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Game*Sparkレビュー:『Clair Obscur: Expedition 33』―懐かしくも新しい良質なRPGだが歴史的傑作に比肩するにはあと一歩

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『Clair Obscur: Expedition 33』をクリアしました。

本作はフランスの開発会社Sandfall Interactiveのデビュー作となるゲームです。システムやバトルなどにおいて日本のRPGに強く影響を受けつつも、オリジナリティ溢れるビジュアル、独特な世界観設定などが発売前から注目されていました。

全体的には、まったく新しいRPG体験として新鮮に感じられる部分が多く、プレイ中のほとんどの時間は楽しく遊ぶことができましたが、いくつか見過ごせない欠点も存在しました。それではひとつずつ見ていきましょう。レビューにあたってはパブリッシャーであるKepler Interactiveから提供されたキーを利用してPC版をプレイしています。

【注意】本編の核心的なネタバレはありませんが、以降の文章ではエンディングまでのゲーム内容に触れています。

コマンド×リアルタイム戦闘……現代的に解釈されたクラシックRPG

まずは本作のストーリーから。ペイントレスという存在が毎年巨大なモノリスに数字を描き、その数字よりも歳を取っている人間が抹消される世界……ルミエールという生き残りが暮らす町では、毎年遠征隊を結成してモノリスへと向かいますが、未だかつて戻ってきた者はひとりもいませんでした。

最愛の女性ソフィーを抹消され、怒りとともに第33遠征隊に参加するのは、主人公のギュスターヴです。今度こそはと意気込んで海を渡るものの、謎の老人と出会います。第33遠征隊が困惑していると、彼はとんでもない力で襲い掛かってくるのでした……。

そんなこんなで彼らはモノリスを目指すわけですが、ゲームシステムはかなりJRPG的です。フィールドマップを歩き、敵シンボルと戦闘し、報酬を得て、装備やスキルを変えてボスを突破していくという流れを踏みます。やり込み用のサイドダンジョンはたくさんありますが、目的地は常にひとつであり、一本道のRPGという印象を受けるでしょう。昨今のゲームでは珍しく、マーカーはひとつだけで、クエスト一覧に至ってはありません

バトルに関しても、オーソドックスなスタイルのコマンドバトルを採用しており、スクリーンショットを見てもらえばわかる通り近年の『ペルソナ』シリーズや『ファイナルファンタジー』シリーズなどの影響を感じます。

戦闘前には、キャラクターごとに武器・ルミナ・ピクトスを変更し、ビルドを組み替えることができます。ルミナというのはパッシブスキルであり、4回の戦闘を経て他のキャラクターにも付けられるようになる(これがピクトスです)ため、手に入れたら雑魚戦を行うようにしましょう。こんな感じで独自用語が多いゲームですが、ひとつひとつはそこまで難しくないので、なんとなく拾っていけば問題ありません。

ビルドの幅はそこそこ広く、アグロ系・コントロール系・自傷系など、ある程度自由に変えることができます。ビルドによって強弱はあり、正直あまり使わないスキルもありますが、サイドダンジョンのボスはパズル的に特定のビルドを要求してくるものもいるため、考えながら戦闘することが好きなプレイヤーにはたまらないことでしょう。

また、本作独自のフィーチャーとして、リアルタイムでのアクションが存在します。キャラクターはスキル使用時にタイミングよく(Xboxコントローラー基準で)Aボタンを押すことで攻撃が強化されるうえに、敵の攻撃を受ける際にはBボタンで回避、RBボタンでパリィをすることができます。

現時点では戦力差がありちょっと勝てなそうなボスでも、連続パリィが決まって不利をひっくり返せたときは快感を覚えることができますが、逆に言えばビルドがいかに完璧でもパリィが下手だと全滅することもあり、賛否が分かれるところでしょう。後述しますが、特に後半はパリィと回避の比重が重くなっていくのもやるせないと感じました。

