本稿では、「赤い冷蔵庫」を巡るサイコロジカルアナログホラー『The Fridge is Red』のプレイレポートをお届け。初代PS時代を思わせる、レトロな質感のホラー作品……その内容に迫ります。なお、今回はリリース直後時点のバージョンにてプレイしています。
『The Fridge is Red』とは
本作は、正体不明の赤い冷蔵庫にまつわる6つのエピソードを体験し、解き明かしていくサイコホラーアドベンチャー。初代PS時代の作品から影響を受けたレトロ風のグラフィックと“SCP財団”風味な設定が特徴となっており、低解像度のフィルター越しに見える異質な空間を彷徨いながら真相に迫ります。
不死身のクリーチャーに追われる物理的な恐怖ではなく、謎を解かないかぎり、いつまでも悪夢が続くような心理的なプレッシャーに重点が置かれた作品です。
今回のプレイ時点では戦闘などの要素はなく、探索中に得られたヒントやキーアイテムを集めながら、それを当てはめていく純粋な謎解きが楽しめます。どこか責められるような物語の展開もあり、ただのゲームと割り切れない、開発者が本作に込めたメッセージ性も気になりました。
また、本作は日本語を含む複数言語に対応し、パッド操作もサポートされています。
謎が謎を呼ぶ赤い家電
ゲームスタートを選択すると、冷蔵庫の扉を開き、中に入っている容器を模したエピソードの一覧画面に移ります。
最初の容器に入っているのは脳ミソの瓶詰めと、密封された目玉入りの謎汁……という強烈な開幕。エピソードの難易度やボリュームから察するに、おそらくは左上から順にプレイするのが正解と思われ、まずは脳ミソのビンから開けてみることにしました。
明るいテキストのタイトルとともに、小手調べのエピソードがスタート。いきなり件の赤い冷蔵庫と真正面から対峙することになり、訳も分からぬまま、ゴールの手掛かりを探すべく周りを見回します。プレイヤーはイスに身体を拘束されているのか、身動きが取れず、視点だけを360度に展開してヒントを探すことに。
しかし少しでも目を逸らすと、ガタゴトと音を立てて冷蔵庫が自動を開始。はっとして視線を戻すとぴたりと止むのですが、それでも脱出するために辺りを見回し、その度に冷蔵庫がうめき声のようなものを上げながら迫ってきます。
まるで“だるまさんが転んだ”に興じているような感覚ですが、この異常な状況では全く楽しめませんし、失敗すれば冷蔵庫に食べられるとなれば尚更です。
制限時間は短いですが、部屋はひとつだけでカギとなるアイテムも周囲に揃っており、あとは探すだけ。「本作を最後までやり通せる力がプレイヤーにあるのか」……それは、この段階から問われているのです。
これは社畜人生に対する警鐘なのか
割と苦戦しながら冷蔵庫を撃破し、目玉入りスープが語る次のステージへ。機能建築の鏡とでも言うべき窮屈で日当たりの悪い部屋の中で、プレイヤーは電話に起こされて目を覚まします。
何かとストレスの多いホワイトカラーとして、真夜中まで残業させられていることが暗に表現されており、主人公が勢いあまって怪異に巻き込まれてしまうのも頷けます。妻子の待つ家に帰るために、ひたすら縦に長い廊下を通ってエレベーターへ向かい、いつものようにボタンを押してみました。
すると、押したボタンがぽろっと落下し、ぎょろっとした目玉が覗いてきます。あまりに突然のことで驚きましたが、ここは事前にトレイラーを拝見して、ある程度は分かっていたので想定内でした。ついでにボタンを戻して目玉を潰そうとしましたが、具体的な方法が分からなかったので目は放置します。
今度は立て続けに電気が消え、何者かが影の中を歩いてきたり、しまいにはエレベーターが止まってしまいます。これといってヒントもないので、試しにいろいろポチポチ押していたら、幸いにもメンテナンスと回線が繋がって修理してもらえることに。
