『Fallout』シリーズを担当する作曲家イノン・ツゥール氏インタビュー―『Fallout 76』の音楽はどう作られた?【年末年始特集】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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『Fallout』シリーズを担当する作曲家イノン・ツゥール氏インタビュー―『Fallout 76』の音楽はどう作られた?【年末年始特集】

Game*Spark編集部では、ゲーム音楽業界の巨匠Inon Zur氏にメールインタビューを実施しました。

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『Fallout』シリーズを担当する作曲家イノン・ツゥール氏インタビュー―『Fallout 76』の音楽はどう作られた?【年末年始特集】
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Game*Spark編集部は、ゲーム音楽業界の巨匠イノン・ツゥール氏にメールインタビューを実施しました。同氏はイスラエル・テルアビブ出身の作曲家で、現在は米国で活動中。テレビ番組や映画音楽を手がけた後、ゲーム業界で様々な音楽を手がけています。代表作は『Fallout』シリーズ、『Dragon Age』シリーズ、『リネージュII』、『CRYSIS』、『Dragon's Dogma』など。今回は、氏と氏のゲーム音楽に関する一般的な質問と、『Fallout』シリーズの音楽に関する質問の2つに分けてご回答いただきました。

一般編


――ご自身の作曲家としてのキャリアについて教えてください。いつ、どういった経緯でゲーム音楽の作曲を手がけるようになったのでしょうか?

イノン・ツゥール氏:覚えている限り、私はずっと昔から音楽が大好きでした。かなり小さい頃にピアノを弾き始め、自分で曲を作ることも始めていたのです。その後、イスラエル・テルアビブの音楽学校で作曲と音楽理論を学び、卒業しました。米国に渡ってからはジャック・スモーリーやヘンリー・マンシーニといった作曲家たちのもと、Dick Grove School of MusicとUCLAで映画音楽を勉強しました。

私の作曲家としてのキャリアは、Fox Family Channelにおけるテレビ番組から始まりました。「パワーレンジャー」、「デジモン」、「天空のエスカフローネ」などといった番組の何百話という作曲を担当しました。1996年にエージェントを通してゲーム業界に入ることとなり、すぐにその媒体としての革新性や自由度の虜となったのです。業界のクリエイターたちの熱意を感じ取ることができ、私もこの成長しつつある芸術の世界に身を置きたいと思いました。本物のオーケストラを使った収録が可能である、ということも惹かれた理由です。

私が初めて作曲を手がけたゲームは、Interplayの『Star Trek: Klingon Academy』(注:2000年に発売されたPC向け宇宙フライトシム)で、これによりゲーム音楽の作曲プロセスを理解することができました。開発チームは私の持つ音楽のアイデアについてとてもオープンな姿勢でいてくれましたので、ゲーム業界における初の仕事が、当時としては珍しくゲームにおける音楽をとても重要視してくれる環境で、素晴らしいスタートを切ることができました。また、このプロジェクトではシアトル交響楽団とロサンゼルスコーラスを収録し、私のレコーディングキャリアが大きく飛躍することとなりました。


それ以来、80以上のゲームタイトルの作曲を手がけてきました。この中には『Fallout』シリーズ、『Dragon Age』シリーズ、『プリンス・オブ・ペルシャ』シリーズ、『EverQuest』シリーズなどが含まれます。

――作曲においては何の楽器を使うことが多いのでしょうか?理由も教えてください。

イノン・ツゥール氏:収録前の作曲段階では、思いついた楽器の音をすぐに鳴らすことができるライブラリを備えたキーボードを使っています。作曲を始める前の段階でも、その曲でどんな楽器が使われるのか、耳の中で想像してみるようにしています。それをベースに楽器の種類を決めていくのです。楽器の選択は各ゲーム、ストーリー、舞台によって異なります。もしそれが古の物語であれば古い楽器を使いますし、未来が舞台であればまた異なる楽器を使用するようにしています。

――新しいゲームの作曲に取りかかるとき、まずどのように始めるのでしょうか?

イノン・ツゥール氏:私が担当するゲームのほとんどは、すでにコンセプトが出来上がった状態ですので、ストーリー、場合によっては序盤のステージ、舞台のビジュアルアート、音楽への要望がはっきりとしています。それから、私とオーディオディレクター、プロデューサーでディスカッションを行います。それぞれが音楽のスタイルとゲームでどのように使用されるか、というビジョンを持っています。それぞれのゲームは、音楽が統一性を持ち、際立ち、そのタイトルを最善の方法で描くため、独自のスタイルと特徴が必要です。スタイルと音の特徴が自分、デザイナーたち、オーディオチームで意見が一致したところで、作業を始めることができるのです。このディスカッションと企画の段階はとても面白くはありますが、なかなか難しいものでもあります。

