Game*Sparkレビュー:『Hades』【年末年始特集】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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Game*Sparkレビュー:『Hades』【年末年始特集】

さまざまなゲームアワードを獲得した『Hades』。本稿ではGame*Sparkオリジナルレビューとして評価します。

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『Hades』プロモーションビデオ

Supergiant Gamesが開発を手掛ける『Hades』とは、ジャンルで言えばローグライトとなるのでしょうが、アクションの色が強く、またストーリーテリングも巧妙に練られた作品です。そして、ローグライク(あえてこう呼びます)のトータルゲームデザインを前進させた作品なのです。

ビデオゲームの中には「遊ぶ」というより「挑戦する」といった方がふさわしいものがあります。そう、本作がそれに値するのです。斜め見下ろしアクションとローグライト、そして複雑なストーリーテリングを融合した希有な作品で、主人公はザグレウスといい、父である冥王ハデスの館、冥界のダンジョンを通じて家出をするために進んでいきます。

主人公ザグレウス

進行は区画一つずつに区切られていて、すべての敵を倒せば次の区画に進める形式を採用しています。各区画ではオリュンポスの神々の力を得られることがあり、それが一時的な攻撃の強化となるデザインです。

ライフの回復は限定的で気を抜けばやられてしまいハデスの館に送り返される……このとき、ダンジョンで得た強化は無効となるローグライトの様式ですね。次の出陣までにうろつける館ではユニークな登場人物と話すことができ、ロアを含めた物語が語られます。この「失敗して館に帰ってきても物語が進む」というデザインは実に巧妙です。なぜならば、失敗が苦にならないよう作用していてマイナスの感情に陥らないよう緻密にデザインされているからです。

また、ダンジョンで手に入れたアイテムで攻撃力などのパーマネントな強化が行えますし、条件さえ満たせば武器も選べます。館での準備によってダンジョンでの戦いがより多様な状況になるともいえ、戦闘を刺激的なものに仕上げています。

開発元のSupergiant Gamesはこれまで『Bastion』や『Transistor』、『Pire』といったタイトルをリリースしてきましたが、それらの作品群にはやり込み要素がありました。本作はローグライトを採用することにより、やり込みプレイをさせる試みがもっとも成功したタイトルといえます。なぜならば、何度もやり直すことが楽しみになるほど挑戦しがいがあるからです。そして何度もやり直すことで初めて物語が語られるからです。

複雑なシステムと比較してゲームプレイはこぎみよく気持ちよい

本作のコアサイクルは「ハデスの館」から「自室」に行き「武器部屋」を通って「冥界」ダンジョンを通り脱出を図る、というもの。ストーリーテリングなどを含めるとかなり複雑な作りになっている作品といえます。しかし根幹のゲームプレイ、コンバットデザイン、特にこぎみよく動かせるザグレウスの動作が気持ちよいです。取れる動作は移動はもちろん「ダッシュ」、「攻撃」と「特殊攻撃」に「魔弾」というわずかな行動パターンしかプレイヤーに与えておりません。このためなにをすればよいかの判断基準が絞られており、気持ちよく動かせる作りになっているのです。特にずっと使い続けるダッシュは場合によっては一時的に強化できますし早いゲームテンポの実現に貢献しています。

ダッシュは基本アクションですがこぎみよく動かせます。

またオプションでエイム補正のようなものがあり、自動的に敵の方向に向かって攻撃してくれるようにもできます。本作は戦闘のバランス、区画ごとの罠(床からとげが出るものが代表的)など、とにかく戦闘を行う状況が多様で非常に楽しめる戦いが待っています。もしも脱落しそうなら「ゴッドモード」というオプションがあるのでご安心。死ぬたびに耐久力が上がるオプションで継戦能力が上がります。そして目指すは「脱出」となります。そんなゴッドモードに抵抗があるプレイヤーも少なくないはずですが、ゴッドモードは死ぬたびに防御力が上がっていくという仕組みになっているため、歯ごたえはそれほど失われませんし、アクションの腕前に自信のない方が「楽しんで遊ぶための措置」となっているので有効に働いています。