見たことのない敵キャラやフィールドデザイン……パリで生まれたオンリーワンのビジュアル表現

本作はベル・エポック時代のフランスをモチーフにしているということで、どこを見回しても美しく、新鮮なビジュアルが堪能できます。

洞窟の壁に突き刺さった廃屋、遺跡のある牧草地、使われていない駅のある雪山など、どれもこれもため息が出るほど素敵で、スクリーンショットを撮る手が止まりませんでした。ここまでアセット感のないフィールドデザインはなかなか珍しいのではないでしょうか。

敵キャラクターも魅力的で、無機質でおぞましく、尚且つスタイリッシュで迷いのない線で描かれています。ドラゴンやオークといったお決まりのモンスターは一切登場せず、兵隊やダンサーなど統一感のあるトンマナで、名前も「ヴィサージュ」「トルバドゥール」など、おフランスの香りを目からも吸い込むことができます。

主人公を含めたパーティーキャラクターたちもスラッとしていてかっこよく、誰もが踊るような殺陣を見せてくれます。やたらと返り血は浴びるものの、まったく汗臭くない感じがするのもJRPGのノリを覚えますね。筆者は常にちょっと偉そうな研究者&魔法使いキャラのルネが大好きです。

そのほかにも『Only Up!』みのあるパルクールアクションが楽しめるミニゲームや、隠れたオブジェクトを3つ破壊するチャレンジなど、冒険の隙間に遊ぶにはちょうどいいアクティビティがちょっとだけ用意されており、気分転換になります。報酬として当時のヨーロッパで着られていたような古風な(あんまり可愛くない)水着がもらえるのも笑えるポイントです。

手堅いコマンド戦闘とビルド、鮮やかなグラフィック、壮大な声楽と、およそRPGに求められてきたほとんどの物が詰まっている作品ではありました。しかしながら、ゲームを進めるにつれて大きな問題点も見えてきます。

終盤に詰めすぎたストーリーと、敵のディレイ攻撃……プレイ中に気になった点

本作の想定クリア時間は30時間ほどで、筆者もサイドダンジョンを遊びながら45時間ほどでスタッフロールに辿り着きました。しかし、ストーリー中で提示される大きな謎は、ほとんどすべてエンディング付近まで明かされません。

重要な戦闘の直後に長大なカットシーンが入り、あとで見返す機能もなく、うっかり字幕を読み飛ばしてしまうとそれっきりになってしまいます。主人公の抱える秘密から世界の成り立ち、ペイントレスの正体などほとんどの謎が一気呵成に語られるので、録画しておくことをオススメします。

すべての謎がエンディング後に明かされるゲームは少なくありませんし、本作の設計がプレイヤーを驚かせることに成功していないわけではないですが、長い旅をするRPGというフォーマットを考えると、道中の町やダンジョンでもっと細かく起承転結や発見があってくれたほうが良かったように感じられました。さらに言えば、せっかく道中で第34遠征隊以前の記録が読めるのに、彼らの冒険と本筋のストーリーがほとんど絡んでいないのも惜しい点です。

また、筆者の理解力不足もあるかもしれませんが、クリア済みの知り合いと答え合わせをしてもなお、いくつかのポイントについて納得がいかないところがありました。

特に、老人が抹消を逃れた理由や、ペイントレスの行っているカウントダウンの意義など、答えがわかったあとでも「もっとしっくり来る解答が用意できたのでは?」といまひとつ釈然としません。たしかにすべてのストーリーがきれいに収まる必要はないかもしれませんが、開発が用意した答えや着地点に対して、序盤~中盤の冒険が「それなら何でもよかったのでは?」とがっくりきてしまったのも事実です。せっかく世界が用意されていたのだから、そこに住む人々やクリーチャーの話をもっと楽しみたかったという思いもありました。

とはいえ、ラストシーンは声優陣の演技も相まって感動的であり、一定のダイナミズムは感じられます。大作RPGの風格は充分にあるので、ぜひともストーリーについてクリア済みプレイヤーと語り合ってみてください。

