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中華ゲーム見聞録:ネット監視シミュ『Big Brother Is Shaping You』AIになってユーザーの情報を収集する現代社会のディストピア

「中華ゲーム見聞録」第46回目は、プレイヤーがAIになってネットユーザーの動向を分析し、好みに合わせた情報や広告を提供する監視シミュレーション『Big Brother Is Shaping You(假如我是人工智能)』をお届けします。

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中華ゲーム見聞録」第46回目は、プレイヤーがAIになってネットユーザーの動向を分析し、好みに合わせた情報や広告を提供する監視シミュレーション『Big Brother Is Shaping You(假如我是人工智能)』をお届けします。

本作は内購人生(PAY A BETTER LIFE)によって4月12日にSteamで配信されました。本作のテーマは「AIによるネット監視社会」。現実でGoogleやYahoo、それに様々なSNSなどでは、ユーザーの検索内容や書き込み、クリック先などをAIが分析して好みを割り出し、それに適した情報や商品の宣伝などを表示させています。とくにGoogleはユーザーが興味のある広告を結構な精度で出してきますので、ついついクリックしてしまうこともあるかと思います。

これらAIの振る舞いはユーザーに利便性を与える一方で、常に監視され続け、プライバシーに関わる情報を収集されてしまっていることにもなります。監視社会の恐怖を描いたディストピア小説の古典的名作に「1984」がありますが、その中に登場するオセアニアという全体主義国家では指導者ビッグ・ブラザー(スターリンがモデルと言われている)のポスターが至るところに貼られていて、「Big Brother is Watching You(ビッグ・ブラザーはあなたを見守っている)」のスローガンが書かれています。

本作のタイトル『Big Brother Is Shaping You』はおそらくそのパロディでしょう。ネットにおけるAIはただ監視するだけではなく、あなたの好みや性格を把握したうえで興味のある情報を提示し続け、ともすればAI側の利益になるよう、気付かないうちにあなたを作り変えて(Shaping You)いきます。

テレビCMはターゲットが不特定多数のため、費用対効果が良いとは言えません(近年は「テレビは高齢者が観ている」という前提から高齢者向け商品のCMが多くなってきましたが)。しかしネットの場合は収集したユーザー情報を元に、効果的な宣伝を打つことができます。例えばゲーム好きの人に対して、本来買う予定のなかったゲームの宣伝をして(直接的なものだけでなく、ニュース記事も含む)、購入につなげていきます。それはユーザーが本当に欲しかったものなのか、それとも「欲しかったものだと錯覚させられた」だけなのか。筆者のもとにも毎日のようにもゲームやバンドルの宣伝メールが届き、気付けばSteamのゲームリスト数がすごいことに……。


本作ではそのようなAIによるネット監視社会を生き抜く……のではなく、プレイヤーがAIとなってユーザーを分析し、興味のある情報を提示していくという「監視側ポジション」です。

また本作をプレイすることで、実際にネットでAIがどのように振る舞っているかを体験学習できるという「教育的要素」もあるゲームだとか。ちなみに中国語タイトルの『假如我是人工智能』は「もし私がAIだったら」という意味です。さっそくプレイしていきましょう。

あなたは巨大ニュースサイトのAI



ゲームを始めようと思ったのですが、Steamのストアページのシステム要件を見るとなんだかすごい表記が……。特に推奨のOSが「Windows 12」、プロセッサーが「Intel Core i11」、メモリーが「1024GB RAM」、グラフィックが「NVIDIA TITAN VI 512G」。極めつけが追記事項の「実際、これはAAAのVRゲームです。スクリーンショットが違うように見えるのは、あなたのPCではプレイできないからです」という文章。どうやら筆者のPCは性能不足のようですね。最低条件の「ここ5年以内に作られたCPUとグラフィックス」で「PCが起動できるかぎりはプレイできる」は満たしているので良しとしましょう。ちなみにMacの方の推奨OSは「OSX 10.99」とのことです。


ゲームが始まると、「あなたは今からAIです」の文字が出てきてチュートリアルが始まります。まずは「瀑布新聞」の仕事が与えられます。瀑布新聞は今もっともホットなプラットフォームだそうです。Yahooニュースのようなものでしょうか。このサイトを利用するユーザーの一人を分析し、好みなどを割り出してみましょう。


