2026年9月24日、コナミデジタルエンタテインメントとAnnapurna Interactiveより、シリーズ最新作『SILENT HILL: Townfall』が発売されました。
『SILENT HILL』シリーズは、2024年のリメイク版『SILENT HILL 2』を皮切りに本格的な再始動をみせ、2025年には初の日本を舞台に選んだ『SILENT HILL f』が話題となるなど、今なお新たな挑戦を続けている、サイコロジカルホラーゲームの金字塔的な作品です。
さて、今作『SILENT HILL:Townfall』を手掛けたのは、『Observation』などで知られるScreen Burn(旧名:No code)です。特徴としては「全編一人称視点」を採用していて、大型作品ではシリーズ初の試みです。
生粋のサイレントヒルファンである筆者の手触りとしては、従来の俯瞰視点と遜色のない「緊張感」と「恐怖」を存分に感じられて大変に満足でした。
さらに言うと、俯瞰視点とは違って一人称視点は没入感が増す利点がある一方で、視覚的情報に限りがあります。それを補うのが、さまざまな周囲の「音」であり、そのため敵の足音やSEなど、聴覚から来る恐ろしさたるや、歴代のシリーズにおいてもトップクラスかもしれません。

そんな本作の舞台となるのが、深い霧に覆われたスコットランドの孤島「セントアメリア」です。1996年、主人公サイモン・オーデルはこの島へ漂着し、人気の消えた町をさまよいながら、自身と土地に隠された過去へ近づいていきます。

そのセント・アメリアを構築する上で、大きな着想を与えた場所の一つと言われるのが、スコットランド東部、ファイフ地方のEast Neuk(イースト・ニューク)に実在する漁村「セント・モナンズ(St Monans)」です。
セント・モナンズは、17~19世紀の伝統的な漁師の家々や、石造りの美しい街並みが残る風光明媚な観光地として知られています。
開発陣はこの地を綿密にロケハンし、特徴的な海岸の低い壁や街灯、建物、さらには独特の閉塞感や寂れた雰囲気をゲーム内でリアルに再現したとのことで、紛れもなくファンにとっては聖地になるでしょう。

本稿では、“霧深き町「セントアメリア」”と、モデルとなった「セント・モナンズ」を比較しつつ、固有の文化と原風景の魅力をご紹介していきます。
なお、筆者としては実際に現地に足を運び、セント・モナンズの美しい景観をレポートしたかったのですが、旅費の総額がおよそ35万円以上(!)かかるようで、泣く泣く断念。
今回はUKの地理情報共有サイト「geograph(ジオグラフ)」を参照して執筆しています。ご了承ください。
◆色鮮やかなコテージと美しい海岸通りが広がる港町

プレイヤーがゲーム序盤で探索するのは、セント・モナンズを参考にした架空の孤島「セントアメリア」の港町です。

この地は、かつて海運の要衝として栄えた小さな港町で、周辺の海域では漁業も盛んでした。そして1902年には、港にドックハウスを建設したことで産業はさらに発展を遂げ、現在でも豊富な漁獲量に恵まれ、ヨット愛好家たちの拠点ともなっている歴史ある場所という設定です。

まずゲームの舞台、セントアメリアを象徴する風景のひとつが「海岸地区」です。海をぐるりと囲むように、石造りの岸壁や石壁の家々がほとんど隙間なく並んでいるのが特徴で、非常に美しく神秘的な印象を持っています。

実際の「セント・モナンズ港(St. Monans Harbour)」も、写真の通り絵画のように美しい歴史的な漁港で「3つの防波堤」に守られる入江の構造となっています。

古くは1596年に中央の防波堤が建造され、東は1865年にスコットランドの有名な灯台エンジニアであるデヴィッド&トーマス・スティーヴンソンによって設計されるなど、村の漁業と造船の歴史そのものが、港の構造に刻まれているのです。
また、防波堤の一部は、荒波の衝撃を逃がすために特殊な石組み構造(通称:The Blocks)になっている独特な景観から、写真家や観光客にとても人気があるスポットです。

一方で、ゲームにおける「港」は主人公のサイモンが漂着した最初の場所であり、作中でもひときわ重要なランドマークでもあります。
セント・アメリア港の周辺は、海から押し寄せる濃霧(ハール)によって数メートル先も見通すのが困難なほど視界が悪く、『SILENT HILL』らしい不気味で冷たい雰囲気を醸し出していてたまりません。