どのような段階で自分が開発に参加したとしても、そのプロジェクトについて可能な限り理解するよう努力しています。そこで、私はいつも3つのWからスタートすることを心がけています。Where(どこ)、When(いつ)、Why(なぜ)です。これにより、どこが舞台で、時代はいつなのか把握できるだけでなく、ストーリーのテーマもわかります。このストーリーは発見なのか、復讐なのか、ミステリーなのか?これは音楽のスタイルを決定づけるだけでなく、使用される楽器も決まってきます。そのゲームの世界に自分を投入させた後、スタイル、楽器、メロディーという音楽の要素が生まれてきます。この時、新しいプロジェクトの開発チームは音楽の方向性について意見がたくさんあり、スタイルは通常オーディオディレクターとプロデューサーと一緒に固めていきます。もちろん、ゲーム開発中に新しい音楽の方向性が出てくることもあります。しかし最初の段階で決まったコアとなる音楽のスタイルは、開発チームと密接に共有しています。

――ゲームの前は映画やテレビ番組を担当されてきましたが、ゲーム音楽の作曲というのは比較して難しいのでしょうか?映画やテレビ番組の音楽との違いを教えてください。

イノン・ツゥール氏:それぞれの媒体にそれぞれ困難な面はありますが、感情を描くという作曲の芸術性は、映画であれ、テレビ番組であれ、ゲームであれ、変わりません。しかし、これらすべての作曲をしてきた私の経験からすると、あくまで私の主観ですが、ゲーム音楽の作曲には自由度があるように感じます。秒数が指定されている既定の映像に縛られないので、より生物的な発展性のある曲を作ることができます。これにより、ドラマチックな要素を大胆に表現でき、曲の構成もより完成されたものにできます。これは他のメディアと比べて、自由に作曲できるということです。先ほど申し上げたように、これはあくまで私の意見ですが、決められた映像が支配する規制のない、自由に完成された曲を作ることができるのです。

ゲーム音楽を作曲するには、ゲームの大部分に当てはまるような雰囲気を作り出すため、たくさんのインスピレーションが必要です。これは各曲がそれぞれのイベントや場所、時間に縛られていないためです。つまり、そのゲーム自体の雰囲気を作り出さなくてはいけないのです。私のゲーム音楽の作曲方法は、一つ一つのアクションや場所、イベントを描くのではなく、正しい「感情」を見つけ、それをつかむことです。私はいつも、プレイヤーを奮い立たせる感情という、感情的な見方から始めます。これを獲得することができれば、ゲーム内の多くのシチュエーションをカバーすることが可能です。映画とは違い、決まった映像というものはありませんので、既定の時代背景の幅広いシチュエーションやイベントにシームレスにフィットする曲を作らなくてはいけないのが難しい点です。プレイヤーを奮い立たせる感情、ということに立ち戻ることができれば、これは成功します。

――ゲームはご自身でもプレイされますか?

イノン・ツゥール氏:ゲームをプレイするのは好きですが、自分を「ゲーマー」だとは思っていません。特に作曲を行なっている時はなおさらです。私の作った曲がゲーム内で初めて流れる瞬間は、とてもエキサイティングです。ゲームを遊ぶ時間はほとんどないのですが、時間があるときにはプレイし、とても楽しんでいますよ。


『Fallout』編


――どのような経緯で『Fallout』シリーズの音楽を担当することになったのでしょうか?

イノン・ツゥール氏:私は以前Interplayで働いており、私が担当した最初の数本のゲームは同社によるものでした。先ほどもお話しましたように、最初に担当したのは『Star Trek Klingon Academy』です。その後、2本の「スタートレック」のゲームも担当しました。そのあとは『Baldur’s Gate II: Throne of Bhaal』や『Icewind Dale II』といった様々なタイトルの作曲を始め、私は彼らの主要な作曲家の一人となりました。そうしてあるとき、「異なるタイプのゲーム」について連絡があり、それが『Fallout Tactics』でした。これ以前に、ポストアポカリプスを舞台とするゲームの音楽の経験はありませんでした。それまではファンタジーやSFを主に担当していたからです。しかしこれが私にとって、とてもエキサイティングな可能性を秘めていると感じましたので、すぐに承諾し、過去作に縛られることなく、自ら『Fallout』の方向性を決めていこうと思いました。そのため、生の声やこれまで作ってきたものをベースに、自分自身でサウンドライブラリを作りました。合成サウンドデザイン面では、生物的なサウンドを採用し、これが『Fallout』における音楽スタイルの原点となりました。

それから数年後、私は当シリーズを取得したBethesdaに招待され、『Fallout 3』に携わることとなりました。『Fallout Tactics』とはかなり異なる作品でしたが、私はこの時点ですでに十分な経験があり、同じ世界観を表現することができました。『Fallout 3』こそ、『Fallout』シリーズにおけるあの有名なメインテーマを私が初披露した作品になります。『Fallout 3』に続いて、『Fallout: New Vegas』、『Fallout 4』、『Fallout 76』でも作曲を担当することとなりました。

――最新作『Fallout 76』においては、どれほどの曲を作られたのでしょうか?