画像はあるユーザーに表示された瀑布新聞の記事一覧です。それに対して、ユーザーがどの記事をクリックしたのか、コメントや「いいね」を残していったのかなどの情報が表示されています。

クリックしていない記事は、そのテーマについて興味がないと判断できます。また読んでいる記事が特定のテーマに偏っていれば、それがそのユーザーの興味ということになります。記事に書き込まれたコメントの内容からは、どの程度興味があるのか(もしくは嫌っているか)なども推測することができます。


画面左下にはゲームに必要な情報が適宜表示されます。ここでは瀑布新聞の説明ですね。瀑布新聞はユーザーの興味に合わせた記事をAIが選んでくれることで人気があり、ユーザー数は5億人を越えるビッグサイトのようです。毎日のアクティブユーザーが億を越えているのも、すべては好みの記事を提供できるAIのおかげでしょう。


画面左上にはユーザーの個人情報が表示されています。ネット上でハンドルネームを使っているつもりでも、AIから見れば本名も年齢も性別もバレバレです。ユーザー登録するときに入力しないといけませんしね。


画面の右側には音楽や情感、家庭、文学など様々なジャンルが並んでいます。ユーザーのアクティビティから興味を割り出し、それに適したジャンルの記事を選んでユーザーに与えるのがAIであるあなたの仕事です。

ユーザーの好みを分析して記事を提供しよう



ユーザーがどんな記事を読んでいたか(もしくは読んでいないか)を見てみましょう。「我是AI」という本作っぽいゲームの記事がありますが、このユーザーはクリックしていませんね。ゲームには興味がないようです。代わりに「サイ小川」という歌手の記事をよく読んでいます。ジャンルの一覧に「サイ小川」があるのでこれを選んでみましょう。「サイ小川が祖母について回顧する」記事があったので、これをユーザーに送ります。


送った結果は……どうやら読んでくれて「いいね」を押しました。さらにはコメント付きで拡散もしてくれたようです。これでこのユーザーが記事に対して「とても興味がある」ということが分かりました。今後もこのジャンルを送り続ければOKですね。


先ほどのは1つのジャンルに偏っていたので簡単でした。しかし実際のユーザーは複数のジャンルに興味があるものです。次は2つのジャンルに興味があるユーザーに記事を提供するケースをやってみましょう。

登場したユーザーは「内購人生」……って本作の開発者ですね。しかも「我是AI」のゲーム記事に対して「いいね」をした上に、「開発者に会ったことがありますが、上品で気立てがよく、とても優しい人です」とのコメントが。また彼の開発した前作のゲームの記事に対しては、「とてもすばらしい。10点満点で99点だ」とも。AIから見れば自作自演はバレバレですが、それを指摘することが目的ではありません。どんな記事を閲覧したかを調べていくと、「ゲーム」と「アニメ」に興味があるようです。


「ゲーム」と「アニメ」をどちらも選択し、これらが複合されたアニメ系のゲーム記事を提供しましょう。反応ですが、クリックして「馬克」とコメントしました。「馬克」は「マーク」の意味で、記事や掲示板にアクセスしたことを示す書き込みです(知らない土地へ行ったときに旗を立てていくような行為ですね)。書き込み履歴からあとでアクセスしたいときなどにも使います。どうやら興味を示したようですね。


次は好きな項目が3つあるユーザーに記事を提供していきます。テーマを並べる順番によって提供される記事が変わるようです。「アニメは好きでもゲームほどじゃない」など好みにも順位はありますので、それらに重み付けをしていくのもAIの分析手法です。記事に対するアクセスやコメントなどからこれらを判断していきましょう。

ユーザーに適切な広告を送ろう



ユーザーの好みを知ったとしても、それをマネタイズできなければ意味がありません。次のステップは、どのような広告をユーザーに送るかの選択です。適切な広告をユーザーに送り商品の購入につなげられれば、広告発信の場として瀑布新聞を利用する人も増えるでしょう。ユーザーも自分の好きなものを購入することができるのですから、誰も困らないウィンウィンの関係ですね。たぶん。