多様性あふれるダンジョンと武器、功徳システム

ダンジョン内では場合によって「功徳」というオリュンポスの神々から得られる一時的な強化(死ねば無に帰す)が得られますが、その効果は1度の機会につき3種類(内容はランダム)から選べ、自分の戦略に合わせた戦いができます。神々は複数おり、選択肢を多く与えられる格好にもなるため自由度を感じられてゲームプレイに窮屈さが少なく好印象です。

功徳選択画面。なにが提示されるかはランダム。

功徳に存在する「祈り」という同時に1つしか持てないものでは、攻撃しているうちに「ゴッドメーター」がたまり、ある程度まで増えれば発現できるというものがあります。筆者が祈りの中でもっとも好きなのは「一瞬だけ移動可能な回転のこぎりに変身できる」というもの。攻撃でありながら無敵状態にもなるのでシューティングでいうところのボムのように危ない局面を避けられます。

武器にも多様性があり、槍は長いリーチが売りですが調子に乗って攻撃を続けていると敵の急なアクションに対応できずダメージを負ってしまうなど、一長一短のよいバランス調整となっています。盾であれば突進するチャージアタックができますが、強化すれば盾を構えたままビームを発射できるようになる場合もあります。ダンジョン内で得られる様々なものによって戦略をリアルタイムで変えながら戦う楽しみはほかのゲームではちょっと見られません。

武器には弓も銃もある。

区画によっては「45秒間生き延びろ」という縛りがある場合もあり、敵のウェーブを耐えることが目標になります。脱出の過程では中ボスとも戦います。こういった区画の多様性は飽きをある程度遠ざけ、ヒリヒリとした戦いを楽しめるので評価に値します。そのほかダンジョンでは柱やそのほかのオブジェも破壊できる環境破壊要素があり、画面と戦闘にダイナミズムを与えています。

その他区画ではイベントが発生する場合があります。たとえば「タナトス」と出会った時には、彼と敵の撃破数を競うバトルが始まります。たいしたリターンはないですがちょっとした刺激になるため周回のマンネリを防いでくれます。「パトロクロス」という人物がいるイベント部屋では、彼からバフとなる物資をもらえます。

ローグライクを重くなりすぎなくする工夫は瞠目に値する

本作は状況に合わせて即席のビルドを作っていく柔軟な戦略システムを楽しめます。時にはそんな戦略も破られハデスの館に帰ることもたくさんあるでしょう。しかしご安心。その際に館の住民から得られるのが世界観の掘り下げであるいわゆる「ロア」の展開、ストーリーの進展が得られます。一風変わった物語を与えてくれるため、死んでも館で会話ができるのが楽しく苦になりません。いかにしてローグライクにおける死をストレスにしないかの工夫がみえて、とてつもなくプレイヤーフレンドリーな作品だという印象を与えてくれます。

この下部の鍵を使ってさらなる強化をアンロックできる。

また「パーマネントプログレッションシステム」とも呼べるような、恒久的な強化があり、繰返し繰返しプレイすることによって強くなっていけるのも本作の特徴。ダンジョンで得られるものには持ち帰られるリソースがあり、それを使ってHPを増やしたり「ダンジョンで死んでも復活する」回数を増やすことも可能。そして脱出を果たせるようになるデザインが施されています。

一方、真エンディングを見るための条件は厳しめ

主目的として脱出をするわけですが、真エンディングを迎えるにあたり、その回数はなんと10回にもおよびます。もちろんどんな功徳が得られるかや使用武器、プレイヤースキルにも寄りますが、1回の脱出は万全を期して戦っていっても1時間は掛かるでしょう。周回要素がきつすぎるのではないか、真エンディングを目的に遊ぶとして、もう少し少ない周回でも満足できるはずです。

