『スプラトゥーン3』「高度な知性を持ったイカ」は有り得るか?頭足類の能力と生物知性化の可能性【ゲームで世界を観る#31】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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『スプラトゥーン3』「高度な知性を持ったイカ」は有り得るか?頭足類の能力と生物知性化の可能性【ゲームで世界を観る#31】

次の文明を作るのは本当にイカタコかもしれません。

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『スプラトゥーン3』「高度な知性を持ったイカ」は有り得るか?頭足類の能力と生物知性化の可能性【ゲームで世界を観る#31】
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『スプラトゥーン』は絶滅した人類に替わり、高度に進化した海棲生物たちが新たに文明を築いている世界です。『3』ではイカ・タコが知性を得るに至ったきっかけの出来事がヒーローモードで明かされ、SFとしての奥行きを見せてくれました。

その過程を示す設定のひとつに「自在に変色発光ができる物質をイカから抽出した」というものがありました。実際にイカは変色も発光も可能ですし、ゲームではこの2つが「結晶」という形でまとめられていますが、もちろんこれは架空の物質で、別々の機能としてそのメカニズムは科学的に解明されています。

イカ・タコは身体の色を自在に変化させることができます。周囲の景色に同調して溶け込めることから「海の忍者」とも呼ばれ、その擬態能力は他の生物と比べても非常に高いものです。彼らは「色素胞」という器官を持っており、皮膚の中で大きくなったり小さくすることで、体表の色が見かけ上変化します。褐色、赤、黄色など複数の種類があり、TVの三原色のようにこれらを組み合わせることで、岩の質感のような複雑な色変化が可能になるのです。そのため、墨・発光とは全く異なる機構であり、『スプラ』のようなカラフルな色変化はインクだけでは難しそうです。

発光の方は持っている発光器官によるものと、体表に付着しているバクテリアによるものの2種類があります。日本国内の“光るイカ”と言えば、富山湾のホタルイカが有名ですね。イカの発光器官は皮膚全体、目、特定の足先にあり、分泌した「ルシフェリン」という物質の化学反応によって光ります。基本色は変えられませんが、青、水色、緑の違いを出すことが可能で、これを使って餌の誘き寄せ、求愛など個体同士のコミュニケーションを行っています。

もう一方のバクテリアは身近で買える一般的なイカでも確認することができます。買ってきた生イカにも、新鮮なものならば多少のバクテリアが残っており、海水、または同濃度の食塩水を与えると再び発光し始めます。半日ほど17度前後の環境を維持する必要があり、冷えてくる今の季節だと数日かかるとのこと。他の菌の繁殖もあるので、実施する際には周囲に液が散らないよう注意してください。

イカだけではなく深海生物にはこの発光バクテリアを持っているものが多く、これは外敵から身を隠すためだと考えられています。海中から見上げたときには光が上から降ってきますが、何もない状態で泳いでいると影になって見つかりやすくなってしまいます。それを防ぐためにあえて光り、影を消すような働きをするのです。これを「カウンターシェーディング」といい、魚の腹側が白いのも同じ効果です。

この発光バクテリアを応用して、電力を消費しない照明器具を開発している企業がいくつかあります。電動歯ブラシやシェーバーでおなじみのPhilipsは2011年にコンセプトモデル「Bio-Light」を発表。バクテリアで満たした液体に栄養分を供給することで、持続的な発光を実現するとされています。インテリアや実用的な夜間灯として既に商品化した企業もあり、省電力が叫ばれる昨今では、本当にイカタコの力を借りたライトが普及するかもしれません。

続いては知能面について。イカとタコは他の動物と比較して脳のニューロン細胞が多く、人間の3歳と同じくらいの知能があるといわれています。タコは「海の賢者」とも呼ばれ、中央の脳と同じだけのニューロン細胞を8本の足それぞれに持っており、分散して神経活動を行います。そのため先述の色変化や発光も反応が早く、足も柔軟に動かせます。

貝を使って身を守る、住居を作る、泥を投げつけるなど、近年の観察で意外な行動が次々発見され、知能実験でも閉じ込めた瓶を自力で開けるなど、その器用さは生物学会でも特に注目されています。また、高度な知性の証となる、鏡に映った存在を自分だと認識する「鏡像自己認知能力」も持っており、次に文明を生み出す生物の候補として挙がりました。インクリングのように地上に上がるかは分かりませんが、水中でなら有り得るかもしれないというところまで研究が進んでいます。

SFでは「知性化」というカテゴリーで動物に知能強化を施した存在が登場します。『スプラ』の世界もこの枠組みに入りますが、このアイデアは「類人猿から人類が進化した謎」という科学的探究から、真剣に議論が進められてきた話です。知能発達のオリジンはどこにあるのか、絶滅した原人とホモサピエンスの違いは何か、他の動物が高い知能を持っているのか、そこから派生するIFの想像が多くの魅力的な作品を生んできました。

先日発表された2022年度のノーベル生理医学賞は、人類進化の研究にゲノム解析を持ち込んだスヴァンテ・ペーボ氏が受賞しました。解読が終了したヒトゲノム情報を考古学に応用することで、より確証の高い種の比較を行えるようになったのです。

これを発展させた最新の研究では、原人にはなくホモサピエンスだけが持つ脳細胞を増大させる遺伝子が発見されました。これをマウスに導入したところ、ニューロン細胞の増加を確認、認知機能の強化が起きる可能性を示しています。

もしこの研究が進めば、将来的には知能強化を施したイカタコが実際に作られるのも決してあり得ない話ではないのです。倫理的なハードルはあるにせよ、地球温暖化で海面上昇の危機が迫るこれからの時代、イカタコが海中作業のパートナーとして活躍する、そういう未来も夢ではないのかもしれません。



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