現実のセント・モナンズの海を比較すると、画像のように非常に美しいブルーオーシャンが眼前に広がります。
さらに、港や防波堤(ピア)の先端に立てば、はるか沖合に浮かぶ「メイ島(Isle of May)」や、火山岩の孤島「ベース・ロック(Bass Rock)」など、島々を見渡す大パノラマが展開されるのも魅力的です。


セントアメリア港内の埠頭(ドック)には、「ブイ(浮標)」や「生簀(いけす/ロブスターカゴ)」などさまざまな漁具が見られますが、それらはゲームの陰鬱な港町のリアリティを高め、プレイヤーに心理的恐怖を与える演出アイテムとして配置されています。
また、複数の小舟やヨットがロープで係留されていますが、人影は一切なく、まるで住民が突如として消え去ったかのような静寂に包まれているのが、美しくも不気味です。


一方現実のセント・モナンズ港では、名産のロブスターやカニの漁が盛んで、港にはゲーム同様網の張られたカゴ(生簀)がたくさん積み上げられています。
ドック内を見渡すと、現役の小さなロブスター漁船やプレジャーボート(ヨット)がのんびりと係留されており、「かつて大勢の漁師と船で栄え、その後衰退した」という実在の歴史に沿うように、穏やかな観光港へと姿を変えています。

さらにセント・モナンズで一番目を引くのは、やはり色鮮やかな「住宅(コテージ)」でしょう。港沿いの「ショア・ストリート(Shore Street)」や「ウェスト・ショア(West Shore)」に立ち並び、北海の景色に温かみを添える、村一番の絶景ポイントです。

住宅は、パステルブルー、ピンク、クリーム色、白などの淡い壁に、オランダ交易の歴史を伝える鮮やかな赤瓦(パンタイル)の屋根が特徴的で、まるで絵画のよう。


対して、セントアメリアにある住宅は、厚い海霧(ハール)と闇に沈み、鮮やかな色はくすんだ灰色や暗いトーンに変貌します。かつての賑わいが嘘のような、血の気が引いた無人の廃屋の列としてプレイヤーを圧倒します。

窓はすべて内側から固く閉ざされ、住民が突如として消え去ったような不気味な生活痕(放置された家具など)が残ります。ただ冷たい海風に窓がガタガタと揺れる、閉塞感の象徴とも言えるような雰囲気。
セント・モナンズの「のどかな観光地」としての魅力と、ゲームにおけるホラー演出との間で、見事なまでのギャップを生み出しています。
◆迷路のような狭い路地と町の中心部

セントアメリアの東海岸通りを抜けて北に向かい、細い階段を登った先は町の中心部へと至ります。



メインストリートに出ると「マーチャント通り(MERCAHANT LANE)」があり、郵便局やレンタルビデオショップ、雑貨店などが並んでいますが、今は無人で廃墟のような雰囲気。かつてのセントアメリアの住民たちの生活の痕跡が伺えます。

ちなみに「ツーリストセンター」の掲示板には、本物のセント・モナンズの風景写真が飾られており、開発陣のリスペクトと愛が感じられて素敵です。ぜひ探してみてください。


さて一方セント・モナンズの景色と比べてみると、パステルブルーの鮮やかでファンシーな見た目の「ポストオフィス」があったり、住宅がひしめき合っているストリートがあったりと、現実のセント・モナンズを参考している場所が多く見られ、その再現度の高さに驚かされます。

さらに特徴的なのは、建物と建物の間にある「クローズ」と呼ばれる狭い石畳の路地が縦横無尽に入り組んでいること。
ゲームのセントアメリアにおいては、建物と建物の間を縫うように路地が走り、直角に折れ曲がった角が連続しているため、「曲がった先に何がいるか分からない」という死角の恐怖が常にプレイヤーにつきまといます。

セント・モナンズの路地は見ての通り、「歩くだけで歴史を感じられる絵画のような小道」でワクワクしますが、ゲームとの落差がすごいですね。

そして忘れてはならないのが、町の中央広場に設置されている「セントアメリアの心(Heart of St. Amelia)」と呼ばれる印象的なモニュメントです。

ここは『SILENT HILL: Townfall』において、物理的なランドマークと、物語の核心(テーマ)という2つの非常に重要な意味を持っている場所です。
また周辺には、「ホールデーンホテル」や「海岸地区診療所」など探索で重要なエリアがいくつも点在するため、たびたび訪れることになります。

