が失われてしまい、その構想を完全に再現することは不可能になってしまったのだといいます。こうした意味でサグラダ・ファミリアの真の姿は、一度は内戦によって破壊されてしまったといえるのかもしれません。

それでも、人々は既に亡きガウディの構想を推測しながら、今に至るまでサグラダ・ファミリアの建造を続けてきました。いままさに“完成”に近づこうとするサグラダ・ファミリアは、たとえガウディが思い描いた通りの完全なものでなかったとしても、たしかにバルセロナに建っているのです。

もし『Gaudi バルセロナの風』のように、ふたたび内戦が起きていたら、私たちが目にするサグラダ・ファミリアの姿はきっと違っていたのでしょう。あるいはその姿をもう二度と見ることすらできなかったかもしれません。

私たちは恵まれています。なぜならこれから、私たちの世界のサグラダ・ファミリアの完成を見ることができるのですから。


ナショナル ジオグラフィック日本版 2026年6月号 [雑誌]
¥1,420
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
ライター:林與五右衛門,編集:宮崎 紘輔


ライター/ 林與五右衛門

2023年4月よりゲームライターとしての活動を始めました。『Fable』や『シェンムー』といったゲームから影響を受けてNPCに強い関心を抱き、彼らがゲーム内でどう息づいているのか観察しています。演劇集団ゲッコーパレードのメンバーとしても活動中。

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編集/タンクトップおじさん 宮崎 紘輔

Game*Spark、インサイドを運営するイードのゲームメディア及びアニメメディアの事業責任者でもあるただのニンゲン。 日本の新卒一括採用システムに反旗を翻すべく、一日18時間くらいゲームをしてアニメを見るというささやかな抵抗を6年続けていたが、親には勘当されそうになるし、バイト先の社長は逮捕されるしでインサイド編集部に無気力バイトとして転がり込む。 偶然も重なって2017年にゲームメディアの統括となり、ポジションが空位になっていたGame*Sparkの編集長的ポジションに就くも、ちょっとしたハプニングもあって2022年7月をもって編集長の席を譲る。 夢はイードのゲームメディア群を日本のゲーム業界で一目置かれる存在にすること、ゲームやアニメを自分達で出すこと(ウィザードリィでちょっと実現)、日本武道館でライブすること、グラストンベリーのヘッドライナーになること……など。

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