戦略と物語が交わる交易地で、「シミュレーションRPG」は生まれた―知られざる名作から辿るSRPG前史【ゲームのおいたち・ゲームのあゆみ】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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戦略と物語が交わる交易地で、「シミュレーションRPG」は生まれた―知られざる名作から辿るSRPG前史【ゲームのおいたち・ゲームのあゆみ】

「シミュレーションゲーム」から派生した「シミュレーションRPG」。その夜明け前に何が起きていたのか。ゲームはかつても、いまも「試される大地」だ。

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※「ゲームのおいたち・ゲームのあゆみ」は、ゲーム保存協会協力のもと制作されている連載です。

『タクティクスオウガ』(©1995,クエスト)画像はセガサターン版

「シミュレーションRPG(SRPG)」。この言葉を聞いて、複数のキャラクターを操作する戦略的なゲームをイメージする読者が多いのではないでしょうか。このジャンル名は日本で生まれたものだといわれています。

大元を辿るなら、盤上で手番ごとに駒を動かすゲームとして「ウォー・シミュレーション」(「ウォー・ゲーム」とも)があり、起源じたいはアナログゲームや軍隊の兵棋演習にまでさかのぼれるでしょう。

「Tactics(タクテクス)」 (1954)ウォー・シミュレーションゲームの代表的存在 ウィキメディア・コモンズより引用

日本のビデオゲームにおける「シミュレーションRPG」というジャンル名は、先述の「シミュレーション(SLG)」という言葉に、日本的な「RPG」の文脈や名称が合流することで出来上がったと考えられます。内容としてはシミュレーションの戦略性にRPGのドラマ性が混合したものといえるでしょう。しかしそれも、このジャンルを成立させる決定的な「条件」ではありません。

Steamでは「戦略RPG/ストラテジーRPG」という括りが、おおむねSRPG的なものを指している。

私たちは、なんとなく「戦略的なゲームなんだな」という了解のもとで「シミュレーション」という言葉を使用しています。そしていつ頃からか、特定の傾向や雰囲気を持つゲームを「シミュレーションRPG」と呼び始めました。本記事では、まだ世間にSRPGという言葉が浸透する「夜明け前」の時期に現れた、SRPG的傾向を持つシミュレーションゲーム4作品にフォーカス。シミュレーションとRPG、ふたつの文化の交わりと揺れ動きを追っていきます。

『シルクロード』──歴史と砂塵に埋もれし交易路

『SUPER信長の野望 武将風雲録』(©1991,光栄 現:コーエーテクモゲームス)

日本において有名な戦略シミュレーションといえば、光栄(現:コーエーテクモゲームス)の『信長の野望』シリーズです。本シリーズはゲーマーならずとも広く知られた代表的タイトルといえます。1983年にリリースされた第一作から現在に至るまで、日本において同ジャンルのパブリックイメージ形成に大きな役割を果たした作品の一つと言ってもよいでしょう。

実はそんな『信長の野望』と同年に、日本の戦国時代とは時代も場所も異なる歴史シミュレーションがリリースされていました。それがハドソンの『シルクロード』です。

『シルクロード』(©1983,ハドソン)

本作はタイトルの通り東西をつないだ古代の交易路「シルクロード」を舞台としたゲーム。プレイヤーは紀元前一世紀の漢王朝の将軍として、サブタイトルにもある「西域遠征」をおこないます。

漢王朝が求めるのはかれらにとって未知なる西域世界の文化や物品。信長が日本という一定エリアの天下統一を目指すのに対し、漢王朝は交易・軍事ラインを築くべく、西へ西へと延伸していきます。

本作のクリア条件は、武力か財力によって7つのオアシス国家を降伏させること。「シルクロード」というと、一本の道が東西を横断しているイメージを持たれがちですが、実際には複数の交易路からなるネットワークでした。本作で描かれている「西域」は東の敦煌から西のカシュガルまでであり、これらを繋ぐルートも簡易的ながらネットワーク状に表現されています。

