密着・安田文彦―『仁王2』完成までの軌跡と『Bloodborne』山際眞晃対談 3ページ目 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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密着・安田文彦―『仁王2』完成までの軌跡と『Bloodborne』山際眞晃対談

クリエイターの悩み、それぞれが持つ仕事の関係性、『Bloodborne』山際氏との対談──。等身大の姿を映し出そうとするインタビュー現場の様子を、ライターの視点でお届けします。

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体験版という「背水の陣」



金子へのインタビューを終えた後は、そのまま冒頭の飲み屋での撮影へ移行することとなる。Archipelによる作戦がどのように功を奏するのかは、私にはまるで予測がつかなかった。もちろん、これまでの取材において「答えありき」で始めてしまうことはないようにしていたが、普通であればはっきりとした対象が存在しているはずなのだ。

多くの場合はゲームという製品を中心として、メーカーによる販促意図と、プレイヤーが欲する情報とのバランスを取り、可能な限り正しい情報を素早く出すという目標がある。今回の取材は確かに『仁王2』に対するものには違いないが、私はライターとして最終的に何を読者へ伝えるべきなのか決めかねていた。

私にとっては、法政大学の横を通り過ぎるこの夜道こそが、実質的に安田との初対面であった。鋭い眼光を感じさせるのに、どこか柔らかい雰囲気を兼ね備えた印象は円熟したものとして目に映る。多くのゲームプレイヤーがそうであるように、制作者達の本音のような部分を覗ける機会はほとんど巡り合えるものではない。三者が昔ながらの友人たちのように歩を進める後ろ姿を見て、私の使命は彼らの人間性を伝える所にあるのだと考えた。


撮影機材の準備を待ちながらそれぞれの飲み物を注文し、ぽつりぽつりと話がはじまっていった。その中心は常に安田で、取材対象にも関わらず司会でもあるかのような振舞いである。

安田「そういえば金子さん、インタビューでどんな話したの?」

金子「何に影響されたか……とか、そんなところかな」

安田「え、金子さんそれ何て答えたんですか」

金子「いや、その……『ラストサムライ』とか……」

安田「『ラストサムライ』?? えっ本当に!? いままで金子さんからそんなの一度も聞いてないよ!本当にそう答えたんですか」

金子「分かりやすいかなと思って……」

安田「絶対思ってないこと言ったでしょ!」

金子「そういう訳じゃないんだけどなぁ~緊張しすぎて……あー失敗したかなこれ!」

先程までとは打って変わって爆笑に包まれる一同の席。金子の緊張もここにきてようやく薄れてきたかのように見えた。安田の話に応じて、笑顔を豊かに見せている。

機材が整い、Archipelのディレクター以外は原則として安田たちの会話のみで進めることとなった。そんな中ではあったが、安田は話題を途切れさせることなく次々と言葉を繋げていく。決して喋り通しという訳ではないが、相手に緊張を与えない柔和な雰囲気を感じさせてくれるのが、安田の魅力だ。


安田「アルファ体験版(2019年5月頃実施)は厳しい評価が多かったけど、それでも得られたものは大きかったかな。発売の10か月前にアルファ体験版を出すのは”狂気”の沙汰ではあるけど」

金子「グラフィックとしては当然未完成の時期でありながら”外に出す”ことを意識しなければならず、相反するようなクオリティを管理しなければいけなかった。最適化が間に合わなかったので、その点の意見が多くなってしまった」

安田「匿名で無料という立場からの意見である分、ストレートなものが多かった。もちろん苦しい思いはするけど、だからこそ熱い意見もあって、そのおかげで制作を進められたと思う」

『仁王2』サウンドディレクター 吉松洋二郎氏

取材の中で意外に感じたのは「サウンドこそが後方に位置する工程」であるという点だった。安田・金子とは異なり、サウンドディレクターの吉松洋二郎氏は日吉にあるコーエーテクモゲームス本社で作業にあたっており、二人とは物理的な距離がある関係だ。

吉松「期間限定の体験版だったからこそ集めやすい意見もあったと思う。制作としても、クオリティをどの程度で落とし込むかを決めやすいという面があるので。そうは言っても、サウンドは常に工程としては後方になるので、”自分は最後の砦”だという意識を持っていますね」

安田・金子「いつもご迷惑かけてます……」

ゲームシステムやグラフィックが実際に動くものとして組みあがって、はじめてマッチしたサウンドを用意できるという訳である。そのように言われれば確かに、と納得できる。吉松は『仁王』からサウンド全般を統括して管理しており、安田から寄せられている信頼は厚い。

安田「吉松さんにはあまり細かいことは言ってこなかったですね。もちろん、現場の物理的な距離があるというのもありますけど、むしろそれが良い距離感なんだと思います。吉松さんから上げてもらった音について、本当に気になった所だけを返すだけで済むというか、そのようにやってきました」

吉松「実際、その方がやりやすいですね。その上で、必要なことについてははじめのうちから安田さんに伝えてもらっていますし、本当に良い距離感なんだと思います」


安田「これは私自身もそうですけど、期限を決めないといつまでもやれちゃうってのはありますよね。体験版をやるぞと言うと、みんな今まで何してたんだってくらいしっかりチェックしはじめるし(笑)」

金子「まあ……そうだよね(笑)」

吉松「そういう面もあるけど、私はいつも計画的にやる方ですね。」

安田「吉松さんはそうだよな~!」

三者のバランスが良いと感じたのはこうした話の中からだった。クリエイターとしては対極的のように感じられる金子と吉松の間に、絶妙な舵取りの安田が柱として存在している。

安田「ベータ体験版でも様々な意見を同様に頂いていて、すべてしっかり受け止めてます。それが小さいものでも、大きいものでも、本当に嬉しいですよね」

金子「グラフィックとしては実はアルファとベータで大きな差があったという自覚はなかったんですけど、シェーダーを使用したりとか、最適化が進んだことが評価されたと思ってますね。だけど、体験版としては”出しすぎ”じゃないかなあ」

安田「続編として何を変えるべきなのかを見極めたかったんですよね。難しすぎるのか、易しすぎるのか、そうしたことであっても、ひとつの意見から本当によく考えるきっかけになります」

『仁王2』でプロデューサーも兼任することとなった安田は、ひたすら情熱に任せたクリエイターとしての立場だけではいられなくなった。体験版の施策は前作でも同様に行われていたが、その手法は目的に応じて細かく変化している。チームの進行を効果的に積み重ねる為の、安田なりの”背水の陣”なのだ。


《Trasque》

一般会社員 Trasque

会社員兼業ライターだけどもうすぐ無職になりそう

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