イノン・ツゥール氏:『Fallout 76』のため、合計3時間にも及ぶ音楽を作曲しました。レコーディングはBudapest Film Orchestraが行いました。また、私のスタジオでは弦楽器四重奏、民族木管楽器、従来の手法とは異なるギターや他の楽器の収録も行いました。自分でもディジュリドゥ(注:アボリジニの木製金管楽器)や中国のフルートなど、珍しい楽器を演奏して収録した他、自分で歌ったりもしました。これは全て、『Fallout』独特の音楽の規模感を表現するために使われています。

――『Fallout 76』のメインテーマは過去作のものと毛色が異なります。どういったものを考え、想像して作曲されたのでしょうか?

イノン・ツゥール氏:『Fallout 3』は世界崩壊の日、陰気さ、破壊。『Fallout: New Vegas』は西部のワイルドな世界。『Fallout 4』は希望の始まりと再建。そして『Fallout 76』は発見、冒険、未来への約束の作品です。そのため、曲のトーンを変え、より温かみがあり楽観的で、過去作のような暗さは持ち合わせていません。この判断は本作のストーリーをベースにしているだけでなく、他のプレイヤーたちと一緒にプレイし、世界を変えていくという友情にも起因しています。『Fallout 76』のテーマは、より良い世界を作り上げるということですので、この気持ちと感情を込めた曲に仕上げました。


――メインテーマを作曲する際、舞台となるウェストバージニア州のことも思い浮かべて作られたのでしょうか?もしそうでしたら、どのように曲に影響を与えましたか?

イノン・ツゥール氏:メインテーマはウェストバージニア州の美しい景色から影響を受けています。たくさんの写真が送られてきたので、景色を思い浮かべる必要はありませんでした。作曲中は、私の巨大ディスプレイにずっとその景色が映し出されていましたよ。『Fallout 4』とはかなり異なるので、私はこの景色に浸りたいと思いました。そのため、すべての曲はより自然を意識したものとなっており、不吉な響きは少なくしています。

――『Fallout 76』はシリーズ初のオンライン専用タイトルで、ゲームプレイは大きく変わりました。音楽はどうでしょうか?

イノン・ツゥール氏:根本的には変わっていません。もちろん、オンラインゲーム用の音楽を作る作業は頭に入れておく必要がありますが、音楽のスタイルは新しいゲーム用の手作りであり、「オンラインゲームだからこうだ」ということはありません。オンラインの部分は、実際にゲームに音楽を埋め込むBethesdaのオーディオチームが担当してくれました。作曲家としては、いつもと同じように、プレイヤーのために感情や場所を描けるように作曲しました。

――『Fallout 76』でお気に入りの曲はありますか?

イノン・ツゥール氏:私のお気に入りの一つは「The Savage Divide」という曲で、理由はこの曲が『Fallout 76』というゲームの体験やユニークさを上手く表現できていると思うからです。


――『Fallout 76』ではプレイヤーが楽器を演奏できますが、もしご自身が実際にウェイストランドに降り立つことができ、楽器を演奏できるとしたら、どの楽器を演奏しますか?

イノン・ツゥール氏:おそらくショーファ(注:羊の角笛)や大きく原始的な角笛といった、吹奏楽器ですね。

――『Fallout』シリーズの音楽は広大さを描いている曲が多いように感じます。これはどのような手法で表現しているのでしょうか?特殊なテクニックなどはありますか?

イノン・ツゥール氏:通常は楽器間の音域で表現しています。例えば、低い音で深みのある音を奏で、同時に高い音の楽器を奏でながらも、中間音域は何も音を鳴らさないことで、楽器と楽器の間に「空間」を作るのです。これが私の使う「広大さ」を作り出すテクニックの一つです。また、音楽がゆっくり流れながら、低い音を響かせることでも、力強く広大な光景を描いています。

――音楽面で、『Fallout』シリーズは他のゲームと異なる点はありますか?

イノン・ツゥール氏:『Fallout』は常に進化しており、それ自体が常に再発明されています。その世界はとても独創的で、それぞれのタイトルが大きく異なります。『Fallout』は独自の「言語」を持っており、これは他のゲームと大きく異なります。

――最後になりますが、現在はどんなタイトルを手がけているのでしょうか?

イノン・ツゥール氏:今後リリースされるゲームで私が担当しているものの一つが、『The Elder Scrolls: Blades』です。この楽曲はつい先日、イギリスのWar Child(注:戦争に巻き込まれた子供を支援するNPO)のため、ロンドンのチャリティコンサートで披露しました。この他にもいくつかプロジェクトが進行中で、来年、再来年と順次明らかになっていくでしょう。ご興味を持っていただき、ありがとうございます。

《SEKI》
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