【コラム】銃の名のその先で:『ドールズフロントライン2 エクシリウム』の銃器哲学 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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【コラム】銃の名のその先で:『ドールズフロントライン2 エクシリウム』の銃器哲学

ひとつの名、ひとりの名。

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注:本稿は以前掲載された「鉄の性格、心の重量:『ドールズフロントライン』の銃器哲学」の続編であり、併せてお読みいただけるとより理解が深まるものとなっています。

銃器哲学とは、筆者が提唱する「フィクションにおいてなぜその銃がそこにあるのか」「どのように演出されているのか」を問う試みです。本稿では前稿に続き、『ドールズフロントライン2:エクシリウム』が「銃の名」をどう扱い直したのかを、批評を通して読み解いていきます。

「名前」というものは「呪い」に近しい概念であるとする見方があります。

日本には古来より言葉に霊力が宿るとする「言霊信仰」があり、人の実名である「諱(いみな)」をみだりに口にしない「実名敬避俗」の習慣もありました。さらに中国の「避諱(ひき)」など、名を呼ぶことを慎重に考え避ける思想は世界各地に類例があります。真の名を知られ呼ばれることで、敵やよこしまな存在に力を与えると考えられていたのです。

現代の心理学にも、名前とその影響について扱った研究があります。名前に結びついた社会的なイメージが顔つきにまで表れるとする「ドリアン・グレイ効果」の報告では、名前の持つ社会的なステレオタイプ(優しそうな名前、厳格そうな名前など)に合わせて、本人が無意識に表情や髪型、雰囲気を寄せていく傾向があるのではないかと仮説が立てられています。

古代から続く習慣においては「呪術・宗教的なタブー」として、現代においては社会心理学でいう「自己成就的予言」 として、名前が単なる記号以上の力や意味を持つという考えは広く存在しているのです。

そしてもしそれが、歴史上で数多の命を奪ってきた「兵器の名」であるならば、そこに結びつく意味は決して軽くありません。

前稿では戦略RPG『ドールズフロントライン』にて、アンドロイドである戦術人形たちが銃の名を背負い「心を得、愛されるために戦う兵器」として生きる姿を追いました。銃の名は彼女たちを定義し、ときにはその在り方へ影響を及ぼしていました。しかし同時に、その名は他のだれかが彼女たちを呼び、関係を結ぶためのものでもありました。

そしてその末尾で、筆者は続編について言及しています。「エリート人形の416が自らの名を捨てクルカイと名乗るように、銃の名のその先に、Exiliumの予感が漂っている。」と。

本稿が向き合うのはまさにその先です。続編である今作『ドールズフロントライン2:エクシリウム』では銃の名を手放す者がいる一方で、同じ名を名乗り続ける者もいます。さらに、名を自ら選ぶことさえできなかった者もいます。

かつて、名の扱いは「危うさ」を伴うものでした。今作の過酷な荒野において、彼女たちはその危うさごと、名を呼ばれて振り返ります。

彼女たちはなぜその名を捨て、あるいは残すのでしょうか。

名前という檻、そして「個」の戦場へ

前作の戦術人形たちは自らのコードネームである銃器の歴史と設計思想を、キャラクター造形としてその人格や外見にまで反映させていました。アメリカ製のM16A1であること、ソビエト製のAK-47であること。それは単なる識別名ではなく、彼女たちが何者であるかを定めるものでもあったのです。

生真面目な416、改造への執着を見せるM4 SOPMOD II。銃の設計思想や来歴が性格や外見に反映されるのなら、銃の名は単なるラベルではありません。自分が何者であるかを示すと同時に、そのあり方を縛り制限するものでもあります。

しかし今作では、彼女たちを取り巻く環境も、ゲームとしての手触りも大きく変化しました。前作の彼女たちは大規模なPMC(民間軍事会社)の戦力として、自身の複製であるダミー人形を連れた「小隊」として戦う存在でした。対して今作では戦いの規模が縮小し、3Dで描かれる戦場の遮蔽物に身を隠しながら、一人ひとりの人形が「個」として立ち回るタクティカルRPGへと姿を変えています。

1での戦闘画面。陣形の概念は存在するが、基本的に遮蔽物等なく攻撃し合うシステム
2での戦闘画面、1から大きく刷新されタクティカルRPGスタイルとなった

さらに象徴的なのは、ゲームシステム上でも「人形と銃器の切り離し」が行われている点です。前作では「その銃」であった彼女たちですが、今作では装備画面で― 同じカテゴリ内といえど ―自由に別の銃器へと持ち替えさせることができます。システム的にも、彼女たちは特定の銃という枠組みから解き放たれているのです。