資料提供:NPO法人ゲーム保存協会

『シルクロード』を現代の歴史シミュレーションと比べた際に際立つのが、移動の厳しさです。砂漠を進むキャラバンは道中、匈奴(遊牧民)の襲来や砂嵐、ラクダの逃亡といった様々な困難に直面します。一方で財宝を発見したり、突如オアシス国家へワープしたりすることもあるなど、運の要素が強く関わるゲーム性となっています。

ゲーム保存協会公式YouTubeチャンネルより

こうした本作のあり方は、現在主流となっている歴史シミュレーションのイメージとはやや異なる印象を与えます。たとえば『信長の野望』であれば、天災などのランダム要素はあるものの、政略や資金の確保、軍事力の強化、そして合戦によって勢力を拡大していくというセオリーが通用します。一方、本作はランダム性が高く、必ずしもセオリー通りに進むとは限りません。ともすれば「人生ゲーム」に近い感覚と言えるかもしれません。

これは本作の題材自体が「冒険」や「賭け」の性格を帯びているためと考えられます。漢王朝のキャラバンにとって、西域は何が起きるか分からない未知の砂漠。しかもこの旅路はイチかバチかの大勝負です。目的地は遠く、すぐに引き返すことはできません。運よく命拾いしても、成果なしで帰路に着くわけにはいかないのです。実際、「漢書」や「史記」などの歴史書にも、現地で西域遠征を行った人々の厳しい体験が記録されています。

資料提供:NPO法人ゲーム保存協会

なぜ当時「シルクロード」を題材としたゲームがリリースされたのでしょうか。それは本作が発売された時代の背景が関係しています。実はこの頃、日本は「シルクロードブーム」の真っ只中にありました。その火付け役となったのが、1980年に放映を開始した「NHK特集 シルクロード -絲綢之路(しちゅうのみち)-」というドキュメンタリー番組です。この番組は月一回放映されるシリーズで、本作がリリースされた1983年は、第二部「ローマへの道」が放映されている最中でした。

「シルクロード 絲綢之路 第一巻 長安から河西回廊へ」著:陳舜臣/ 編: NHK取材班 1980年刊行 NHK出版

言ってみれば、当時新鋭メディアであったビデオゲームにまでシルクロードブームは波及し、その影響のもと本作が生まれたのだといえます。それほどまでに流行していたこのブームですが、しかしシルクロードそのものをテーマにしたゲームは、日本のゲーム史において必ずしも多いとはいえません。またビデオゲームとしての『シルクロード』はシリーズ化されず、他のゲームに直接影響を及ぼすほど有名なタイトルにもなりませんでした。

もっとも、このブームによって日本における「古代の交易路」のイメージが定着し、ゲームを含む多くの創作物に多大なインスピレーションを与えたのは確かです。本作はその影響を物語る一作として記憶されています。

資料提供:NPO法人ゲーム保存協会

現実のシルクロードは、大航海時代を経て広範な世界交易へと移行する中で次第に衰退し、近代になって再び「再発見」されました。そして1980年代の日本では、ある種の「夢」や「ロマン」を抱かせる空想的な概念として受け入れられました。歴史の中に埋もれた姿を思い描き、探求すること。人はそれを「考古」と呼びます。今ここで『シルクロード』について振り返ることも、そうした営みの一つと言えるでしょう。

本作は『信長の野望』の陰に隠れたオルタナティブなSLGの一作であると同時に、SRPG的な要素を含んだ一作だった……いまならそう位置づけられるかもしれません。本作が題材とした、はるか先を目指し、死と隣り合わせの冒険の旅路へ出立するという行為。それは私たちがRPGに対して抱くイメージとそう遠くないのではないでしょうか。

SRPGへの戦端は開かれた!『エルスリード』

『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』(©1990,任天堂)Nintendo公式YouTubeチャンネルより

シミュレーションRPGの「RPG」の部分は、その成り立ちからして「ファンタジー」的な想像と重ねて扱われることが少なくありません。たとえば日本の代表的なSRPGとして知られる『ファイアーエムブレム』シリーズは、中世ヨーロッパ風の世界観を持ち、魔法やドラゴン、ペガサスが登場するファンタジー戦記的なゲームです。こうしたファンタジーSRPGの成立において、ひとつの契機と呼べる作品だったのが『エルスリード』です。