ところが、エレベーターの上で修理している人の言う通りにボタンを押すと、プレイヤー諸共に奈落の底へ急降下。なんとか止まったものの、修理人は消え、途中下車した薄暗いフロアで代わりに発電機を起動させます。それで帰れるという保証もなく、案の定、さらなる地獄へ突き落とされてしまいました。
ここまで何度か主人公の身の危険を感じる場面はありましたが、敵やダメージといった概念はないようです。恐怖に打ち勝つとまではいかなくとも、恐怖に耐える心、そうした圧力の中でもカギを見つけ出す冷静さが求められます。
晴れて異界から帰還したプレイヤーの前には、湿っぽい言葉の数々が並べられ、家庭を顧みない日頃の行いを改めるよう遠回しに促されていました。
新感覚?敵無しアクション無しホラーパズル
エピソードはクリアしたら自動的に追加されるわけではなく、プレイ中に特定のアイテムを拾うことで解放される仕組みです。前回のエピソードの開始直後、主人公の机の上にあったカップゼリーのようなものを拾ったことで、続きとなる「病院編」をプレイすることができました。
どうやら、奥さんが病院に運び込まれ、主人公も慌てて駆けつけたようです。巨大な病院の中を探し回る手間を考慮し、受付で妻のことを尋ねますが、不愛想で事務的な看護婦から自分で探すよう言われてしまいました。
そういうわけで妻の掛かりつけと思われる腫瘍科に電話しようとするも、ノートが血まみれで汚れているうえ、大事な番号が抜けています。おまけに、英語で書かれているので日本語能力しかない筆者には読めません。
欠けた番号を埋めるために、他のノートを探します。扉を抜けると、無重力や血だまり、あべこべの空間がランダムで展開。間取り自体は全く同じですが、ノートがある場所も運任せとなり、部屋名の下に手形のある部屋にノートがあるので探しましょう。
番号を揃えて腫瘍科に連絡すると、奥さんが本当に運ばれたのか分からないので、記録室で問い合わせてほしいとのこと。そうして左上の進行ログに従って記録室に辿り着くと、また延々と続く棚に沿って歩きます。案内もなく、何度か適当に進んでいくと、さっきのふてぶてしい看護婦が座る机の上に奥さんの名前を発見しました。
いったい、奥さんの身に何が起きたのかは不明ですが、ICU……集中治療室にいるということは一刻を争う容体と思われます。劇中の写真などから、奥さんが車椅子に乗っているらしい描写もあり、もともと何かしらの病に侵されていたのかもしれません。
主人公も先を急ぎますが、遅々として進まない行列や医師の事務対応など、お役所仕事によって時間だけが無情に過ぎていきます。総合病院などではありがちな光景ですが、こうしたやるせない感情表現は、開発者の実体験に基づく部分もあるのではないでしょうか。
ホラーゲームということで筆者も最初は身構えてしまいましたが……ある程度まで進むと、本作は一貫したストーリー性を持つ作品だと感じました。
お金のために働くことは大切ですが、本作の主人公は、病気の妻や育ち盛りの子供を大黒柱として養わなければならない責任も抱えています。家族のために身を粉にして働くも、その結果として放置することになり、お酒に走っているような箇所もちらほら。挙句、彼の奥さんは亡くなってしまいました。
ホラージャンルでは、恐怖の要素ばかりが注目されがちですが、それ以上に重要なのはストーリー。ゾンビにしろ精神世界にしろ、怪奇の発生と主人公が巻き込まれる理由には、相応に練られた設定が必要です。そういう意味では、罪悪感と深い悲しみが根底にある本作の物語は、大いに納得できるものでした。
『The Fridge is Red』は、Steamにて配信中です。
タイトル:The Fridge is Red
筆者がプレイした機種:PC(Steam)
発売日:2022年9月27日
記事執筆時の著者プレイ時間:3時間
価格:1,490円