カスタマイズやスキン交換が実装された2での武器システム。同じカテゴリ内であれば自由な装備が可能になった

今作の副題「Exilium」は「追放」を意味します。彼女たちは巨大な軍事組織や世界の命運から切り離され、汚染された世界を放浪する身となりました。居場所を失い、ひとりの「個」として荒野に立った彼女たちの中には、名を捨てる者、名を保つ者、そして名だけが残された者がいます。

呪いを脱ぎ捨て、鉄を握る者たち

前作『1』にて「416」と呼ばれたエリート人形は、今作ではその名を捨て「クルカイ」というひとりの存在としての名を名乗ります。これは単なる改名ではありません。かつて銃の名と密接だった彼女が、その名で自分を定義しなくなったという変化です。

今作でのクルカイ。前作で416と呼ばれた人形が新たな名(初出はスピンオフ作品)を名乗っている

ここで興味深いのは、実銃のHK416もまた「名を改めた銃」だという点です。もともと「HK M4」と呼ばれていたこの銃は、M4の商標を持つコルト社との係争を経て、現在の名称へと改められました。

また、HK416はM4の弱点を克服し「より確実に動く銃」を目指した改良の産物でありました。前作の416が「完璧」を自称し、几帳面で融通の利かない人形として描かれていた点はこの来歴を思えば頷けます。そして今作でもクルカイが研鑽を重ね実力を研ぎ澄ませている姿からは、その「完璧」へのこだわりを捨てたわけではないことが読み取れます。

現代標準かつ高性能ライフルと言えるHK416。特殊部隊を中心に世界中にユーザーが存在する ※1
実銃のHK M4、今日ではHK416のプロトタイプモデルとして扱われることが多い ※2

ただ、彼女の求めるものは変質しています。それはかつてのように、与えられた設計思想通りに動く「完璧な一丁」であろうとする姿ではありません。己の意志で荒野を生き抜き、己を証明し続ける「完璧な個人」へ至ろうとする歩みです。自身の確かな実力があるからこそ、彼女は製品の価値を保証する銃の看板へ依存する必要がなくなったと言えます。

実銃が商標という製品の宿命に巻き込まれ、係争の中で名を改めさせられた一方、人形としての彼女は自らその名を手放しました。強いられた改名と、選び取った改名。同じように名を変えても、その意味は同じではありません。

そもそも銃の名はしばしば人の名に由来します。AKは「カラシニコフ自動小銃(автомат Калашникова)」の頭文字であり、コルト、ブローニング、ルガー、マウザーもみな開発者や創業者の名です。人の名がそのままモデル名になるという流れを、銃器の歴史は繰り返してきました。

クルカイの改名は、その歴史を逆向きに辿る行為だとも読めます。「兵器の名」から、再び「人の名」へと戻る旅路です。

これまでの彼女の戦いは「HK416がHK416を撃つ」という、存在の奇妙な発露でした。しかし名を捨てた彼女は、自分を銃の名だけでは定義しなくなります。「クルカイというひとりが、生き残るための道具として一丁の銃を握る」のです。

銃は彼女の魂を証明する唯一のものではなくなりました。汚染地帯を生き抜くため、仲間を明日まで生かすために手に取る道具であり、その変化によって引き金の意味も変わります。銃の名に定められた存在として撃つのではなく、自分がその銃を手に取り、他者の命を奪う。名を捨てた者の引き金には、「銃だから撃つ」という言い訳はもう利きません。

その行為の重みを、自分自身の選択として引き受けなければならないのです。

名として抱き続ける者たち

一方で、名を捨てずに前作と同じ銃の名を名乗り続ける戦術人形たちもいます。モシン・ナガンやヴェクターといった者たちです。ただし彼女たちが名を保つ理由は、「呪いを手放さない」といった悲壮な覚悟とは少し違うところにあります。

モシン・ナガンは、1891年にロシア帝国が制式採用した小銃です。二度の世界大戦、数々の革命と内戦、崩壊した帝国の記憶を吸い込み、今日の紛争地でもなお姿を見せる歴史的遺物でもあります。興味深いのは、その名前自体がすでに合成物であることです。ロシア軍少将セルゲイ・モシンと、ベルギーのナガン兄弟。二つの名が一丁の銃に刻まれています。

『2』でのモシン・ナガンの姿、実直かつ高いプロフェッショナル性を持つ狙撃手として知られる
スウェーデン陸軍博物館所蔵のM1891 モシン・ナガン。1891年の採用から百三十年以上を経て、なお現代の紛争地に姿を見せる ※3