『エルスリード』(©1987,日本コンピューターシステム)資料提供:NPO法人ゲーム保存協会

本作で描かれるのは、光の国の王「ジークハルト」と闇の国の王「ボーゼル」の戦いです。プレイヤーはそのどちらかとなって軍勢を率い、敵陣地をすべて占領することで勝利となります。戦略シミュレーションにファンタジー世界を組み合わせる手法は、現在でこそ一般的ですが、当時は斬新な試みでした。

なお、奇しくも本作と同年に、シミュレーションとファンタジーを融合させた『ファンタジーナイト』がシステムソフトからリリースされています。同社の看板タイトルであり、現代兵器によるウォー・シミュレーションである『大戦略』(第一作『現代大戦略』は1985年発売)シリーズのファンタジー版とも言える内容でした。またコンシューマにおいても、翌年に『キングオブキングス』(1987年)がナムコから発売されるなど、この時期はファンタジーSLGが本格的に広がり始めたタイミングであったと言えます。

資料提供:NPO法人ゲーム保存協会

現在のSRPGでは、前述の『ファイアーエムブレム』のように各ユニットが独自のキャラクターやステータスを持つことが一般的です。これに対して本作では、指揮官であるジークハルトとボーゼル以外のユニットは一兵卒に過ぎません。兵士たちの違いは兵科のみで、ステータスも兵科に依存するため、単体で成長・変動することはなく、純粋な「駒」という印象を与えます。本作は後年のSRPGへ繋がる要素を持ちつつも、前SRPG的な特徴を残した作品と言えます。

ゲーム保存協会公式YouTubeチャンネルより

本作を象徴する要素が、指揮官が1ターンに1度使用できる「魔法」です。これによって指定エリア内の軍勢の戦闘能力を変化させたり、強力なドラゴンを召喚したりできるため、発動のタイミングが戦局を大きく左右します。

資料提供:NPO法人ゲーム保存協会

『エルスリード』はその後『ガイアの紋章』『ガイフレーム』(ともに1987年)とシリーズを重ね、兵卒ではなく指揮官ベースのシステムを持ったタイトルとして発展していくことになります。なかでも、その流れを受け継ぎ新たな潮流として分岐したのが現在まで続く『ラングリッサー』(1991年)シリーズです。

トップダウンの指揮システムを導入したのが『エルスリード』だとすれば、『ラングリッサー』は個性豊かな複数の将軍がそれぞれの部隊を指揮する形を採用しました。これにより、よりRPGらしいドラマやシナリオを備えたSRPGへと進化していくことになります。『エルスリード』は現代的な意味でのSRPGに歩み出す直前の重要なマイルストーンだったといえるでしょう。

個と集団、RPGとシミュレーションの融合––『ファースト・クィーン』

『シャイニング・フォース ~神々の遺産~』(©1992,セガ)

こうしたRPG風の世界観を持ったシミュレーションだけでなく、シミュレーションとRPGの境目が曖昧なゲームもまた、シミュレーションRPGとして括られることがあります。セガの『シャイニング』シリーズはその好例でしょう。第一作『シャイニング&ザ・ダクネス』はダンジョンRPGでしたが、第二作『シャイニング・フォース ~神々の遺産~』はその世界観を受け継ぎつつ、『ドラゴンクエスト』ライクな見下ろし型RPGの要素を持つSRPGとしてシリーズを展開。そして2000年代以降はRPGを主軸としてシリーズを重ねてきました。

『ファースト・クィーン』(©1988,呉ソフトウェア工房)

ジャンルの複合という点で『ファースト・クィーン』は非常にユニークなタイトルです。中世ファンタジーの世界観をベースに、現在のRTS(リアルタイムストラテジー)に通じる「ゴチャキャラ」戦闘を導入。最大18名の部隊を率いてリアルタイムで交戦するシステムは、当時極めて画期的でした。なお、本作は同年に同社からリリースされた『シルバーゴースト』(1988年4月発売、『ファースト・クィーン』は12月発売)の系譜を継ぐ作品でもあります。

