日本のゲームが正しく伝わらなかった時代。『重装機兵ヴァルケン』海外版が数十年越しに取り戻したもの【オリーさんのロボゲーコラム】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

ハードコアゲーマーのためのWebメディア

日本のゲームが正しく伝わらなかった時代。『重装機兵ヴァルケン』海外版が数十年越しに取り戻したもの【オリーさんのロボゲーコラム】

オリジナルに忠実な英語版が出たのは30年以上の時を経てから。

連載・特集 特集
日本のゲームが正しく伝わらなかった時代。『重装機兵ヴァルケン』海外版が数十年越しに取り戻したもの【オリーさんのロボゲーコラム】
  • 日本のゲームが正しく伝わらなかった時代。『重装機兵ヴァルケン』海外版が数十年越しに取り戻したもの【オリーさんのロボゲーコラム】
  • 日本のゲームが正しく伝わらなかった時代。『重装機兵ヴァルケン』海外版が数十年越しに取り戻したもの【オリーさんのロボゲーコラム】
  • 日本のゲームが正しく伝わらなかった時代。『重装機兵ヴァルケン』海外版が数十年越しに取り戻したもの【オリーさんのロボゲーコラム】
  • 日本のゲームが正しく伝わらなかった時代。『重装機兵ヴァルケン』海外版が数十年越しに取り戻したもの【オリーさんのロボゲーコラム】

先日、『アーマード・コア』シリーズへの独自の視点からの言及をきっかけに、多くの日本人から「ロボゲー・ロボアニメ詳しすぎな外国人」として知られるようになったオリー・バーダー氏。実は、氏はゲームやアニメを中心として日本サブカルを海外に長年伝えてきた記者であり、様々なタイトルにかかわってきたゲームクリエイターでした。

弊誌の取材に対して、そんな氏がこぼした最近の悩みと言えば「ロボゲーを作らせてくれるスタジオが見つからない!」ということなのだそう。そこで、本稿では、氏の文章を通じて、氏のもつ「ロボゲー・ロボアニメ」への視点や美学の一端をお伝えしていきたいと思います。


海外版『重装機兵ヴァルケン』の数十年にわたる不遇

90年代に海外で意外なヒットを記録したメカゲームのひとつは、日本では非常によく知られ、高く評価されている作品でした。ただし、海外で販売された際のタイトルは、日本で知られているものとは異なっていたので気づかなかった方もいることでしょう。

90年代当時、コナミは、メサイアの『重装機兵ヴァルケン』を海外で『Cybernator』というタイトルで発売しました。これは一見すると『ヴァルケン』そのものに見えましたが、実際には望む望まずにかかわらずゲームに多くの変更が加えられたバージョンです。

まず、うるし原智志氏が手掛けたキャラクターのポートレートがすべて削除され、ストーリーの多くも誤訳されていました。また、ゲーム終盤に敵国の大統領が自殺するシーンも削除されていました。

しかし、それでも『Cybernator』は海外で愛され、大きな影響を与えました。その影響は『Metal Warriors』のような作品にも及び(前回説明した通り、同作は『Cybernator』とは直接的な関係はありません)、さらに『Metal Warriors』は後に『タイタンフォール』シリーズにも影響を与えることになります。

なぜ『重装機兵ヴァルケン』は特別なのか

それ以前にもメガドライブ向けに『重装機兵レイノス』が海外では『Target Earth』というタイトルで展開されていましたが、海外のプレイヤーが2Dメカゲームのあるべき見た目や遊び方を本当の意味で理解したのは、『重装機兵ヴァルケン』が登場してからでした。

当時すでに『バトルテック』や『メックウォーリア』といった作品は知られており、メカゲームとはどういうものなのかについて、ある程度の共通認識がありました。

ただし、PC向けの『ヘビーギア』シリーズが発売されるのはまだ数年先のことで、「装甲騎兵ボトムズ」のようなメカアニメも、当時の海外では比較的知られていませんでした。

