2014年10月7日にセガより『Alien: Isolation(エイリアン:アイソレーション)』が発売されました。
本作は、言わずと知れたSFパニック・ホラー映画の代名詞「エイリアン」(1979年)の15年後を描いた、極限のSFサバイバルホラーゲームです。
プレイヤーは、映画版の主人公であるエレン・リプリーの娘「アマンダ」となり、母の行方を探すため、荒廃した宇宙ステーション「セバストポリ」を探索。船内に潜む最恐のエイリアン「ゼノモーフ」から逃げ生き残ることを目指します。

本作は、1979年当時の雰囲気を完全に再現した「レトロフューチャー」な世界観、美麗なグラフィックで描かれた環境、神出鬼没のエイリアン「ゼノモーフ」との緊張感ある戦闘、常に死と隣り合わせの探索などホラーゲームとしての面白さと魅力が詰まった傑作です。
そして発売から12年を経て、セガとCreative Assemblyは、本作の正統的な続編と思われるティーザー映像を公開しており、完全新作への期待が高まっています。
そこで今回は、『エイリアン アイソレーション』という作品でしか味わうことの出来ない、「異質の恐怖」とは何だったのか、その魅力に迫りたいと思います。

■「予測不能」という絶望:究極のAIアルゴリズム

本作が発売から10年以上経った今もなお、ホラーゲームの金字塔として君臨し続けている最大の理由は、その「恐怖の質の高さ」にあります。
まずひとつ目は、本作を象徴する存在であるエイリアン「ゼノモーフ」の類稀な恐ろしさについて見ていきましょう。
多くのホラーゲームが「決まった場所で驚かせる」スクリプト(台本)である一方、本作のゼノモーフは、プレイヤーの予測をことごとく裏切る「生きた知能」として設計されているのが最大の特徴です。

ゼノモーフの行動を規定しているのは、独自の二層式AI制御システムです。
マクロでは、プレイヤーの現在位置を大まかに把握し、ゼノモーフに「その周辺を捜索しろ」と指示を出し、ミクロでは指示を受けたゼノモーフが、実際にどのダクトを通り、どの角を曲がるかを独自の判断で決定します。

この仕組みにより、「一度死んだから次はあそこに隠れればいい」という覚えゲー的な攻略が通用せず、リスタートするたびにエイリアンの徘徊ルートが変化するため、プレイヤーは常に「予測不能な脅威」と対峙し続けることになるのです。
その「神出鬼没」の緊張感たるや…プレイ中はずっと変な冷や汗をかいていたことを思い出します。バッタリ遭遇してしまうものなら、本当に声が漏れるくらい怖かったですね。

さらに恐ろしいのは、ロッカーに何度も隠れると、ロッカーの中を重点的に覗き込むようになったり、火炎放射器を使えば、次第に隙を突いて突進してくるようになるなど、ゼノモーフがプレイヤーの行動をリアルタイムで学習する点にあります。

プレイヤーが「安全策」だと思っていた手段が無力化していき、少しずつ「追い詰められていく感覚」も、本作がもたらす極上の恐怖のひとつだと思います。
■「無敵」の存在:“倒せない”からこそ感じる底なしの恐怖

本作におけるゼノモーフが、数多あるホラーゲームのクリーチャーの中でも別格の恐怖を放っている理由は、彼がただの「攻略対象」ではなく、抗うことのできない「絶対的な災厄」としてデザインされているからです。
たとえば、拳銃やショットガンを撃ち込んでも、ゼノモーフは怯むことさえ稀で、むしろその銃声が自らの位置を知らせる「ディナーベル」と化します。

また中盤で手に入る火炎放射器も、決してゼノモーフを倒せる武器ではなく、一時的に追い払う、あるいは「死を数秒だけ遅らせる」ための猶予に過ぎないのです。
プレイヤーは武器を手に入れた瞬間、普通のホラーゲームであれば「強くなった」と感じるはずですが、本作では「これだけやっても倒せないのか」という、より深い絶望へと叩き落されることになります。

ゼノモーフが“理解不能な野生の恐怖”を象徴する存在である一方、セヴァストポリに蔓延る自律型アンドロイド「ワーキング・ジョー(Working Joes)」は、いうなれば“無機質で理不尽な恐怖”を体現する、ゼノモーフとはまた異なるベクトルでプレイヤーを追い詰めてくる厄介な存在です。