資料提供:NPO法人ゲーム保存協会

リアルタイムにキャラクターを動かし、マップを移動するプレイフィールはRPGに近いものがあります。実際、後年の続編のパッケージでは「リアルタイムRPGシミュレーション」というジャンル名が与えられました(第一作は「アクティブシミュレーション」)。本作の全体マップは分割されたエリアの連結で構成されています。北側に敵である「オルニック軍」、南側に味方の「カーディック軍」が陣を構え、同一エリアに両軍が入ることで戦闘が発生します。プレイヤーは南下してくる敵から自陣を守りつつ北上し、最終的にオルニックの王妃キャサリンを倒すことを目指します。

物語の中心となるのは、国を焼かれた「リッチモンド伯」であり、彼が倒れるとゲームオーバーになります。しかし、プレイヤーが操作できるのは彼だけではありません。自軍のキャラクターからリーダーを選んで部隊を編成し、各部隊を切り替えて指揮することが可能です。また、部隊内の兵士を個別に操作することもできます。兵士一人ひとりに特別なストーリーが用意されているわけではありませんが、それぞれ名前や性格などのステータスを持ち、戦死した場合は復活できません。集団戦を描きながらも個々の生死が色濃く反映される点が、本作の大きな特徴です。

ゲーム保存協会公式YouTubeチャンネルより

探索から戦闘までがリアルタイムかつシームレスに展開する『ファースト・クィーン』は、先進的な形でジャンルの融合を試みた作品でした。一方で、RPGの要素とシミュレーションの要素を一つのゲーム内で明確に分けて並列させたタイトルも数多く登場しました。

『アルバートオデッセイ』プロジェクトEGG公式YouTubeチャンネルより


前述の『シャイニング・フォース』をはじめ、『ジャストブリード』(©1992,エニックス 現:スクウェア・エニックス)、『アルバートオデッセイ』(©1993,サンソフト)、『リグロードサーガ』(©1995,セガ/マイクロキャビン)など、RPGとシミュレーションを組み合わせた作品群は、1990年代における一つの大きな潮流となりました。

資料提供:NPO法人ゲーム保存協会

こうした展開に先手を打ち、独自のシステムで際立っていた『ファースト・クィーン』。長らく完全新作の展開はありませんが、開発元の呉ソフトウェア工房によってiOS、Steam、Nintendo Switch向けにリメイク作『FirstQueen1 NEXT』が配信されており、現在でも手軽にプレイ可能です。RTSやSRPGの発展過程を知るうえで、触れてみる価値のあるタイトルと言えます。

「正しい歴史」への試行(シミュレーション)––『シュヴァルツシルト』

ここまで歴史やファンタジーを題材とした作品を紹介してきましたが、SFや宇宙を舞台にしたシミュレーションも根強い人気を誇ります。冒頭で触れたアナログのウォー・シミュレーションでも宇宙戦をテーマにしたものが存在しており、ビデオゲームの普及以前から親しまれてきたジャンルでした。

アニメ版『銀河英雄伝説 4Kリマスター』 2作品共通/劇場予告 徳間書店公式YouTubeチャンネルより。なお、原作のプロトタイプ小説は「銀河のチェスゲーム」というタイトルだったという。

その後、家庭用ゲーム機やPCゲームが普及し始めた1980年代の日本で人気を博したのが、田中芳樹氏によるスペース・オペラ小説「銀河英雄伝説」です。本作はアニメや舞台など多角的に展開され、ゲーム化も行われました。特に1989年以降にボーステック/マイクロビジョンからリリースされた『銀河英雄伝説』シリーズは、原作の世界観やシナリオを忠実に再現した戦略シミュレーションとして高く評価されました。

ボーステック版を復刻したコレクション『銀河英雄伝説Ultimate Collection』。D4エンタープライズから2026年内リリース予定。

そんなゲーム版『銀河英雄伝説』に先駆ける形で、銀河を舞台にしたSLGが1988年にリリースされていました。それが工画堂スタジオの『狂嵐の銀河 シュヴァルツシルト』(以下、『シュヴァルツシルト』)です。遠い未来、数多くの国家がしのぎを削る銀河で、プレイヤーは弱小国「サンクリ星国」を率いて全星団統一を目指します。