この「セントアメリアの心」のモニュメントは、実際にある「セント・モナンズ戦争記念碑 (St Monans War Memorial)」を参考にしていることは明らか。
大きさは違いますが、特徴的なケルト十字の石碑に酷似しており、ここにもセント・モナンズの影響を見ることができます。


他にも、似たような通行禁止の場所があったり……


実際のセント・モナンズには、「ウェリー・ブート・ガーデン(Wellie Boot Garden)」と呼ばれる、200足以上のカラフルな長靴を使った地元の人々の手による手作りの庭園がありますが、ゲーム内では「セントアメリア・コミュニティガーデン」という庭園として構築されていたりします。


また、極めつけはそっくりそのままの「公衆電話ボックス」もセント・モナンズには存在しており、現地の人々に愛用されています。ちなみにゲーム中では、この公衆電話はセーブポイントとして機能するためかなり重要。探索中に発見するとホッとしてしまいます。
◆教会、風車、海水プール─「ゲームにはない」歴史的建造物の魅力

セント・モナンズには、ゲーム内には直接は登場しませんが、村の長い歴史を伝える建造物も多く残されています。
オールド・カーク(St Monans Auld Kirk)はそのひとつで、4世紀(1360年代代)に国王デイヴィッド2世によって再建された、スコットランドで最も海に近いとされる歴史的な教会です。

スコットランドの古い教会としては珍しい「尖塔(トビウオのような形の屋根)」を持ったT字型の構造をしており、海岸近くに佇んでいることもあって非常に美しい姿です。

続いては、「セント・モナンズ風車(St Monans Windmill)」という、海岸線を見下ろす小高い丘の上にぽつんと佇む、18世紀後半(1771年頃)に建てられたファイフ地方に唯一現存する歴史的な風車です。

美しい石積みの造りと、緑の丘と青い海の間に映えるその姿は、ハイキングコース(ファイフ・コースタル・パス)を歩く人々の素晴らしい道標となっています。
また、 朝焼けや夕暮れ時には空のグラデーションを背景に息をのむ美しさを見せるほか、海霧(ハール)に包まれると非常にミステリアスな、まさに『SILENT HILL』の世界そのものの風景へと変化するのが特徴的です。

最後に紹介するのは、海岸の岩場に作られた、潮の満ち引きを利用した歴史ある屋外海水プールである「セント・モナンズ・タイダルプール(St Monans Tidal Pool)」です。
村の東側、風車のすぐ近くの海岸線に位置しており、近年「ワイルド・スイミング(大自然の中での水泳)」の愛好家たちにとって隠れた名所(聖地)として大きな人気を集めています。

プールのすぐ背後には、先ほどのセント・モナンズ風車が建っており、夕暮れ時には風車のシルエットと空のグラデーションが穏やかなプールを赤く染め上げる、息をのむような美しい景色が広がっています。今すぐ入ってみたい気分にりますね。
現地の史跡を知ることは、その町が持つ奥行きと、本作の恐怖が成立する背景をより深く理解する手掛かりにきっとなるはずです。
◆美しい漁村から生まれた「霧の町」

このように、『SILENT HILL: Townfall』のセントアメリアを見ていると、その風景の根底に美しく穏やかなセント・モナンズの存在があることがよく分かります。
石造りの住宅が並ぶ細い道、町と海の近さ、海岸へ続く階段、古い建物が残る風景。ゲームはそうした実在の土地の特徴を取り入れながら、霧や光、音、人の不在といった演出を重ねることで、現実とは異なる『SILENT HILL』特有の不安定な空間へと変化させています。

一方、実際のセント・モナンズは、人々が今も暮らす穏やかな海辺の町です。長い歴史の中で形成された町並みや、漁業や産業の痕跡が現在の風景と自然に共存しており、それ自体がこの土地ならではの魅力になっています。
だからこそ、本作の舞台として取り込まれたときにも、単なる架空のホラー空間ではなく、「かつて確かに人が暮らしていた場所」と感じられる説得力が生まれているのでしょう。

ゲームの中で見た景色の先に、実際に人々が暮らす町がある。だからこそ、ゲームのロケーションデザインだけでなく、この町が長い時間をかけて形成してきた景観や文化にも関心が広がっていくのだと思います。

もしセント・モナンズを訪れる機会があれば、その風景をただのロケーションとしてではなく、本作がどこから生まれたのかを確かめるように歩いてみるのも、本作を楽しむひとつの方法かもしれません。
シリーズ最新作『SILENT HILL: Townfall』は、PS5/PC(Steam/Epic Gamesストア)向けに発売中です。