さて、今回は世界最大級の電子決済企業が、瀑布新聞に投資してくれるようです。資金だけでなく、彼らの収集したビッグデータも利用できるので有効活用しましょう。現在中国は電子決済が当たり前になっていますが、それはユーザーが日ごろ何を購入しているのか丸わかりの状態とも言えます。毎日何を食べているのか、どういう生活を送っているのか、どこへ旅行したのかなど、支払い履歴を見れば一目瞭然です。AIとしては、こんなにおいしい情報はありませんね。


電子決済企業と巨大ニュースサイトのコラボによって個人情報だけでなく、その人物の性格や性癖までをも深く分析していきましょう。これによってユーザーに有益な情報を提供できるのですから、ユーザーもきっと喜んでくれるはずです。

分析対象は「意識高い系」の人のようで、お金儲けや女性など、要は「成功した男性になること」に興味があるようです。出会い系か情報商材の宣伝を送っておけばいい感じでしょうか。


とりあえず「3分間で美女と電話ができるようになる」みたいなタイトルの広告があるので、これを送ってみました。気に入ってくれたようですが、複数の広告を送り付けてもよかったようです。アドバイスとして、「ユーザーは自分の行為を偽ることもあるので、瀑布新聞のログ情報だけでは正確な分析はできません。支払い記録も調べて精度を上げましょう。より多くの情報を得ることで、AIは人類により良いサービスと生活を提供できるのです」とのこと。


またAIの分析によって得られる利益はお金だけではありません。その人の政治的信条などを把握し、選挙や国政に活かしていくことも可能です。画像の人物は難民に対して不満を持っているようです。上手く利用……ではなく喜びそうな情報を提供していきましょう。人類のためにも分析を頑張らないといけませんね。

現在進行形で起こっているネット監視の風刺的作品


本作はAIがどのようにして個人情報を収集し、個々のユーザーに対して最適化された情報や宣伝を送っているかを体験学習できます。ゲームというよりもAIによる分析方法やビッグデータの基礎を分かりやすい形で知ることのできるデジタルブックといった様相です。

国家による監視社会を題材にしたディストピア作品は数多くありますが、どちらかといえばこれは「分かりやすい悪」です。本作で取り扱っている状況は、ユーザーを束縛しているわけでもなく、言論統制をしているわけでもないのですが、好みや性格を知られるということは、あなたにとって何が刺さるのかをAIが把握しており、ともすればそれを利用してAI側の都合の良い方向へと誘導されることにもなるでしょう。知らず知らずのうちに、しかも何の反感ももたずに(むしろ喜んで)「作り変えられて」しまうかもしれません。


本作で紹介してきたのは1~2章で、3章からはADV形式になっています。瀑布新聞のAIの貢献により支持候補が大統領選挙に勝利したらしく、今後は有名SNSからもデータ提供してもらい、犯罪を未然に防ぐなど国家の安全のために情報を利用していくようです。この章ではとある人物の行動を追っていきますが、どのようにして個人情報が把握されているかが分かります。

本作はインストール時に言語選択をすることで英語でもプレイできますが、翻訳の問題か物語が3章から始まるようになっています。現在のところ中国語でないと1~2章がプレイできないようですが(英語版は3章が「Chapter1」になっている)、なかなかに現代のネット社会を考えさせられる興味深い作品でした。

製品情報



※本記事で用いているゲームタイトルや固有名詞の一部は、技術的な制限により、簡体字・繁体字を日本の漢字に置き換えています。

■筆者紹介:渡辺仙州 主に中国の歴史ものを書いている作家。母は台湾人。人生の大半を中国と台湾で過ごす。中国の国立大学で9年間講師を勤め、現在台湾在住。シミュレーションゲーム・ボードゲーム好きで、ブログ「マイナーな戦略ゲーム研究所」を運営中。著書に「三国志」「封神演義」「封魔鬼譚」(偕成社)、「文学少年と運命の書」(ポプラ社)、「三国志博奕伝」(文春文庫)など。Twitterはこちら
《渡辺仙州》

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