そのため、『Cybernator』が1993年にアメリカで発売され、その翌年にヨーロッパでも発売された際、見た目にもゲームプレイにも似たような作品は他にありませんでした。

以前にも述べたように、海外のゲーマーは軍事色が強く、リアリティを重視したメカゲームを好む傾向がありますが、『ヴァルケン』は非常にしっかりと作り込まれたゲームの中で、まさにそれを実現していました。

それでもゲームの難易度に不満を抱く人はいましたが、十分に練習すれば機体の操作を習得し、キャンペーンを最後まで攻略できるようになりました。

日本のゲームが正確に翻訳されることは少なかった

これは少し本題から外れる話ではありますが、この問題についてここで知ってもらう必要があると感じています。端的に言えば、日本のゲームの大半、そしてかなりの数のアニメが、海外では正確に翻訳されていません。

アニメや日本のゲームが海外で展開され始めた頃は、それぞれの作品を発売される国や地域の文化に合わせて変更する必要がある、という考え方が一般的でした。

その結果、タイトルや名称がまったく別のものに変更されたり、海外の視聴者やプレイヤーに受け入れられやすくするために、新たなキャラクターやストーリーが追加されたりすることもよくありました。

やがて各社は、海外のファンが実際に求めていたのは日本のゲームやアニメのオリジナルに忠実なバージョンだったと気づきましたが、そこで別の問題が浮上しました。

こうした初期のゲームやアニメが翻訳されていた頃、一部の英語翻訳者は自分の名を売ろうとして、ストーリーに変更を加えたうえで、それを自身の創作としてクレジットを主張するようになりました。(日本のメカファンには、今日まで続く「超時空要塞マクロス」と「ロボテック」の関係性が有名でしょう)

端的に言えば、彼らは単なる翻訳者ではなく、クリエイターとして認められ、評価されることを望んでいたのです。

これは現在でもゲーム業界における大きな問題であり、日本のゲーム会社やアニメ会社がこの状況を認識し、何らかの対応をしてくれることを心から願っています。

こうした文化的不公正のひとつを正す

ここで話は再び『ヴァルケン』に戻ります。ゲーム業界で様々な作品に携わった後、私はそういった文化的な不公正のひとつを、私自身の手で解消する機会に恵まれることになりました。

それが2023年3月30日にスイッチ向けに発売された『重装機兵ヴァルケン DECLASSIFIED』です。様々な巡り合わせもあり、クリエイティブディレクターとして携わることになったこのバージョンでは、SFCの『重装機兵ヴァルケン』日本語版をベースに、全編の英語への再翻訳を行ったほか、様々な便利機能を追加し、ガイドブックや関係者インタビューなどを英語にも対応した形で収録しています。

当時、いくつかの選択があった中で私がこのゲームを特に選んだ理由は、翻訳とストーリーを本来の形に戻し、海外版で削除されていた最後のシーンを復活させるためでした。その過程には、いくつかの大きな努力目標がありましたが、実際に販売中の製品を見ていただければわかる通り、それらをしっかりと満足のいく形にできたと思います。

まず、私は今作において、レトロゲームの「復刻」において多大な実績を持つM2と仕事をしたいと考えていました。そして、彼らは本当に素晴らしい仕事を『ヴァルケン』に対ししてくれました。『ヴァルケン』で一緒に仕事をする以前から、私はこのスタジオを非常に高く評価していましたが、このゲームで彼らが成し遂げた仕事を見た後では、まさに「ゲーム作りの魔法使い」としか言いようがありません。

次に、このゲームには日本版のオリジナルガイドブックを収録する必要がありました。これは日本で発売されたオリジナル版において非常に重要な要素で、ゲームのバックストーリーのほぼすべてが収録されていましたが、それまで英語で公開されたことはありませんでした。

三つ目に、ゲームのメカデザイナーが誰なのかを突き止めることも重要でした。これについてもM2に助けてもらい、ゲームのアートの多くを手掛け、メカデザインも担当していた中井覚氏に連絡するよう教えてもらいました。中井さんは本当に楽しい方で、彼へのインタビューをゲームに収録するため、私たちは懸命に取り組みました。