『狂嵐の銀河 シュヴァルツシルト』(©1988,工画堂スタジオ)資料提供:NPO法人ゲーム保存協会

本作の特徴は、本格的なシミュレーションの体裁を取りながらも、明確なシナリオ進行が存在することにあります。ストーリー性を重視したゲームの場合、ステージごとに区切られた進行方法が一般的ですが、本作ではプレイヤーに一定の行動の自由が与えられており、全体マップ上で広大な展開が繰り広げられます。

資料提供:NPO法人ゲーム保存協会

『シュヴァルツシルト』の作中では、いつどんなイベントが発生するかがあらかじめ定められており、プレイヤーがその筋書きを大きく変えることはできません。定められた歴史の流れに対して適切な立ち回りを行って初めて、ストーリーを先へと進めることができます。そのため、正しいアプローチを理解するまでに何度もゲームオーバーを経験することになります。

ゲーム保存協会公式YouTubeチャンネルより

現代のビデオゲームでは、こうした失敗自体をシステムに組み込み、プレイヤーにメリットを与えたりゲームの進行を促したりする設計が増えています。たとえば『HADES』のようなローグライト作品はその好例です。

また、ゲーム以外でも時間の巻き戻りなどを題材とした「ループもの」というジャンルはフィクションではポピュラーな存在です。そこにはビデオゲーム的なモチーフが用いられることもよくあります。また逆に「ループもの」のシナリオや設定ありきでゲームシステムが組み立てられたビデオゲームも少なくありません。

映画版「時をかける少女」(1983年)筒井康隆のSF小説(1965~1966年連載)を原作とする、日本における「ループもの」として代表的なタイトル。高校二年生の少女がタイム・リープによって様々な経験をする。動画はYouTube 角川シネマコレクションより引用

ゲームとは試行錯誤が可能なメディアです。それは冒頭で触れた兵棋演習の目的と同様に、これから起こる展開をシミュレートし、失敗から学ぶことができる「仮説的な歴史」と言えます。

こうした「ループもの」の構造は、「歴史改変」や「架空戦記」といったジャンルとも深く結びついています。これは、実際の歴史を望む形へと分岐させたり、「もしも」の仮説に基づいて描くフィクションの手法です。本能寺の変を回避した織田信長が天下統一を目指す『信長の野望』なども、架空戦記的なアプローチと言えます。

対照的に『シュヴァルツシルト』は、ゲーム側が用意した「正解の歴史」にプレイヤーが合わせることを求めてきます。世界を変えるのではなく、プレイヤーの行動を世界の側にすり合わせていくアプローチと言えます。

資料提供:NPO法人ゲーム保存協会

実質的に攻略法やシナリオが決まっている一方で、本作が一見すると一般的なSLGのような自由度を感じさせるデザインになっている点は、現代の視点からするとやや不親切に映るかもしれません。

SLGは大局的な状況設定にプレイヤーが介入・試行し変転していく様を楽しむ、いわば架空戦記的なジャンルだといえます。一方SRPGは定められた筋書きを持ち、その枠組みのなかで、局地的な戦闘を楽しむジャンルといえるでしょう。これは長期に渡る「戦略」と短期の「戦術」の違い、あるいは前者がよりゲーム的で後者がより物語的だといえるかもしれません。

SRPGの夜明け前に登場した『シュヴァルツシルト』は、戦略SLGのフレームを保持しつつ、現代でいうSRPG的なドラマ展開を行おうとしました。現在の視点から見ればこれが本作の特殊性だといえます。

その後のSRPGの変遷を見ると、一本道のシナリオにルート分岐を加えたステージクリア型が主流となっているように思われます。本作はやや特殊な事例かもしれませんが、こうした分かりやすい設計への移行が「SLGに比べてSRPGは親しみやすく遊びやすい」という認知につながっていったと考えられます。

『スーパーロボット大戦EX』(1994,©バンプレスト 現:バンダイナムコエンターテインメント)

たとえば『スーパーロボット大戦』(第一作は1991年発売)(以下『スパロボ』)シリーズは、ステージクリア型の進行、分岐・合流のあるストーリー、シンプルな操作性、比較的マイルドな難易度設定などを特徴としています。