ストーリー以外の点で気になったのは、戦闘中のアクション要素です。ようは何なのかというと、敵のディレイ攻撃です。

中盤まではテンポ良く敵の攻撃をパリィし、ガンガンにカウンターを入れることができるのでとても気持ち良いのですが、ゲームが進むにつれて敵の連続攻撃の回数が多くなるうえに、モーションも長くなり、そしてディレイ(動きを遅らせること)を混ぜてくるようになります。

こうなってくるといよいよ初見での対応が難しくなり、キャラクターが回避した直後に攻撃が飛んできたときなど、おちょくられているような気分になります。敵がもったいぶった動きをしているんだから、防御行動なんて取らないで今殴っちゃえばいいのに! なんてことすら思います。

自分の考えたビルドが相手と噛み合わなかったことに対して怒りは感じませんが、パリィや回避が上手くいかなかっただけで全滅するのは、RPGである以上はあんまり面白い体験にはならなかったなと感じてしまいました。あくまで、上手くパリィができたらボーナスがあるくらいの塩梅がちょうどよかったのではないでしょうか。

……と、二点ほど大きく気になるところはあり、執筆時点でメタスコアは92点という驚くほどの高得点を記録していますが、個人的にはGOTYを争うほど完璧なゲームだとは思えませんでした。あくまで、かなり良くできたRPGであるという印象であり、歴史的傑作と肩を並べるにはいまひとつパンチが足りないかと思います。

しかし、本作のプレイ中にそれ以外の苦痛を感じることはなく、ほとんどずっと面白い体験で占められていました。ジャンルを問わず楽しむコアゲーマーからRPGオンリーのプレイヤーまで幅広いゲーマーが満足できるタイトルなのは間違いないものであり、ゲームに珍しいビジュアルを求める人にもオススメできる一本です。

Game*Spark レビュー 『Clair Obscur: Expedition 33』 Windows PC(Steam)/ PS5 / Xbox Series X/S 2025年04月24日リリース

フランスから吹く風を感じる、懐かしくも新しいRPG

GOOD

  • 美しくユニークなビジュアル表現
  • 幅の広いビルドと派手な演出

BAD

  • 最終盤にすべてを詰めすぎたストーリー
  • パリィや回避をさせる気がない敵のディレイ攻撃

PlayStation 5(CFI-2000A01)
¥78,833
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)

PlayStation 5 デジタル・エディション(CFI-2000B01)
¥69,983
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)

ライター:各務都心,編集:宮崎 紘輔

ライター/ 各務都心

マーダーミステリー『探偵シド・アップダイク』シリーズを制作しているシナリオライター。思い出の一本は『風のクロノア door to phantomile』。

編集/タンクトップおじさん 宮崎 紘輔

Game*Spark、インサイドを運営するイードのゲームメディア及びアニメメディアの事業責任者でもあるただのニンゲン。 日本の新卒一括採用システムに反旗を翻すべく、一日18時間くらいゲームをしてアニメを見るというささやかな抵抗を6年続けていたが、親には勘当されそうになるし、バイト先の社長は逮捕されるしでインサイド編集部に無気力バイトとして転がり込む。 偶然も重なって2017年にゲームメディアの統括となり、ポジションが空位になっていたGame*Sparkの編集長的ポジションに就くも、ちょっとしたハプニングもあって2022年7月をもって編集長の席を譲る。 夢はイードのゲームメディア群を日本のゲーム業界で一目置かれる存在にすること、ゲームやアニメを自分達で出すこと(ウィザードリィでちょっと実現)、日本武道館でライブすること、グラストンベリーのヘッドライナーになること……など。