まず、ゴムのような質感の肌に、妖しく光る目など、感情の機微が全く読み取れないその顔面は、まさに「不気味の谷」の極致であり、対話による解決が不可能であることを視覚的に突きつけてきます。
彼らはプレイヤーを絞め殺そうとしながらも、「何かお困りですか?」「立入禁止区域です」と、平時と変わらない丁寧かつ機械的なトーンで語りかけてくることも、その不気味さが一層際立ちます。

ゼノモーフが俊敏な捕食者であるのに対し、ワーキング・ジョーの動きは緩慢で、決して走ることはありませんが、どこまでも淡々と歩いて追いかけてきます。また、その体躯は驚くべきタフネスさを持っており、数発の銃弾では止まらず、炎の中を無表情で突き進んでくる姿は、まさにターミネーターさながらの絶望感と恐怖をプレイヤーに与えてくるのです。
以上のように、彼らにとってプレイヤーの排除は、単なる「ルーチンワーク」に過ぎません。その事務的な処理としての殺害が、生物的なエイリアン以上の冷徹な恐怖を生んでいます。
■「聴覚」からのプレッシャー:サウンドが生むかつてない戦慄

本作のサウンドデザインは、視覚以上にプレイヤーへの恐怖心を最大限まで高め、精神的に追い詰るための舞台装置のひとつとして機能しています。
たとえば、ゲームの舞台であるセバストポリ宇宙ステーションは常に何かが軋み、何かが駆動しています。頭上の通気口から聞こえる「ガサゴソ」という音は、ゼノモーフが実際に移動している証拠であり、視覚的に姿が見えずとも、音だけでエイリアンの「高さ」と「距離」を正確に突きつけられるため、安息の場所などどこにもないことを思い知らされます。

また、BGMを極力挿入せず、環境音のみにした「静寂」を演出する設計も恐怖を煽っていました。というのも、これらの環境音は、常に「ゼノモーフの接近音」と似た周波数を混ぜて設計されているため、プレイヤーは些細な物音にも過剰に反応してしまい、精神を消耗させていったのです。

もうひとつ忘れてはならないのが、「動体探知機(モーショントラッカー)」という象徴的なガジェットです。このデバイスは、プレイヤーの生存を助ける最も重要なツールであると同時に、恐怖を増幅させる装置でもあります。
探知機は、近くで動く物体の方向を示すだけで、それが人間なのか、殺人アンドロイドなのか、エイリアンなのかは分かりません。「何か」が迫ってくる、という情報はプレイヤーの不安を無闇に抱かせてしまうのです。

また、動体探知機は特有の音を発するため、ゼノモーフが近くにいる場合、不用意に使用すると、皮肉にもその音でバレてしまう危険性があります。
このように「敵の位置を知りたい、でも鳴ってほしくない」という心理的な矛盾が、プレイにおけるかつてない緊張感と戦慄を生み出していました。
■おわりに:それは「狩られる側」のシミュレーターだった

『エイリアン アイソレーション』が提示した恐怖の本質とは、幽霊やゾンビのような超自然的な存在への怖さではありませんでした。
それは、「自分より遥かに優れた知性と身体能力を持つ、共感不能な野生動物」と同じ檻に入れられた時に感じる、いわば“生物としての根源的な恐怖”を描いている、と言えるでしょう。

つまり視点を変えてみると、本作をプレイするということは、我々プレイヤー側の人間が食物連鎖の頂点から引きずり下ろされ、単なるゼノモーフの「獲物」へと成り下がってしまう過程を描いたシミュレーションゲームに過ぎなかったのではないか、とも考えられます。
だからこそ、その圧倒的な絶望感と濃密な恐怖体験は、他のホラーゲームでは決して味わえない、本作が独自に放つ「異質の恐怖」の正体なのではないかと思う次第です。
12年越しの続編に期待が高まる『エイリアン アイソレーション』は、現在PC (Steam)/PS4/PS3/Xbox One/Xbox 360/iOS/Androidなど多くのプラットフォームで発売中です。ぜひこの「怖すぎる」名作SFホラーを体験してみては。