初期の『スパロボ』シリーズには「シミュラマ」という独自の概念が存在しました。これは「シミュレーション」と「ジオラマ」を組み合わせた造語です。盤面に地形を作りユニットを配置するジオラマは、シミュレーションゲームのマップ構造と酷似しています。異なるロボット作品のキャラクターを一堂に会させ、どのようなドラマが生まれるかを「シミュレート」する思考実験の場として、ジオラマという表現は非常に適した比喩となっています。

「シミュラマ」とはいわば、ドラマやストーリーという枠組みのなかで、メタフィクション的に「シミュレーション」を包摂する言葉だといえるでしょう。

パッケージには「SCENARIO SIMULATION GAME」という言葉が記されている。資料提供:NPO法人ゲーム保存協会

『シュヴァルツシルト』に話を戻しましょう。本作には歴史改変・SLG的な自由はありません。また『スパロボ』の「シミュラマ」のような実験や試行のドラマ・ストーリー化が作中で具体的に表現されているわけでもありません。

本作のキャッチフレーズは「宇宙が理性を挑発する」 画像はプロジェクトEGG公式YouTubeチャンネルより引用

しかし、隠された「正解の歴史」にたどり着くために、プレイヤー自身が試行錯誤と実験を幾度も繰り返すという意味では、通底する構造を持っているといえます。盤上の宇宙を何度も再現し検証するプレイヤーは、一見すると観察者のようでありつつ、実際にはゲームが提示する条件に試されている存在とも言えるでしょう。

画像はプロジェクトEGG公式YouTubeチャンネルより引用

本作はドラマを重視するSRPG前夜の特徴を色濃く感じさせながらも、ゲームとの対話という意味においてもその特異性が際立つ一作です。

夢幻の歴史が交わる場所で

『SUPER信長の野望 武将風雲録』オープニングより 幸若舞「敦盛」の一説

日本の戦略シミュレーションを振り返るうえで、『信長の野望』や『ファイアーエムブレム』といった金字塔的タイトルは欠かせません。これらが業界に与えた影響は極めて大きいものです。しかし、主流の道筋だけを追うと見落とされてしまう歴史も存在します。

シミュレーションゲームの発展過程には複数の道があり、日本ではある時そこに「RPG」という別の道が交わることで「シミュレーションRPG」が生まれました。その成立や発展にしても直線的な一本の道すじだけで説明できるものではありません。

シミュレーションとシミュレーションRPGの流れは現在も続いています。それは単一の方向へ向かうのではなく、多様な試行錯誤や相互の影響を繰り返しながら変化してきたものです。中には『シルクロード』のように、時代の変化とともに語られる機会が少なくなったアプローチもありました。

「シミュレーション」や「シミュレーションRPG」という言葉を用いて語り続けること。それは、過去から現在へとつながる様々な挑戦の軌跡を捉え直し、その意味を見出す試みと言えるのかもしれません。

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本記事は特定非営利活動法人ゲーム保存協会の協力のもとお届けしています。同団体の公式サイトでは、毎月特定のテーマにちなんだゲームを、週替わりでショート動画とともに紹介する企画「保存録」を掲載中。

9月のテーマは「SRPGの系譜」でした。本記事はそのテーマをもとにGame*Sparkが新たに書き下ろしたものです。

なお、その月のテーマが何だったのかは毎月4本目のゲームが紹介された際にゲーム保存協会から届くメールマガジンで明かされます。保存協会の活動に興味を持たれた方は、この機会にサポーター会員として登録されてみてはいかがでしょうか。

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《ライター:林與五右衛門,編集:みお》

ライター/ 林與五右衛門

2023年4月よりゲームライターとしての活動を始めました。『Fable』や『シェンムー』といったゲームから影響を受けてNPCに強い関心を抱き、彼らがゲーム内でどう息づいているのか観察しています。演劇集団ゲッコーパレードのメンバーとしても活動中。

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編集/Game*Spark共同編集長 みお

ゲーム文化と70年代の日本語の音楽大好き。人生ベストは『街 ~運命の交差点~』。2025年ベストは『Earthion』。 2021年3月からフリーライターを始め、2025年4月にGame*Spark編集部入り。2026年1月に共同編集長になりました。

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