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  • スパくんのお友達 2025-05-25 21:16:12
    「歴史的傑作と肩を並べるにはいまひとつパンチが足りない」の「歴史的傑作」のタイトル名が知りたいなー。
    2 Good
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  • スパくんのお友達 2025-05-08 12:51:47
    下手くそにはきついかもね
    4 Good
    返信
  • スパくんのお友達 2025-05-08 7:14:35
    物語を通して遠征隊メンバー全員に出番与えて魅力的に描いてるのに、最終盤のマエルとヴェルソ以外の遠征隊メンバーは家庭問題についていけずに蚊帳の外でモブ化してるのがもったいなかった。
    せめてマエル派とヴェルソ派に分かれて戦うくらいには関わって欲しかった。
    6 Good
    返信
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  • スパくんのお友達 2025-05-07 0:28:37
    まあストーリークリアまではどうにかなるバランスなのが救いだった。
    クリアに関係ない各地の強ボスは8回前後の多段攻撃をほぼ完璧に回避パリィできないと倒せないと感じるのでそこまでやり込む気力はなかった。
    JRPGって強調されてるがターン制RPGだと思ってやるのはオススメできない。
    キャラやストーリーはオススメ。
    4 Good
    返信
  • スパくんのお友達 2025-05-06 11:10:04
    ファイナルファンタジーのようなゲームに、進撃の巨人のような展開が初めからあって、そりゃあ面白いわと思ったよ
    4 Good
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  • スパくんのお友達 2025-05-06 9:28:20
    クレアオブスキュアのファンは熱量がありますね。
    2 Good
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  • スパくんのお友達 2025-05-06 8:31:03
    ターン性のRPGに関して言えばアトリエシリーズのマナケミアで完成しているんだよ
    有名どころ齧っただけ、実況見ただけ、お子ちゃまが評論して至高だなんだと騒ぐのも無理はない
    それらを加味してもこれは素晴らしい出来だったと思うけどね
    過去作リメイクだのリマスターだのソシャゲだのやってる老害企業なんざ比じゃない偉業
    8 Good
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  • スパくんのお友達 2025-05-06 4:43:36
    RPG好き同士が喧嘩するのは33の開発者も浮かばれないぞ
    15 Good
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  • スパくんのお友達 2025-05-06 4:22:05
    クリアしたうえで「結構好き」くらいの印象に落ち着いたけど、このゲームのストーリーをRPGの頂点!100点!みたいに言ってる人は本気か……?って思う

    確かに抹消の設定はキャッチーだしエスキエやジェストラルなんかを含めた世界観は魅力的だった
    物語も適度に山場が配置されてて概ね飽きさせない構造ではあると思う

    だけどそれができてる作品ってここで引き合いに出されて叩かれてる日本のRPGでも珍しくないし、JRPG(最近のでも)でストーリーを評価されてる作品と比べると本作が見劣りする部分もある

    まずラストの「現実を取るか虚構を取るか」って選択に持っていこうとするあまり、アリシアの家族以外のキャラが蔑ろにされてる
    遠征隊はずっと「人間の」抹消を防ぐために戦ってきて、それが終盤では世界全体の抹消にスケールアップしたはずなのに、マエルはいつの間にか「ヴェルソの名残が」消えることしか心配しなくなってる
    そのせいで問題がマエル個人の生き方に矮小化されて、人類を救うことや夫を甦らせる目標を固めた他のキャラが置き去りにされてしまった
    モノコなんかルミエールに入ってから一言も喋ってないぞ

    あと構造的な問題としては、一部のキャラが真相を知らないと理解不能な会話をして、他のキャラやプレイヤーが首を傾げるだけのシーンがめちゃくちゃ多い。ここは単純にストーリーテリングが下手な部分

    もっと勢いや斬新な展開、キャラクターに感情移入させる構成があればこういう問題点を押し流すこともできたんだろうけど、この物語にそこまでのパワーはなかった
    近年のJRPGでもそういうパワーを持つ作品や、逆に問題点を排した作品も出てるのに、ジャンル全体を貶してこの作品のストーリーを持ち上げる意味がわからない
    22 Good
    返信
    7件の返信を表示 返信を非表示
  • スパくんのお友達 2025-05-06 0:56:31
    とにかくステージマップが欲しい
    地形に特徴ないからめちゃくちゃ迷うし探索しづらい
    7 Good
    返信

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