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【特集】インドネシアの「Steamブロック」は情報通信省の勇み足か?同国財務省が懸念の態度…意識と情報の格差も露わに

インドネシアのネットユーザーから大きな反発と非難を浴びた「Steamブロック措置」……その経緯はどのようなものだったのでしょうか。

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【特集】インドネシアの「Steamブロック」は情報通信省の勇み足か?同国財務省が懸念の態度…意識と情報の格差も露わに
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7月30日、インドネシアでSteamやEpic Gamesストア、PayPal、Yahooなどが当局にブロックされました。このブロックを主導したのはインドネシア情報通信省(Kementerian Komunikasi dan Informatika、略して“Kominfo”)。措置の理由は「インドネシアでPSE(Penyelenggara Sistem Elektronik、電子システム事業者)としてのライセンス登録をしていなかったため」と発表されています。

このPSE登録は、「企業間の公平なシステム構築」や「安定的な徴税」を目的とした制度。しかし此度のブロックにより、情報通信省に対して懸念の態度を示したのは同国財務省(Kementerian Keuangan、略して“Kemenkeu”)でした。

インドネシアのユーザーから大きな反発と非難を浴びている「Steamブロック措置」は、この国の省庁間の温度差、連絡不足が露呈する出来事でもあったようです。

オンラインサービスにどう課税するか?

インドネシアでは、2010年代から「国外のITサービスに対してどのように課税するか」という議論が浮かび上がっており、たとえば「Netflixはいつ税金を払うのか」ということも大きな話題となってきていました。インドネシアから見て、当然ながらNetflixは外資企業です。しかし、売っているのは「モノ」ではなくオンラインサービス。つまりインドネシアに拠点を置かなくても、国外からサービスを展開することができます。

それに対してPPN(Pajak Pertambahan Nilai、日本の消費税に相当)を課税することは非常に難しく、インドネシア当局から見れば「ネットインフラのタダ乗り」な状態が続いていました。これに終止符を打ったのは、2020年に施行されたPemungut PPN(PPN徴収者)指定制度です。

一定の条件を満たしたサービス事業者は、インドネシア当局からの任命を受けてユーザーからPPNを徴収することができます。逆に言えば、サービス事業者はこの指定を経なければ当局からブロックされてしまう可能性があるということ。インドネシアで安定的なオンラインサービスを展開するには、運営会社がPemungut PPN制度に登録する必要が出てきます。なお、このPemungut PPN制度は、財務省の管轄です。情報通信省のPSE制度とは別のものになります。

2020年からPPNを納税しているValve

Steamを運営するValve Corporationが財務省国税総局からPemungut PPNに指定されたのは、2020年11月17日。これは国税総局の公式サイトでも公表されています。BukalapakやLazada、Tokopedia、Zalora、Blibli.comといったインドネシア国内で売り上げを伸ばすeコマース、そしてIBM傘下のSoftlayer Dutch Holdings B.V.も、Valveと同じ日にPemungut PPNとしての指定を受けています。

これらの企業は、ユーザーに対してPPN分の価格を上乗せすることができます。即ち財務省から見れば、Valveの運営するSteamは2020年から現在に至るまで問題なくPPNを収めているということ。そして此度のSteamブロック騒動は、財務省の預かり知らぬところで起きていたようです。現地経済メディアThe Finery Reportの8月4日付の記事から、インドネシア財務省国税総局長スルヨ・ウトモ氏のコメントを読んでいきましょう。

「私はまだ情報通信省とのコミュニケーションを取っていません。ITサービスのブロックのことは昨日知ったばかりです(※取材日は8月2日)。私は情報通信省とのコミュニケーションを強く希望します」

その上でスルヨ局長は、「これらの事業者が従来通りのインフラストラクチャーを使ってサービスを展開するなら、引き続きPPNを(ユーザーから)徴収します」とコメントしました。

省庁間の連絡不足が明らかに

財務省から見れば、此度の情報通信省の判断は決して肯定できるものではないようです。Steamに対する課税は特に問題がなく、ブロック措置によってむしろPPN徴収に支障が出てしまうのではという不安が先行しています。

スルヨ局長は「今後も情報通信省と協議する」と話していますが、国外のIT事業者にとっては「インドネシアの事業ライセンス制度の煩雑さ」や「省庁間の調整なくブロックされてしまう可能性」がはっきりと形に表れた一件です。また、様々な良作ゲームを輩出しているインドネシアのデベロッパーの熱意にも水を差してしまったことは否めないでしょう。

世代間の意識格差が露わに

インドネシアでeスポーツが盛り上がりを見せていること、そして魅力的なゲームタイトルが続々登場していることは世界各国のゲームメディアが報道しています。それ故に、此度のブロック措置は国内外のゲーマーに大きな衝撃を与えました。中には現情報通信大臣ジョニー・G・プラテ氏の辞任を要求する声や、インドネシアのeスポーツ環境整備に貢献した前情報通信大臣ルディアンタラ氏の復帰を待望する声も見受けられます。

また、この騒動によりインドネシアの実体経済を支えるZ世代と、国家運営の中枢に君臨するベビーブーム世代との「意識の違い」が垣間見えるようになってしまいました。SNSでもZ世代やミレニアル世代に属するユーザーが情報通信省(と、それに所属する人々)を「boomer」と呼んでいる投稿が目立ちます。これは日本語で言うところの「団塊世代」。つまり「団塊世代の人々が時代の発展を阻害している」というような意図で、「boomer」という単語が使われています。

今回の情報通信省の判断は、周囲の状況への配慮に欠けた「勇み足」だった可能性もあります。このように世代間の意識差異、そして情報格差が露わになってしまったことを鑑みると、今後の判断や措置にも注目が集まりそうです。



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《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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