シムと呼ばれる人々の人生を楽しむことのできる本シリーズ。最新作の『ザ・シムズ4』の目標は「より人間らしく、自然な」シムを描くことです。人間はしばしば複数の事を同時に行おうとしますが、これをAIで再現するにはどうしたら良いか? というのが本講演の趣旨です。
ゲームでは登場する全てのものが"ゲームオブジェクト"という位置付けになり、シムたちも例外ではありません。ゲームオブジェクトはゲームオブジェクト同士で発生しうる"インタラクション"(動作)を持っていて、シム同士が触れたときに"会話"をしたり、本を掴んで"読書"をしたり、という行動が発生していきます。
過去の作品ではインタラクションは「開始→動作→終了」という構成で、インタラクションの間に話しかけられた場合、前のインタラクションを終了して、会話をはじめる、というような流れになっていました。しかし、現実世界では、テレビを見ながら会話をする、読書をしながらお茶を飲む、といった「ながら動作」が自然であり、ユーザーからの期待も多かったそうです。こうした割り込みの処理はアドホック的に記述することもできますが、「物量が多く破綻する可能性が高い」(Ingebretson氏)ということで、データ駆動モデルの中で実装が行われました。
「ながら動作」を実現するコアなアイデアは、ゲームオブジェクトが複数のインタラクションを同時に走らせられるようにするということです。「開始→アイドル状態→動作→アイドル状態→終了」という流れを可能にするということです。
冷蔵庫でお茶を取って、ソファーに座って、テレビを付けて、お茶を飲んで、テレビを見て笑って、飲み物を置いて、本を取って、読書をする
という一連の流れの場合には「お茶を飲む」「ソファーに座る」「テレビを見る」「読書をする」という4つのインタラクションが同時に走るというわけです。1つのインタラクションが動いている場合は、他のインタラクションはアイドル状態になります。インタラクションに含まれる動作にはメインとサブがあり、インタラクション間を行ったり来たりして複数の動作が発生していく場合もあります(重み付けされたランダムで発生するそう)。
どのような動作を同時に発生させるかは、シムがどこに居るか、適切な広さがあるか、いまの姿勢で行えるか、どこに面しているか、距離はどうか、といった事からスコアリングが行われ選択されます。そうしたシムは複数のインタラクションをキューに持って動作を行なっていきます。アクティブなキューは「ユーザーが起動したもの」「ゲーム側で自然に選択されたもの」「現在は行えないもの」(ペンディング状態)という順で優先順位が付けられます。
「現在は行えないもの」というのは現在アクティブな他のインタラクションと競合するものです。インタラクションには「場所」「方法」「手の状態」などの制約事項があり、例えば「お茶を飲む」と「読書をする」が同時に発生した場合、はいずれも手が塞がってしまい競合するので同時にアクティブにはならず、ペンディング状態となります。この場合、「お茶を飲む」が終了すれば、「読書をする」がアクティブになります。
一方、「テーブルの近くに立つ」「ドリンクをつかむ」「ソファーまで歩く」「ドリンクを飲む」というような一連の流れは、ビヘイビアーツリーによって定義されます。どのツリーを選択していくかはコスト(距離など)で決まっていくということです。
このような手法を駆使し、『ザ・シムズ4』でシムは異なる動作を同時並行的に行えるようになります。しかし、全てデータ駆動で実現しているとはいえ、様々な条件が加味され、複雑な動作になるのは否めないとIngebretson氏は振り返りました。しかし、良いルール作りさえできればかなり自然な人間の動きを実現できそうです。また、AIにも「不気味の谷」があるとIngebretson氏は述べました。いかに動きを自然に繋げていくか、見せるものが増えれば、それだけ違和感を与える可能性のあるポイントは増えていきます。発売まで暫くありますので、試行錯誤が続きそうです。
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