周回させるモチベーションは「ゲームプレイが挑戦となっており楽しいから」という部分に掛かっていますが、脱落者は必ず出てしまう構図でもあります。ゲームプレイの挑戦が厳しいからです。ローグライクというくらいには、プレイヤーのアクションの腕前をすり抜けてこちらをハデスの館に送り返してきます。成長すれば、わかってくれば難なく10周できるわけでもないコンバットデザインのため、プレイヤーにとってはプレッシャーになり真エンディングまで根気強く付き合えない恐れがあります。

総評

相変わらずアートは好調で美麗かつエフェクトの美しさや派手さがあり目に嬉しく、コンポーザーのDarren Korbのサウンドはオリエンタルスケールを利用するなど新境地を開拓しており、アコースティックギターからディストーションに移り変わる瞬間に強烈なインパクトを与える「Scourge of the Furies」などは必聴のサウンドとなっていますし、ゲーム中でもテンションをめちゃくちゃ上げてくれます。もしくは没入を深めて戦闘への集中をうながしてくれます。

ローグライクの本質的な楽しみは同じことの繰り返し、だけど「細部は同じことを繰り返していない」つまりどこでなにを得てどんな攻撃をしたか。それらは同じことではないのです。そういったローグライクの根幹をアクションゲームとして端的に表現したのが本作といえるでしょう。ラスボスの変化はありませんが、どんな強化が得られるかわからない、あたらしい武器を持っていけばまた違ったゲームプレイに変わる、そういったことがプレイするモチベーションになる。

そして本作は複雑ながらすぐれた物語を持っています。館にはいないザグレウスの母と、そもそもザグレウスの出生、および生育にまつわる物語が興味を引っ張ってくれます。また館のキャラクターには「ネクタル」というアイテムをプレゼントして友好を深めることができます。ある程度深めるとダンジョンに持っていけるお助け装備アイテムをもらえます。装備アイテムには「1度だけHPがゼロになると自動的に回復する」ものや「残りHPが減ると与えるダメージが増加する」ものなど、20種類以上もあります。

そのうえ本作にはロアである図鑑を完成させる楽しみもある……もはや複雑の極みといったローグライクアクションといった様相の書きぶりですが、本作は冒頭で書いたとおり、ローグライクを採用したことにより同デベロッパーによる長年の試みがもっともスマートにはまった作品です。やり込み要素を前々から入れたかった、そしてそれを素直に受け入れさせるにはローグライクはうってつけです。

Supergiant Gamesの到達点である本作、触れずにいるのはもったいないです、これは本当に誰にでもやってもらいたいとすら思えます。前述したゴッドモードを使えば死にづらくなり難易度は下がりますし、意外にもひらかれたタイトルであるのが本作です。射程圏内に自分は当てはまっていないだろう、と思っている人も実際にフリープレイ期間などが設けられたりデモ版が出た折には遊んでみてはいかがでしょうか。きっと物足りなくなるでしょう、製品版でないと。

総評:★★★

良い点
・すぐれたコンバットデザイン
・興味を惹く物語
・最高の音楽
悪い点
・真エンディングまで周回する必要回数が多い

タイトル:Hades
発売日:2020年9月17日
記事におけるプレイ機種:PC(Steam
本稿を執筆するにあたり掛かった総プレイ時間:52時間
価格:2,570円(Steam版)
開発元:Supergiant Games
販売元:Supergiant Games
対応機種:Windows/Mac/PlayStation 4/PlayStation 5/Xbox One/Xbox Series X/S/ニンテンドースイッチ
公式サイトhttps://www.supergiantgames.com/games/hades/




《SHINJI-coo-K(池田伸次)》

FPSとADVを偏愛しつつネトゲにも造詣のあるフリーライター SHINJI-coo-K(池田伸次)

「Game*Spark」誌に寄稿しつつも「IGN JAPAN」誌と「GAMERS ZONE」誌にも寄稿。「インサイド」誌にも寄稿歴あり。今はなき「Alienware Zone」誌や「週刊Steam」誌にも寄稿していたフリーライター。 そしてヒップホップビートメイカー業も営む音楽家兼ゲームライターの兼業家。通称シンジ。

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