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『Subnautica』潜水艦が宙を飛ぶ!?深海探査は「熱水噴出孔」がホット!【ゲームで世界を観る#3】

熱水噴出孔は科学の最前線トピックになっています。

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『Subnautica』潜水艦が宙を飛ぶ!?深海探査は「熱水噴出孔」がホット!【ゲームで世界を観る#3】
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現在火星で稼働中の探査機「パーサヴィアランス」は地球外初の空力飛行を成功させるなど、探査から移住へ本格的に歩み始めた昨今のスペースレース。別惑星に移住する場合、最も重要視されているのが液体の水の存在です。資源としてももちろん、地球外生命体が存在する可能性もあります。この水を巡っては、近年では宇宙科学と深海研究の共通点が見いだされ、『Subnautica』のように潜水艇を宇宙に送り込もうというアイデアも生まれています。その鍵となるのが今回ご紹介する「熱水噴出孔」です。

熱水噴出孔とは、地下のマグマで生成される“高濃度の金属などを含む水”が湧き出している場所です。筒状に固まった泥から煙のように噴き出していることから「チムニー(煙突)」とも呼ばれ、ゲームの中でも深いところで見つかります。前回扱った水圧によって沸騰せずに高い温度を維持するため、時には400度近い熱を持っていることもあります。この熱水が浅いところに上がってくると、断層など岩盤の亀裂を通り、溶けていた成分が結晶化して、金などの重金属が含まれる鉱脈を形成するのです。

熱水噴出孔の周辺には高熱に耐えるエビなどの高密度の生態系が広がっており、近年ではそこにしかいない微生物が多数発見されています。生物には毒だと思われてきた化学物質を生命エネルギーに利用して生息し、その中には熱によって発生する赤外線を使って光合成を行う種類もいて、これまで考えられてきた生命科学の常識が大きく覆されました。そして、これまで太陽の穏やかな熱で生まれたと考えられてきた原初生命が、熱水噴出孔のような極めて過酷な環境下において発生したという説が出てきたのです。

これまでの宇宙科学においては、恒星からの熱をほどよく受け取って液体の水が存在できる「ハビタブルゾーン」を基準に生命の存在する可能性を考えてきました。しかし従来のハビタブルゾーンから大きく外れた位置であっても、熱水噴出孔のような場所さえあれば生命体の発生が十分に起こりうるかもしれない。こうして深海の研究は宇宙生命科学の最前線に躍り出たのです。

長野県にある白馬八方温泉は、この熱水噴出孔に近い成分を地上で体験できる珍しい場所で、噴出孔周辺で生成される「蛇紋岩」の成分が再び温泉に溶け出しています。世界的にも稀な強アルカリ性の泉質で「つるつるたまご肌」になるとのこと。この特異な泉質が原初の地球と似ているという点から、東京工業大学は白馬八方温泉を拠点に生命誕生の研究を行っています。

宇宙の科学は宇宙に行かないと調べられないように思えますが、地球もまた宇宙に浮かぶ星の一つであり、地球にあるものを研究することが宇宙共通の原理を知ることに繋がるのです。

この熱水噴出孔の研究によって、太陽系内で生命存在の可能性が出てきたのが木星の衛星「エウロパ」と土星の衛星「エンケラドゥス」です。SFアニメ「ジーンダイバー」では地球生命と異なる「エウロパ人」が登場していましたね。どちらも表面は厚い氷で覆われており、「タイガーストライプ」と呼ばれる亀裂の模様から、内部では地熱によって液体の水が存在していると考えられてきました。

2000年代以降の観測により、どちらの衛生も宇宙に向けて大量の水蒸気が放出されていることが確認され、内部の「海」が確実に存在していると判明しています。2015年にはエンケラドゥスにおいて、この水蒸気の中を探査機「カッシーニ」が直接観測、地球の熱水噴出孔と同様に水素を検出しました。これにより、二つの衛星の内部には地球の深海と似た環境がある可能性が高いと目されています。

現在日本の宇宙開発を担うJAXAは、深海調査を行うJAMSTECと連携して生命起源の共同研究を行っています。「はやぶさ」「はやぶさ2」が持ち帰ったサンプルを分け、原初の太陽系でどのように惑星が形成されていったのかを探っています。

将来的にはエウロパ、エンケラドゥスの海を調査することを見据え、「しんかい6500」のような潜水艇をロケットに積んで宇宙に飛ばす、という大胆な発想も生まれています。それは一種のロマンですが、いずれにしても今後の宇宙探査においてここで挙げた二つの衛星は避けては通れないものですから、宇宙の海の探索は最早SFではなく、現実的な目標として立っているのです。

火星の移住基地建設では、現地の素材を使って3Dプリンターのように建造する実験が進んでいます。技術が発展すれば『Subnautica』のファブリケーターのようにほぼ現地調達で機材を揃えることもできるかもしれません。プレイヤーはこのゲームを通じて、まさに未来の宇宙探査を体験していると言えるでしょう。

『Subnautica』は、個人的にアーサー・C・クラークの海洋小説を想起させる、SFとしてとても優れた作品でした。武器を使って戦うことがなく、のんびりと海中冒険を楽しめる間口の広いゲームなので、ゲームが苦手な方も是非遊んでみてください。


参考文献:

深海熱水系は「天然の発電所」深海熱水噴出孔周辺における自然発生的な発電現象を実証 -JAMSTEC
白馬八方温泉と蛇紋岩 「生命の起源」研究の聖地 -白馬八方温泉
地球とエウロパの海底熱水噴出孔(特集「太陽系におけるアストロバイオロジー」) -日本惑星科学会
木星の衛星エウロパの地下海を再現し、生命に必須の熱水活動の存在を証明 -東京工業大学 地球生命研究所
海や地球ができる前の有機物の進化を解く -ファン!ファン!JAXA


《Skollfang》

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