軍での役目を終えた銃は、現実にはどうなるのでしょうか。退役した軍用銃はしばしば民間市場へ払い下げられます。モシン・ナガンもまた大量の余剰品が各国の市場に流れ、狩猟や射撃、収集の対象として世界中で生き延びてきた銃です。

アメリカ合衆国内での実射風景 C&Rsenal:Minute of Mae: Russian Mosin-Nagant 1891

これは軍という居場所を失ってなお銃が銃として使われ続ける例であり、「追放」が必ずしも存在の終わりを意味しないことを示しています。 そんな重い歴史を持つ名を、人形のモシン・ナガンが名乗り続ける理由は驚くほど素朴です。「実銃のモシン・ナガンが好きで、並々ならぬ愛着があるから」、ただそれだけです。

彼女にとって名を保つことは、強いられた宿命ではなく自らの選択になりました。その理由が「好きだから」であることは、名が呪いに近いあり方をしている中で、最も強い答えなのかもしれません。彼女は呪いを「愛」で上書きしているのですから。

対してヴェクターは、名そのものにあまり興味がありません。その元となったKRISS Vectorは、徹底して近接戦闘に特化した短機関銃です。ボルトが後退する際に銃身の下へ沈み込む独特の機構「Super V」により、反動を銃口の跳ね上がりではなく下方向へと逃がし、毎分1000発を超える連射を制御可能な形に押し込めています。

『2』でのヴェクター。前作に続き冷徹かつ、やや悲観的な性格
筆者の友人所有、実銃のKRISS Vector(SDP GEN3 9mm)。異常な連射速度とそれを制御するための独特な構造を持つ。※4

機能も、そしてその特徴的形状も火力を求める思想の産物であり、破壊の意図を隠そうともしません。ゲーム上のヴェクターも火属性のサポーターとして、焼夷手榴弾を放り投げマップの大半を焼き払います。名を捨てる理由も、名にこだわる理由も、寡黙な彼女にはさほどないようです。

ただし、名に頓着しないからといって彼女が人格として停滞しているわけではありません。彼女は前作から引き継がれた冷徹さや、今作で新たに抱えることになった少々の悲観主義と付き合いつつも、その奥にある仲間思いな本質は変わらず、隊長としてさまざまな経験と実戦を重ね、確実に成長を遂げています。

内面が確かに深まり前進しているからこそ、彼女にとっては「いま背負っている名が銃のものか否か」など些細なことなのでしょう。同じ「銃の名」でも、クルカイには脱ぎ捨てるべき檻であり、モシン・ナガンには好きなものの名であり、ヴェクターにはさほど気にならない札にすぎません。呪いは名そのものに宿るのではなく、名とそれを名乗る者との関係に生じるのです。

好きだから名乗る。特にこだわりがないから、そのまま名乗る。

そこにあるのは、名を脱ぐこととはまた別の、彼女たちなりの自由です。

ふたつの道が交差する荒野 —— 二人のグローザ

名を捨てる道と、名を抱く道。この二つの道が複雑に交差する場所に立たされているのが、今作で主人公格のキャラクターとして指揮官の隣に立つグローザです。

今作での主人公格キャラクターであるグローザ、戦闘のみならず指揮やマネジメントの面でも指揮官をサポートする

実銃のOTs-14 グローザはロシアの特殊部隊向けに開発されたブルパップ式突撃銃であり、「グローザ(Groza)」はロシア語で雷雨を意味します。ロシアの銃にはこのように、冷徹な型番に加えて呼び名を与えられるものが少なくありません。

実銃のOTs-14 Groza、こちらはグレネードランチャー付きモデルのOTs-14-4A。 ※5

そして今作では、この一丁の二つの名が、二人の人形に割れて現れます。今作序盤で起こった戦いにて破壊されたグローザの素体は、敵の策略により回収・改造され、彼女のメンタルデータ(人格と記憶)を継いだ非常に強力な第三世代人形として戦場に現れました。それが OTs-14 です。

本作のグローザは、本作開始時には何らかの理由により記憶喪失の状態ですが、一方戦いを経て主人公たちの仲間に加わったOTs-14は、引き継がれた前作の性格と、そして蘇った一部の記憶などに影響された振る舞いの違いを持ち隣に立ちます。

人格と名を分けたもう一人のグローザ、OTs-14。非常に強力な第三世代人形

こうして敵側で生まれ、記憶を保つ側が「OTs-14」という型番で呼ばれ。指揮官の部隊に在籍し、記憶を失った側に「グローザ」という呼び名が残るという事態が発生しました。記憶と名が、別々の存在に分かたれてしまったのです。