最後に、ガイドブック内の用語にも対応した完全新規の翻訳が必要でした。そうすることで、英語版全体で用語を統一することができました。

ご想像の通り、80ページに及ぶガイドブックとゲーム全編の翻訳、さらにゲームのメカデザイナーへのインタビューには膨大な作業が必要でしたが、それでもまだ氷山の一角にすぎませんでした。

スーパープレイ、そしてさらなる追加コンテンツ

上記に加えて、うるし原智志氏による新規アートワークもゲームのために用意することができましたが、これも決して簡単なことではありませんでした。

また、ゲームのサウンドトラックに加えて、素晴らしいアレンジ版の楽曲も収録しました。

さらに、日本語版と英語版の両方で、ゲームのスーパープレイ(ゲームの諸要素を最初から最後までノーデスでクリアする様子が見られるアドバタイズデモ機能のようなもの)の元データも私が担当する必要がありました。プロジェクトが始まった当初は、さすがに少し腕が鈍っていましたが、最終的には「グッド」エンディングに到達するノーデスクリアを自然にできるようになりました。

もちろん、同作のリリースのためには私だけでなく、パブリッシャーを務めた当時のRainmakerのスタッフ全員が非常に懸命に取り組んでくれましたので、すべて私一人でやったことだとは思ってほしくありません。

なぜ『ヴァルケン』が重要なのか

私は今でも、『ヴァルケン』をこのような形で、特に海外向けに再リリースできたことは、数十年にわたる文化的な不公正を正すことにつながったと思っています。すべての作業にはそれだけの価値がありました。なぜなら今では、日本の開発者たちが本来意図していた形でオリジナル版をプレイできるようになったからです。

これは些細なこと、あるいは馬鹿げたこだわりのように思えるかもしれませんが、私のように長年ゲーム制作に携わっていると、こうしたことは長い目で見れば重要なのです。

私自身も、正確な英語翻訳で『ヴァルケン』をきちんとプレイし、このゲームが本来どのような作品であったのかを実際に体験することができました。

また、私も今ではそれなりの年齢になり、十分な数のメカアニメを見てきたことで、『ヴァルケン』のようなゲームが「装甲騎兵ボトムズ」をはじめとするアニメから大きな影響を受けていることも理解できるようになりました。年齢と経験を重ねた今、そうしたことをすべて理解できるのは、実に素晴らしいことだと思います。

だからといって、90年代当時に『Cybernator』を楽しめなかったというわけではありません。あれはあれで素晴らしいゲームでした。しかし、当時のさまざまな問題を修正し、『ヴァルケン』を本来あるべき姿で復活させることができたのは、私にとって大きな喜びでした。

そういうわけで、最後に私自身のYouTubeチャンネル用に収録した、『重装機兵ヴァルケン DECLASSIFIED』 製品版未収録のもうひとつの「スーパープレイ」をご紹介します。製品版収録のものと比べ多少ぎこちないプレイになっている点はご容赦ください。


オリー氏とともに「ロボゲー」を作ることに興味のあるスタジオや団体は、この記事の末尾にある氏のプロフィールから個別に問い合わせていただけますと幸いです。

《ライター:オリー・バーダー,編集:Akira Horie》



ライター/ゲームデザイナーであり、Forbes の寄稿者、そしてどうやら「日本のメカ専門家」。 オリー・バーダー

オリー・バーダーは、日本のゲーム業界やポップカルチャー全般を取材・執筆しており、日本のクリエイターへの数多くのインタビューも行っています。また、メカ系ゲーム専門サイト「Mecha Damashii」を創設し、パブリッシングおよび開発の両分野において、20年以上にわたるゲーム業界での豊富な経験を有しています。

+ 続きを読む
Akira Horie

編集/『ウィザードリィ外伝 五つの試練』Steam/Nintendo Switch好評発売中! Akira Horie

n/a

+ 続きを読む

編集部おすすめの記事

特集

連載・特集 アクセスランキング

アクセスランキングをもっと見る

page top