クルカイやモシン・ナガン、ヴェクターはいずれも自分の名を選択する事が出来ていました。一方で記憶を失ったグローザにとって、名は選んだものでも捨てたものでもなく、ただそこに「残っていたもの」に過ぎません。 しかしだからこそ彼女における「グローザ」という名は、呪いであると同時に別の働きをしています。

それは過去の記憶という「人格の中身」を失ってしまった彼女に対し、「あなたは誰なのか」「どこに帰るべきなのか」を繋ぎ止める、最後の拠り所のように見えるのです。

前稿で筆者は416(クルカイ)を「裏の主人公」と呼びました。かつての裏の主人公格が名を降ろし、今作の表の主人公格が記憶を失ったまま名だけを抱えている。この対称は、物語に深い陰影を与えています。

銃の名のその先で

ここまで注目してきた四人には、ひとつの共通点があります。「すでに名が、銃というものから離れている」ということです。

四人――クルカイは名を手放し、モシン・ナガンは名を愛し、ヴェクターは名に頓着せず、グローザには名だけが残りました。同じ「銃の名」が、持ち主との関係によって、脱ぎ捨てるべき檻にも、愛着の証にも、ただの札にも、最後の拠り所にもなる。『ドールズフロントライン2:エクシリウム』の戦場には、この多様な銃器哲学が入り混じっています。

そのどれが正しい生き方なのか、ゲームは語りません。ただどの少女たちも明日の糧を得るために、泥にまみれて引き金を引いているという事実だけがそこにあります。 前作の彼女たちは「愛されるために戦う」ことを選びました。続編の彼女たちが問われているのは「誰として撃つのか」です。

実銃の側から見れば、持ち主が変わり、呼び名が変わり、役目が変わっても、銃は冷たい鉄の塊としてそこに在り続けます。しかし彼女たちの名はもう鉄の塊を指す記号ではなく、他の誰でもない「その人形自身の名」として機能しているのです。

銃だった存在が、もはやそうである必要をなくし、ひとりの名を得て誰かになる。それは兵器が真の意味で「心と出逢う」ということの、最も美しい到達点です。

美しいのは、名が持つ本来の意味を、彼女たちは享受できるからです。本稿では、名は相手を縛る「呪い」に近しいものだと扱い続けてきました。けれど本来、名というものは「祝福や願いを込められ、誰かに呼ばれるため」にこそあります。

前作にて、多くの人形たちはプレイヤーである指揮官に対し、自己紹介という形で最初に自分の名を差し出していました。名を名乗ることは、「その名で自分を呼んでほしい」という願いの形でもあります。そして呼ばれることは「そこにいてほしい」と肯定されることであり、名を呼び続けることは愛のひとつの形です。

どれほど冷たい兵器の名であってもそうでなくても、関係ありません。その愛を機能させるのは、その名を呼び続ける誰かの温かい声です。そしてその声の主の一人は、指揮官として彼女たちと共に立つ、私たちプレイヤー自身でもあります。

名前という呪いは、誰かに呼ばれ続けるかぎり、愛へと姿を変えていきます。

銃の名のその先で。彼女たちは今日も、自分の名を呼ばれて振り返ります。


『ドールズフロントライン2:エクシリウム』はPC/モバイル向けに基本無料でサービス実施中。10月29日12:00までのメンテナンスの後より、『1』における「ウェルロッドMkII」と「Gr G41」が本編新ストーリーとともにプレイアブルで実装されるテーマイベントが開催予定です。

〈画像引用〉

《企画:MILIDO!/ミリドー!,ライター:フユト,編集:Akira Horie》

企画/ MILIDO!/ミリドー!

「20年後の日本のミリタリー業界のために」を共通理念に、Youtubeを中心とするクリエイターが集まるミリタリーコンテンツクリエイターグループ。 所属クリエイターチャンネル総登録者数47万人突破。 銃器を中心に多様なジャンルを横断しながら、「知識」「体験」「文化」としてのミリタリーを次世代へつなぐことを目的に活動しています。

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ライター/ フユト

ミリタリー界隈での暗躍を画策したらいつの間にかライターになっていた。 FalloutはNewVegas派、ゲームは映画オタ兼ミリオタとしてそこで描かれる世界観や銃器哲学を分解して楽しむのが好き。 好きな漫画は「動物のお医者さん」

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Akira Horie

編集/『ウィザードリィ外伝 五つの試練』Steam/Nintendo Switch好評発売中! Akira Horie

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